古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第143話

 エムデン王国聖騎士団を投入してのオーク討伐遠征を無事に終えて帰って来たが、何故か国王との謁見に付き合う事になった。

 デオドラ男爵のお供としてだが一介の貴族子弟が会える訳が無いのが国王だ、何か裏が有るのだろうか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 厳重な警備網を進み漸く王の間に辿り付き、現国王であるアウレール様に謁見する事が出来た。

 何故か全身鎧に身を包み手にはロングソードを持っているが、どう見ても魔力付加がされた業物だな。

 デオドラ男爵の手に入れたピュアスノウも相当の業物だが同等の力を感じる。

 身分が遥か上の者に話し掛ける事は無礼に当たるので、デオドラ男爵との会話を不動で聞いているが特に問題が有りそうな感じはしない。

 

「はっ!有難き幸せ」

 

 デオドラ男爵に報奨として一振りのロングソードが与えられ今回の謁見は終了、心配して損したかな?

 デオドラ男爵が立ち上がるのに合わせて自分も立ち上がり深く一礼する、これで終了緊張した……

 

「お前がデオドラ男爵の秘蔵っ子か、大分活躍したらしいな?」

 

 この気のゆるんだタイミングで、アウレール様から話し掛けられた。何か無作法が有れば直ぐに首が飛ぶ、仕方なく一礼をしてから答える。

 

「私はデオドラ男爵の策に従い、ただ露払いをしたのみで有ります」

 

 流石に僕とは言えず私と言ってしまった……失礼にならない程度にアウレール様を見詰める、偶に見るだけで不敬とか言う輩も居るらしい。

 

「ただの露払いとしてワイバーンやトロールを倒せるのは年齢を考えれば凄い事だぞ、幾つなのだ?」

 

 ある程度の報告は行っているのは間違い無い、年齢を聞いたのは答え易い質問をしてくれただけかな?

 

「今年で十四歳になりました、まだまだ未熟者で御座います」

 

「ふむ、十四歳か……随分と落ち着いてるな、鼓動が乱れないとはな」

 

 鼓動?心臓のか?おかしい、探査系の術やギフトを掛けられている心配は無い筈なのに呼吸や心音が知られたのは何故だ?

 

「内心ビクビクしています、僕程度の者がアウレール様にお声を掛けて頂けるとは感激です」

 

 感激とは真っ赤な嘘で本心は関わり合いになりたくなかったのだが、エムデン王国の国民としては無理な相談だ。

 チラ見したデオドラ男爵も心配そうで不思議そうだ、アウレール様が何故僕に余り意味の無い会話を振るのか分からないのだろう。

 

「ふむ、度胸も据ってるな、十四歳の魔術師か……俺の直属の一番若い騎士と手合わせしてみないか?」

 

「それは……」

 

 咄嗟に返事は出来ない、だが黙っているのも不味い、デオドラ男爵も苦い顔をしている。

 

「リーンハルトよ、受けろ」

 

 デオドラ男爵が小声で指示してくれたので、手合わせを受ける事に決めた。国王の提案を断れる訳など無いのだし……

 

「慎んでお受けいたします」

 

「そうか、では中庭にて行うか。誰かミュレージュを呼んで来い」

 

 国王自ら提案した手合わせ、相手の名前は聞いた事が無いのだがミュレージュと言ったな、女性っぽい名前だがどちらだ?

 直ぐに近衛騎士が近付いて来て中庭に連行されてしまった、事前にデオドラ男爵と打合せをしたかったのだけど全力で戦った方が良いのだろうか?

 

 案内された中庭は……庭園の様に庭木が整備されていて大きな池も有る相当費用を掛けて整備しているのが分かる。

 此処で手合わせして大丈夫なのか、それとも周囲の施設に気を遣いながら手合わせしろって事か?

 一応だが白い砂利だけを敷き詰めた広場は有るが30m四方しかない、派手な攻撃は周囲に多大な被害を具体的には破壊するだろうな……

 

「ミュレージュ・ド・ガルバンです、お見知り置きを」

 

「リーンハルト・フォン・バーレイです、宜しくお願いします」

 

 既に先方は広場の中心で待っていた、近衛騎士団の正式鎧兜を着込み手には槍を持っている。

 兜の面を下ろしているので顔は分からないが声は若く甲高い、感じからして二十歳前後だろうか?

 近衛騎士団は全員が貴族だが選定基準は聖騎士団よりも厳しいと聞いている、あの若さで入団してるとなれば相当な使い手。

 

「リーンハルト殿は土属性魔術師と伺っております、遠慮無く全力で手合わせをお願いします」

 

「胸を借りるつもりで全力でお相手します」

 

 上から目線とかでない自信に裏打ちされた言葉には重みが有る、手加減は出来ない、無様な負けはデオドラ男爵の面子を潰す事になる。

 改めてミュレージュ殿を観察する、身長180㎝身体付きは筋肉質だと窺える、得物は槍だが業物だろう。

 タイプ的には機動力重視と見た、互いの距離は15mしかなく既にミュレージュ殿の攻撃範囲だろう、アレは一足飛びに間合いに飛び込んで来る。

 だが庭園の広場は30m四方しかなく逃げ場は少ない、積極的に攻めるしか無いか……

 

 空間創造からカッカラを取出しクルリと回す、先端に束ねた宝環が金属特有の甲高い音を鳴らす。

 

「近衛騎士団が末席、ミュレージュ参る!」

 

「土属性魔術師の真髄を見せて差し上げます!」

 

 互いに始めの合図を待たずに仕掛ける、ミュレージュ殿は真っ直ぐ突っ込んで来るが尋常無く早い。

 

「魔法障壁よ!」

 

 全力の魔法障壁を展開し更に魔力を注ぎ込んで強度を増す、殆ど全力の魔法障壁が押されている。一点突破は魔法障壁の弱点でも有るのだ。

 

「早い、そして強い……ならば、山嵐!」

 

 ミュレージュ殿の足元から大量の刃先を丸めた青銅製の槍を生やす、慌てず後ろに跳ぶが着地地点にも大量の槍を生やすが槍を一閃し刃先を切り落とす。

 距離が15mと元に戻ったが未だ足りない。

 

「アイアンランス!」

 

 自分の周囲に二十本の鋼鉄製のランスを錬成、相手の手足を狙い一気に撃ち出す!

 真っ直ぐにしか飛ばせないが彼の手足を狙う他は5mの範囲で万遍無く打ち込んだ、動きを封じるのが目的だ。

 だが槍を使って三本打ち落とし残りは体術で躱された。

 

「中々やりますね、しかも手加減までするとは甘く見ていました。今度は此方から行きます……ハッ!」

 

 槍を投げた、確かに投擲も出来る武器だが数少ない武器を手放すとは!

 

 真横に跳ぶ事で何とか避けるが相手から目を離す、避けたと思った瞬間に全身に悪寒が走る、ヤバい。

 

「つ、土壁よ!」

 

 真下に土壁を錬成し自分自身を持ち上げる、5m程持ち上がった瞬間に土壁が砕け散った。

 身体を勢いに任せて空中を飛んでいると先程まで自分が居た場所にクレーターが出来ている、ミュレージュ殿が腰のロングソードを地面に叩き付けていた。

 

「何て破壊力、だが動きが止まった今ならば……クリエイトゴーレム、ゴーレムポーンよ囲め、円殺陣!」

 

 ミュレージュ殿を中心に内側に十体、外側に二十体の槍装備のゴーレムポーンを錬成する。

 落下の衝撃に備えて着地し転がって衝撃を分散、身体を起こしてミュレージュ殿を見れば内側のゴーレムは切り裂かれ外側のゴーレムポーンが順次攻め込んで居る、半自動制御様々だ。

 一息つけたのが嬉しい、息を整えて次の手を考える、あくまでも国王の御前で相手は近衛騎士団員、卑怯と突っ込まれる様な真似は出来ない、あくまでも正々堂々と負けなくてはならない。

 そう、無様な負けじゃない出来れば引分け、駄目なら僅差での負けだ。

 

 ミュレージュ殿は着実にゴーレムポーンを倒している、既に内側は全滅し外側の連中も全て内側に入った。

 倒されたゴーレムの補修はしない、壊れた端から魔素に還している。

 

「これで最後だ!」

 

 何時の間にか投擲した筈の槍を持っていて最後のゴーレムポーンの胸板を突き刺す、そのタイミングで自分の前にゴーレムポーンを三十体錬成する。

 僕の十八番、横に十体縦に三列、先頭はラウンドシールド、二列目はランス、三列目はロングソードとラウンドシールドを装備の突撃陣。

 ゴーレムナイトを使わないのは切り札全てを見せる気は無いから……

 

「いえ、未だです。もう少しお付き合い願います」

 

「このタイミングで仕切り直して突撃陣か……これで最後にしよう、既に手合わせの範疇を超えている」

 

 互いに呼吸を整える、流石のミュレージュ殿も呼吸が少し乱れている……少しなのが悲しい。

 

「改めて言うが凄いな、リーンハルト殿は。ゴーレムがこんなに手強いとは思わなかった」

 

「未だです、未だ全然ゴーレム運用に納得していません。

僕の求めるゴーレム運用は未だ遥か先に有るのです、命有る内に辿り付く予定ですが……では、参ります」

 

 カッカラを振り下ろす、三十体の青銅の暴力がミュレージュ殿に突撃する。

 

「我が剣の道も同じ、リーンハルト殿も私と同じ探求者なのですね。我が友と呼ばせて頂きたい、ですが負けません!」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 結果的に判定に持ち込んだ、三十体のゴーレムポーンの半数は壊されたがミュレージュ殿が一旦後ろに引いたタイミングでアウレール様から引分けの判定を頂いた。

 互いに消耗戦に突入する一歩手前だったので納得の引分け、ミュレージュ殿はレディセンス様以上デオドラ男爵以下の強さと見た。

 だが投擲したのに手元に戻る槍や溜めが少ないのに威力の強い技を使うなど少し秘密が有りそうだ。

 

 両手を叩いて二人を誉めてくれたアウレール様が僕にだけ褒美をくれた。

 

 鑑定したら『月桂樹の杖』という消費魔力が一割減という結構価値の有るマジックアイテムだ。

 

 実は類似のマジックアイテムは幾つか持っている、これはウィンディアに装備させると効果が高いだろう。

 彼女のギフトである『消費魔力軽減』と合わせれば力の底上げには十分だ。

 ミュレージュ殿とはその場で別れたが最後に握手をして友好を深めた、初めて見た素顔は若く相当整っており社交界で噂にならないのが不思議な位だ。

 近衛騎士団とは身分確かな貴族しか入団出来ないエリート集団なのだから……

 帰りの馬車の中は暫く無言だった、デオドラ男爵も僕も考える事が多過ぎて中々言葉に出来なかった。

 

「リーンハルト殿、引分けを狙ったな?」

 

 流石に何度も模擬戦をしたからか、手加減はしてないが引分け狙いがバレていたか。

 

「はい、相手は近衛騎士団員でしたから勝つのは御法度、出来れば引分け、最悪は僅差の負けを狙いました」

 

「正解だ、ゴーレムナイトを見せなかったのも良かった。

ミュレージュ殿はアウレール様の八男、王位継承権第六位、今年成人した十五歳だ。俺もアレだけの武力が有るとは知らなかった」

 

 デオドラ男爵程の地位と影響力を持っていても知らされてない王族の秘密、コレは良くないパターンか?

 

「王族、王位継承権第六位は微妙な位置ですね。ですが我が子可愛さに僕と引き合わせたは穿ち過ぎでしょうか?」

 

「そうだな、アンドレアル殿辺りから若く有望な魔術師が居ると聞いて後の配下候補として手合わせさせたか?

有りそうな話だが、アウレール様は既に後継者を指名している。長男のグーデリアル様は文武に秀でた方だ、覆る事は無いだろう」

 

 グーデリアル様の話は僕も知っている、既に政務に参加し結果も出している方だ。

 現王アウレール様は未だ四十半ば、心身共に健全で王位継承は十年以上先になると思う。

 

「単に歳が近いから?周囲の御披露目を兼ねて?それとも側近候補として?あの手合わせは無意味な訳が無いでしょう」

 

「そうだな、着いたぞ。今日は模擬戦を勘弁してやる、ゆっくり休め。明日また屋敷に来い、今後の打合せをしよう」

 

 気付いたら僕の家の前だった、長く話し込んでしまったらしい。

 

「午後一番に伺います、有難う御座いました」

 

 馬車を降りて一礼する、軽く手を上げる事で返事を返してくれた。

 

「「お帰りなさい、リーンハルト様(君)」」

 

 振り替えればイルメラとウィンディアがメイド服姿で玄関前に並んで居た。

 

「ただいま、二人共。変わりは無さそうだね」

 

 ああ、漸く帰って来たと実感した。

 

「土産話は沢山有るよ、先ずはお茶を頂こうかな?」

 左右から腕に抱き付く彼女達を促して我が家に入る、彼女達の笑顔を見て思い知らされるとは僕は相当参っているのだろうな……

 


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