古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第130話

 ヒスの村に滞在した、何故か村長のセタンさんの三女であるリィナさんと知り合いになれた。

 彼女は父親から何か言い含められたみたいだが、心配してくれる気持ちは本物みたいだ。

 取り敢えずお礼として王都で人気の砂糖菓子を渡しておいた、次に彼女と会えるかは分からない。

 兄弟戦士曰く『一期一会』と言って知り合った女性は大切にするんだと教えられたがイマイチ意味が分からない。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 リィナさんと別れを済ませて外に出ると皆さん馬に乗る準備……鞍を取付けたりしているがデオドラ男爵と僕の馬は既に装着済みだ。

 副官とはいえ好待遇が辛い、さっそく乗り込んで馬の首を撫でる、コミュニケーションは大切だ。

 この子は牝馬で良く調教されていて扱い易い、駄目だったら自分だけ馬ゴーレムでも良いかって思ってたので有り難い。

 

「リーンハルト君!」

 

 呼ばれて振り向けば『春風』のフレイナさんが一人で立っていた、早朝から出待ちしていたのかな?

 盗賊スタイルでなく普通の村娘みたいな格好をして微笑んでいるが本当に無害に見える、女って怖い。

 

「ああ、フレイナさん。お早よう御座います、早いですね」

 

 社交辞令的な笑みを浮かべるが兜を装備してるので分かり辛いかな。

 他の連中も続々と馬に乗り始めたので出発迄の時間は少ないし皆が僕をチラチラ見ている、また女絡みかとため息が漏れる。

 

「これお弁当ですが作ったので良ければ貰って下さいな」

 

 籐で編んだバスケットを差し出された、馬上の僕に渡す為に両手を突き出す様にしている。

 柔らかい笑みを絶やさない一見優しいお姉さんだが実は盗賊職の冒険者パーティのリーダーだ。

 迂闊な対応は不味いのだが場を上手く使ってくる、端から見れば善意でお弁当を作ってくれただけだし……

 

「お弁当ですか?いや、それは悪いですが受け取る理由が無いです」

 

 キッパリと断るしかない、高がお弁当とはいえ借りや恩を受けるのは問題だ。

 彼女達が寄生するなら寄生先にも断れない何かが有るのだろう、線引は必要だ。

 

「折角作ったのに受け取って貰えないのは悲しいわ……」

 

 バスケットを抱き締めて涙ぐんだぞ、罪悪感が跳ね上がるし周りの視線もキツくなる、完全に僕が悪役だ。

 

「貸し借り無しが冒険者の暗黙の了解、ですが善意には善意で返しましょう。

お弁当は頂きますが、此方からもコレをプレゼントします。王都で流行りの砂糖菓子です」

 

 一旦馬を降りてバスケットを受け取り空間創造に収納し、リィナさんにも渡した砂糖菓子の包みをフレイナさんに握らせる。

 この砂糖菓子は金貨一枚もする高級品だから、お弁当のお返しとしては十分だろう。

 

「えっ?悪いわよ、コレってパティスリーワイズの焼き菓子でしょ?」

 

 ふむ、流石に年頃の女性だけあり知っていたか。手軽な賄賂として購入しておいた品だが効果は有ったみたいだな。

 

「甘い物はお好きでしょうから仲間と食べて下さい、では失礼します」

 

 一礼してから馬に乗り込む、砂糖菓子は後三つ有るから大丈夫だろう。

 嗜好品は厳しい環境で生活する人々にとっては喜ばれるから用意しておいて良かった。

 

「あの、えっと……もう、してやられたわね」

 

 少しだけ地が出た感じの言葉が聞こえたが気にせず馬を進める、今日頑張れば先行している聖騎士団に追い付く。

 

「お前、嫌がってる割りには女が絡んで来やがるじゃねぇか?」

 

 ヒスの村を出て直ぐにデオドラ男爵が絡んで来た、整然とした隊列を維持しながら横に並んで暇潰しだろうな……

 すぐ後ろに居るウォーレン隊長も聞き耳を立てている、他人の色恋沙汰は楽しいのだろう、厳つい彼迄がニヤニヤしている。

 

「彼女は『春風』のリーダーでフレイナさん、ギルド本部の職員から警戒する様に注意される程の食わせ者ですよ。

彼女と彼女のパーティは他人に寄生して依頼を達成する前科持ちです」

 

「お前って女運が悪いんじゃねぇか?メディアとか性悪女ばっかりじゃねぇか……もう早くジゼルかアーシャを押し倒せよ、哀れ過ぎだぞ」

 

 バンバンと肩を叩いて慰めの言葉を言ってくれてると思いますが、ガントレットでハーフプレートメイルのショルダーガードを叩くから、ガンガンと甲高い金属音が凄いです。

 

「違います、ちゃんとした女性だって居ます!」

 

 イルメラとかリプリーとかエレさんとか、大目にみて今のウィンディアとか……

 お世話になっている、されているでは『静寂の鐘』や『野に咲く薔薇』の女性陣もそうだ、普通の女性の知り合いは居る!

 

「お前もそんな慌てた顔をするんだな、何時も冷静沈着で余裕綽々だから意外だよ」

 

 ええ、転生前の歳を足せば四十歳越えですから落ち着きもしますが、精神的には全然成長していない、逆に肉体年齢に合わせて幼くなっている気がします。

 過去の経験を生かし切れていない、有効に利用しているのは魔術知識だけだ。

 

「お言葉ですが、未だ十四歳の未熟な餓鬼ですよ、僕は……」

 

「お前が未熟ならボッカなど赤子と同じだぞ、謙遜も時には嫌味になるから気を付けろ」

 

 まぁ本気で殺されかけましたけどね、確かに考える事が苦手な奴でしたが赤子の様に可愛げは無いですよ?僕は曖昧な笑みを浮かべて誤魔化した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ヒスの村を出発して六時間、途中休憩を二回挟んで漸く先行する本隊を視界に捕えた、3㎞程先だろうか?

 此方は小高い丘の上から見下ろしているが余り整然と行進はしていない、幾つかの大きな塊で動いていたり街道をそれて平原を歩いている連中も居る。

 どうやら騎士団長は中心にいるらしく、其処は隊列を維持して行軍しているみたいだ。

 

「少し乱れてますね」

 

「ある程度は仕方あるまい、騎士団も一枚岩じゃないから同じ派閥で集まりがちだ。

今回の副団長は三人居るが、奴等は全員別々の派閥に所属しているのだ。勿論、敵対派閥は弾いてるが全てが協力関係ではない」

 

 騎士団内にも派閥がある、あからさまな敵対派閥は居ないが利害が一致しない連中の調整も必要。父上も苦労しているんだな……

 

「どうしましょう?先触れとして僕が先行しましょうか?」

 

「いや、俺も行く。最初の話と違うからな、揉める訳にもいくまい。ウォーレンとケンは付かず離れずで着いて来い」

 

 そう言って馬のスピードを上げたので慌てて追従する、軍馬の全力疾走なら3㎞の距離など十分と掛からず最後尾に追い付いた。

 デオドラ男爵と分かり慌てて道を空ける連中の間を擦り抜ける様にして中心部へ到達した。

 

「ライル殿」

 

「おお、後ろが騒がしいと思えばデオドラ男爵か。どうした、山岳部を攻める筈では?」

 

 流石に聖騎士団団長周辺は整然としていて、父上を含む三人の副団長も居る。

 父上を見付けたので頭を下げる、隣を歩くインゴは既に疲れが見えるな。

 先程走り抜けてきた後列の連中も結構疲労が溜まってそうだ、未だ一戦もしてないのに大丈夫か?

 

「ニーレンス公爵から待ったが掛かった、奴の領地を通過出来ない」

 

 並走するライル団長とデオドラ男爵の後ろを着いて行く、上位者同士の会話に参加する事は出来ない。父上がさり気なく横に着いた。

 

「リーンハルト、大丈夫か?」

 

「父上、僕は大丈夫です。そのインゴが……」

 

 僕と父上の会話を聞いていない、つまり僕が兄だと気付かない程に既に疲労が溜まっている。不味いな、一ヶ月は掛かる討伐遠征の未だ二日目だぞ。

 

「どうするんだ?我等と共に行くのは構わんが……」

 

「いや、先行させてくれ。敵国側から迂回して背後を突く」

 

「おい、少数で大丈夫か?何人か連れて行っても構わんぞ」

 

「いや、俺とアイツが居るから問題無いぜ」

 

「アイツ?ああ、リーンハルトか。まぁ大丈夫なのか?」

 

「問題無いな、過剰戦力だ。奇襲なら俺と奴だけで十分だ」

 

 何やらライル団長とデオドラ男爵の間で不穏な会話がされている、流石に聖騎士団本隊から増援は貰えないけど二人で大丈夫の件(くだり)で周りの目線がキツくなった。

 

「我が子ながらデオドラ男爵に随分と期待されているんだな、まさか二人で大丈夫とは……インゴの事は気にするな、俺が面倒をみるから安心しろ」

 

「あ?兄上、兄上じゃないですか?」

 

 何度か自分の名前を呼ばれた事で漸く意識が僕と父上に向いたか……

 

「久し振りだな、インゴ。実家に帰っても中々会えずに心配したんだぞ」

 

「それは……僕も色々、その……有って……」

 

 アルノルト子爵家から色々と期待という名のプレッシャーを掛けられているインゴには、先方から新しい家庭教師が派遣されたと聞いた。

 インゴは兄である僕と比べられて少しナイーブになっているのだろう、僕の跨っている軍馬をチラチラ見るのもその表れだと思う。

 

『何故、僕は徒歩で兄上は馬に乗れるの?』

 

 そんな思いの籠もった目を見てしまった、血縁者からの暗い嫉妬には本当に参ってしまう……

 

「この討伐遠征を無事に生き残れば、インゴがバーレイ男爵家の正統後継者と認められるんだ!頑張れ、お前なら出来るよ」

 

 なるべく優しい笑みを浮かべてインゴを励ます、アルノルト子爵家からのプレッシャー程度ならバーレイ男爵家を継げば跳ね返せる程度のモノだ。

 

「うん、僕頑張るよ!」

 

暗い瞳に明るい光が灯った、僕は廃嫡されるから君の障害にはならない、だから安心してくれ。

 

 ライル団長とデオドラ男爵との話し合いは終わった、僕等は先行しても大丈夫だそうだが狭い街道を三十人以上の部隊が擦り抜けるのは困難だ。

 だから次のループの街迄は後ろに着いて行って、翌朝先に出発する事になった。

 七百人もの本隊は街に泊まれない、周辺で夜営するので先行は可能だ。

 それに騎士団長以下の貴族達はループの街の代官屋敷に泊まる、僕達は街の宿屋を利用して早朝に出発する。

 ループの街の代官はラデンブルグ侯爵家から派遣されている。騎士団長とデオドラ男爵が同時に訪ねるのは大変だから止めたそうだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 日も大分傾いた夕暮れ、漸くループの街に到着した。

 討伐遠征軍本隊はループの街手前の平地で夜営し、団長以下の貴族達は代官の屋敷へと招かれた。

 ループの街は領主から代官が派遣されるだけあり、人口は三千人と周辺で一番の規模を誇る。

 警備兵も百人、周囲にも五つの村が有りザルツ地方の政治の中心地だ。

 

 商業地区に向かい高級な宿屋を探す、まさかデオドラ男爵に安宿に泊まれとか言えない。

 高級な宿屋に泊まるのは貴族のデオドラ男爵と僕だけで、ウォーレンさん達は全員同じ中級の宿屋に泊まる。

 防犯上どうかと思うが貴族とはそういうものらしい、見栄を張れる時は張る生き物なんだ。

 

 僕等が泊まる宿屋は『緑の草原亭』という一泊二食付きで二人で金貨三十枚の最高級な宿だ、何と大浴場が有り宿泊客は入る事が出来る。

 ディナーは一階の食堂でコース料理だが、デオドラ男爵と差向いは辛い。

 見た目豪快なデオドラ男爵だが幼い頃から仕込まれたマナーは完璧、僕も転生前の記憶を呼び覚ましながら恥をかかない程度に行儀良く食べた……味は殆ど分からなかった。

 因みに同じ部屋だが寝室が二つ有り、大きなリビングにはホームバーまで設置され専用のバーテンが待機している。

 

「そんなに緊張するな、捕って食う訳じゃないぞ」

 

「慣れない事の連続で疲れました……」

 

 応接セットのソファーで寛ぐデオドラ男爵の向かい側に畏まって座る、これから休むのに気が抜けない。

 おまけに美人の部屋付きメイドが付きっ切りでお酒やお摘みを勧めてくる、彼女は当然デオドラ男爵の事は知っていたが僕が『ラコック村の救世主のブレイクフリーのリーンハルト』だと知っていた。

 

「あら、いらっしゃったみたいですわ」

 

 部屋をノックする音が聞こえ、メイドが対応しているがデオドラ男爵が部屋の中に招いた。

 

「冒険者ギルドから報告に来ました」

 

 特徴の無い男をみてデオドラ男爵を見たが、悪戯が成功したみたいにニヤリと笑った。


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