古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第13話

『静寂の鐘』のメンバーと別れた後、幾つか確認したい事が有るので冒険者ギルドへとやってきた。

 朝と違い未だ任務達成報告にくる連中は少ない。

 ギルドに関連する質問は、その他の受付カウンターで対応するそうだが他と違い誰も並んでいない。

 因みに依頼受付や達成報告の窓口の列の長さはバラバラだ、それは受付嬢の美醜に関係してないと願いたい。美人受付嬢と中年男性の窓口の列の長さの違いを見ながら不安に思った。

 そんな列に並んでいる連中を横目に誰も並んでいないその他の受付カウンターの前に立つ。

 

「すみません、幾つか質問して良いですか?」

 

 カウンターの中には、婆ちゃんが座っていた。皺くちゃで目も線だけ、膝に乗せている手も皺だらけだが指は拳タコだらけだ……

 若い頃は武闘派でブイブイ言わせてた口だな。

 

「はいはい、なんでしょうか?」

 

 思ったより声は通るし大きい、耳も遠くなさそうだ。

 

「幾つか確認したい事が有ります。先ずはパーティ勧誘について相手が脅迫や恫喝、実力行使で来た場合に何処まで対処しても大丈夫ですか?」

 

 今後の強引な勧誘に対して、何処までが無罪で何処からが有罪なのか知りたい。

 

「ほぅ……なる程、貴方達は僧侶と魔術師ですね。それは自分のパーティに囲いたい連中は多いですな。

ギルドは基本的にギルドメンバーの揉め事には関与しません。自己責任の範疇(はんちゅう)ですから自分達で解決して下さい」

 

放任主義か……まぁ海千山千の連中を束ねているのだから、細かい事は自分達で何とかしろって事だな。

 

「では自己責任の範疇(はんちゅう)で自己防衛して相手を傷付けた場合、罪になりますか?」

 

 この質問には流石の婆ちゃんも糸みたいな目を見開いて僕を凝視する。

 

「いえ、傷害事件は王都守備隊が出張ってきます。それで解決出来ない場合は騎士団預かりになります。

解決出来なくて騎士団が出張る意味は分かりますか?」

 

「加害者か被害者に貴族が居た場合だな。権力者の特権は複雑だから守備隊では分からないか……

こりゃ相手によっては冤罪で罪を擦り付けられるな」

 

 僕は貴族だが跡取りでも何でもない新貴族バーレイ男爵家の一員でしかない。父上も愚痴ってたが、お偉い貴族様達はやりたい放題か……

 

「ギルドランクC以上の方は下手な貴族より影響力が有りますので冒険者ギルドも助力を惜しみません」

 

 冒険者ギルドに有益な連中は庇護するって事か、ギルドランクCは当分先だな。

 

「有難う、参考になりました」

 

「打撲程度の傷なら騒ぎ立てるのは逆に恥ですから、適当に痛め付けても問題無いですぞ」

 

「いや大問題だ、僕等はやり返せるが弱い連中は一方的に痛め付けられても問題無いって事だよ。

強くなければ価値は無い、だが英雄と言われる連中も最初は等しくレベル1なんだ。有能な新人が何人潰されたか知りたくもないね」

 

 分かり切っていた事を確認しただけだった、嫌な気持ちになる。この時代も権力者や強い者が好き勝手出来る世界なんだな。

 僕が自由な暮らしを得る為には力を付けなきゃ駄目な事を再確認かよ。もう一度婆ちゃんに礼を言ってから購買カウンターに向かう、朝確認出来なかったポーション類を見る為に……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 朝よりは混んでないが結構な人がショーケースを見ている、何とか最前列に体をねじ込み商品を見る。

 体力回復のポーションとハイポーション、解毒は紫色で麻痺解除は緑色か……

 色は僕の持っている昔の物と変わらないが量は少なくてポーションと同じ試験管に入っている。魔力回復ポーションが無いかと探していると魔力石なる物が陳列されていた、透き通った黄色をしている。

 

「魔力回復量低、金貨5枚か……高いのか安いのか判断に困るな、回復量低がどれだけ魔力を回復するのにより価値が変わるし」

 

 一旦ショーケースから離れてイルメラのもとに戻る。

 

「イルメラ、魔力石って高いんだな」

 

 本当は魔力石って何なの? 魔力回復ポーションって無いの?って聞きたいのだが我慢だ。何ですかそれ?って逆に聞き返されるかもしれない。300年の時代のギャップは中々埋まらない。

 

「そうですね、買えば高いのですが自分で作れば安いですよ。

販売品が高いのは魔力効率の関係ですよね、込める為に消費する魔力の10%しか貯まらないなんて。

低いって事はレベル15前後の魔術師か僧侶が魔力を込めたので、彼等の最大魔力量の10%が回復するのです」

 

「込めた術者の最大魔力量の10%か……」

 

 リプリーの言葉を信じるならレベル15の彼女より自分は数倍の魔力量だから、アレを使っても僕は最大魔力量の3%程度しか回復しないのか、微妙だな。

 

「体力回復ポーションの方が断然効果が高いな。魔力石ってギルドに売ってるのかな?」

 

「体力回復ポーションと比べたら無理が有りますよ。昔は魔力回復ポーションとか有ったそうですが、既にレシピが喪失してしまったそうですよ」

 

 レシピ?作り方か?確か魔力回復ポーションは触媒となるホウレン草とグヮバの実と自分の魔力で作れる筈だぞ、回復量5%のポーションは。まぁ手順や魔力を込めるタイミングとか色々決め事はあるけど……

 

「そうなんだ、じゃ魔力石を幾つか買って自分で作ろうかな。

一晩寝れば魔力は回復するから毎晩寝る前に魔力を込めれば、10日間で自分の魔力が全快する魔力石が出来るよね?」

 

 緊急時用として魔力の全回復が出来るのは魅力的だ。魔術師にとって魔力は命綱と同じで空になればパーティの荷物と変わらない。

 

「ふふふ、リーンハルト様ならば上級魔力石が必要ですね。下級魔力石だと容量が少ないから勿体ないですわ」

 

 魔力石には少なくとも上級と下級が有り込められる魔力には上限が有るんだな。イルメラ、分かり易い説明を有難う。

 

「何種類か買っていこう。回復量を調整したのを幾つか持っていた方が使い易いかもしれない」

 

 再度購買カウンターまで突撃し魔力石の上級を3個下級を5個買って、この日はギルドを後にした。

 

「リーンハルト様、申し訳有りませんが孤児院の方に寄らせて頂きたいのですが……」

 

「孤児院?ああ構わないよ、一緒に行こう。なにか子供達に差し入れを買っていこうか?何が良いかな……」

 

 イルメラが申し訳無さそうに言い出したが、彼女は世話になった孤児院に毎月それなりの寄付をしている。こんな時代だから両親と死別したり捨てられたりする子供は多い。

 モア教の教会に併設された孤児院も多く、独立した後も世話になった孤児院に寄付をする子達は多い。

 母上も孤児院からイルメラを見出した訳だし……

 

「有難う御座います、焼き菓子など如何でしょうか?」

 

「ふむ、多めに買おう。久し振りにニクラス司祭にも会いたいし」

 

 ニクラス司祭、噂では80歳を超えているらしい僧侶魔法の使い手で母上とイルメラの師でもある不思議な雰囲気の爺さんだ。

 転生後覚醒してから初めて会うが元の僕は大好きだったな。母上と二人でよく会いに来ていた時に色々と構ってもらったんだ……つまり覚醒前の僕をよく知っている人物だから注意が必要だと思う。

 僕は母上から魔法を教えてもらったと嘘をついてるからな、母上と自分をよく知る人物を誤魔化せるのか?

 イルメラと並んで歩きながら心の中で悩んでいた……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 心の悩みを解決出来ない内に孤児院に到着してしまったが、予想外の人物を見つけてしまった。

 

「あれ?あの赤い髪の女性は……デクスター騎士団の?」

 

 孤児院の門を潜ろうとしたら二クラス司祭と話している女性を見つけたが僕達には気が付いていない。和やかに話しているみたいなのでトラブルはなさそうだ。

 彼女は迷宮で会った時とは違い控えめだが品の良いドレスを着て腰にレイピアを差している。

 基本的にニクラス司祭は横柄な貴族が嫌いだから彼と談笑出来るなら人柄的には悪い子じゃないんだな、なら何故デクスター騎士団の一員なのか?

 やはり貴族の柵(しがらみ)が関係しているのかもしれない。

 

「イルメラ、先客がいるから孤児院より先に教会に差し入れに行こうか?」

 

「そうですね……あの女の人は迷宮で会った……」

 

「ああ、デクスター騎士団の連中の一人だね。孤児院に何の用が有るのか分からないがニクラス司祭の顔を見れば悪い子じゃないのは分かる、だから大丈夫だろう」

 

 差し入れは孤児院の子供達用の焼き菓子と教会用の寄付金を持ってきたので先にお金を渡してしまおう。デクスター騎士団絡みは極力避けたいから今近付くのは止めにした。

 迂闊に顔見知りとなり迷宮内で挨拶なんかされたら連れの男達に絡まれそうだしな。

 教会で時間を潰して再び孤児院を訪れた時には彼女は既に帰っていたが、ニクラス司祭とは話す事が出来た。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 夕食を食べて風呂に入ってから私室に戻る。この部屋はかつて父上と母上が新婚時代に住んでいた時は寝室だったそうだ。

 何故か一人では広過ぎるベッドが部屋の真ん中に鎮座している。

 孤児院で見かけた女性について考える…・・・彼女は孤児院に定期的に寄付をしているそうだ。デオドラ男爵家のご令嬢らしいが孤児院の子供達にも優しく接してくれるらしい。

 貴族令嬢が孤児院の子供達と遊ぶなんて、常識的に考えたら相当ぶっ飛んだお嬢様だぞ。だからこそニクラス司祭が僕等に彼女を頼むと言ったんだ。

 寄付をしてくれる理由も街中で孤児達が奉仕活動をしている時に街のゴロツキ共に絡まれたのを助けて教会まで送ってくれたそうだ。

 そこで孤児院の状況を知って僅かながらと毎月寄付をしてくれる、ニクラス司祭の話ではデオドラ男爵家からではなく彼女個人の寄付らしい……

 知らない方が突き放せたが知ってしまっては難しい。

 

「やりにくいな……デクスター騎士団とは距離を置く心算だが、嫌味な連中かと思えば彼女の優しい一面を知ってしまった……モア教は友愛も教義の一部としているし何かトラブルに巻き込まれた時にイルメラは彼女を放っておけるか?いや無理だ、孤児院の恩人を見捨てる事は彼女には出来ないだろう。

僕が命令すれば従うと思うが、彼女の心に取り返しのつかない傷を付ける事になる……」

 

 前世も優しさという甘さに付け込まれて殺されたのに性格は生まれ変わっても早々変えられない、精々が最悪の事態にならない様注意するだけか……

 今は考えても仕方ないので思考を切り替えて魔力石について考える。

 食後のイルメラとの会話で魔力石について簡単な説明を聞いた。初めて魔力石に魔力を込めると言ったら作業に付き合うとまで言われたが、夜の私室に女性を招くのは駄目だ。

 魔力石は色により込められた量が分かるらしい。

 下級の魔力石は黄色に輝いたら満杯、上級は黄色からオレンジ色を経て緑色に輝いたら満杯。

 それ以上詰め込んだら砕けて終わりだそうだ。

 

「魔力は殆ど満タンだな。先ずは下級魔力石に魔力を込めてみるか……」

 

 下級魔力石を右手で握り締めて魔力を右手先に集めるようにする。グングンと魔力が喰われていくのが分かる。まるで砂に水を垂らしているみたいだ……真っ黒な魔力石は直ぐに黄色に輝きだした!

 

「未だ大丈夫だな。二つ目の下級魔力石に魔力を込めるか……」

 

二つ目も成功、三つ目も魔力石は黄色に輝きだした。

 

「未だ大丈夫だな、じゃ下級魔力石の残り全部に魔力を込めてみるか……」

 

 五つ目の魔力石が黄色に輝いた時に残りの魔力量が二割を切った感覚があった。僕の今の魔力量はリプリーの六倍くらいか?

 下級魔力石がレベル15の魔力量と同等と考えれば、自分の最大魔力量が他人とどれくらい違うかの目安になるな。魔力が枯渇しても寝れば全回復するし魔力量最大値は、なるべく魔力を使い切った方が伸びる。

 僕は上級魔力石を掴んで残りの魔力を注ぎ込む!

 上級魔力石が黄色に輝き少しオレンジっぽくなったところで意識を手放した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「もう朝か……」

 

 窓の隙間から差し込む太陽の光で目が覚めた。まだ五時過ぎくらいだろうか?

 手に握ったまま眠ってしまったが上級魔力石は少しオレンジっぽい輝きをしている。

 売値金貨五枚の下級魔力石が五つあるが、買取価格は幾らなんだろう? 金貨一枚程度なら迷宮に潜ってモンスター相手に攻撃魔法を打ち込んだ方が経験値も入るので良い。 

 金貨二枚以上なら売った方が儲かるかも知れない、レベル15の冒険者の日給ならそれくらいだし。でもピンチの時に魔力回復は必須だし売る奴は少なくないか?

 僕なら一日に5個として一ヶ月で150個、金貨一枚で売っても凄い儲けだ。

 だが普通に迷宮に潜ったら一日で金貨20枚は稼げるし経験値も入る、他の連中は一日1個で一ヶ月で30個、金貨30枚じゃ少ないな。

 多分だが魔術師や僧侶が魔力の余っている時に作り貯めて、売るか自分で使うかしてるのだろう。

 だから流通量も少なく需要はソコソコかな。

 魔力石を作って売るのは考えた方が良いな、沢山売ると余計な詮索をされそうだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 今日はギルドに寄らずに乗合馬車の発着場へ向かう。

 イルメラ謹製の昼食は今日もハンバーガーだ。切り分けせずに噛り付くぞ。

 やはりナイトバーガーは豪快に食べてこその男の食事だからね、行儀良く食べては味が半減するよ。

 そんな風に昼食の事を考えながら目的地に着くと『静寂の鐘』の連中が乗合馬車の列に並ばずに居た。む、待ち伏せか?

 

「おはよう、リーンハルト君、イルメラちゃん」

 

 リーダーのヒルダが、にこやかに挨拶をしてくるが笑顔が胡散臭く感じてしまう。

 

「おはようございます、『静寂の鐘』の皆さん。待ち伏せですか?乗合馬車の列にも並ばずに?」

 

 チクリと嫌味を混ぜてみたが表情一つ変えやしない、面の皮の厚い事で。

 イルメラが僕の服の袖を摘んで警戒している、僕の勘では悪い連中ではないがパーティを組むとか一緒に行動する程は信用していない。

 まぁ転生前は騙されて殺された僕の勘が正しいかは疑問だが、彼等からは嫌な感じはしない。

 

「そんなに警戒しないでよ。昨日の話がとても有意義だったってリプリーが喜んでたから、行きの馬車くらい一緒に行きたいと思ってね」

 

 魔術師としてのか?前回はポーラの盗賊としての情報提供の対価として話しただけなんだが……

 乗合馬車の列に並ぶと『静寂の鐘』の連中も後ろに並んできた。

 断る理由も無いので構わないのだが、ローブから覗くリプリーの瞳が気になる。アレは尊敬と言うか憧憬と言うか好意的だが厄介な方向が強い感情だ。

 

「お、おはようございます。リーンハルトさん」

 

 リプリーが両手を組んで祈るような感じで近付いてきたぞ。

 

「ああ、おはよう。リプリー」

 

「リプリーさん、おはようございます」

 

 イルメラさんの無表情さが怖いぞ、あの失礼だった『デクスター騎士団』の時も此処まで酷くなかったが……

 丁度順番が来たので馬車に乗り込んだのだが、イルメラが僕を奥に押し込んだ為に席順が僕、イルメラ、リプリー、ヒルダ、そして向かい側にポーラと男二人となり完全に『静寂の鐘』のメンバーに囲まれた。

 まぁ敵対してる訳じゃないから良いけどね……

 

「リプリーは魔力石を使っているか?」

 

 折角一時間も一緒なので魔力石について普通の魔術師がどう扱っているかを聞いてみる。

 

「魔力石ですか?夜寝る前に余った魔力を少しずつ貯めています。もしもの時に魔力を回復出来ますから」

 

 やはり自分の魔力回復の為に活用してるのか。

 

「売ったりはしないのか?ギルドで結構な値段を見て驚いたんだ」

 

 売値で金貨5枚なら買取価格によっては売る奴も多いんじゃないかな?

 

「うーん、命に関わるアイテムですから売らないですよ。アレは引退した魔術師や僧侶がお金を稼ぐ為に作ってるんです。

普通なら魔力石に込めるより迷宮で戦った方が効率良いですから……」

 

 なる程、予想通りだな。

 無闇に売ると疑われる可能性が高い訳だ、何故毎日迷宮に潜ってるのに魔力が余ってるのか?そんなに魔力が多いのか?

 弱い内に注目を浴びるのは止めた方が利口だな。

 

「僕もイルメラも同じ考えだ。他の魔術師が魔力石をどう捉えているかが知りたかったんだよ」

 

 ニッコリと笑いかけて礼を言う。イルメラ越しに見る彼女はフードを深く被っているので鼻と口しか見えないが笑っていた。


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