古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第150話

 他の冒険者パーティに寄生すると噂の『春風』が接触して来た、わざわざボス部屋の前で待ち伏せしての接触。

 だが特に勧誘や同じ依頼を請けたいとの話も無い、これが警戒心を解かせる術なら大したものだ。

 正直気持ちが少しぐらついているが結果は変わらないだろう、僕等は請けたい依頼を請けるだけだ。

 利用出来るならすれば良い、僕等に被害が無ければ構わないし何かしらの被害を被るなら対処すれば良い。

 来る者全てを疑って対処してたら精神が保たないから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 バンクを出た所で僕等は冒険者ギルド出張所に行くのでとフレイナさん達と別れた、彼女達は乗り合い馬車の停車場に向かって行った。

 彼女達は昨日は三階層、今日は四階層と攻略しているが僕等を追い回していると考えるのは穿ち過ぎかな?

 冒険者ギルド出張所に入る、商売用の笑みを張り付けた受付のお姉さんと買い取りカウンターに鎮座する厳ついパウエルさん、何時もの光景だ。

 昨日と違いカウンター付近には誰も居ない。

 

「買い取りをお願いします」

 

 今の内にドロップアイテムの買い取りを済ませてしまおう。

 

「はい、お疲れ様です。今日も昨日と同じですか?」

 

 相変わらず見掛けの厳つさと真逆の丁寧な言葉使いだな、ギャップが凄い。黙って頷くとパウエルさんがトレイを三つカウンターに並べた、順に置いてくれって事だな。

 

「先ずはスタンダガーですが今日は百六十一本です、次にダガーは百三十七本になります」

 

 出されたトレイにスタンダガーから乗せていく、三つのトレイに山盛りに乗せるとパウエルさんが直ぐにカウンター下に置いて新しいトレイを並べる。

 今度はダガーを全て置くと一旦トレイを全て片付けた、後は銀の指輪だけだ。

 

「最後に銀の指輪が五十五個です、ポーション類は昨日と同じくストックさせて下さい」

 

 ポーション類は最近使い道が多い、暫くはストックに専念する。

 

 最後のトレイに銀の指輪を五十五個のせる、昨日と合わせて百六個だが万年品薄なのに大量入荷だと値崩れするかな?

 

「銀の指輪を五十五個、確かに受け取りました。今日は四階層のボスを二百回近く狩りましたか?」

 

「はい、大体予想通りの回数です。流石ですね、次は五階層に下りてみます」

 

 今日は百八十八回、コボルドリーダー百八十八匹にコボルドが七百九十匹と大量だった、後二回で百九十回だったが仕方ない。

 エレさんとウィンディアのレベルが上がり、イルメラも後少しで上がりそうだ。

 

「そうですか、次の五階層のボスはリザードマン、固定で必ず六匹現れます。ドロップアイテムはノーマルが鱗の盾、レアが鋼鉄の槍です。

鋼鉄の槍には稀に魔力付加の付いた物も有るので買い取り鑑定は王都の冒険者ギルド本部になります。

それと初めて奴等を倒した場合、レッドリボンがドロップしますがコレは各階にあるエレベーターの起動スイッチです。

再戦しても誰かがレッドリボンを持ってボス部屋に入るとドロップしませんし冒険者ギルドでも買い取りはしていません。

これはリザードマン六匹はバンクの六階層より下に下りる最低限の強さの指針だからです。

さて買い取り価格ですが……」

 

 パウエルさんが紙とペンを使い計算を始めた、次のボスはリザードマンでドロップアイテムは盾と槍、それとレッドリボンか……

 冒険者養成学校で習ったが湿地帯に生息するリザードマンは硬い鱗に守られた強靱な肉体を持つ身長2m程のモンスターだ。

 本来は水中での戦いを得意とするのだが、迷宮内でもポップするのか……

 当然だがオークよりも格段に強く主に槍を好んで使うが牙や爪も鋭い。

 それと九階層まで直通のエレベーターは危険だ、『デクスター騎士団』の二の舞にはならないぞ。

 

 流石に買い取り品が多いので遠巻きに他の冒険者達が様子を伺っている、しかし一日の探索で金貨三百枚以上は凄いよな。漸く計算が終わったみたいだ……

 

「先ずはスタンダガーが百六十一本、一つ銀貨七枚なので金貨百十二枚と銀貨七枚。

次にダガーが百三十七本、一つ銅貨五枚なので金貨六枚と銀貨八枚に銅貨五枚。

最後に銀の指輪が五十五個、一つ金貨五枚なので金貨二百七十五枚。合計で金貨三百九十三枚と銀貨五枚、それに銅貨五枚となります」

 

 そろそろ金貨四百枚超えに近づいて来たな、パーティ内での金額配分を再度打合せしないと駄目だな。金貨百枚一束を三つ、残りをバラで受け取り空間創造に収納する。

 昨日が金貨三百七十一枚と銀貨が十二枚、今日のを足せば、金貨七百七十二枚、銀貨十七枚に銅貨五枚。

 僕等はゴーレムが主力だから消費したのは昼食代と三時のお茶菓子位だ……

 武器防具は錬金で作るしポーション類も殆ど使わない、つまり殆どが純益なんだよな。

 

「有り難う御座います、明日は所用でこれないと思います」

 

 パウエルさんに一礼し受付嬢の方に行く、エレさんとウィンディアの冒険者カードの更新をして二日間の魔法迷宮バンクの攻略を終えた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 家に帰るとデオドラ男爵より言伝が来ていた、申し訳無いが今から屋敷の方に来て欲しいとの事。

 明日、ライル団長率いる聖騎士団が王都に凱旋する距離まで来ているそうだ。後半日程の距離で野営し準備と隊列を整えて整然と凱旋したいのだろう。

 軽くパンとスープだけの夕食を採り身嗜みを整えてから辻馬車を捕まえてデオドラ男爵の屋敷へと向かう。

 裏口の馬車寄せに着けると見た事の有る執事が出迎えてくれ、そのままデオドラ男爵の執務室へと通された。

 僕の到着と共に呼ばれたのだろう、直ぐにジゼル嬢とアルクレイドさんも集まり四人でテーブルを囲む事となった。

 デオドラ男爵もアルクレイドさんも表情は普通だがジゼル嬢は少し浮かない感じだな……

 

「夜分に悪いな、ライル団長から先駆けが来て明日の昼に王都に凱旋する。

そのまま中央大通りを行進し中央広場にて国王から御言葉を賜り戦果を示す事になるだろう。

戦果の目玉は何と言ってもリーンハルト殿のワイバーンとトロール、そして大量のオークだ。

他の連中が倒したオークは空間創造を持つ者が居ないので途中で立ち寄った街や村で復興支援の為に寄付している、だから王都の民に最後の大物を見せる必要が有る」

 

「はい、僕は当日中央広場に先に居てライル団長が来られたら所定の場所に並べれば良いのでしょうか?」

 

 身元がバレ無い様にフルプレートメイルを来て兜を被っていれば顔は分からない、空間創造から並べるのも三十分も掛からない。

 ジゼル嬢自らが紅茶を淹れてくれる、部屋付メイドには知られたく無い話だからか……

 目の前に置かれたカップからは豊潤な匂いが立ち込めるが、バルバドス師はコレに大量の砂糖をいれるんだよな。

 

「何だ急に微笑んで、そんなにジゼルに世話をされるのが嬉しいのか?何なら傍に置いても良いのだぞ」

 

 酷い勘違いが来たぞ、確かに嬉しいが傍に置くって嫁に貰うより広い意味で取れる言葉だぞ!

 

「確かに嬉しくは思いますが色々と問題が生じると思います」

 

「まぁ愛しい婚約者に対して酷い言葉ですわ」

 

 無表情で叱られた、この話題は色々な意味で避けるべきだろう。

 だがジゼル嬢とアーシャ嬢の件は僕にとっても彼女達にとっても残された時間は少ない。

 このままデオドラ男爵の庇護を受けるなら彼女達のどちらかと結婚するのが最良だが、保身の為に婚姻する事になる。

 だが愛無き婚姻は嫌だと言ったが、自惚れ無くしてもアーシャ嬢は僕に対して少なからぬ好意は有る。

 ジゼル嬢は微妙だ、お互いがお互いを怖いと感じているが僕は基本的に嫌いじゃない、仲間としてなら好きと言い切れる。

 

「お詫びは幾らでも行いましょう」

 

「あら、本当にですね?」

 

 しまった、失言だったか?凄い含み有る言葉と笑みを浮かべられたぞ。

 デオドラ男爵も少し意外そうな感じだ、基本的にジゼル嬢は控え目で我を通す事はしない。そんな彼女が敢えて何かしらの条件を付けるとなると何だろうか?

 

「僕に出来る事なら……」

 

 語尾が小声で伸ばしてしまった、反省だ。

 

「その、私にも即興でないアクセサリーを作って欲しいのです。アーシャ姉様が羨ましくて……

何ですか、そのお顔は?私だって年頃の女です、あれ程のアクセサリーを見せられたら欲しいと思います!」

 

 真っ赤になって慌てる彼女が珍しくて可笑しくなる、冷静沈着な謀略系令嬢も年頃の美少女って訳だ。

 

「構いませんよ、喜んでプレゼントさせて頂きます。アーシャ様にはティアラとネックレスを作りましたがジゼル様は何が良いですか?」

 

 姉妹で同じ様な物よりも変えた方が良いかな、ブレスレットにするかペンダントも良いな。

 自作のレジストストーンをペンダントトップにして回避のアミュレットとかも……

 

「まぁ待て、リーンハルト殿にはアーシャのアクセサリーの代金を渡していない。

幾ら我々の仲でも証明書も納品書も無く先に品物だけ渡すのは不味いぞ、用心深い癖に変な所で他人を信用し過ぎている。アレだけのアクセサリーだ、報酬は金貨一千枚を用意した」

 

 実働二日間、宝石類は支給で消費した素材は金貨二百枚位だ、半額で丁度良い位じゃないか?

 デオドラ男爵の顔は本気だから評価としては嬉しいが、細工職人でもない魔術師の錬金で作った品物には過分な金額だ。

 

「多過ぎます、宝石類は支給でしたし……」

 

「では無料で贈ると言ったジゼルにはどんな品物を作るつもりだったんだ?」

 

 言葉を遮られたが割と怖い顔と口調になってる、短いやり取りの中で何か失礼な事が有ったか?

 

「自作のレジストストーンをペンダントトップにしたアミュレットを贈ろうと考えていました」

 

「そのレジストストーンの性能は?」

 

 む、予備の作り置きが有ったな……確か空間創造に収納して有った筈だが……ああ、コレだ。

 

「コレです、毒と麻痺を30%程度でレジストします。見た目も青いので宝石類としても……」

 

 父娘が目頭を揉んでいるが眼精疲労か?確かに領地持ちの貴族と腹心だから書類作業も多いのだろう、大変だな。

 

「金貨五百枚、そのレジストストーンには単体でもそれだけの価値が有る。お前は少し自重しろ、自作は労務費だけとか考えるな、馬鹿者が!」

 

 怒られた、割と本気だが他の人に作るつもりは無いから問題無いと思う。デオドラ男爵やジゼル嬢も転売とかしないだろうから広まる事も無いだろうし……

 

「確かに出回るには少し厄介な品物かも知れませんが、僕は他の人に作るつもりは無いのです。

あくまでもジゼル嬢に感謝の気持ちで贈りたいので、受け取って欲しいのですが……」

 

 二人共に黙ってしまった、そんなにヤバい品物じゃないと思うのだが駄目だったかな。

 

「ジゼルが身に付けるには無理が有る、女性のアクセサリーとは見せ合って競うものだ。アーシャのは未だ良い、錬金術を極めた細工として通用するがレジストストーンは駄目だ。

これはエルフの村で取引される品質だ、必ず問い合わせが行くだろう。こんな品物が量産出来るとバレたら今直ぐエムデン王国お抱えの錬金術師として拘束されるな」

 

「私も自慢出来ないアクセサリーは嫌ですわ。リーンハルト様の気持ちは大変嬉しく思いますが、普通の宝石にして下さい」

 

 エムデン王国のお抱え?高々レジスト30%で?もう少しレベルが上がれば50%以上の品物も作れるし空間創造には100%レジストする無効化も有るのだが言える雰囲気ではないな。

 

「分かりました、普通の宝石でアーシャ様に作った物と同様の細工を施した……」

 

「ブレスレットでお願い致しますわ」

 

「ブレスレットを贈らせて頂きます」

 

 満足そうに微笑むジゼル嬢を見て彼女が嬉しいなら別に良いかと思う、土属性魔術師の性なのか凝った品物を錬金したくなるんだよな。

 

「序でに俺のフルプレートメイルも作ってくれ、今の技術でも製作可能な範囲で頼むぞ」

 

 ああ、忘れていた。ウィンディアの評価アップの為にデオドラ男爵にも防具を作るって約束してたな。

 


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