古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第153話

 酒場で店の女の子に入れ揚げた男の末路を二通り見た、どちらも哀れだが他人に迷惑を掛けない兄弟戦士の方が良いな。

 暴力沙汰か自棄酒か、この僕の両側で腕を掴むネーデさんとシーアさんの本性が怖い。

 多分だが恋愛経験一桁の僕では勝てない、絶望的な戦力差が有るのだ。

 だが指輪の件が嘘だったので安心した、危うくイルメラ達に求婚し了承を貰ったと勘違いして恥をかく所だった。

 

「あの、腕を放して下さい。あと会計を早くお願いします」

 

「「いや、お礼してないもん!」」

 

 もんって、ウィンディアみたいな十代の美少女なら有りだが貴女達では無理が有りますよ。

 

「ヌボーさん、タップさん、帰りますからいい加減に起きて下さい」

 

「うーい、オリビアちゃーん」

 

「何で結婚したんだよ……」

 

 この兄弟戦士は騒ぎにすら反応せずに円卓に伏せって愚痴ってた、余程振られたのが悲しいのだろう。

 

「リーンハルト君、お礼するから座ってよ!」

 

「そうそう、早く早く!」

 

 未だ兄弟戦士が伏せっている円卓を叩く、普通はお礼って酒場のオーナーとかじゃないのか?それとも客同士の揉め事は自己責任で店は関知しないのか?

 

「ネーデさんが無事ならお礼は要りません、それに明日はエムデン王国聖騎士団がオーク討伐遠征から凱旋帰国します。

僕もデオドラ男爵の下で参加してたので式典の準備とか朝から忙しいのです、悪いですが会計をお願いします」

 

 流石はデオドラ男爵効果だ、渋々だがシーアさんが奥に行って会計してくれるのかな。

 ネーデさんは相変わらず僕の腕に抱き付いているが、これが酒場の女性テクニックだろうか?勘違いする男共は多いのだろう。

 

「えっと、オーナーが料金は要らないので今後とも御贔屓にって」

 

 ふむ、それは有り難いが迷惑料と揉め事の解決料、それに口止め料も含んだら相殺って事だな。

 

「そうですか、有り難う御座います。これはお二方にチップです」

 

 抱き付くネーデさんの手を放して掌を握る様にして空間創造から取り出して金貨を二枚握らせる、トラブルには巻き込まれたが今の時代の酒場事情を知る事が出来た。

 アンダーグランドな情報は経験する事が一番理解し易いから。

 

「では楽しかったですよ」

 

 手を振って店を出ると出口まで二人が付き添ってくれて去り際に頬に軽くキスしてくれた、これが男に勘違いさせるテクニックか……

 

「絶対また来てよね、絶対だよ!」

 

「またお姉さん達とお話しましょうね!」

 

 男を虜にして雁字搦(がんじがら)めにする夜の女性のテクニック、怖い話だな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌日の早朝、指定された中央広場の一角に向かうと既に聖騎士団員が会場設置の指揮を執っていた。

 広場の中央に舞台を作り壇上で功労者達が演説するのだろう、ライル団長とデオドラ男爵は既に依頼が来てるそうだ。

 王都からザルツ地方迄の街や村を襲うオークを討伐した聖騎士団を率いたライル団長、敵の本拠地を制圧し首謀者を捕まえたデオドラ男爵。

 エムデン王国の国王も演説するらしいが、周辺国家に対するアピールも含まれているだろう。

 

『我が国に仇為す者には然るべき対応を!』

 

 これが込められたメッセージを国王自らが発する事の意味は大きい。

 ウルム王国は旧コトプス帝国の残党達をどう扱うかによっては、戦争も止むなしと強気に出るだろう。

 エムデン王国は先の大戦の傷は完全に癒えている、躊躇はしないで徹底的に追い込むのは悪い事じゃない、禍根は潰すのが国家安泰の秘訣だと思う。

 

 指定された場所にワイバーンとトロールを三匹、大量のオークを順に並べていく、周りの連中の騒つきが段々と静かになっていくんだよな……

 全てを並び終えて責任者の騎士団員に挨拶をして中央広場から離れる、今回の件は僕はデオドラ男爵の陰に隠れて評価を避ける予定だ。

 漸く冒険者ギルドのランクCにはなったが、跳ね返せない上位貴族達も多いので式典には出ない。

 既に何人かに目を付けられてるみたいだし無用な悪目立ちは避けるべきだろう。

 中央広場から中央大通りを経て貴族街に入りバルバドス師の屋敷に向かう、延び延びになっていたが宮廷魔術師への推薦の件は断らないと駄目なんだ。

 

 特に尾行している連中も居ないのでブラブラと周りを見ながら歩く、昼前の時間帯だが聖騎士団の凱旋帰国の話は広まっているので人通りは多い。

 暫く歩くと目的地が見えた、アポなしなので居なくても構わない。

 

 正門の警備兵に用件を伝える、彼はレティシアが部屋に乱入した夜に対応してくれた人だ。

 

「こんにちは、今日はバルバドス様はいらっしゃいますか?」

 

「ああ、リーンハルト殿か。バルバドス様は居るがニーレンス公爵の娘も来ているぞ」

 

 警戒する様に言われた、彼は僕への襲撃がメディア嬢と取り巻きをゴーレム勝負で負かした事による報復と思っているんだな、誤解なんだけど……

 

「有り難う御座います、メディア様とは和解したので大丈夫です。通って良いですか?」

 

「ああ、構わない。バルバドス様からリーンハルト殿は無条件で通せと通達されている」

 

 身体をズラして道を開けてくれたので会釈をして中に入る、玄関まで向うと見た事の有るメイドさんが扉を開けてくれて中には執事が待っていた。

 

「いらっしゃいませ、リーンハルト様。本日は主人に御用でしょうか?」

 

「突然の訪問をお許し下さい、お目通り出来ますでしょうか?」

 

「ご案内致します」

 

 執事の見本みたいな人だがバルバドス師は何人か執事が居た筈だ、流石は元宮廷魔術師。

 通されたのは研究室の方だった、メイド長のメルサさんがバルバドス師の後ろに控え孫娘のナルサさんが紅茶セットのトレイを押して来た。

 

「よう、聞いたぜ。大分暴れたらしいじゃねぇか?」

 

 聞いたとはオーク討伐遠征に関するレディセンス殿経由か?それともミュレージュ様との模擬戦の件か?

 

 勧められた椅子に座りながら考える、どっちも問題が有りそうだが……

 

「何を分かりませんみたいな顔してんだ?両方に決まってるだろ!

オーク討伐遠征についてはレディセンス殿からニーレンス公爵とメディアに伝わったんだ、ミュレージュ様の件はアンドレアルの馬鹿とユリエルから聞いたぞ」

 

 む、どちらも知られていては仕方ないか……現役を退いても情報通なんだな。

 

「はい、色々と疲れました」

 

 ナルサさんが淹れてくれた紅茶にレモンスライスを浮かべる、バルバドス師は何時も通りに大量の砂糖を入れている。

 

「疲れたで済ますな、お前大分中央の連中から興味を持たれたぞ。国王の御前で模擬戦を行い、近衛騎士団員と互角に戦ったそうじゃないか!」

 

 ニヤニヤしながら砂糖で飽和した紅茶を飲んでいるけどミュレージュ様は本当に強かった、国王が途中で止めてくれなければ引き分けに持ち込めたか怪しかった。

 

「ミュレージュ様は本気じゃなかったです、長引けば引き分けに持ち込めたか……」

 

「ふん、王位継承権第六位とはいえ王族のミュレージュ様がお前の事を相当気に入ったみたいだぞ。何でもお互い探求者として切磋琢磨するとか何とか……」

 

 少し不機嫌になった、バルバドス師は感情が面に出るので分かり易い。

 

「実は今のゴーレム運用に納得していない、僕の求めるゴーレム運用は未だ遥か先に有り、命有る内に辿り付く予定です。そう言いまして……」

 

 まだ十四歳の餓鬼が生涯を通してゴーレム道を追い求める、確かに探求者には違いないか、今考えると恥ずかしい事を真顔で言い放ったものだ。

 

「今の宮廷魔術師に土属性魔術師は居ない、お前みたいに多数のゴーレムを運用する連中も少ないのが現状だ。

オーク討伐遠征の時の話を聞いた、リトルキングダムとは驚いたぞ。

お前のゴーレム運用は過去の偉大な魔術師、ルトライン帝国最強の魔術師であったゴーレムマスター、ツアイツ卿を彷彿とさせる」

 

 何だと?何故バルバドス師まで僕の前世に辿り着くんだ?

 

「何だよ、その変な顔は?お前もツアイツ卿に憧れているんだろ?

ゴーレムにポーン、ナイト、ルークと名前を付けたり五十体以上のゴーレム同時運用、極め付けにリトルキングダムとか伝説のツアイツ卿と同じじゃないか?

模倣にしてもオリジナルに迫る内容だ、もうお前の二つ名は『ゴーレムマスター』にしろ、俺が名付け親になってやる」

 

 確かに三百年も前の事だからと気にせずゴーレム達を同じ名前で呼んでいたが、僕の事が現代まで伝わっているのには驚きだ。

 前にも吟遊詩人が謳うとか何とか……

 自分の事だから調べるのは恥ずかしくて止めていたが、我慢して調べないとボロが出そうだ。

 

「た、確かにツアイツ卿には……あ、憧れが有ってですね、その……」

 

「冷静沈着なお前が、そこまで動揺するなんてな。流石に過去の偉人の技を模倣し使うのは恥ずかしいんだな。くはははは、お前が動揺するとは可笑しいな」

 

 僕が完全に痛い子になっている、過去の偉人を模倣する十四歳の魔術師、しかも二つ名まで同じ物を名乗れと?

 

「笑い事では無いです!僕はですね……」

 

「今のエムデン王国で我々土属性魔術師の地位は低い、時代は火力に重点が置かれている。

戦争で活躍出来るのは広域殲滅型呪文を如何に効率的に運用出来るかだ、ゴーレムなど火属性魔術師を射程距離まで護衛する使い捨ての盾扱いだ」

 

 真面目な話、三百年の時間はゴーレム技術を退化させたと思っている。

 確かに火属性魔術師の広域殲滅呪文は効果的だが防御魔方陣も有れば散開されたら効果は下がる。

 しかも接近されての乱戦時には使えない、射程距離も100m前後、効果範囲も最大50m以内だから使い勝手は悪い。

 逆に如何に火属性魔術師を活躍させる舞台を整えるかが今の戦術になるのか……

 

「リーンハルト、お前は土属性魔術師達の希望的存在になりつつある。

半径100m以内に半自動制御のゴーレムの大量運用、攻城戦も可能な巨大ゴーレムを二体も操れる。

お前が戦場に出れば火属性魔術師と同等の戦いが出来ると思われているぞ、戦争になれば強制徴兵は間違いない。

勿論戦争になれば国家が一丸となって戦わねばならぬから結局同じだが、立場が弱い強力な魔術師など最前線で使い潰される。

お前が自由に生きたいのは分かる、借りも有るから協力もする、だが俺よりも大きな力が働けば無理だ。

先ずは地力を鍛えろ、そして名前を売るんだ。ゴーレムマスターのリーンハルトとな!」

 

 ウルム王国と旧コトプス帝国の残党の事だな、ライル団長率いる聖騎士団が凱旋帰国し国王が演説をすれば……最悪は国家間戦争に発展するのか?

 

「エムデン王国は、ウルム王国に対して宣戦布告をするのですか?」

 

「先の大戦は旧コトプス帝国の騙し討ちに近い戦争だった、当時苦汁を飲まされた連中は……そう望んでいるな。

ビーストティマーの捕獲、薬物中毒だが証拠や自白など幾らでも捏造出来る。

国王はウルム王国に旧コトプス帝国の残党の引き渡しを要求する、強固に反対するなら開戦も止むなし。

勿論、戦争迄には外交や謀略等で交渉は続ける。国家間戦争など最終手段だがな」

 

 戦争か……転生前に散々経験した、周辺国家に侵攻を繰り返したのだ、我が父王は。結果的に僕の処刑後に周辺国家が一致団結して攻め込まれて滅ぼされた。

 その時に数多の魔法技術や知識が失われたらしい、そして僕は当時の魔法関係の中心に居て失われた技術や知識の殆どを記憶している。

 

「自由とは険しく厳しい茨の道なのですね。分かりました、もっと力を付ける様に努力致します」

 

「悪いな、お前には嫌な思いしかさせてないな。だがよ、今回の討伐遠征の手柄を何故デオドラ男爵に譲ったんだ?

アレだけの功績なら十分宮廷魔術師に推薦出来たんだぞ!」

 

 そうだった、この人の余計な善意を止めて欲しかったんだ。

 

「あの、宮廷魔術師への推薦の件ですが辞退を……イタッ、拳骨は」

 

「馬鹿か、お前は!今さっき力を蓄えろって言ったばかりだ!」

 

 流れ的にはそうですが、それは色々と問題が多くないですか?

 


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