古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第147話

 久し振りの魔法迷宮バンクの攻略、四階層のボスであるコボルドリーダーと配下のコボルドを相手にロングボゥの習熟訓練を行っている。

 半自動制御だから敵に対してロングボゥで攻撃する事は出来る、だがロングソードや両手持ちアックスの時は基本的には一対一で戦わせていたがロングボゥの場合は複数の敵の割り振りが難しい。

 それとロングソードや両手持ちアックスの場合は一撃が大ダメージを与えられるが弓矢は点の攻撃、例えばロングソードの攻撃は頭と胴体を切る突くと言う命令で致命傷を与えられる。

 だがロングボゥの矢で頭と胴体を狙わせると一撃で致命傷に成らない場合が多い、ロングソードで突けば傷口は大きいが弓矢は直径1㎝程度、腹に当たっても直ぐには倒れない。

 だからこその数を頼りに攻撃するのだが、多くなればなる程制御が難しくなる。

 だが有効な戦術には違いないので上達するまで頑張るしかない。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 四階層のボスであるコボルドリーダーは最大六匹のコボルドを従えて現れるので平均四匹と戦う事になる。

 接近戦と違いロングボゥは一射目か二射目で倒せる、射つ間隔も大体六秒位なのでポップして具現化し倒す迄に一分も掛からない。

 短時間で効率良く倒せるのだが、接近戦を仕掛けていた時より疲労は溜まりやすい。

 

「次で十回戦だ、倒せばレアアイテムが手に入るが今回は何だろう?」

 

 木の指輪・ロッドオブファイア・ルビーと来たら次は何だろうか。

 

「前回はルビーでしたね、今回は武器とかでしょうか?」

 

 女性陣はご機嫌だ、全員にレアドロップアイテムである銀の指輪を渡した、いや嵌めさせられた。

 残念ながらエレさんだけは指が細過ぎて指輪がスカスカで親指に嵌めた、他の二人は人差し指に嵌めた、薬指は色々な意味で危険を感じたので。

 

「お楽しみの前に頑張るか、エレさん扉閉めて」

 

「ん、分かった」

 

 パタンと扉が閉まると部屋の中央付近に魔素が集まり出す、今回は出現位置は固定みたいだ。

 

 実体化するのを待つ……

 よし、今回はコボルドリーダーの他に六匹か。コボルドリーダーに八発、コボルドに各二発の割り振り指令を素早くゴーレムポーンに送る。

 矢をつがえて待機していたゴーレムポーンが一斉に矢を放つ、今回は全弾命中、だがコボルド二匹は致命傷にならず魔素に還らない。

 素早く前列十体に指令を送り五発ずつ矢を放つ、戦闘開始から十五秒で全滅だ。

 

「流石に最大七匹だと制御が辛いな」

 

「リーンハルト様、見た事の無い指輪です。他にはハイポーションとスタンダガー二本にダガーです」

 

 イルメラから手渡された指輪を鑑定する為に掌に乗せる、でも何処かで見た事が有るんだよな。何処だったかな、転生後の筈なんだが思い出せない。

 

 鑑定すると『守りの指輪:自然体力回復増(効果:小):重複装備不可』となっている。

 

「そうか!見た事有るなと思ったがルーテシア様が持っていた指輪と同じだ」

 

「えっ?本当だわ。あの指輪ってルーテシアのお母様の形見なのよ。例のお礼で渡そうとして断ったじゃない、彼女不謹慎だけど嬉しかったって言ってたわ。

ルーテシアの母親であるメルティス様は彼女が小さい頃に亡くなってね、今の本妻は後妻なの……」

 

 そうか、グレートデーモンから助けたお礼に母親の形見の指輪を渡すつもりだったのか、それだけの気持ちを込めてくれたなら僕としても嬉しい。

 でも先日会った本妻の方は後妻なのか、貴族だし本妻が亡くなれば新しく娶るのも珍しくないが仲は良さそうだったのにな。

 そう言えばデモンリングは僕とイルメラが装備しているが、デモンソードは空間創造に収納しっ放しで調べてないな。

 レイス系に有効だし今度ちゃんと調べるか。

 

「だが指輪は重複装備不可だし……あれ?イルメラのデモンリングは?」

 

 確かイルメラにも銀の指輪を嵌めたぞ、デモンリング外したのか?

 彼女を見ればニッコリ笑ってデモンリングを右手で差し出し、嵌めていた銀の指輪を自ら外して左手を差し出した。

 

「えっと、デモンリングを僕が嵌めるの?」

 

「はい、イルメラはリーンハルト様の物。ですからリーンハルト様がイルメラの左手薬指にデモンリングを嵌めて下さい」

 

 久し振りに聞いた、イルメラの僕が所有宣言。だが僕は彼女を物みたいに扱っていない、彼女がそう思っているのなら辛い。

 

「イルメラ、僕は君の事を何よりも大切に思っている。だから僕の所有物みたいな言い方は止めてくれないか、僕達は対等だと思っているんだ」

 

 そう言ってデモンリングを受け取り左手の人差し指に嵌める、勿論薬指は駄目だ。

 

「リーンハルト様……」

 

 両手を胸の前で組んで祈る様に僕を見上げてくる、瞳に涙が溢れて今にも決壊しそうだ。

 

「暑い、この部屋は暑いよね、エレちゃん」

 

「暑い暑い、本当に暑い。嫌になる位に暑い」

 

 パタパタと手で首元を扇ぐウィンディアとエレさん、真っ赤になって俯くイルメラ。さっき迄の桃色空間が何とも居たたまれない空間に変わってしまった。

 

「さっ、さぁボス狩りを再開するよ!」

 

 慌てて握っていたイルメラの手を離して距離を取る、流石に近過ぎたか?

 

「そっ、そうですね。エレさん、扉の外を調べて下さい」

 

 不機嫌そうにエレさんが部屋の外を確認して扉をバタンと強めに閉めた。

 

「さて、十一回目のボス狩りを行うか!」

 

 誤魔化す様に強い口調で戦いの開始を宣言した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「うん、大分慣れてきた」

 

「もはや射撃場ですね、ボスが現れると短時間でロングボゥを二斉射、最大合計四十本の弓矢に貫かれて抵抗する間も無く魔素に還る……」

 

「凄い勢いでドロップアイテムが集まる」

 

 確かに効率は良い、ボス狩りを初めて二時間で八十回、一時間で四十回は一回の戦闘に一分半しか掛からない。

 ボスであるコボルドリーダーを八十匹、コボルドを三百二匹倒した結果が守りの指輪が八個、銀の指輪が二十五個、ハイポーションが十八個、スタンダガーが八十七本、ダガーが六十六本だ。

 レベルもエレさんが22に上がったが他の連中は未だだ、でもウィンディアはそろそろ上がりそうだな。

 

「換金したら銀の指輪だけでも金貨百枚は越えるね」

  二十五個集めたが女性陣に渡したので売れるのは二十二個、一つ金貨五枚だから金貨百十枚。

 スタンダガーが八十七本、一つ銀貨七枚だから……金貨六十枚銀貨九枚、銀の指輪と合わせると金貨百七十枚銀貨九枚か。

 

「稼げる時にお金と経験値を稼ぐ、この次は冒険者ギルド本部からの指名依頼が入るから実入りは悪くなる。さぁ昼飯を食べて少し休憩しようか?」

 

「待ってました!今日はエレさんが作ったんだよ」

 

「リーンハルト君はハンバーグが好きだって聞いたから……」

 

 空間創造からテーブルと椅子を取り出して並べる、毎回豪華になる食事風景だな。

 女性陣の並べている料理を眺める、メインは白菜たっぷり煮込みハンバーグ、プレーンオムレツ、クロワッサン、そしてデザートはシュトレンだ。

 シュトレンはドライフルーツやナッツを練り込んだ菓子パンなのだが、デザートに菓子パンとは侮れない。

 見た目は少し歪だが全く料理をしなかった彼女が短期間で努力して作った料理だ、美味しく頂こう。

 

「美味しそうだね。有り難う、エレさん」

 

「うん、また作る」

 

 珍しく感情豊かな彼女にお礼を言って食べ始めた、見た目は少し歪だが味は大変美味しかった。

 

 幸せな満腹感に浸っているとウィンディアが毛布を敷いて膝枕の準備を始めた、毎回休憩時に膝枕はしなくて良いのだがイルメラとウィンディアは絶対に譲らない。

 最近は交互に膝枕をしてくれるのだが……

 

「はい、リーンハルト君。どうぞ!」

 

 ポンポンと自分の膝を叩いてアピールされた、満面の笑み付きだ。

 

「む、十五分程頼もうかな」

 

「はい、どうぞ!」

 

 彼女の膝に負担が掛からない様に気を付けて頭を膝に乗せる、柑橘系の爽やかな匂いが鼻腔を擽る。目を閉じると額に手を当ててくれる、少し冷たくてスベスベした肌触りだ。

 

「頭を撫でずに額に手を添えるとは!」

 

「ふふふ、良いでしょ?前はイルメラさんがリーンハルト君の髪を梳いていたから羨ましかったんだ」

 

「やっぱりズルい、二人だけでズルい」

 

「エレさんには未だ早いわ」

 

「そうだよ、膝枕は私達だけの特権なんだから。エレちゃんは駄目なの!」

 

 何やら口喧嘩を始めたが小声で囁く様に話していた為に直ぐに睡魔が襲って来た……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「リーンハルト様、私達も戦いに協力したいです」

 

 膝枕による昼寝から起きると、いきなりイルメラから懇願された。

 

「協力と言っても……」

 

 エレさんは索敵と罠の発見及び解錠、ウィンディアは補助魔法によるサポートとゴーレムが討ち漏らした敵の対処、イルメラはパーティ全体の防御と治療と役割分担は出来ている。

 逆に乱戦時にゴーレム達の邪魔にならない戦い方って何が有るだろう?

 

「ウィンディアは中遠距離攻撃が可能な攻撃魔法が使えるけど、イルメラは権杖だしエレさんはショートソードか……」

 

「私達も万が一の時の為に弓による攻撃に慣れておきたい」

 

 弓矢か、ロングボゥは問題外だな、アレは引く力が強くないと攻撃力は低い。平均で80㎏前後の筋力を必要とするが直ぐに肉体強化は無理だ。

 

 だがクロスボゥなら大丈夫だろうか?

 空間創造から昔作ったクロスボゥを取り出す、クロスボゥの最大の利点は専用の太く短い矢を板バネの力で弦により発射、引き金を持ち狙いが定め易い事だ。

 弓矢が装填された状態で狙いを定めて引き金を引けば発射される。

 問題点は専用の弓矢が太く短い為に有効射程距離が短い、矢を装填するのに時間が掛かる事だ。

 

 手で引き絞るロングボゥと違い、クロスボゥはレバーで弦の掛け金を梃子の原理で引く方式や梃子の原理でレバーを押す方式等が有る。

 僕は下部や側部に付ける足掛けが不要な、片手廻し式ハンドルを回して歯車と歯竿で弦を引くラック&ピニオン方式を採用した。

 要は射ち終わったら縦に置いて脇に有る手回しハンドルを回す事により強い力で弦を引き絞る事が出来るんだ。

 

「はい、クロスボゥだよ。使い方は簡単で狙いを定めたら引き金を引く。射ち終わったら脇に有るハンドルを回して弦を引き矢をセットするんだ」

 

 試しに適当な壁に矢を射ち込み、ハンドルを回して弦を引き絞り専用の矢をセットしてみせた。

 

「これが非力な女性でも比較的簡単に使えるのだけど、大丈夫かな?」

 

 イルメラ達がクロスボゥを調べ出す、エレさんは盗賊職だけあり慣れた手付きで試射した後で矢をセットした。

 だがハンドルを回して矢を装填するのに一分弱掛かっている、慣れたエレさんで一分弱なら初めてのイルメラ達は倍は掛かるかな?

 

「うん、大体分かった」

 

「リーンハルト様、もう大丈夫です」

 

 暫く試射と矢の装填を繰り返していた二人だが納得の行くだけの操作方法は理解したみたいだ。だが確かに中遠距離攻撃の手段を覚えるのは良い事なので自分と共に覚えて貰おう。

 

「では落ち着いてゴーレムポーンの陰に隠れて攻撃してくれ、狙う相手はどれでも構わない」

 

 下手に注文を付けるよりは好きにやらせた方が覚えるのも早いだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 午後も四時間、みっちりとボス狩りをした。

 イルメラ達がクロスボゥを装填するのに時間が掛かったので一時間に二十回、四時間で八十回、今日一日の合計で百六十回ボス狩りを行った。

 幾らハンドル式だとしても彼女達の腕の筋肉疲労は酷かったので後半は二回に一回しか攻撃はしていない、だが命中精度はソコソコ上達してきた。

 

 さて本日の成果だが、ボスであるコボルドリーダーを百七十匹、コボルドを五百六十二匹倒した結果、守りの指輪が十七個、銀の指輪が五十一個、ハイポーションが四十四個、スタンダガーが百五十八本、ダガーが百三十二本だ。

 今迄で最大の結果だが換金する時に驚かれるかな?

 

「さて、帰ろうか?冒険者ギルド出張所のパウエルさんが驚くだろうな」

 

 厳つい顔をしてるのに優しい言葉遣いのギルド職員の顔を思い出す、多分買い取りアイテムで攻略の内容が知られるだろう。

 だが四階層は資金は貯まるが経験値的には余り旨味が無い、弓矢の習熟が済んだら五階層に下りるかな。

 


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