古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第123話

 ヒスの村でオークの討伐依頼を達成し暫くはバンク三階層のボスであるビッグボアを狩り続けた。

 ギルドポイントを稼ぐのも報酬を稼ぐのも討伐コースより迷宮探索コースの方が効率が良いからだ。

 ビッグボアのレアドロップアイテムの肝を20個納品すれば全員にギルドポイントが貰える、買取価格も肝が金貨五枚で獣皮は金貨一枚銀貨五枚と高い。

 四日間通い詰めてトータル160回ビッグボアを倒し肝を42個獣皮を30枚手に入れた、それだけで金貨二百五十五枚の収入になった。

 漸く全員がDランクになったので、これからは僕がCランクになる迄優先的にポイントを使わせて貰う。

 レベルも僕が28、イルメラが29、ウィンディアが26、エレさんが20となったので『ブレイクフリー』も中堅パーティの仲間入り。

 これからの方針は討伐部位証明で得られるギルドポイントを優先的に使い僕が早くCランク迄上がる事。

 当初は成人する前に何とかCランクになろうと計画したが予定より大分早く達成出来そうと喜んだが、父上とデオドラ男爵から呼び出しが入った。

 

 どうやら問題が発生したみたいだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 魔法迷宮バンクに通い詰めだったので二日間休む事にした、働き詰めは身体にも心にも良くない。

 適度な休暇は必要だし私用を片付ける事も出来る、先ずはイルメラを伴い父上に会いに実家に帰る事にする。

 

「リーンハルト様が実家を出られて一ヶ月、色々有りましたが早々に冒険者として一人前になりましたね」

 

「うん、イルメラの手助けが大きかったよ。僕だけだったらこんなに早く一人前には成れなかった、ありがとう」

 

 久し振りにイルメラと二人きりでの外出、立場上彼女はメイド服を着ている。

 今日は実家に帰るのでパーティメンバーとしてではなく僕専属のメイドとして行動する為だ。

 この場合、道を歩く時も彼女は一歩下がって僕の後ろを付いて来るので少し寂しい気持ちになる。

 イルメラは立場を弁えている素晴らしい女性なのだが、最近はずっとパーティとして仲間として行動していたので隔たりを感じて嫌なんだな。

 我が儘な感情を持つなんて僕も未だ餓鬼って事か……

 

「ディルク様は何と言われたのですか?」

 

「分からない、問題が起きて相談が有るから帰って来いとしか……父上が僕に相談しなければならない程の問題だ、覚悟は必要だろう」

 

 貴族の柵(しがらみ)に絡んだ問題だろう、未だCランクになってないのに問題発生とは人生はままならない物だな。

 

「そうなんですか……」

 

 黙って頷いたがそれ以降はお互い無言だった、難問が待ち構える実家に到着する迄は。

 毎月一回は実家に寄る様にエルナ嬢と約束したが結構な頻度で帰っている、大抵問題が起きて呼び出されているのだけど……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 久し振りの実家、直ぐに父上の執務室に僕だけ通された、人払いをしてると言われたのは此処での話は他人に言うなって事だ。

 渋い顔で父上が腕を組んで座っている、何から話せば良いか分からない風に……

 

「父上、また迷惑を掛けてしまいましたか?」

 

「お前は直ぐに自分が悪いと思うのだな……まぁ飲め、一人前の冒険者として認められているんだ、ワイン位は良いだろ?」

 

 既に用意されていたグラスに氷でボトルごと冷やしたワインを注いでくれたが、コレって父上の秘蔵の品だぞ。

 

「頂きます。コレって父上が大切にしているワインですよね?」

 

 一口飲めば辛口だが味わい深く飲み易い、余程の事が無いと開けないワインだ。

 

「長い話になるからな、だが祝い事でも有る。昨日、団長に呼ばれた。近々騎士団の遠征が有るのは知ってるな?」

 

「ライル様に?遠征の件は知ってますし先日冒険者ギルドから依頼を受けてヒスの村を襲おうとしたオークの群れを殲滅しました」

 

 若い個体の群れだった、少し不自然だったが未だ『春風』の女性達はヒスの村を護衛している筈だ。

 

「騎士団が調べているが、オークの異常繁殖には……ウルム王国が噛んでいる、正確にはウルム王国に逃げ込んだコトプス帝国の残党達だな。

お前も知っていると思うが十五年前の大戦後、国力の低下した我が国は敗戦国の国民に負担を強いた。重税に強制労働、妻や娘を手放す連中も多かっただろう」

 

 奴隷制度か……今でこそ五年位前に国力が回復し奴隷制度の廃止と解放令が発せられたので表面的には奴隷は居ない。

 彼等は酷い条件下での重労働を強いられたが解放された後は旧コトプス帝国領に戻された筈だ。

 未だ荒廃する旧コトプス帝国領には冒険者達でさえ立ち入らない場所も多いし、彼の地を領地とした貴族達は治安維持に苦労しているそうだ。

 

「そこまでして漸く国力を戦前の水準まで戻した、いや戻せたと聞きます。それがオークの異常繁殖と……まさか?」

 

「そうだ、奴等は女奴隷達を大量に手に入れてオーク共に与えた。この異常繁殖は人の悪意が籠められている、そしてビーストティマーが一枚噛んでいる、容易じゃない相手だ」

 

 人工的に繁殖させたオーク共をビーストティマーが操りエムデン王国領内へと侵攻させる、嫌な手段を用いるな。

 向こうには人的被害は無いが此方は大有りだ、奴等が人を攫い繁殖し又攻めてくる、負のスパイラルだ。

 

「それで騎士団と冒険者ギルド本部にも応援の要請をしたのですね。一気に奴等を殲滅し、その後にウルム王国に戦争を仕掛けるのですか?」

 

 証拠が有るなら一気に攻めるのだろうか?国力も回復した今なら報復も可能だろう、また戦争を始めるのか……

 

「戦争は国家としての最終手段だ、その手前に幾つもの方法が有る。

政治的な落とし所を外交で探すのだ、幸いバーリンゲン王国とは婚姻外交を結んだ事によりウルム王国に対して表立って協力はしないだろう。

ウルム王国も一枚岩じゃない、コトプス帝国の残党と対立している勢力も有るので攻め所も多い。滅んだ国の亡霊など時間を掛ければ排除出来るだろう」

 

 なる程、ウルム王国の中にも何時までも滅んだ国の影響を受けたくない連中が居るんだな。

 バーリンゲン王国は婚姻外交で取り敢えず押さえたから後はコトプス帝国の残党を始末すれば良い。

 国家間の抗争は300年経っても変わらないし終わらないのか……

 

「このワインは我が国の未来は明るいという祝い酒ですか?」

 

 父上の渋い顔と秘蔵のワインと国家間の抗争、繋がらないのだが?

 話しながらもワインを飲んでいるので既に互いのグラスは空になり父上に注いで貰った、残念ながら美味い酒を飲みながら話す内容では無かったな。

 

「違う、前置きとしては長かったが必要な話だったんだ、本題はこれからだぞ。

エムデン王国聖騎士団団長から直々に話が合った、ザルツ地方に異常繁殖したオークの討伐を騎士団と冒険者ギルド本部が連携して行う。

俺の後継者としてインゴを参加させろとな。お前はデオドラ男爵の一族枠で参加になるだろうが、インゴの力になってくれ」

 

「ライル様から直々にですか!それはおめでとうございます。

父上の後継者として正式ではないけど公に認められた事になりますね、騎士団の方々にも事実上の後継者として受け止められるでしょう。

勿論、影ながら手助けはします」

 

 エムデン王国聖騎士団団長の意向は重い、直々の指名は事実上の後継者決定に等しい。

 少し優し過ぎるインゴを下に見ている連中も騎士団団長が認めたならば何も言えない、これで僕の廃嫡を止める連中は居ない。

 僕は力を示してしまったから血筋は悪くても後継者にと言い出す連中の口は重くなる、インゴの為にも良かった。

 途端に苦く渋く感じていたワインが美味く感じるのは現金な舌で呆れる。

 

「それとだな、アレだ……お前に新しい家族が出来た」

 

「は?側室でも迎えましたか?それとも養子縁組を?」

 

 エルナ嬢とは上手くいっていたと思ったが、父上も現役の男って事か。デオドラ男爵も子沢山の本妻の他に側室や妾が……

 

「勘違いするな、バカ者が!エルナが懐妊した」

 

「そ、それはおめでとうございます。勘違いしてしまい申し訳ないです」

 

 夫婦仲は円満、女盛りのエルナ嬢に対し父上も現役の男だった訳だ。そうか、新しい家族……弟か妹が生まれるのか!

 

「お前、そのニヤニヤは何だ!お前だって他人事じゃないんだぞ。ジゼル嬢との婚約により件数は減ったが側室や妾って話も来ているんだ!」

 

「結婚も未だなのに側室や妾なんて要りません!」

 

「男の甲斐性を見せろ、もう十分に一人前だろう!」

 

「お仕着せの側室や妾は嫌なんです!」

 

「エルナが厳選してる、問題は無い!」

 

 暫く久し振りの親子喧嘩をした、本当に久し振りだ父上と口喧嘩なんて……

 お互い怒鳴り過ぎて喉が渇いたので高いワインを一気に煽る、本当に勿体無い飲み方だ。

 

「エルナはお前に家庭の幸せを味わって欲しいそうだ、家を追い出す事に負い目を感じているんだ」

 

 父上の空のグラスにワインを注ぐ、無くなったので空間創造から新しい一番高いワインを取り出す。

 

「いえ、本当に十四歳の子供に女性を紹介してどうしろと?それに僕は大切に思ってる女性が居ます、今直ぐに結婚とは考えられませんが相手は自分で探します」

 

 ワインの栓を抜いて自分のグラスに注ぐ、僕はイルメラを……

 

「ジゼル嬢じゃないんだろ?デオドラ男爵がもう一人の愛娘のアーシャ嬢でも構わないと言ってたぞ。

相当デオドラ男爵に気に入られたみたいだな、遠征もお前と二人で参加すると言っていた。何て言うか既に後継者扱いだと思うが多分だが牽制だな……」

 

「牽制?誰にですか?」

 

 他に勧誘されている派閥は無い筈だ、冒険者としてなら引くて数多だが貴族関連となると……

 

「バルバドス殿、アンドレアル殿、ユリエル殿の三人が、お前を宮廷魔術師に推薦したいと申し込まれた。現役宮廷魔術師達からだぞ、お前何をしたんだ?」

 

 アンドレアル様のアホな息子(フレイナル)をブッ飛ばしました、しかもニーレンス公爵の愛娘メディア嬢を我が姫と呼んでエルフのレティシアに正体がバレました!

 なみなみと注がれたワインを一気に煽る……

 

「色々、本当に色々有りまして……

ニーレンス公爵の愛娘メディア嬢に絡んだアンドレアル様の御子息フレイナル殿を諫めて、諫める為に少々手荒な、いえ魔術師として模擬戦をして勝って丸く収めたのです。

因みに宮廷魔術師にはなりません、自由気ままな冒険者として生きて行きたいのです」

 

 バルバドス師匠には膝を突き合わせた話し合いが必要だ、宮廷魔術師に推薦なんてお断りなのだが僕の周りを固めて来たぞ。

 明日にでも会いに行こう、塾生として弟子として自由に屋敷にお邪魔して良いと言われているからな。

 

「詳細は聞いたし内々にアンドレアル殿から詫び状も貰っている、仕方なかったのも確かだ。

もしメディア嬢に何か合ったら無関係では居られなかっただろう、お前も苦労が絶えないな……まぁ飲め、今夜は泊まっていけ」

 

 父上の愛が身に染みる、空のグラスを差し出すと溢れんばかりにワインを注いでくれる。

 

「父上、本当に宮廷魔術師の件はお断り下さい。僕では宮廷魔術師団員となり下積みを経て推薦の流れでしょうが、派閥や年功序列等の柵(しがらみ)の強い世界です。

自由に生きたい僕には国家の籠の鳥は嫌です……」

 

 父上に迷惑を掛けたくはないがバーレイ男爵家から宮廷魔術師が輩出されそうと聞けば騒ぎだす馬鹿が出て来るのは明らかだ。

 アルノルト子爵家もエルナ嬢が第二子を身籠ったとなれば父上への影響力も増える。

 

「分かった、その事は団長とデオドラ男爵からも言われている。大事にされてるな、いや期待されてるのか」

 

「そうですか、そうですね、僕は……」

 

 あの人達に……

 

「あなた、何時まで執務室に……あなた?」

 

「あっ、ああ、エルナか、これはだな」

 

「親子二人きりで朝から部屋に籠もってお酒をお召しになって……リーンハルトも幾ら一人前と認められたからと言っても堕落し過ぎです!」

 

 二人揃ってエルナ嬢に叱られた。

 


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