古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第149話

 魔法迷宮バンクを攻略した帰りの馬車でコレットの父親と乗り合わせた、話し掛けて来たが色々と複雑だった。

 未だ十二歳のコレットはライラックさんから直々にリラさんの花嫁参列に同行する様に依頼される程の冒険者だ、土属性魔術師でゴーレム四体を操る。

 パーティは組まずに単独で活動する事に、当時はゴーレム四体も制御出来ればお金も経験値も独り占めだからと納得していた。

 

 だが父親も同じ魔術師で自分が所属するクランの若者達の育成に力を入れているっぽい、我が子よりも他人をだ。

 親子の関係はギクシャクしてそうだが、僕等の事を話す程度には関係が有りそうだ。

 

 だがしかし……

 

 彼が本当にコレットの父親なのか分からないし、僕等に声を掛けたのも勧誘目的かも知れない。

 僕等はクランに所属する気は無い、幾つか勧誘されて調べたが互助会の様なシステムだった。

 弱い内は色々と面倒を見てくれるので助かる、だが逆に考えれば強くなれば弱い者の面倒を見なくてはならない。

 助け合いは素晴らしい事だが、集団には必ず上下関係や派閥問題が生じる。

 聞けばクランとはクランの長の意見が絶対で古参の者ほど発言力が有るらしい、貴族の柵(しがらみ)に苦労しているのに新たな柵を作るのは勘弁して欲しいのが本音だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「自由な生き方が基本の冒険者ですから人それぞれの進み方が有ります。

僕等も誰にも干渉されずに自由に生きたい、その願いを込めて『ブレイクフリー(自由への旅立ち)』をパーティ名にしてます」

 

 そう言った時、ドレイヌさんは顔を顰めた、つまり勧誘の気持ちも有ったのだろう。

 

「そうか……だが君達は未だ若い、色々と知らない事も多いだろう。

私が率いているクラン、『希望の光』に入って同じ様に若い冒険者達を一人前に育てる為に力を貸してくれないか?」

 

 ハリネズミみたいに警戒せずに情報交換の為に話さないかと声を掛けられたが、最終的に勧誘されたな……

 イルメラ達も起きて真面目に話を聞いている、だがクランに参加する気は無くて状況の把握に努めているだけだ。

 

「折角のお誘いですがお断りします。他にも幾つかのクランから同様の勧誘をされてますが、僕等はクランに参加する気は無いのです」

 

「未熟な冒険者達の育成に力は貸せないと?」

 

 そう言われるのは辛い、極論だが自分達だけ良ければ他はどうなっても良いのか?って話だ。

 

「僕も自分が来年成人して廃嫡される前に力を付ける為に努力しています。

貴族の柵、派閥の争い、後継者問題、僕は非常に微妙で危険な立場ですがクランに参加すれば助けて貰えるのですか?」

 

「そっ、それは……」

 

 黙り込んでしまった、貴族の派閥争いや後継者問題は利権が絡むだけあり非常に危険だ、アルノルト子爵は僕に暗殺者を差し向け、魔術師として力が有ると知れば自分の娘を差し向けて来た。

 

「僕がクランに所属すればメリット以上のデメリットを生じますよ、僕としてもメリットは少ない。お互い損な関係にはなりたく無いですよね?」

 

 無言のドレイヌさんだが頭の中で損得勘定をしているな、僕を引き込むメリットとデメリットを天秤に掛けている顔だ。

 答えが出ぬまま馬車は王都へ到着した、時間潰しには良かったが得たのはコレットの家族関係位だ。

 

「ではドレイヌさんに春風の皆さんもお疲れ様でした」

 

 馬車が停まると声を掛けて直ぐに飛び出した、これ以上不毛な勧誘話を聞いても意味は無い。

 

「あっ?リーンハルトさん、待って!一緒に夕飯食べない?」

 

 ドレイヌさんの熱弁で会話のタイミングを計っていたフレイナさんから食事のお誘いが来たが、この人もブレないよな。

 

「結構です、家でイルメラの用意した料理を食べますから。では、さようなら皆さん」

 

 失礼にならない程度の会話をして、早々に自宅へと向かう。

 

 やんわりとはいえ言葉にして拒絶をした為か、ドレイヌさんもフレイナさん達もそれ以上は話し掛けては来なかった……

 

 明日も早朝から魔法迷宮バンクを攻略する為に、エレさんは僕の家に泊まる事になっている。

 未婚の若い女性を家に招くのは深い意味が有ると思ったのだが、同じ冒険者でパーティを組んでいるメンバーだから大丈夫らしい。

 メノウさんにも了承して貰ったから大丈夫だと思う、あの人は魅惑的な笑顔で「責任取ってくれるなら大丈夫ですわ」とか言ったが責任って何だろう?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 魔法迷宮バンク攻略二日目、一応昨晩の内に女性陣は腕等のマッサージを行い筋肉を解しておいたので筋肉痛は無さそうだ。

 四階層迄は問題無く辿り着いた、途中でモンスターが四回ポップしたがゴーレムポーンの敵ではない。

 

「さて、二日目の百七十一回目のボス狩りを始めよう」

 

 魔法の灯りをボス部屋の中に八個浮かべる、これで隅々まで見渡す事が出来る。

 だがボス部屋はイベント戦闘なのか他の冒険者パーティは居ない、同じ階層にポップするモンスターよりも強いから経験値やドロップアイテムを狙うならランダムにポップする敵と戦った方が安全だ。

 最悪の場合、ボス戦は逃げられないので全滅してしまうから……

 

 エレさんに扉を押さえておいて貰い、ロングボゥ装備のゴーレムポーンを三十体錬成する。

 十体三列に並ばせて十体ずつ違う弓矢を持たせて状況により使い分ける訓練をする予定だ。

 

 先ずは昨日使用した先端を細長く尖らせ貫通性を高めた「射通す用」

 

 次に先端を二股にして内側に刃を付ける主に切る事に重点を置いた狩猟用「射切る用」

 

 最後に盾や鎧を砕く先端を重く斧状にした「射砕く用」

 

 この三種類を今回は同時使用して使い方を習熟する、射通す用は貫通特化の汎用だ、革鎧程度なら貫通するがダメージは普通。

 

 次に射切る用だが刃先が5㎝程度と広いから当たれば幅広く傷付けられるので、血管に当たれば出血を強いる事も出来る、だが革鎧でも当たり所によれば防げるので狙う場所が限定される。主に狩猟で使われる。

 

 最後の射砕く用だが先端が幅3㎝程の斧状になっている石工が使うノミみたいな形状だ、木の盾位なら割る事も出来る。だが柔らかい革鎧や金属鎧には効果が薄い。

 

 射切る用と射砕く用は用途が限定されるが使い慣れておくには良い技術だ、派生として火矢や毒矢も有るが射撃の習熟訓練には関係無い、弓矢の先端に仕込めば使用可能だ。

 

 イルメラ達にもクロスボゥを渡す、彼女達も訓練が必要だ。

 

「今日はゴーレムさんを三十体に増やしたのですね……」

 

「ああ、大分慣れたからね。最大七匹だと討ち漏らしが居たのと制御に慣れたから数を増やした。では始めよう、エレさん扉を閉めて!」

 

 僕の言葉にエレさんがバタンと扉を閉めた、直ぐに部屋の中心辺りに急激に魔素が集まり出しモンスターの形を成していく。

 

「今回はコボルドリーダーの他にコボルド四匹か」

 

 前列の射通す用は五匹に各二本ずつ、中列の射切る用も同じく各二本ずつ、後列の射砕く用は盾を構えてコボルドリーダーを守っている敵前衛二匹に向けて五本ずつ狙いを定めた。

 

「射て!」

 

 実体化し此方を威嚇した瞬間に、一斉に矢を放つ。イルメラ達はコボルドリーダーに狙いを定めたみたいでゴーレムポーンに合わせて矢を放った。

 合計三十三本の矢が一斉にモンスターを襲う、大分命中率は高くなったが射砕く用の矢は一つの盾を割り一つの盾には弾かれた、だが討ち漏らしは居ない。

 

「ふむ、全部倒せたが射切る用は有効だな。コボルドの首や剥き出しの肩を引き裂いている、致命傷に近い傷を付けられる。

だが射砕く用は微妙だ、片方の盾は壊したが残りは刺さるか弾かれたか……」

 

 モンスターが魔素に還ると銀の指輪とダガー二本が残った、ウィンディアが拾って渡してくれる。

 

「はい、リーンハルト君。でも三十体のゴーレムポーンからの一斉射って凄いね、敵ながら哀れに思うわ」

 

「本当に、実体化と同時に倒すなんて非常識な戦法……」

 

 確かに魔法迷宮の攻略に三十体以上のゴーレムなど前例が無いだろう、だが弓矢の習熟としては有効だ……

 あくまでも射程距離が30m以内のロングボゥの水平射ちに限ってだ、ロングボゥは射程距離を稼ぐ場合45度斜め上に向けて射つと飛距離が伸びる。

 最大45度で飛距離は100m、有効射程距離は80m位にはなるから野外での訓練も必要だな。

 

「他人は他人、僕等は僕等だよ。さて次に行くよ、エレさん扉を開けて」

 

「ん、分かった」

 

 エレさんが扉を開けて外を確認しバタンと閉めると部屋の中心辺りに魔素が集まりだした、百七十二回目のボス狩りの開始だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 順調にボス狩りを重ねて昼食後も十分な休憩を取り午後もボス狩りを続けた、昨日よりもゴーレムポーンを増やした為に一射目で倒せる様になり効率も上がった。

 午後三時過ぎには昨日よりも多い百八十八回目を達成、そろそろ魔力が枯渇寸前になって来た。

 

「リーンハルト君、外でボス待ちが居る」

 

「ん、そうか。それじゃ今日の探索は終わりにしようか?」

 

 三十体のゴーレムポーンは要らぬ噂を招くので最低限の前衛六体を残して魔素に還した、流石に大量のゴーレムによる弓矢の一斉攻撃は知られたくない。

 

「そうですね、成果は十分ですね」

 

「私もレベル27になったし、エレちゃんもレベル23だもんね」

 

 全員でボス部屋から出て待っていた冒険者パーティにボス討伐を譲る、流石に四階層のボス狩りはお終い、次は五階層に降りるか。

 

「本当にボス狩りをしていたのね、一分もしないで扉を開け閉めしてたから気になってしまって」

 

 む、この声は『春風』のフレイナさんか?

 しかもボス部屋の扉を開け閉めって僕等を遠くから観察してたって意味だ、エレさんに気付かれずに見てたって事か。

 流石は盗賊職でリーダーをしているだけの事は有るな、観察眼が長けているならレアドロップアイテム率UPのレアギフトがバレる可能性が高いぞ。

 

「春風の皆さん、奇遇ですね。貴女達も四階層を攻略してたんですね。僕等は引き上げますので、どうぞ攻略して下さい」

 

 行きは気付かなかった、騎士団の管理小屋の台帳には記載は無かったが後から来たのだろうか?

 

「あら、私達は通り掛かっただけよ。ボスには挑戦しないわ」

 

 彼女達は僕等に敵対しないとの意志表示なのか武器は鞘に収めて柄に手も掛けていない、戦士職四人に盗賊職二人の合計六人の大所帯パーティだ。

 それが壁際に一例に並んで僕等を見ている、警戒心がムクムクと沸き上がる。

 

「そうですか?では我々はこれで失礼します」

 

 ペコリと一礼して彼女達の脇を通り抜け様とするが呼び止められた。

 

「一緒に帰りましょう、私達も今日は終わりなの」

 

「む?そうですか……ですが、露払い的な扱いは嫌ですよ」

 

 先行してモンスターを倒せば必ずレアアイテムがドロップする、一回なら良いが二回以上連続してドロップすれば疑うだろう。

 彼女達は全員がレベル20以上だろうし装備品も悪くない、オリジナルっぽい緑色で統一された鎧兜。

 緑色で統一した革鎧やハーフプレートメイルを着込んでいる、拘りを持つパーティは強い。

 

「勿論よ、一緒にいきましょう」

 

 そう言って先導する様に先に行ってしまう、仕方なく後を追うように付いて行く。

 パーティ最後尾を歩くフレイナさんとパーティ最前列を歩く僕は必然的に近くなる、因みにゴーレムポーン六体は最後尾だ。

 

「リーンハルト君、ランクCになったんですってね。おめでとう、凄いわ!」

 

「有り難う御座います、実感は未だ無いんですけどね」

 

 暫くは互いの情報交換や時事ネタの会話をして進んだ、三階層でコボルド四匹の襲撃を受けるがフレイナさんのパーティの戦士が問題無く倒した。

 

「流石ですね、危なげない戦い方です」

 

「あら、有り難う。貴方に褒められると嬉しいわね」

 

 普通に優しく微笑み掛けられたが特に勧誘とかの話は無かった、本当に彼女達は他の冒険者パーティに寄生するのかな?

 


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