古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第135話

 油断した、今回の敵は事前にオークとトロール、それにワイバーンの情報が有ったのに見逃してしまった。

 夜襲のオーク共を殲滅したからか何処かに気の緩みが有ったのだろう、一匹のワイバーンの攻撃でゴーレムポーンの陣は乱れ自分も吹き飛ばされてしまった、叩きつけられた身体が痛い。

 全金属製のゴーレムポーンに背中からブチ当たった為に肺の空気を全て吐き出してしまった、息を整えないと呪文も唱えられない。

 時間も無いので表面装甲が溶けた儘のゴーレムポーンを前方に配置する、悠々と旋回しているワイバーンの目には僕が獲物としか写ってないのだろう。

 

「だが舐めるなよ、飛びトカゲが!」

 

 狙いを定めて真っ直ぐに降下してくるワイバーンにアイアンランスの狙いを定める、油断しているから回避行動もせずに真っ直ぐ突っ込んで来る。

 僕のアイアンランスは全長3m直径20㎝の特別製、全部で五本を錬成し更に魔力を込めてタイミングを計る、ワイバーンがブレスを吐く為に口を開けた瞬間に撃ち出す!

 

「アイアンランス!」

 

 合計五本のアイアンランスを密集して開けた口付近に打ち込む!

 

「キシャー!」

 

 見事ワイバーンの口の中と右目と喉元に突き刺さった!

 そのまま右側にズレながら地面に激突したワイバーンにゴーレムポーンで止めを刺す、ロングソードを逆手に持ち体重を掛けて突き刺せば自慢の堅い皮膚でも貫通し肉体にダメージを与える。

 

「グワァー!」

 

 首を持ち上げて甲高い断末魔の叫びをあげながら力尽きた様に倒れこんだ、流石は亜種でもドラゴンだけあるな……強敵だった、目撃例では三匹だった筈だ。

 

「二匹同時に来られたらヤバイな……って、昼間にオークの襲撃だと?連動しているのか?」

 

 一息つく間もなく街道を真っ直ぐ駈け降りてくるオークの群れを撃退する為にカッカラを握り締めて精神を集中、ゴーレムポーンを三列陣形に組み換える。

 

「どうやら囮として大成功だな、少しでも奴等の戦力を磨り潰してやる!」

 

 邪魔なワイバーンを空間創造に収納しオーク共を見詰める、やはりマインドコントロールされているらしく血走った目に涎を垂れ流す開いた口、ただ真っ直ぐに向かって来るだけだ。

 まぁ普通ならば脅威だろう、レベル30以下なら同数でもダメージは防げない。

 距離30mを切った所でカッカラを一回転させてオークに向かい振り下ろす、宝環がシャラシャラと澄んだ音を奏でる。

 

「だが僕のゴーレムは違う!不死人形達よ、無言兵団よ、ゴーレム戦の真髄を見せてみろ、突撃!」

 

 青銅の塊と筋肉と脂肪の塊が激突する、軍配は青銅に上がった!

 

「先頭は突進を止めろ、二列目は攻撃、三列目は飛び掛かれ!」

 

 必勝の三列陣形を用いてオークの群れを殲滅する、未だ魔力に余裕は有るから大丈夫だ。

 余裕を持ってオーク共を殲滅させる事が出来た、だが敵にはオークの他にワイバーンとトロールが残っている。

 流石のゴーレムポーンもトロールと戦わせるには心許ない、ゴーレムナイトかゴーレムルークに変更しなければならない。

 倒したオーク共を空間創造に収納し隊列を組み直す、周囲を確認するが周りに敵は居ない、漸く一段落ついてホッとした為か地面に座り込んでしまった。

 

「ははは、流石にワイバーンを倒した後に連戦は辛いな」

 

 空間創造から瓶に入った冷たい水を取り出して一口飲む、緊張がジワジワと溶けていく様だ……

 両手を後ろに付いて仰け反る様に空を見上げる、本当に雲一つ無い晴天だ、こんな殺伐とした戦いは似合わないな。

 

「ワイバーン一匹にオークが昨夜134匹で今朝は35匹だから合計で169匹か、流石にオークの残りは少ないだろう。

だがワイバーンは二匹、トロールは三匹前後は居ると考えると厳しいな」

 

 デオドラ男爵は僕が知る限り最強の単体戦力だが複数を守っての戦いは苦手、戦場の最前線でこそ輝く存在だ。

 ウォーレン隊長もケン隊長も部隊を率いて連携する戦い方らしい、本拠地強襲にデオドラ男爵は最適だが二人の隊長がフォローしきれるかな?

 僕のゴーレムみたいに使い潰せる戦い方は出来ない、連携し着実に倒していくからデオドラ男爵とは離れてしまうだろう。

 

「やはり五日後は敵の本拠地近く迄行って撹乱しないと、渓谷に敵戦力を割かせないと駄目か……」

 

 無茶苦茶だな、囮役とはいえ敵の戦力の殆どを引き受け様としている。

 だがゴーレムポーンを七十体率いれる力を得たならば出し惜しみは味方の損害を増やす行為だ。

 

 嗚呼、僕はデオドラ男爵やジゼル嬢、アーシャ嬢が好きなんだな。

 ルーテシア嬢は微妙に距離を置いているが腹黒謀略令嬢にまで好意を寄せているとはな……

 

 立ち上がり身体に付いた土埃を払う、これからはゴーレム兵団を無言兵団を率いる僕の戦いだ。

 

「それじゃ始めようか!過去にゴーレムマスターと呼ばれたルトライン帝国宮廷魔術師筆頭、魔導兵団団長だった男の戦い方を」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「おい、ワイバーンが戻ってこないぞ。それも三匹共だ!」

 

「未帰還だからと個別に探しに行かせるからだ!未だ戻って来ないとなれば、ワイバーン共は倒されたと思った方が良いな。

流石に聖騎士団の連中だという事か、だが敵に大ダメージを与えた筈だ」

 

「後はトロールとオークで決まりだな、滅びろエムデン王国め」

 

 食堂で酒を飲んで騒ぐ馬鹿共に呆れた視線を送る、少しは状況を考えろ!

 

 俺を含め旧コトプス帝国の残党の中でも低い地位に居る連中の会話を聞いて今後の方針を考える。

 コイツ等は馬鹿だ、エムデン王国の聖騎士団の連中が来る迄に未だ三日以上有る筈だ。

 ラデンブルグ侯爵とニーレンス公爵の討伐隊は潰した、全滅ではないが既に討伐隊としての機能は果たせない。

 オークの飽和攻撃に二十人程度の討伐隊じゃ群れの一つを対処するので手一杯、前後左右から襲われたら逃げるだけでも大変だ。

 この大成果を報告されて、数日前にリーマ卿を含む幹部数名は引き揚げて行った。本来の目的である聖騎士団との戦いの結果を確認せずにだ。

 残された幹部は評判の良くないダバッシュ様、これは尻尾切りの可能性が高い。

 リーマ卿が引き揚げた後に分かったのだが、敵には予想していなかった強力な部隊が来ている。

 リーマ卿は俺等を聖騎士団と戦わせて磨り潰しを目論んだと思う、こんな薬漬けで逝かれたビーストティマーの手柄を認める訳はない。

 ましてや無能なダバッシュ様に手柄を立てさせる事はしない、つまり俺達も全滅するのが前提か……

 

 急いでダバッシュ様に相談、いや唆して俺だけでも生き残る手立てを考えなくては駄目だ。

 この拠点は元々洞窟だった物を拡張させた、勿論捕えた奴隷達を酷使してだ。

 男は労働力とオーク共の餌、女は繁殖用と怨敵エムデン王国に奉仕した馬鹿共の末路としては最高じゃないか!

 粗末な手彫りの通路を走り最上階の幹部の部屋に辿り着いたら息を整えて扉をノックする。

 

「入れ!」

 

「失礼します、警備隊のカメオです」

 

 慣れない敬語を使い室内に入る、後はこの無能な上司を上手く誘導するだけだ……

 室内に入ると昼間から酒を飲んでいる駄目上司を見てしまった、大丈夫なのか我々は?

 

「何だ、何か有ったのか?」

 

 既に酔いが深いのか目が据わっている、此方を睨む目に少しだけ恐怖心が……

 

「はい、あの今向かっている敵についてですが奴等は聖騎士団本隊ではないのです。既に切り札のワイバーンが三匹も」

 

「知ってる、デオドラ男爵本人が率いている三十人程の部隊だ」

 

 デオドラ男爵だと?あの戦鬼(オーガー)が自ら攻めて来るのに余裕こいて酒飲んでるな!

 

「それは、リーマ卿も御存知なのですか?」

 

「知らんな、奴等が引き揚げてから報告が来たからな」

 

 あの化け物に此処の戦力だけで勝てる訳ないだろ?

 アイツは一人で我等コトプス帝国の騎士団の部隊を潰した化け物だぞ、ワイバーンが勝てないのが分かった、早く逃げないと……

 

「どちらにしても俺達は此処を離れる訳にはいかないんだとよ、全く……お前、名前は?」

 

「カメオです!」

 

 入室の際に名乗っただろうが!

 

「よし、カメオ。お前に任務を与える。ビーストティマー殿と協力して向かってくるデオドラ男爵達を渓谷で迎え撃て」

 

「はい、はぁ?それは……」

 

 おぃおぃおぃ、何言ってんだコノ馬鹿はよ?

 確かに俺は居残り組の中じゃ上から数えた方が早い地位に居るけど部隊を率いる立場じゃねぇぞ!コイツ、俺をダシに逃げる気じゃ?

 

「トロールとオークを全て率いて出撃しろ。撤退は許さない、モンスター共が全滅するまで戦い抜くのだ!」

 

「り、了解しました」

 

 馬鹿な上司だが逆らえばオーク共の餌にされちまう、従うしか無いのかよ。意気込んで来た結果がコレかよ……

 

「トロールは三匹、オークは二百匹は居るから負ける事は無いだろ?負ければ死を勝てば幹部に推薦してやる、死ぬ気で頑張れ」

 

 ありがた迷惑だぜ、どうせ手柄はアンタが奪うんだろ?

 だが確かにトロール三匹にオークが二百匹、渓谷の地理を生かして押し込めば勝てる見込みは有る。

 一礼して退室する、無謀な直訴が死を早めたか。

 

 取り敢えずはビーストティマー殿と相談して出撃の準備を……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 自分のアホさ加減に呆れながらビーストティマー殿の部屋に向かう、地下の繁殖場所に近い部屋だから出来れば行きたくない。

 階段を降りて行くと次第に女の悲鳴や泣き声が聞こえて……

 

「クソッ!何で俺なんだよ、全く嫌になる」

 

 耳を塞いで早足でビーストティマー殿の部屋へと向かう、名前は知らない紹介もされてないから……

 我慢して歩けば漸く問題児の、いや問題の部屋に到着、ドアのノックする。

 

「ビーストティマー殿、いらっしゃいますか?」

 

 返事が無い、だが中から音はするから居る筈だ。

 

「ビーストティマー殿、いらっしゃいますか?居ますよね、開けますよ」

 

 ドアをゆっくりと開ける、途端に鼻に付く甘く刺激的な麻薬の臭い。

 ああ、このビーストティマー殿は麻薬漬けにされてるからな……

 

 まぁ麻薬中毒にでもならなきゃ何百人もの女をオークの繁殖用に使ったりしないわな。

 

「ビーストティマー殿、ダバッシュ様から命令です。現在の手持ちのモンスター全てを率いて渓谷に向かい敵を倒せとの事です、私も同行します」

 

「あぁ?あひゃひゃ、敵を倒せ、倒すのかぁ?」

 

 ベッドに寝転び口に麻薬を吸引するパイプを咥えているが涎は垂らすし目は虚ろだし末期だな。

 コイツは次の戦いで終わりだな……だからか、最後に俺を巻き込んで玉砕しろってか?

 

「はい、そうです。出撃です、全てのモンスターを率いての出撃です。さぁ早く準備して下さい」

 

「あぁ?分かった、出撃だな……あひゃひゃ、敵を殺せば良いんだな。殺したら薬、薬をくれるんだな、だよな?」

 

 カサカサに乾いて細く痩せた腕を伸ばしてくる、薬漬けで殆どを物を食べてないからな。

 

「ええ、好きなだけ貰えますから」

 

 雑兵に輿(こし)を用意させて強引に押し込む、もはや一人では立てないから運ぶしかない。

 拠点を出て拓けた場所に連れて行く、この麻薬中毒者は優れたビーストティマーだったんだ。

 

 奴が輿の上から両手を広げると拠点の地下から雄叫びが上がる、嘘でも冗談でも無く大地が揺れている。

 

「なっ?嘘だろ?」

 

 地下に繋がる穴から大量のトロールとオークが湧き出して来た、ドイツもコイツも血走って涎を垂らす正視に耐えない忌むべき奴等め……

 

「あひゃひゃ、敵を殺しに行くぞ。殺したら食って良いぞ、分かったな?」

 

 腹の底に響く恐ろしい雄叫び、コイツ等は人間を食い物としてしか見ていない。ああ、同行する雑兵が食われた……駄目だ飢えてるんだ、コイツ等は!

 

「ビーストティマー殿、俺達は餌じゃねぇ!」

 

「ああ?餌だろ、人間なんてさぁ?あひゃひゃ」

 

 血走ってるが本気だぞ……駄目だ、コイツもう、もう壊れちまっている。


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