古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第138話

 目の前で起こった事が信じられない、あのデオドラ男爵の戦いを直に見た時と同じ位に興奮した。

 彼の『剣撃突破』も雑兵が百人単位で吹き飛んでいたが、奴の『リトルキングダム』もブッ飛んだゴーレム運用方法だ。

 前にゴーレムを踏み台にして飛び掛かる事が出来るとは聞いた、だが今回は何もない上空に瞬時にゴーレムを錬成し落下させる初めて見る戦法だ。

 確か『雷雨』と言っていたが、どちらかと言えば隕石とかじゃないか?

 鉄の塊のゴーレムが地上に落ちる音は落雷みたいだがな。

 

 高い城壁も頑丈な門も意味が無い、攻城戦で使用されたら内部に自動で暴れ回るゴーレム共が空から降ってくる、守る側からすればトンでもない悪夢だ。

 コイツはエムデン王国に縛り付ける必要が有るかもな、他国に亡命されたら国防に問題が発生するレベルだ。

 絶対的な脅威ではないが防げるなら防ぎたいと思うぞ、国防を司る奴等は頭を抱えるが味方ならば便利な奴だろう。

 

 この隣で真面目な顔で敵を睨み付けるハードな人生を送る少年を見る、苦労は人を成長させる良い例なのかもしれん。

 

「レディセンス様、何か?」

 

 敵対派閥の俺達なんか放っておけば良いのに何だかんだと律儀に気を遣うよな、コイツはさ。

 だからメディアの嬢ちゃんも引き抜きを諦めたんだろう、恩には恩を幾ら立場は上とはいっても人を動かすならば信賞必罰は必要だ。

 それに女としては嬉しいシチュエーションだったそうだし、嬢ちゃんも策士を気取っているが自分では回避出来ない事態を直球で守られたらな……

 

「ん?ああ、何て言うか俺の中の色々な常識が壊れた、お前って面白いな」

 

「そんな事は無いですよ、極々普通の魔術師です。さて一休みしましたから先に進みましょう」

 

 お前が普通だったら他の魔術師の立場が全く無いぞ!

 

 む、前方は慌ただしくなってきてるな……どうやら次はトロールが出そうだ。

 

 全長4m緑色の肌に腰蓑だけを纏ったオークよりも更に筋肉質な肉体、少し腹が出てガニ股で短足、頭は弱いが力が強い上級モンスターがゆっくりと坂を下ってくる、その数は三匹。

 手に持つ棍棒は2m以上、只の丸太だが破壊力は有りそうだな、未だ300m位先だが威圧感が凄い。

 草木一本生えてないゴツゴツした道をノシノシと歩いて来る、オークが一緒に出て来ないのは助かる。

 流石の俺もトロールには集中しないとヤバい。

 

「いよいよトロールの出番か、どうするよ?」

 

「100mまで引き付けます、それが今の僕のキルゾーン、僕の視界の中の王国は自身を中心に半径100mですから……」

 

 サラリとヤバい事を言いやがった、今のって事はレベルが上がれば100m以上でもゴーレム召喚出来るってか?

 そんな話は聞いた事が無いぞ、直径200mの円の中は言葉通りリーンハルトの支配下、だからリトルキングダム(視界の中の王国)か……

 

「トロールは三匹、俺は真ん中の奴を貰うぜ」

 

 年下に負けてられないぜ、ニーレンス公爵家として討伐に成果を出さなければならない。それに本来の目的は人質の救出、何としても敵の本拠地に辿り着かねば!

 

「では僕は両脇の二匹を頂きます」

 

 そう言って無警戒で前に歩いて行く、少しはビビれよ、相手は上級モンスターのトロールだぜ。俺だって内心は怖いんだぞ!

 奴と並んで坂を上る、トロールとの距離は100mを切った、二人しか居ない事を確認して遠目でも分かる位にニヤリと笑いやがったな、俺を舐めるなブチ殺す!

 

「クリエイトゴーレム!ゴーレムルークよ、目の前のデカブツをブッ跳ばせ!」

 

 リーンハルトの掛け声と共に前方に光り輝く魔素が集まり出して一瞬で鎧兜のパーツを錬成し一気に組みあがった。

 全長6mの朝日に煌めく全金属製の巨大なゴーレムを見て息を呑む。

 

 何だ、あの大きさは……トロールが子供に見えるぞ!

 

「ちょ、お前?それは明らかにオーバーキルじゃねぇか?」

 

 4m程度のトロールに6m以上の全金属製ゴーレムが自分の身長程の巨大な金属製メイスを振り上げて……

 

 激しい振動と共にトロールが大地に倒れた、二匹共に頭が身体にめり込んでいる、あんな巨大なメイスで殴られたらこうなるわな。

 両脇のトロールが瞬殺された事に驚いた中央の奴が右側のゴーレムに掴み掛かる、しかし左右二体の巨大ゴーレムが振り回すメイスを肩と脇腹に受けて大地に沈んだ……

 あのゴーレム、巨体の割に動きが素早いぞ。

 

「ちょっと待て、真ん中の奴は俺のだって言っただろ!なに勝手に倒してるんだよ」

 

「半自動制御なので攻撃に対して反撃を……申し訳ないです」

 

 俺の見せ場のトロールを一人で倒しやがって、ワイバーンもトロールも独り占めとは許せないぞ!

 

「お前な、俺の立場が無くなるだろうが!次は俺が戦うからな、絶対に手出しすんな」

 

 取り敢えず頭を軽く叩いておく、全く良い所取りって言うか俺が居る意味が無い。

 

「えっと、申し訳ないです。フォローはしますので気兼ね無く戦って下さい」

 

 これ以上コイツに敵を倒されたら俺の立場が危うくなる、次は俺が倒して本拠地にも一番に突入する。

 本当はリーンハルトに襲って来る敵を任せて俺は人質を解放するのが最善なんだが、やられっ放しは我慢出来ねぇ!

 

 ハルバードを両手で握り締めて坂を駆け上がる、後はオークだけとは遺憾だが仕方ねぇな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 俺に意見しに来たカメオとか名乗る男に敵の迎撃を命じた、薬漬けのビーストティマー共々俺が逃げ出す間の足止めになれば良い。

 リーマ卿には悪いが俺も死にたくないから足掻かせて貰うぜ、エムデン王国には相応のダメージを与え国力を低下させた。

 それに引き換え我々は組織の末端と薬漬けのビーストティマー、それに資金のみだ。

 未だ人質も居るし身代金を貰い上納すれば捨て駒として残された俺も大丈夫だよな?

 

「ダバッシュ様、人質の搬送準備が整いました!」

 

 俺の子飼いの配下が報告に来た、そろそろ潮時か……

 

「丁重に扱えよ、大事な金蔓だ。さて俺達も引き上げるぞ!」

 

「はっ!既に馬車の準備は出来ております」

 

 拠点を構える時に幾つかの退路を用意しておいたが、今回は人質に活動資金と荷物が多いので偽装した獣道から街道に出てウルム王国に向かう。

 敵は渓谷側から侵入してくるので鉢合わせも無い、国境近くならではの逃亡のし易さだ。

 逃げ出すのは俺と側近の十名、人質の二十七名、活動資金は金貨七千枚と周辺の街や村から徴収したお宝……

 大分減ったが身代金で未だ金貨三万枚位は絞り取れるだろう、なんたって大切な跡取り息子達だからな。

 勿論生きては帰さない、身代金を貰ったら死体で返す、口止めにもなるし奴等も不名誉な人質よりも名誉の死の方が都合が良いだろう。

 

「くはっ、笑いが止まらないな」

 

 上層部からの命令書や資料の類を全て暖炉に放り込み証拠を隠滅してから脱出する、まだ敵は渓谷の手前で戦っている、此処に来るには時間が掛かるだろう。

 裏口から出ると既に馬車が準備され配下の連中が整列している、人質は二台の馬車に押し込まれて何やら騒いで居るが荷台を叩いて黙らせた。

 

「敵は約1㎞手前まで迫ってるが慌てるな、俺達には人質もいるし捨て駒が足止めをしてる間に逃げ出すぞ!」

 

 まぁ良い思い出は無いが、この作戦も少しは楽しかったか……

 

「そいつは無理な相談だ、お前等は此処でお終い、命が欲しければ投降しろ」

 

「誰だ!」

 

 いきなり声を掛けられた方を向けば武装した二十人程の集団が飛び出して来た、先頭の厳つい壮年がロングソードを抜いて威嚇する。

 凄いプレッシャーを放つ男だが、見覚えが有るぞ……

 ふてぶてしい態度、太い眉に鋭い目、何といっても鎧の胸に刻まれた家紋。

 

「貴様、デオドラ男爵!何故此処に居る、お前は渓谷でオーク共と戦っている筈だろ?」

 

 ワイバーンやトロールも投入したんだ、貰った情報のメンバーの中で、お前以外に奴等を倒せる者なんて……

 

「俺の娘婿がな、良く出来た奴なんだ。お前等みたいな過去の亡霊が用意したモンスターなんか一人で大丈夫だとよ、笑っちまうだろ?」

 

 馬鹿な……最後に用意したのは繁殖場から出したばかりの奴等を含めて三百匹からの大軍を一人でだと?

 

「誰でも良いから人質を引き摺り出せ!デオドラ男爵、俺達には人質が居るんだぞ」

 

 もはや戦って勝つ事は不可能だ、後は人質を使い交渉するしかない。配下の一人が馬車の荷台に入ろうとして全身を弓矢で射ぬかれた、他にも仲間が居たのか?

 

「少しでも動くと蜂の巣にするぜ。何だよ、俺は戦わずに終わりかよ……

ウォーレン、ケン、コイツ等を拘束し人質を解放、俺とグレッグは中に入って後始末をしておく。アイツには辛い現実だからな、処理をするのは大人の役目だ」

 

 二百人からの繁殖用の女共の処理の事か……大人のって事は渓谷に居る娘婿は未だ成人してない?お気に入りの子供は大切に扱ってるってか?

 

「女共の事か?無駄だよ、最後の出撃の前に満腹にさせたからな。俺達だって引き上げる前に処理はしていく……グハッ!」

 

「黙れ!これ以上喋るな、お前の尋問は王都に帰ってからだ。グレッグ、油樽を運び込め、全てを灰にするぞ……」

 

「了解です!しかし後味の悪い終わり方ですな」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 敵の本拠地に駆け上がって行くと人工的に手を加えた岩山が見えた、窓や門も有るので間違いない。あの中に伯父達が捕われているんだな!

 最後の防衛だろうか、オーク共が三十匹ほど雄叫びを上げて向かって来る。

 それに何やら人間が手を振り下ろしたり叫んだりしてるが……奴がビーストティマーか?

 

「リーンハルト、手出し無用だ!あの男だがビーストティマーか?」

 

「オークの群れの中に人間が居て無事なんですから予想通りなのでは?でも挙動不審ですね、まるで駄々っ子みたいですよ」

 

 駄々っ子か、確かに手を振り回して叫び捲ってるが他の奴等は居ないのか?

 

「だが、そんなの関係ねぇ!向かって来る奴は敵だ」

 

「ですが状況を知る為にも生け捕りにしましょう。レディセンス様はオーク共を頼みます」

 

 冷静だが人質によって俺達の親戚が敵に協力していたとか証言は要らないんだ!

 奴はこの場で敵として殺す、リーンハルトにゃ悪いが実家の利益を優先させて貰うぜ。

 

 両手でハルバードを握り締めて敵陣へ突入する、俺の本来の戦い方は正面から突撃して粉砕だ!小細工無用、立ち塞がる奴は排除する。

 

「おらっ!死ね、オーク共」

 

 前に立ち塞がるオーク二匹をハルバードで横薙ぎに一閃、首が無くなり前に倒れ込む。囲まれたら負ける、だから磨いた、この技を!

 

「切り裂け、風の刃よ!」

 

 ハルバードは長柄の武器だが、それでも攻撃範囲は3mもない、俺は魔法もつかえない。

 だから得意の武器で衝撃波を飛ばせる様に練習して身に付けたんだ!

 

 俺の衝撃波に包囲しようと近付いて来たオークが切り裂かれて倒れる、威力はデカいが技を発動後の硬直も僅かながらある。

 一番近いオークが振り下ろす棍棒を何とか躱してハルバードで突き刺す、これは突き刺すと叩き切るを同時に使える武器だ。

 

「これで四匹、次はドイツだぁ?」

 

 ハルバードを腰の高さで一閃、近付くオーク共を牽制、よろけた一匹に躊躇無くハルバードを振り下ろす!

 柘榴の様に頭をカチ割られたオークの突き出た腹を蹴り跳ばし後ろに距離を取る。

 囲まれたら負ける、だから常に動いていなければならない。

 距離が取れたので固まっていたオーク三匹に向かい衝撃波を飛ばす、血飛沫を撒き散らしながら絶命する、これで八匹……

 

「残りは……二十三匹か、まだまだ逝けるぜ」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「お疲れ様です、流石ですね」

 

「ああ?お前に比べたら大した事じゃねぇよ」

 

 結局ビーストティマーと思われる男はリーンハルトが拘束した、がっちりゴーレムに囲まれていては俺でも手出しは出来ない。

 

「奴等の本拠地から煙が上がりました、突入部隊が成功したのでしょう……」

 

 見上げる岩山の所々から黒煙が空に立ち上る、デオドラ男爵に先を越されたのか?

 まんまとやられた、結局俺は囮役にしかなれなかった、後はデオドラ男爵と交渉するしかねぇか……

 

 


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