古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第151話

 

 本当に悩ましい殿方です、魔法迷宮最深部で稀に見付かる性能のレジストストーンを簡単に私に贈る等と……

 決して調子に乗っている訳ではないのは理解しています、彼が私達を大切に思う気持ちが増えたからこそ、此処までの配慮をしてくれるのです。

 

 リーンハルト様はアーシャ姉様が会いたいからとお父様の執務室から追い出しましたが、残されたお父様とアルクレイドも悩んでいますわね。

 

「規格外、そう言っても良いですね。流石はブラックスミスの工房のドワーフ達が友と認めた錬金術師、私ではレジスト率30%、しかも毒と麻痺の二つの効果を発揮する物なんて作れないですよ」

 

 宮廷魔術師は確実と言われたアルクレイドですら錬金不可能のレジストストーンを作れる、確かに現役宮廷魔術達が揃って推薦すると言えるだけの実力。

 

「参ったな、有能なのは嬉しいが最短距離で結果を出し続けるから情報が漏れ易い。

俺も悪かったがな、討伐遠征で囮役を任せたら敵戦力の殆ど全てを一人で倒したとか驚きを通り越して笑ったぞ」

 

 そう、結果として囮役を勤め上げてお父様が背後から敵を一網打尽にしましたが、リーンハルト様なら力押しで正面から勝てたと思うわ。

 お父様も同じ事は出来る、そう……お父様と同じ……

 

「ニーレンス公爵の御子息、レディセンス様にリーンハルト様の能力の一端が知られてしまったのが痛いですわ。

メディアの話だけなら真実味は薄かったのですが、結果を伴う報告が行ってしまっては隠し通すのは不可能です」

 

 少なくとも一人でトロール三匹を瞬殺してしまった、他にも『視界の中の王国』と言う半径100m内なら何処にでもゴーレムポーン五十体以上を錬金出来る非常識な技を見せてしまった。

 全金属製の大型ゴーレムルーク、攻城戦すら可能なゴーレムの二体同時運用、やり過ぎですわ!

 

「ニーレンス公爵から正式に書面が来ている、我が娘と息子の恩人に酬(むく)いたいとな。

メディア嬢からの親書の件と馬鹿な弟の助命の事も有る、未だリーンハルト殿には話してないが断れないだろう」

 

 そう、私の所にも話が来たわ……

 これは私も悪い所が有る、リーンハルト様の事を自慢し過ぎてしまったから。

 メディアの取り巻きには飛び抜けて有能な者は居ない、彼女が操る男達は精々が並み程度。

 ゼロリックスの森のエルフは別格だが契約による護衛だから良い様には使えない、あくまでも契約者はニーレンス公爵であり娘のメディアではない。

 

 だけど彼女の危機を現役宮廷魔術師の息子との諍いを正面から挑み、メディアの面子を守ってしまった……

 状況判断や打算が有ったのは確かだが、我が美しき姫と連呼し無償で解決した事にメディアは凄く感激していたわ。

 今迄の自分の取り巻きには居ないタイプ、言う事を聞くだけの有象無象しか居なかったのに自主的に自分を守ってくれるナイト。

 

 救いが有るのは、彼女がリーンハルト様に対して恋愛感情を持ってない事。

 男爵家の娘の私と違い公爵家の娘であるメディアは自分の価値と置かれた状況を理解している、彼女は自分を絶対に安売りしないわ。

 例え有能でも恩人でもリーンハルト様は新貴族の男爵家の長男、ましてや来年廃嫡されるとなれば色恋沙汰など論外、何れ宮廷魔術師となり爵位を賜る位しないと釣り合わないわ。

 

「ニーレンス公爵本人は出張らないでしょう、精々がレディセンス様かメディアが対応してお終い。

ですがリーンハルト様との伝手は生じます、廃嫡後の勧誘合戦になりそうですわ」

 

「上位貴族からの御召しだ、しかも恩に酬(むく)いたいと言っている。リーンハルト殿では断れないからな、行かせるしかないな。

出来ればもっと我等と縁を太くしたいが……アーシャに自分と結婚して欲しいと言わせるか?」

 

「無理ですわ、奥ゆかしく恥ずかしがり屋なアーシャ姉様では、死んでも自分から殿方に求婚など出来ませんわ」

 

 リーンハルト様は愛無き結婚は嫌だと言いましたが、自分に好意を寄せる相手から求婚されたら突き放せない、あの人は優し過ぎるから縁が出来た者は拒絶出来ない。

 ウィンディアが良い例だわ、簡単な誘導尋問とギフトを使って意識を探った結果、あの娘の為に信じられない高品質の装備品を用意したらしいわ。

 結局周りへの影響を考えてグレードダウンした装備品に変えたそうだけど……

 

「お前ならどうだ?リーンハルト殿に求婚出来るか?」

 

「わっ、私ですか?私は……」

 

 お互いがお互いを怖いと思う関係、ですがリーンハルト様は私を大切にしてくれている。私が求婚したら……私を傷付けない様に最大限配慮しながら断るわね。

 

「私が求婚しても、リーンハルト様は断るでしょう。私達の関係は恋人よりも共犯者に近いと思いますわ」

 

「そうか、地位も金も女にも興味は薄いか。扱い辛い男だな。

冒険者ギルド本部から伝手を使い聞いたが、二日間のバンク攻略で稼いだ金は金貨七百枚だそうだ、下手な貴族より金持ちになれるだろう」

 

「七百枚ですか?」

 

 勿論、リーンハルト様一人じゃなくてイルメラさんとウィンディアと、もう一人の盗賊職の四人で二日間の稼ぎが金貨七百枚、一日一人分だと約金貨九十枚、一ヶ月間続ければ二千七百枚って……

 新貴族男爵位の年間俸給に近いわね、私が一ヶ月に自由裁量で使える金額が金貨三百枚、リーンハルト様の三日分の収入と等しい。

 

「彼には悪いですが状況を使い追い込みましょう、アーシャ様の誕生日パーティーは社交界デビューと同じ意味の貴族達への顔見せ、結婚の申し込みが殺到するでしょう。

彼女自身の美貌もそうですがデオドラ男爵家と親戚になれる恩恵は大きい、ですが当然そこにアーシャ様の感情は考慮されてません。

例えばリーンハルト殿には名前を明かさないが暴君みたいな性格の壮年の既婚者が側室と望んだ。

アーシャ様はデオドラ男爵の決定に逆らえない、泣いて終わりです。そこでリーンハルト殿に縋れる状況を与えたら?

私は彼が折れると思いますね」

 

 情に縋る、確かにリーンハルト様ならアーシャ姉様の不遇を救おうと動くでしょう、あの方はアーシャ姉様には甘いですし……

 

「私は反対です、確かにリーンハルト様ならアーシャ姉様に不遇を訴えられて縋られたら動くでしょう。

ですが自分と結婚すると言い出す確率は低い、貴族の婚姻に色々な思惑が働く事を熟知してるのです。

先方とデオドラ男爵家の顔を潰す事はしない、妥協策を模索するでしょう。

結果駄目でも成功でも、リーンハルト様が嫌う政略婚姻を用いた私達をどう思うか分かりますか?」

 

 あの貴族間のバランス感覚に長けた彼が結婚を望む相手からアーシャ姉様を略奪する?

 絶対に有り得ないわ、最悪の場合はアーシャ姉様を不幸にした私達から離れる、あの人の思考を普通の貴族と思っては駄目よ。

 

「俺に向かってジゼルは要らない、愛の無い結婚は嫌だと譲らなかった男だ。それ位の反応はしそうだな、やはり正攻法で攻めるか……

要はリーンハルト殿もアーシャも互いを憎からず思っている、ならば手間は掛かるが二人切りで一緒に居る時間を増やせば良いだろう、後は勝手に盛り上がれば押し倒すだろう。

アーシャは見るだけの華だが容姿も性格も悪くは無い、男でアレを嫌う奴は居ないだろ」

 

「そうですが何とも面倒臭い、貴族の婚姻に恋愛感情など不要なのに……」

 

 お父様もアルクレイドも理解してないわね、リーンハルト様を従来の貴族の思考に当て嵌めるのは無駄なのよ。

 散々期待を良い様に裏切られているのに、未だあの方が異端児だと理解していないのね……

 仕方がないわ、イルメラさんを巻き込んで事を考えましょう、リーンハルト様の攻略にイルメラさんを切り離しては駄目。

 最悪の場合、彼女からお願いされればリーンハルト様は折れる、それだけの存在なのよ。

 

「方針は決りました、今後はアーシャ姉様とリーンハルト様の距離を縮める事をそれとなく実行するで良いですね?

それとリーンハルト様に単独の指名依頼を出して下さい、ブレイクフリーのメンバーと話す必要が有りますので……」

 

 黙って頷く男二人を見て心の中でため息を吐く、全く他人の恋愛の手助けなど柄では無いのですが……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 やっとデオドラ男爵家から帰る事が出来た、アーシャ嬢は相変わらず控え目だが最近は会話が続く様になったな。

 前は一言二言話すと真っ赤になって、それ以上の会話が続かなかったから。

 夕食に招待されデオドラ男爵と娘達三人と食事をして泊まるのは辞退、馬車を用意すると言われたが歩きながら考え事を纏めようと断った。

 貴族街から僕の自宅迄は歩いて一時間程度、大通りや繁華街を通るので危険な場所は少ない。

 賑やかな繁華街を通行人に当たらない様に気を付けて歩く、王都はオークの討伐遠征が成功した事が発表された為かライル団長やデオドラ男爵、聖騎士団の凱旋を待ちわび祝う酔客が多いな。

 飲み屋街と言うか食事とお酒を供する店が並ぶ場所を通る、昼間通った事は有るがこの時間帯は初めてだな……

 

「よう!珍しいな、こんな時間に一人で歩いてるとか?」

 

 声を掛けて来たのは役に立たないアドバイスを心の声でくれる兄弟戦士だった、顔は赤いが酔いは軽そうだな。

 

「ヌボーさん、タップさん、久し振りです。所用で貴族街まで出掛けてまして……」

 

 両側から肩を組んで来たが酒臭い、実は結構飲んでるのか?

 

「折角会ったんだ、一軒付き合ってくれよ」

 

「そうだな、社会勉強と思って行こうぜ」

 

「ちょ、待って下さいって!」

 

 僕は魔術師のローブは羽織っているが中は貴族の礼服なんだ、こんな時間と場所に貴族の子供がウロウロしてたら不快に思う連中も居るだろう。

 一旦組まれた肩を解いて貰いローブの中にハーフプレートメイルを錬金する、徘徊する酔っ払い共の半数は冒険者で鎧兜を着込んでいる連中も多い。

 貴族服より鎧兜の方が場所には合うだろう。

 

「おお!錬金か?」

 

「スゲー安上がりだよな?」

 

 大声で僕の素性を話す二人の背中を押して場所を移動する、一軒位は付き合うが僕の素性がバレるのは困る。

 魔術師のローブを空間創造に収納し代わりに普通のマントを取り出して羽織る、これなら戦士三人に見られるだろう。

 

「レッドロック亭に行こうぜ、マリーナに会いたいぜ」

 

「いや割れた盾亭が良いぜ、メリルちゃんに会いたいんだ!」

 

 どちらも知らない店名だが彼等には本命の女性が居た筈だぞ。

 

「確かオリビアさんを狙ってませんでしたか?」

 

 両脇の二人の歩みが止まる、何故か小刻みに震えているし……

 

「オリビアちゃんはな……他の冒険者と結婚しちまったんだー!」

 

「バカヤロー!何がランクCの戦士だ、俺等だってなぁ……」

 

 その場に座り込んで愚痴り始めた、何て面倒臭い酔っ払いなんだ!

 だが周りもこの程度の奇行では気にしてない、他にもその場に寝込んだり騒いだりしてる連中も居るからか……

 

「他人の迷惑になりますから移動しましょう」

 

 丁度目の前に小綺麗な店が有ったので有無を言わさず押し込む、しかし店内に入って後悔した。

 

「「いらっしゃいませ!三名様ですか?」」

 

 肌の露出の多い服を着た女給が二人出迎えてくれたが、所謂女性がお酒を注いでくれる店だ。

 

「ええ、お願いします」

 

 彼女達に案内されて円卓に座らされる、周りの客層を見ても身なりが良い商人風や冒険者ばかりなので高いが安心な店かな。

 

「何を飲みますか?」

 

 案内してくれた彼女達が同じ円卓に座る、そのまま接待してくれるらしい。

 

「ワインをお願いします、料理は任せますので貴女達も何か頼んで下さい」

 

 漸く落ち着いて彼女達を見れば僕の好みではないが二十代前半で十分美人と言えるだろう。

 

「あら、随分と落ち着いてるのね」

 

「こういう店は初めてじゃないの?」

 

 笑顔で回答を避ける、頼りの二人は円卓に伏せてブツブツ言い始めたので彼女達は僕しか見ていない。

 入店して直ぐに帰る訳にもいかないか、一時間位居れば兄弟戦士も回復するかな?

 


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