古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第134話

 プランの街を出発し暫く進んだ後、周囲を警戒しながら二手に別れた。

 僕は囮としてゴーレム兵団を率いて街道を進み、そのまま渓谷に向かう。

 本命のデオドラ男爵達はそのまま敵国に侵入し迂回して敵本拠地の背後を突く。

 予定された作戦の実行は五日後、これには聖騎士団本隊は絡まない。

 出来れば囮として同行したかったが進軍のスピードが違う為に予定が合わせられない、だが敵は本隊の状況を探っている筈だから主力部隊をぶつけてくるだろう。

 僕は五日間、迂回しているデオドラ男爵達の存在がバレない様に敵を引き付ければ良い。

 自分だけ馬ゴーレムに乗り残りは徒歩のゴーレムポーンが三十体、ゆっくりと歩かせながら目的地へと向かう。

 僕は魔力感知は出来るが索敵能力が無いので監視されてるのか分からない、オーク共の不意討ちを防ぐ為に自分を取り囲む様にゴーレムポーンを配している。

 

「長閑じゃない、鳥の声さえ聞こえない、動物の気配さえ感じない。この辺の自然動物は殆どオーク共に捕食されたんだな……」

 

 被害状況や目撃数、討伐数を考えても総数で千匹近いオーク共がエムデン王国方面に向かっている。

 奴等だって食べないと動けないから片っ端から生き物を捕食している筈だ、全くエムデン王国の国力低下に繋がる蛮行だ。

 この作戦を考えた奴等は狂ってる、女性を攫いオーク共に与えて繁殖させてビーストティマーに操らせて襲うなど転生前でも居なかったぞ。

 

 ゴーレムポーンの装備はロングソードとラウンドシールド、攻撃力が弱いが討伐隊が全員両手持ちアックスでは不自然だから仕方ない。

 だが初撃さえ耐えれば武装変更は可能だから大丈夫だろう。

 

「一人で進軍か……昔を思い出すな」

 

 未だ魔導兵団が形になってない頃は一般兵を率いた事も僅かながら有ったが、結局は自分のゴーレム兵団を頼ってしまったんだ。

 理由は幾つか有った、兵士としての練度や命令伝達速度、ゴーレムと違い疲労する人間は指揮する事が難しく煩わしかった。

 今思えば傲慢な話だ、何でも言う事を聞くゴーレムと生きている人間を比べたのだから……

 

「過去の自分を振り返ってダメ出ししていたら一日が終わってしまった」

 

 遠い山間に太陽が掛かったので野営の場所を探す、暫く進むと少し開けた草むらが見付かった。今夜は此処に野営陣地を構築するかな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 草むらの広さは15m四方、周りの樹木が間引きされているのを見ると伐採した木の仮置場だったのか?

 流石に狭過ぎて壁や堀は作れないので中心に錬金で土で太い柱を作り上に小屋を乗せる。

 周囲に魔法で篝火を浮かせ内側にゴーレムポーンで警戒させる、寝ている時に敵が攻めてきても一陣のゴーレムポーンが対応してる間に起きる事が出来る。

 一人だと夜の警戒が疎かになるのが痛いな……

 小屋に入り錬金した梯子を魔素に還す、これで不用意に敵は上がって来れない、3m四方の狭い室内など押し込まれたらゴーレムを錬成する前に殺されてしまうからな。

 

「一人でも空間創造の恩恵で出来たての熱々料理が食べれるのが幸いか……」

 

 一人だと椅子や机も錬成せずに床に直接座って空間創造から料理を取り出して並べる。

 小さく作った窓から外を見れば既に日は暮れて辺りは真っ暗闇、円形に配した篝火に照らされたゴーレムポーンの装甲が輝いている。

 オーク共が徘徊していれば見付けて襲ってくるだろう。

 進軍中に監視されている気配はしなかったし深夜にオークが徘徊する森の中を尾行する強者も居ないだろう。

 多分だが伝書鳩か何かで情報だけやり取りしていると思う、だから予想される進軍コースに待ち伏せされる可能性が高い。

 既に王都から聖騎士団団長の率いる本隊が向かっている情報は掴んでいる筈だ、迎え撃つ為に準備したのが渓谷の地形を利用したキルゾーン。

 それに周辺の街や村も何らかの手段を用いて支配下に置いていると思う、完全に罠で有り待ち伏せされてるな……

 

 気分を切り替える為に床に並べた料理を食べる事にする。

 ナイトバーガーに白アスパラガスとポテトのサラダ、それに桃の果汁水が夕食のメニューだ。

 裏返して軽く潰したナイトバーガーを一口、中のハンバーグから肉汁が溢れて旨い。

 そう言えば盗賊ギルドの食堂で食べたハンバーグカレーは旨かったな、サラダでしか食べた事の無いライスにルゥをかけると凄く美味しい料理になるなんて驚いた。

 ギルさん達には悪い事をしたが今度訪ねてみようかな、資金も貯まったから本格的にオークションに参加してみたいし……

 

「さて、食事も済んだし仮眠するか。オークの襲撃も、もう少し夜が更けてからだろう」

 

 毛布に包まり身体を横にする、固い床が寝辛いが熟睡しない為には丁度良い。多分だが今夜にも夜襲が有るだろうから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 深夜、自立制御のゴーレムポーンからラインを通じて夜襲の知らせが入る。

 飛び起きて窓から外を見れば東側からオークの群れが襲ってくるのが見えた、その数は篝火に照らされているだけでも十匹以上。

 護衛待機のゴーレムポーンも十体、急がないと押し切られる!

 

「クリエイトゴーレム!ゴーレムポーンよ、オークを押し潰せ」

 

 篝火の灯りだけでは薄暗いが上空からなら状況を把握し易い、攻めてくるオーク達を包み込む様にゴーレムポーンを錬成する。

 両手持ちアックス装備のゴーレムポーンは一撃でオークに大ダメージを与えるが反撃を食らうと戦闘不能に追い込まれる。

 視界の悪さと半分自立制御の為にイマイチ連携出来ていないが壊れた端から修復出来る三十体のゴーレムポーンに掛かれば、同数程度のオークには負けない。

 最後にリーダーと思われる一回り大きいオークを倒して夜襲は終わった、ゴーレムポーンで円陣を組ませて警備体制を敷いてから下に降りる。

 倒したオークを確認するが若い個体ばかり三十四匹だった、討伐部位証明である鼻は切り取らずに空間創造へ収納する。

 

「どうやら僕は人気者らしいな、餌が少なくて群がってくるとか?」

 

 一息ついたと思ったが新たな襲撃部隊が近付いてくるのが分かる、雄叫びを上げながら突進してくるとはな……

 

「ゴーレムポーンよ、迎え撃つぞ!

隊列は三列に、先頭がラウンドシールドで突進を止めたら二列目はランスで攻撃、三列目は二列目を踏み台にして飛び掛かれ!」

 

 ゴーレムポーンを森から走り抜けて来たオークの群れに突撃させる、僕が多用する陣形だ。

 雄叫びを上げてバラバラと突進してくるオークを横一線に並びラウンドシールドを構えた先頭が止める、すかさずランスを突き刺す二列目。

 バラバラに突進してくる為に二列目のランスで止めを刺せる、隊列とか連携とかお構い無しだが目が血走り口から涎を撒き散らす姿を見れば普通の状態じゃないのが分かる。

 

「ビーストティマーに単純な命令を与えられているのか?しかし死を恐れずに愚直に突進を繰り返すオークを見れば普通は精神的に参ってしまうだろう。

ダメージを無視出来る僕と僕のゴーレムだからこそか……」

 

 精神を蝕む襲撃を十五分程耐えればオークは全滅した、やはり若い個体ばかりだ。

 武器や身に付ける腰布さえも満足に手に入らなかったのか全裸な奴も居る、やはり無理に操って此処に留めているからだろうか?

 

「また雄叫びが聞こえる、倒したオークの血の匂いに引き付けられるんだな」

 

 手早く倒したオーク共を空間創造に収納しゴーレムポーンを周辺に集める、忙しいが囮としての働きなら十分だろう。

 カッカラを取り出して握り締める、次に森から飛び出してくるオーク共を倒す為に精神を集中する……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 東の山間がぼんやりと明るくなった頃、漸くオーク共の襲撃が終わった……

 

 死屍累々、襲撃は四回に及び倒した数は合計で134匹になりレベルも29に上がった、経験値独り占めの恩恵はデカい。

 ゴーレムポーンの最大制御数も七十体迄なら大丈夫そうだ、空間創造はもう少しレベルが上がれば次の階層が解放されるだろう。

 

 魔力の減りと精神的疲労を強く感じる、上級魔力石を二個使い魔力を回復してから仮眠の為に小屋へと上る。

 四時間位は寝れるだろう、ゴーレムポーンに自立制御で警戒させて床に倒れ込む様にして横になる……

 

 

 

 

 

 

「む、時間か……」

 

 

 僅かだが熟睡したので大分疲労は取れた、魔力も回復したが転生の恩恵かレベルアップによる最大上限の上がり方が凄い。

 エルフのレティシアには負けるが現役宮廷魔術師であるアンドレアル様やユリエル様よりも多いと思う、現役時代に比べれば半分以下だが次に空間創造が解放されれば収納しているマジックアイテムで魔力値の最大量を底上げ出来るだろう……

 

 小屋から下りて草むらの一角に有った大岩に腰掛けて空を見上げる、雲一つ無い良い天気で爽やかな風が頬を撫でる。

 暫らくは太陽の暖かさを感じていたが空腹の為に腹が鳴ったので空間創造から適当な食料を探す。

 

「沢山殺しても恐怖や罪悪感を感じずに普通に腹が減る、僕も大概壊れてるんだろうな……」

 

 大振りの肉の塊が3つ連なった串焼き肉を三本、それに水の入った瓶を空間創造から取り出す。

 串焼き肉は焼きたてで湯気が立ち上ぼり水は冷たい、先ずは水を飲んで目を覚まし串焼き肉を一口頬張る。

 

「旨いな、甘辛いタレが食欲をそそる。でも一人だと独り言が多くなるな」

 

 五分程で朝食を済ませてから陣地を引き払い進軍する事にする、この調子で行けば三日後の昼過ぎには渓谷の入口に到達出来る。

 その前に出来るだけ周辺を徘徊するオークの群を潰さなければならない。

 先行したラデンブルグ侯爵にニーレンス公爵の討伐隊に何時追い付くかだが、同じ速度で進んでいるなら無理だ。

 先方が待つか折り返すかしなければ出会わないだろう、だが渓谷に入ってしまったら……

 

「果たして無事だろうか?精鋭とはいえ狭い渓谷で前から押し込まれたら無傷では済まないだろう。

僕と同じダメージ無視のゴーレムが居なければ何時かは押し負ける、一度乱戦に持ち込まれたら後はジワジワと数を減らされて負けてしまうだろう」

 

 両手を叩いて埃を払い大岩から立ち上がって尻に付いた砂を払う、ゴーレムポーンを三十体錬成し前後に十体左右に五体ずつ配置して街道を進む事にする。

 自分は馬ゴーレムに乗るので肉体的疲労は抑えられるし、狙撃に対しては常時展開型の魔法障壁で対応するから大丈夫だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 暫らく馬ゴーレムに揺られて警戒しながら目的地へ向かっていた。

 暖かい日差しに雲一つ無い青空、だけど適度に吹く風の為に暑さは感じない。

 

「昼間は長閑だな、深い森の中にオークの群れが潜んでるとは思えない。ん?影か……影だと!」

 

 目の前を素早く横切る黒い影、だが今日は雲一つ無い晴天だぞ!

 慌てて空を見上げれば悠々と風に乗り滑空するワイバーンが一匹、上空を旋回している。

 

「油断した!夜にワイバーンは飛ばない、昼間襲うだろう」

 

 情報は得ていたのに可能性を見過ごして警戒を怠った、気付いた時には旋回を終えて真っ直ぐ突っ込んで来るのが見える。

 迎撃は間に合わない、素早く馬ゴーレムから飛び降りて魔法障壁に魔力を込めて強化、ワイバーンの攻撃に備える。

 

「くっ、ブレスと衝撃波の同時攻撃に耐えられるか……」

 

 ワイバーンは灼熱のブレスを吐き付けながら低空ギリギリを飛行し両足でゴーレムポーンを凪ぎ払って急上昇するのを吹き飛ばされる時に視界の隅に捕らえた。

 此方は陣形は乱されゴーレムポーンの表面装甲が溶けた、僕自身も後列のゴーレムポーンに叩きつけられて肺の空気を全て吐き出してしまう。

 あのワイバーンの灼熱のブレスは1200度以上は有るとみた!

 

「突っ込んで来る衝撃波は半端無い、羽を広げれば10mを超える巨体だからな」

 

 悠々と旋回し雄叫びを上げるワイバーンを忌々しく睨み付ける、ゴーレムポーンを整列させて二撃目に備える。

 

 僕を舐めるなよ、一匹ならば次は負けないぞ!

 


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