古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第14話

 『静寂の鐘』メンバーのリプリーと他愛ない話をしていたら魔法迷宮バンクに到着した。

 今日は彼等のお陰で煩い勧誘に悩まされなくてすんだ事には感謝だ。彼等も迷宮内までは同行するつもりはないみたいで先に迷宮に入っていった。

 バンクの五階層まで潜れる彼等にとって一階層でボス狩りをしている僕等に同行する意味は無いからね。

 漸く二人になれた事が嬉しいのか、イルメラに表情が戻った。

 

「リーンハルト様、『静寂の鐘』のメンバーとは懇意になさるのですか?」

 

「敵対する必要は無いがパーティには入る気も入れる気も無いな、クリエイトゴーレム!」

 

 迷宮に入る前に四体の青銅製ゴーレムを召喚する、迷宮に入って即戦闘の可能性も0じゃないから用心に越した事はない。

 周囲の魔素が集まり濃度を濃くしてゴーレムへと変貌していく、この間約10秒掛かるので短縮が目標だ。

 見世物じゃないのだが、僕がゴーレムを召喚すると周りから視線が集中する。両手持ちアックス装備の三体、ロングソードとラウンドシールドを装備した一体を召喚した。

 最初よりも魔力も制御も上がった為にゴーレムの性能も二割増し装飾も五割増しだ。

 一番最初はノッペリした飾りの無い鎧兜だったが、今回は下級騎士くらいのグレードになっている。

 

「「「おお!面白いな!」」」

 

「見世物じゃないぞ!」

 

 周りから拍手が贈られるが見世物じゃないっての!そのままゴーレム達を先頭にして迷宮の中に入って行く……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 迷宮の中は構造や理屈は分からないが常に一定の温度と湿度を保っている。大体20℃前後で過ごし易い環境だが、過酷な環境の迷宮もある。

 灼熱とか極寒とか迷惑極まりないが、その迷宮に合った属性のモンスターやマジックアイテムがドロップするので需要は高い。

 それに該当の迷宮のドロップアイテムの中に耐熱や耐寒のマジックアイテムが有るので、お金を稼いで買ってから迷宮探索を始めるのが普通だ。

 魔法迷宮バンクに入って5m進んだ時に前方の床に魔素が集まり輝きだした!

 

「ゴーレムよ、三体は攻撃、一体は僕等を守れ。……今だ、攻撃開始!」

 

 魔素が混ざり合いゴブリンの形になった時にゴーレムに攻撃の指示を出す。半自律型のゴーレムは生まれたばかりのゴブリン四体に向かい果敢に攻撃を加える。

 両手持ちアックスの一撃で頭を潰されたゴブリンが魔素に還る、迷宮内でモンスターを倒すと生々しい血や肉片は飛び散らないのが救いか……

 ゴブリンが倒れて床にはドロップアイテムが転がっている。

 ポーションとハイポーションが一個ずつだ。

 

「坊主、幸先良いじゃねえか?レアドロップが手に入るなんてよ」

 

「本当だな、ゴブリンたおしてハイポーションなんて俺達は週に一回くらいだぜ」

 

 入口の前での戦闘だったので順番待ちのパーティに戦いを見られてしまったか……

 ゴーレムは構わないがレアドロップアイテム確率UPのギフト(祝福)は知られたくはない。

 

「ええ、嬉しいですね、でもギルドで買ったマップの情報だとドロップ率は3%だから30匹倒せば一個は手に入りませんか?

僕等も昨日ゴブリン狩りして60匹以上倒して二個手に入れましたよ」

 

「あー、統計した確率とか書いてあったな。案外当てになるんだな、じゃ頑張れよ」

 

 僕の肩を軽く叩いたつもりなのだろうが、二歩程よろめいてしまったし叩かれた場所がジンジンと痛い。

 髭モジャで筋骨隆々な中年戦士がモーニングスターを担ぎながら奥へと進んでいくのを見送る、後ろに続く連中も暑苦しい筋肉の塊連中だ。

 

「うん、肉弾戦が大好きって連中だが強そうだな。

あの全金属製のモーニングスターは10㎏以上は有るだろうに軽々と持ち上げてたしな……」

 

 僕の青銅製ゴーレムでも一撃でペシャンコだぞ。下層階を攻略する連中って今の僕等じゃ逆立ちしても勝てない。

 

「さて、ボス狩りを続けてドロップアイテムの検証をしようか!」

 

「はい、リーンハルト様。お供致します」

 

 僕等はマップを頼りにボス部屋に向かい61回目のボス狩りを始めた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「一旦休憩にしましょう。そろそろ集中力が切れ始めてますよ?」

 

「そうだね、95回目か……数えるのも面倒になってきたな」

 

 午前中で倒したウッドゴーレムは35体、ドロップアイテムは木の盾が8個に木の腕輪が同じく8個、それに木の指輪が3個だ。レアアイテムが順調にドロップしている。

 昼食を食べる為に机と椅子を出す。

 手際良く料理を並べるイルメラを見ながら、何時の段階でハンバーガーを丸噛りすると言うかタイミングを計る。

 

「リーンハルト様、紅茶には砂糖を幾つ入れますか?」

 

「ん、三つ頼む」

 

 今日は冷やした紅茶を用意した。体を動かした後だから熱いお茶は飲み辛いと彼女の気配りだ。

 グラスに砂糖を三杯いれてタンブラーで丁寧に掻き混ぜてくれる。

 

「はい、ではハンバーガーを切り分けますね」

 

「ちょ、ちょっと待ったー!」

 

 包丁を持った彼女の右手首を押さえて首を振る。

 

「今日は豪快にナイトバーガーを噛りたいんだ!」

 

 きょとんと僕を見るが納得したのか、ハンバーガーを切らずに皿に乗せてくれた。

 

「リーンハルト様も子供らしいところがあるんですね? 手掴みで食べたいだなんて……」

 

 クスクスと笑われてしまったが、構わずにハンバーガーに噛り付く!

 モフモフと口一杯に広がる肉汁と生野菜の旨味と香辛料の刺激が食欲を増進する。

 

「はい、口の端から肉汁が零れてますよ」

 

 しっかりしているようでも、まだまだ子供らしいところもあるんですね……とかしみじみと言われて口元をナプキンで拭かれてしまったが、久し振りのナイトバーガーは凄く旨かった!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 英気を養いボス部屋の外へ出る、例の武器庫より人気が無いのか誰も居ない。

 

「さて、午後も頑張ろう。目標は130回目までだ」

 

「あと35回ですか?頑張り過ぎですよ、途中で休憩を入れましょう。冷やした果物を用意してますから」

 

 僕が昨夜頼まれて凍らせたオレンジだな?イルメラが皮を剥いて房分けしたオレンジを凍らせたんだ。

 噛むと果肉が溶けだして旨いんだよね。

 

「む、分かった。後25回倒したら休憩しよう」

 

 話が決まったのでボス部屋の中に入る。

 部屋の中央に描かれた魔法陣が輝き出し、魔素が溢れてウッドゴーレムの形を形成する。

 

「ゴーレムよ、敵を押し込め!」

 

 僕の命令に具現化したばかりのウッドゴーレムに四体のゴーレムが群がり壁際まで押し込んでいく。

 そのまま二体がウッドゴーレムを壁に押し付けて、残りの二体が両手持ちアックスで切り倒していく。

 パターン化した虐殺にも似た作業は5分と掛からずに終わった……

 

「木の腕輪です、大分溜まりましたね。やはりリーンハルト様のギフト(祝福)はレアドロップアイテムの確率を30%くらいに引き上げているのかしら?」

 

 小走りに木の腕輪を拾いに行って僕に渡してくれる。

 

「100回目で集計してみれば分かるだろ。検証する回数も100回なら信憑性が有るよ」

 

 あと4回で通算100回目だから、一旦ドロップ確率の集計をするか。

 そしてウッドゴーレム通算100回目にして集計は、木の指輪10個、木の腕輪17個、木の盾26個。

 木の指輪を抜かせば90回の内ドロップ43回か、やはりレアアイテムドロップ確率は20%UP位か……

 

「はい、イルメラが木の指輪を10個装備するんだ。回復役が最後まで生き残れば、僕も必然的に助かる訳だからね」

 

 木の指輪を全てイルメラに装備させる。

 ダメージ30%減は大きなメリットで回復役が生き残ればパーティの生還率は高まる。彼女はゴネたが強引に木の指輪を装備させる。

 

「では残りのノルマは30回、二時間半で終わるかな?」

 

「そうですね、でも途中で休憩を入れますからね!」

 

 ヤンチャな弟を嗜めるように言われてしまったが、まぁ仕方ないか……しかしレベルが上がらなくなったな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 漸く130回目のボス狩りを達成した。ドロップアイテムも木の指輪が13個、木の腕輪が27個、木の盾が35個か。

今日だけで木の腕輪が19と木の盾が21個の稼ぎだ。あとポーションが6個にハイポーションも6個、十分だな。

 

「レベルは一つしか上がらず13ですね。私は上がらずに26のまま……リーンハルト様、二階層に降りてみますか?」

 

 もうウッドゴーレムを狩る旨味はドロップアイテムのみで経験値は少ないのかも知れないな、だが当初予定を変える必要は無い。

 

「いや、木の指輪を20個集めるまでは二階層には降りないよ。大丈夫、予定以上に成長してるし稼ぎもある。

明日もボス狩りだ!」

 

 ボス部屋から真っ直ぐ迷宮の出口へと向かったが、ゴブリンには会わなかった。何時もの手順で先ずは管理小屋に顔を出して迷宮から出る手続きを行う。

 管理小屋から出ると豪華な馬車を見付けたが……デクスター騎士団の送迎馬車だった。馬車の前で何やら言い争いをしているが、ギルドから派遣された連中に馬鹿貴族様が噛み付いてるみたいだな。

 うん、飛び火する前にギルド出張所に行くか。

 冷めた目で言い争うデクスター騎士団を見詰めるイルメラの手を握り引っ張っていく。

 

「あら?お熱いわね、お二人さん」

 

 妙に粘つく視線を向けられた、アレは宮廷のメイドが他人の恋愛事の噂話をしてる時と同じだ。

 

「はいはい、ギルドカードの更新をお願いしますね」

 

 何故か嬉しそうな受付嬢に僕とイルメラのギルドカードを渡す。

 無言でカードの更新手続きをしていたが、渡す時に優しく微笑んで「レベルアップおめでとう」と言ってくれたので気持ち悪い笑みの女の称号は取り下げる事にする。

 

 続いて買取カウンターに向かうが、昨日と同じ中年の職員だった。

 先客が居たので暫く待ってから様子を見てカウンターに近付く。

 

「すみません、買取をお願いします」

 

「はい、では今の内にレアドロップアイテムからお願いします」

 

 前回同様見られては困るレアドロップアイテムをカウンターの上に並べていく。ハイポーション6個と木の腕輪が19個だ。

 直ぐに数えてカウンターの下にしまう。その後に今度は普通のドロップを並べる。

 ポーション6個に木の盾が21個、これが今日の成果だ。

 

「今日も凄いですね……

先ずポーションは買取価格が1個銅貨5枚で6個ですから銀貨3枚。

ハイポーションは買取価格が1個銀貨5枚で6個ですから金貨3枚。

木の盾は買取価格が銀貨5枚で21個ですから金貨10枚と銀貨5枚。

木の腕輪は買取価格が金貨1枚銀貨5枚で19個ですから金貨28枚と銀貨5枚。

合計で金貨42枚と銀貨3枚になります、お確かめ下さい」

 

 カウンターの上に硬貨を並べてくれるのを確認して空間創造の中にしまう。悪くない稼ぎだが経験値がイマイチになってきたな。

 ギルド職員に礼を言って出張所から出る。

 外へ出ると未だデクスター騎士団が言い争っているな。専ら男二人が何かを騒いでいて赤髪の女性と魔術師の女性は困惑気味に顔をしかめて近くで立ち尽くしている。

 やはり彼女は嫌々デクスター騎士団と行動を共にしているのか?

 何て言うかグリム子爵の息子が騒いでるんだけど、言われているギルド派遣の二人は我関せずみたいに聞き流しているぞ。

 

「ふざけるな!我々は既に貴様等よりも強いのだ。父上から言われているから我慢したが、もう明日からは必要ない。

我等デクスター騎士団だけで大丈夫だ!」

 

「そうか?言い出したのは其方だからな。

契約は満了、もう俺達は『デクスター騎士団』と一緒に迷宮探索はしない。良いな?」

 

「勿論だ!何が未だ早いだ、力が足りないだ!もう貴様等など不要だ、腰抜け共が!

全く平民はこれだから始末が悪いわ……帰るぞ」

 

 なにやら一方的に騒いで豪華な馬車に乗り込むと行ってしまった。

 

「リーンハルト様、つまりギルド派遣の方々から未熟を指摘されてキレて、『デクスター騎士団』とやらの男共は明日からは危険な迷宮にギルド派遣の子守り無しの女性を含む四人で攻略をするって事ですね?」

 

 イルメラの的確過ぎる指摘に遠巻きに眺めていた連中が一斉に頷いた。

 あの清々しい顔で『デクスター騎士団』と縁が切れて喜んでいるのは迷宮内で出会った二人とは違うな、日によって違う子守りが付いていたのか?

 兎に角、明日からの迷宮探索は気を付けないと、お守りの居ない奴等に出会うと絡まれるかも知れないな。

 それと赤髪の彼女の事が心配だな、いくら初級とは言え魔法迷宮を甘く見ると死に直結するぞ。


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