古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第146話

 

 冒険者ギルド本部から僕の冒険者ランクCへの昇格手続きと今後の事について相談が有ると呼ばれた。

 応接室に通されオールドマン代表が待ち構えていた時は驚いたが、相談自体は問題無い事だった。

 

「我々は君がどの派閥に所属しようが魔法迷宮の攻略をしてくれれば構わない、例えそれがデオドラ男爵と敵対している派閥でもね」

 

 そう言われた、若い頃にデオドラ男爵と同じパーティを組んでいたオールドマン代表がだ。

 だから僕も当分は魔法迷宮バンクの攻略に専念しますと返したが、ブレイクフリー又は僕に指名依頼が増えつつあるので厳選して依頼すると更に返された。

 酷い内容の依頼は殆ど冒険者ギルド側で弾いてくれる恩恵は大きい、僕では断れなくても冒険者ギルドなら断れる相手は多いのだから……

 

 互いのギブ&テイクな関係を再確認し合って別れた、先ずは魔法迷宮バンクの四階層の攻略が最優先だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 魔法迷宮バンク入口の前には冒険者ギルドの出張所と聖騎士団から騎士団員を派遣している管理小屋が有る。

 前者は主に迷宮内でドロップしたアイテムの買い取りを後者は迷宮を攻略する冒険者達の出入りの管理をしている。

 低レベルパーティの迷宮攻略は朝から入って上層階を攻略し夕方には出ていく、高レベルパーティは下層階を攻略する為に何日か迷宮内で過ごす。

 今は午前十時半、周りには殆ど人は居ない。

 顔見知りとなった騎士団員に挨拶をして名簿に記入する、今日は『野に咲く薔薇』と『静寂の鐘』の知り合いパーティも先に攻略中みたいだ。

 ああ、『マップス』や『ザルツの銀狐』の名前も書かれている、頑張ってるんだな。

 

「久し振りだな、オーク討伐遠征には行かなかったのか?」

 

 暇なのか話し掛けてきた、彼はオーク討伐遠征には行かなかったみたいだ。

 

「デオドラ男爵と共に参加して王都には一昨日帰って来たんです」

 

「そうか!デオドラ男爵の凱旋の話は聞いたぜ、凄い活躍だったらしいな!」

 

 バンバンと肩を叩かれる、痛くもないし友好的な態度と取れるだろう、イルメラ達も暖かい目で見ているのが恥ずかしい。

 

「今回の一番手柄はデオドラ男爵でしょう、僕は襲ってくる敵を倒しただけですし……では行って来ます」

 

 今回の僕の功績は一般には内緒だ、デオドラ男爵の功績の影に隠れて実利のみ貰った、それが冒険者ランクCへの昇格と討伐したモンスターの買取だ。

 ワイバーンとトロールが三匹ずつ、適正価格で売っても金貨千枚を越えるので十分だろう、因みにオークは討伐部位を切り取り残りはエムデン王国に献上する。

 

「おぅ!頑張れよ」

 

 騎士団員に見送られて魔法迷宮バンクの入口の前に立つ、入って直ぐにモンスターがポップしては堪らない。

 空間創造からカッカラを取り出して一回回して振り下ろす、シャラシャラと宝環が澄んだ金属音を奏でる。

 

「クリエイトゴーレム!」

 

 基本的に呪文詠唱は不要なのだが様式美としてカッカラを振り回し呪文を唱える。

 

 ロングソードとラウンドシールドを装備したゴーレムポーンを十体錬成する、四階層のボス部屋迄の編成は前衛六体と護衛四体で行く予定だ。

 

「それじゃ久し振りのバンクを攻略するよ」

 

「あっ、一寸待って……風の護りよ、我等を包み込みたまえ……」

 

 ウィンディアの詠唱と共に身体が軽くなる、風の護りの中級呪文だ。効果は身体的な力の底上げ、筋力・敏捷性・反射神経とかが少しだけアップする。

 

「有り難う、助かる。では改めてバンクを攻略するよ」

 

 力強く頷く女性陣を確認して魔法迷宮バンクに踏み込んだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 一階層から四階層まで地図を頼りに最短ルートで進む、既にゴブリンやコボルドでは障害にもならずドロップアイテムを献上してくれる存在でしかない。

 途中で数組も冒険者パーティと擦れ違うが挨拶だけして別れる、特に絡んではこない……バンク上層階を徘徊する連中が完全装備のゴーレムポーン十体を率いる僕等に手出しはしないだろう。

 因みに前回絡んで来た『ワイルドカード』の連中がウィンディアの事をゴーレム使いと勘違いして噂を広めたのか、「バンクには美少女ゴーレム使いがいる!」なんて噂が広まっている。

 

 いよいよ四階層に下りた、今までの素彫りの岩石剥き出しの壁ではなく日乾しレンガ風の壁に変わった。階段から真っ直ぐ伸びた廊下、左右に複数の扉が見える。

 

「いよいよ四階層、二回目の攻略だが真っ直ぐボス部屋に向かうよ。この階層からアンデットモンスターのゾンビがポップする、噛み付きや引っ掻きによる毒に注意してくれ」

 

 黴臭い空気、そうか夜の墓地の雰囲気なのか……

 

 指をパチンと鳴らして前衛六体のゴーレムポーンの武装を両手持ちアックスに変える、ゾンビは一撃で頭を潰すのが効果的だ。

 

「リーンハルト君、こっちだよ。突き当たりを左に曲がる」

 

「了解。ゴーレムポーン、警戒して進め」

 

 念の為に魔法の灯りを増やして周囲に浮かべる、前列はゴーレムポーン六体、中列は僕・エレさん・ウィンディア・イルメラの順、後列にゴーレムポーン四体の布陣だ。

 イルメラが最後尾なのは回復役を最後まで生き残らせる為、本来なら盗賊職であるエレさんを先頭にすべきかも知れない。

 だが前列のゴーレムポーンが居るので僕の後で道案内と周囲の警戒に専念して貰う。

 僕が前に居れば彼女も安心して周囲の警戒に専念出来るし、何より男の見栄も有る。

 ゴーレムポーンという前列の壁も有るしリーダーとして率先して前に出るのは当り前だろう。

 

「前方、魔素が集まってる!」

 

 エレさんの警告、前方15m位の床に淡い光が集まっている、実体化前に接近は間に合わない。

 自分の周囲に浮かべていた魔法の灯りを二つ飛ばす、ゾンビが四体が僕等を見付けてノロノロと近付いてくる。

 

「ゴーレムポーンよ、殺れ!」

 

 幸い動きが鈍いゾンビに素早く近付き大きく振りかぶった両手持ちアックスを脳天に振り下ろす。

 グシャっと嫌な音を立ててゾンビの胸までアックスの刃が届き、徐々に魔素となりゾンビは消滅した。

 

「接近に注意さえすれば大丈夫だな、問題無く倒せる」

 

「はい、ドロップアイテムの毒消しポーション」

 

 エレさんからドロップアイテムを受け取る、毒を持つゾンビが解毒薬を落とすとか効率が良いのかな?

 その後二回モンスターと戦いボス部屋の前に到着した、両方共にゾンビだったがレアアイテムはドロップしなかった。

 ゾンビはノーマルが毒消しポーションでレアがハイポーションだ、ポーション類はストックしたいので助かる。

 そう言えば四階層では他のパーティとは会わなかった……

 ボス部屋の扉は上層階と同じ、木製で金属の補強がされている、手前に引く片開扉だ。

 扉を開ける、ギギギと木の擦れる音がして中から冷たく黴臭い空気が流れている。

 

「未だ扉は閉めないで、先ずは灯りを……」

 

 ボス部屋の中に魔法の灯りを六個飛ばす、三階層のボスであるビッグボアが居た部屋と同じ位の広さだ。

 冒険者ギルドで買ったマップの情報によれば四階層のボスはコボルドリーダーで配下のコボルドを率いて攻めてくる、コボルドリーダーの他にコボルドが六匹で最大七匹。

 

「ゴーレムをポーンからナイトに変えるよ」

 

 ボス部屋に全員入るが扉はエレさんに押さえて貰いゴーレムポーンを魔素に還しツヴァイヘンダー装備のゴーレムナイトを同じく十体錬成する。

 前列七体を攻撃要員とし三体は護衛に回す。

 

「初めての四階層のボス戦を始めるよ。エレさん、扉を閉めてくれ!」

 

「ん、分かった」

 

 彼女が扉を閉めた瞬間、部屋の中央に急激に魔素が集まりだす。中央が大きく周りを囲む様に小さな塊が四つ……十秒程で実体化を終えた。

 不味い、コボルドリーダーを守る様に周りにロングボゥを構えたコボルドが配されている。

 コボルドリーダーが一声呻くと一斉にロングボゥが矢を放つ。

 

「リーンハルト様、危ない!」

 

 矢は全て僕に向かって放たれた、だがイルメラの防御魔法により弾かれる。

 コボルドリーダーは間違い無く僕がゴーレムを操作してるかパーティの要だと判断して先に倒そうとしたな。

 

「有り難う、イルメラ。ゴーレムナイトよ、突撃しろ!」

 

 彼女の神の奇跡である防御魔法の前には弓矢など意味は無い、自前の常時展開している魔法障壁が有るが彼女の配慮が嬉しい。

 やはり自分に向かって飛んで来るのは脅威だ、弓矢が障壁に当たり床に落ちるのを確認してゴーレムナイトを突撃させる。

 コボルドに一体ずつ、コボルドリーダーに三体向かわせたが接近戦ではゴーレムナイトが圧倒し簡単に敵を切り伏せた。

 

「しかし弓矢か……弓、ゴーレムにも弓を……」

 

 接近特化、集団戦を得意とする僕のゴーレムだがデオドラ男爵からも弓が使えるか聞かれた。やはり中遠距離攻撃手段を持つ事は必要だな。

 

「リーンハルト様、ドロップアイテムのダガーとスタンダガーです。あの、どうしましたか?」

 

 考えに耽る余り差し出されたダガーに気付かなかった、反省。

 

「ん?ああ済まない、また考えに耽ってしまった。ゴーレムの布陣を変えようと思うんだ」

 

「また何かトンでもない事を考えてるんでしょ?前の全錬金馬車にも驚かされたもん」

 

 もんって可愛く拗ねられても困るのだが……

 ゴーレムナイトを全て魔素に還し代わりにゴーレムポーンを二十体錬成、前の十体は片膝付かせて後の十体は立たせた状態でロングボゥを装備させる。

 腰に矢筒を付けて中には弓矢を二十本、矢じりは先端を細長く尖らせ貫通性を高めた所謂「射通す用」で矢羽は三枚にして矢を回転させ更に貫通性を高めた。

 普通のロングボゥは弦を引く力は80㎏前後だが人間より何倍も力の有るゴーレム専用として150㎏に増した、これにより威力は高まる。

 弓矢をつがえさせる、二十体のゴーレムポーンが二段で弓を構える姿は壮観だな……

 

「エレさん、扉を開けて外を確認して。誰も居なければ閉めてくれるかな?」

 

「ん、分かった」

 

 トコトコと扉に近付き細く開いて外の様子を確認する。

 

「誰も居ない、閉める」

 

 パタンと扉を閉めると前回同様に部屋の中央に魔素が集まり輝き出す。

 

「皆、ゴーレムの後に隠れてくれ……今だ、射て!」

 

 具現化した瞬間、コボルドリーダーと配下のコボルド四体に向かい二十本の矢が襲い掛かる。

 

「駄目だ、命中精度が悪い!二射目、構えろ……射て!」

 

 半自動制御とはいえ個別に敵を狙わせて射つのは難しい、一射目は二十本の内当たったのは十四本。

 コボルドリーダーを意識し過ぎて八本はリーダーに、残りの六本はコボルドにあたったが急所に当たったのは四本しかない。

 

 敵は即死せず二射目が必要になった……

 

 だが15m程の距離だと威力は申し分無い、コボルドの首に当たった矢など貫通してしまったし。

 

「凄い、凄いです、リーンハルト様!ゴーレムさんにロングボゥを使わせるなんて、他では聞いた事も無いです」

 

「まぁ現在は人型ゴーレムが廃れてるからね、人間と同じ武器を使うのは少ないだろうな。だが課題も多い、特に制御が難しく訓練が必要だ。

素早く複数の敵の何処に何発当てるか割り振りの判断と制御は慣れるしかないだろう」

 

 ウィンディアがドロップアイテムを拾ってくれた、ダガー一本にスタンダガーが二本、それとコボルドリーダーのレアドロップアイテムである銀の指輪だ。

 この指輪の効力は毒回避10%と微妙だが人気が有るので品薄で買取価格も金貨五枚と高額、理由は結婚を申し込む時に渡すと相手に喜ばれて成功率が上がるらしい。

 

「銀の指輪、ボスのレアドロップアイテムか」

 

 何故か女性陣が一斉に僕の持つ銀の指輪を凝視する。なる程、人気商品だから贈ると求婚の成功率が上がるんだな。

 

「欲しいの?」

 

「「「はい、欲しいです」」」

 

 何故か一斉に返事をして左手を差し出し期待の籠もった目で見詰めてくるが……もしかして僕に指輪を嵌めてくれって事なのか?

 

 


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