古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第140話

 ザルツ地方を騒がせたオークの異常繁殖による被害の原因を掴み、その発生源を潰した。

 旧コトプス帝国の残党共が企てたエムデン王国の国力を削ぐ非道な行い、だが関係者を捕縛し本拠地も潰した。

 後は残党共を匿っているウルム王国に対し外交を持って交渉、残党共を追い詰めて行く事になる。

 今回の件の事後処理は聖騎士団ライル団長率いる討伐遠征本隊、デオドラ男爵率いる討伐隊、そしてニーレンス公爵が派遣した討伐隊の手柄の分配、エムデン王国の国王に報告する為に話を纏めなければならない。

 

 問題は……デオドラ男爵率いる討伐隊が殆ど達成してしまった事による他の連中への配慮だった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 急遽しつらえた天幕の中で話し合う四人、此処での話し合いの結果が今後の方針となる大切な協議だ。

 

「俺の率いる討伐遠征本隊は、それなりの数のオーク共を倒し襲われた街や村の復興支援を行った。

その意味では討伐遠征は成功だ、騎士団員の子弟の顔見せも無事に行えたからな、リーンハルト殿の弟も……それなりに活躍したぞ」

 

「そうですか、インゴが……」

 

 それなりにとはいえ騎士団団長が活躍を認めてくれたのだ、父上の後継者として周りも認知したと同じ時だ。

 良かったな、本当に良かったなインゴ。

 

「バーレイ男爵家も安泰という事だな、俺の方は手柄を独り占めみたいなモンだな。

敵の殲滅とビーストティマーの捕縛こそリーンハルト殿に任せたが、俺は敵の本拠地の制圧に関係者の捕縛、人質の解放だな」

 

 華々しい成果だが言ってる本人は渋い顔だ、僕への配慮など不要なのに……

 

「僕はデオドラ男爵の策に従い露払いをしただけです」

 

「そういう言い方はするな、今のお前は冒険者ランクD、これだけの大成果を上げてしまっては周りから色々言われるだろう。

だが今回の討伐部位証明と諸々でランクCになれる、冒険者ギルドもお前の擁護に本腰を入れられる、だから今回は俺の影に隠れる訳だな」

 

 そう、今の僕は期待の新人ってだけのランクD、殆ど周りへの影響力は無い。

 当初目的のランクCになれば、ある程度の力を持ち冒険者ギルドも表立って力を貸してくれる。

 

「十四歳の餓鬼が敵戦力の殆どを殲滅じゃデオドラ男爵の手柄が霞む、良く周りを見てるのは感心だが、それを素直に受け取るほど俺達は恥知らずじゃない。

別の形で報いるから拒むなよ」

 

「そうだぞ、俺からも個人的に褒美を出すから拒むなよ」

 

 ライル団長とデオドラ男爵が揃ってプレッシャーを与えてくるが、モンスターの素材販売だけで利益は金貨千枚以上だしギルドポイントも貰える。

 僕としては十分に黒字なのだが、断るのは非礼に当たるよな?

 

「有り難う御座います、慎んでお受け致します」

 

 そう言って深く頭を下げる、これでランクCになれる、下手な下級貴族からなら無理難題も突っ跳ねる事が出来る。

 

「あとオーク共の死体は買い取らせて貰うぞ、国民には分かりやすい成果を見せる必要が有るからな。

本体の討伐を合わせても四百匹以上だ、十分にインパクトが有る。死体は素材として売却し復興支援の足しにする、分かりやすいだろ?」

 

 僕は討伐部位証明だけ貰えれば良い、元々オーク共の死体を空間創造に収納したのは放置してオーク共の餌になったり他の飢えたモンスターを呼び寄せるのが嫌だったんだ。

オークは討伐には金貨一枚貰えるが死体は素材としても銀貨六枚だから……

 

「オークの討伐部位証明である鼻だけ頂ければ死体はお譲りします、復興支援に役立てて下さい」

 

「ふむ、では王都に着いたら連絡する、多分だが大通り広場に積んで貰う事になるだろう。そこで今回の成果を国民に大々的に発表だな、デオドラ男爵の名声がまた上がるな」

 

「俺は面倒臭いのは嫌だぞ、だが民意高揚はやらねば駄目か……」

 

 被害甚大だった今回のオーク異常繁殖を解決し復興支援をする事を国民に伝える、国民は国王が自分達の安全を守り復興を支援する事を知り国に忠誠を誓う、施政者として必要な事だな……

 

「あーすまないが俺の事を忘れないで欲しいのだが……」

 

 空気だったレディセンス様が申し訳なさそうに会話に割り込んで来た、この人も最後のオーク三十匹位を倒したんだよな。

 武力だけでも冒険者ランクに換算すればC以上は有るだろう、今回の討伐遠征で合計百匹近くオークを倒しているのだから何かしらの恩賞が欲しいよね。

 

「ニーレンス公爵の弟殿の件だな、仮にも領主の兄弟が敵に捕らえられて色々と便宜を図る事を強要される原因となったのだ。普通なら厳罰ものだが……」

 

「レディセンス殿にも功績は有る、だが相殺は出来ない、王都に帰ってから協議だろうな」

 

 この話題に僕は入れない、派閥絡み利権絡みの揉め事だからな、レディセンス様としては自分の叔父を何とか助けたいんだろうけど……

 

「分かった、親父には伝令を走らせる。後の交渉は親父に任せる事にする。問答無用で処罰でなく少なくとも弁解の場を与えられたんだ、悪くはないさ」

 

 割とサバサバした感じのレディセンス様を見て彼なりに成果を上げられたのだと感じた、納得出来る範囲の結果だったんだな。

 だがあの我が儘一杯の人物を助けるのに見合う価値が……いや、家族の問題に口を挟む事は無粋だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 天幕を出ると父上とインゴが待っていた、二人とも見た感じ怪我は無いが深い疲労が見て取れた。

 出発時はピカピカに輝いていた鎧兜は傷付き汚れているし父上は無精髭が目立つ、インゴには未だ髭は生えないな。

 だが初めての遠征を徒歩でだから相当疲れたんだな、少しよろけている。

 

「父上、インゴ、無事で何よりです!」

 

 年相応に見える様に明るめに声を掛ける、ライル団長やデオドラ男爵も近くにいるので少し恥ずかしい。

 

「おお、リーンハルト!聞いたぞ、お前の活躍は」

 

「兄上も無事でなによりです」

 

 父上は僕の肩を叩きインゴは腰に抱き付いて来た、久し振りの家族との再会にライル団長達は優しい笑みを向けて直ぐに場を離れてくれる。

 横目でデオドラ男爵を見れば軽く手を上げてくれる、家族の団欒を楽しんで良いって事かな?

 今夜は此処で野営して明日の朝にエムデン王国の王都に帰る、僕等は馬で帰るが父上達は混成部隊だから速度に差が出る、此処で別れたら王都には五日位は後になるだろう。

 

「リーンハルトよ、今夜は俺の天幕に来い。積もる話も有る、ライル団長にも許可は貰っている」

 

「有り難う御座います、インゴも頑張ったみたいだな。ライル団長も褒めていたよ」

 

 久し振りに抱き締めた弟は少し痩せて少し筋肉が付いて来たみたいだ。

 ライル団長も顔見せは成功と言った、騎士団団長のお墨付きを得たインゴは、晴れてバーレイ男爵家の後継者となった。

 

「全然駄目です、僕には戦いは……」

 

 弱音を吐かせる前に両手でインゴの頭を胸に抱き寄せる、幸い周りは家族の団欒を邪魔しない様に距離を置いている。

 端から見れば抱き合う僕等は美しい兄弟愛だろう、共にオーク討伐遠征に参加し目的を達した後に再会して互いの無事を確かめ合う……

 

「父上、場所を変えましょう。インゴ、焼き菓子や果汁水が有るよ、頑張ったご褒美だぞ」

 

 僕の言葉に嬉しそうに目を輝かせて早く天幕に行こうとはしゃぐ、未だ十二歳だし母親に甘えたい年頃だからな。

 父上が僕等の肩を抱き寄せながら先を促す、今は親子水入らずだから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 エムデン王国聖騎士団副団長たる父上の天幕は立派だ、大人三人なら十分に横になれる。

 インゴは支給された食事の他に僕の渡した焼き菓子と果汁水を平らげて、既に毛布に包まり軽い鼾をかいている、余程疲れたのだろう。

 

「大まかな所は聞いている、親としてお前の成長を嬉しく想うぞ」

 

 円卓に向かい合って座っているのだが、手を伸ばして頭を撫でてくれる、正直擽ったくって恥ずかしい。

 

「父上もご無事で……インゴはオークとは上手く戦えましたか?」

 

 一番の心配事を聞いてみる、先程の弱音は騎士団員になろうとしてるならマズい、戦う事を否定しては騎士にはなれない。

 父上は木椀に注がれたワインを飲み干す、流石にガラス製のワイングラスは持ち運べない。

 ワインも小型の木樽だが僕は空間創造から一本銀貨五枚のワインを取り出して父上の木椀に注ぐ。

 

「インゴは……俺の後ろで戦いに参加はした。だがロングソードを敵に向けたが使ってはいない、逃げ出さなかったがな」

 

 苦々しい顔だ、インゴは性格的に戦いには向いてないとは思っていたが、まさか敵に一度も攻撃しなかったとは……

 自分の木椀のワインを煽る、どうするか何も思いつかない。

 敵に攻撃する事を躊躇する、人として生物を傷付ける事を躊躇う事は良い事だが……騎士としては致命的だ。

 

「そうですか、確かにインゴは戦いには向いていない優しい子ですが……」

 

「俺の後継者なら少なくともオーク位は一人で倒す程度の力は欲しい、騎士団員の最低条件だ」

 

 正規騎士団員は全員が最低でもレベル20以上、単独でオークと互角に渡り合える力を持っている。

 そして騎士団員には国への忠誠心や騎士道は当然だが、剣や槍の技量と敵に立ち向かう勇気が絶対に必要なのだ。

 

 残念ながら今のインゴには無い物が多い……

 

「インゴが成人するまで二年以上有ります、徐々に教えて行きましょう。

インゴは優し過ぎる、でも貴族の家に生まれ家督を継ぐなら誰もが通る道です。僕はインゴを信じてます」

 

「俺も二人の息子を信じてるさ、お前は本当に一人前になったな。帰ったら家に遊びに来い、エルナが待っているぞ、どうしてもお茶会を催したいそうだ」

 

 父親が息子の側室や妾候補が参加するお茶会をニヤニヤしながら誘うのはどうなんですか?

 

「エルナ様にも言いましたが僕には未だ早いです」

 

「来年成人だろ?既に冒険者としては一人前で、今回の成果でランクCは確実だろう。

立派に自分の家族を支えていける、エルナも色々と考えて参加者を募ってるのだ。

貴族の次女以降だけでなく商家の娘とか、お前が成人し独立した時に役立つコネを持つ娘達とかな、俺も家に来た時に会ったが皆器量よしだ。

アレを悲しませたら俺は本気で怒るぞ」

 

 参加者を募るとか本気で怒るとか、惚気を滲ませて夫婦でナニをやってるんですか!

 ん?俺も家に来た時に会った?既に側室や妾候補の女性が実家に出入りしているの?逃げ道が塞がれてないだろうか?

 

「お茶会は参加しますが結婚も側室や妾を迎えるつもりは今は有りません。本当に会うだけです、いくら冒険者ランクCと言っても未だ力不足なのは理解しました」

 

 未だ駄目だ、もっと力を付けなければ自由にはなれない。僕の第二の人生は未だ前途多難なんだよな。

 

 その後は父上と他愛ない話をして直ぐに床に就いた、家族と共に久し振りに安心して寝る事が出来た……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌日、早朝から準備を始め八時には野営地を出発する事が出来た。

 天気は生憎の雨模様だがグレッグさんが行きに乗っていた馬を用意してくれた、この子達は何処に居たのだろうか?

 デオドラ男爵に同行する時は全身鎧を着る事になる、羽織ったサーコートには撥水性があるので雨具として使える。

 未だ肌寒い時期なので小まめに休憩を取り身体を暖めないと風邪をひきそうだ……

 

「久し振りの家族団欒はどうだった?お前が年頃の少年らしく振る舞うのを見て違和感で鳥肌が立ったぞ」

 

「弟のインゴとは未だ少し距離が有りますが近状報告とかですかね?父上とは話が弾みましたが、内容は……いえ、これから大変だなぁと……」

 

「お前の活躍に群がる女共が多いって話か?ジゼルがバーレイ男爵夫人と色々動いてるらしいな、人気者は辛いな」

 

 フルスイングで肩を叩かれ甲高い金属音が鳴り響く、少しは遠慮して欲しいのだが……

 

「会うだけ会ってお茶を濁します、今の僕には女性に構う余裕は無いのです」

 

 いや本当に女性関係は勘弁して下さい。

 


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