古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

122 / 1000
第122話

 王都近郊で発生しているオークの討伐依頼を請けた、大元はザルツ地方らしいがそれよりも大分王都に近いヒスの村からも目撃例が有り依頼が出ていた。

 依頼を請ける時に一寸したトラブルが有りヒスの村の手前で夜営をしたが、深夜にオークの群れを見付けて殲滅した。

 未だ若い三歳未満の群れだったが総数は三十四匹と平均以上の数だったが、リーダーが経験不足の未熟故に大事には至らなかったのが救いかな。

 

 このオークの異常繁殖は何か変だ、同じ年齢の個体が多いって事は繁殖用に攫われた女性も多い筈だが、そこ迄の被害届は出ていない。

 奴等の繁殖力は異常で孕ませてから四ヶ月で子供が生まれる、年に三回は繁殖出来るが百人以上の被害者が居なければ方々で目撃される個体数の多さに辻褄が合わないんだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

日の出と共に朝食の支度を始めたイルメラ達をボンヤリと眺める、野菜多目のスープパスタにパンケーキがメニューらしい。

 

 エレさんは眠れなかったらしいが気持ちの折り合いは付いたみたいだ。

 冒険者として最初から覚悟していたのに、いざ直面すると参ってしまったと恥じていた。

 転生前に散々戦争を体験した僕や冒険者としてDランクのイルメラ、それに武闘派の重鎮デオドラ男爵家に仕えていたウィンディアは既に気持ちの整理は出来ていたんだ。

 豪商マテリアル商会の会長に母親が妾として囲われていた彼女も母親と同じく大切に扱われていた、命のやり取りなんて無縁な生活だったろう……

 未だ顔色の悪い彼女が隣に座り頭を胸に押し付けて来たので軽く肩を抱いた、ピクリと反応したが動かずそのまま目を閉じたので朝食の準備が終わり呼ばれる迄はそのままにしていた。

 

 イルメラさんとウィンディアさんの目が怖かった、後でエレさんに謝罪される位に……

 

 兄弟戦士曰く修羅場って奴らしいがハイライトの消えた瞳で無言で見られるプレッシャーは半端無い、オークの群れに単騎で突撃した方がマシだ。

 今生きている事をモアの神に感謝しなければ駄目だろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ヒスの村は典型的な農村で村の周りに麦畑が広がっている、他に特産物として養蜂を営み比較的村人は裕福だ。

 人口は約三百人、領主はエムデン王国に七家しかないラデンブルグ侯爵でザルツ地方の七割近くを領地としている。

 代官はループの街に館を構えて三十人の警備兵と共に常駐している……なのに冒険者ギルド本部にはループの街も常駐警護の依頼が出ていた。

 戦力温存か警備兵だけでは対処不可と思ったのか……

 ヒスの村の手前で錬金の馬車と馬ゴーレムを魔素に還す、変な詮索をさせない様に一応気を遣う。

 麦畑の中を歩いていると昨晩の事が悪夢だと錯覚する程の長閑さだ……

 青々とした麦穂が風に揺られて一層長閑さを感じさせる。

 因みに通常の麦は種蒔きから収穫まで十ヶ月掛かるが、ザルツ地方の麦は品質改良のお陰で半分の五ヶ月で収穫出来る。

 この辺は雨が少なく気温も一定な事が原因らしいが、下手に調べるとラデンブルグ侯爵に睨まれるからしない。

 暫く進むと板塀と丸太で作った馬防柵で囲われたヒスの村が見えた、門には数人の男達が手に武器を持って警備しているが装備がバラバラだから冒険者か村の護衛団かな?

 近付くと警戒して周りを取り囲む様に動いたので、依頼書を出して見せる。

 

「おはようございます、オーク討伐依頼を請けた『ブレイクフリー』です。村長に会いたいのですが……」

 

 男達の中で一番の年配者が依頼書を受け取り中身を確認する。

 

「確かにウチから依頼した内容だな、常駐警護じゃなくて討伐で大丈夫なのか?見れば僧侶や魔術師ばかりだが若過ぎるだろう。俺がヒスの村長のセタンだ」

 

 村長自らが警備に出るって人手不足と見るべきか腕っぷしに自信有りと見るべきか……

 

「僕がリーダーのリーンハルトです。昨夜ヒスの村の手前の街道沿いでオークの群れを見付けて殲滅しました。死体は全て空間創造に収納してますので確認をお願い出来ますか?」

 

「何だと?既に討伐済みって本当なのか、嘘じゃないのか?」

 

 結構本気の目で僕等を見るが信用されてないみたいだな。確かに十五歳前後の少年と美少女だけの不思議パーティだから当然か……

 

「この街道を5㎞程進めば昨夜の戦闘の痕跡が確認出来ますし左側の森に入れば奴等の巣の跡が有ります。生存者は居ませんが旅人か村人の一部は残ってました……」

 

 散乱した持ち物と骨の一部だけだがヒスの村人も居たかもしれない、細かくは調べてないので何とも言えないけれども。

 

「そうか、行商に出た何人かが戻って来てないのだが……良かろう、倒したオークを確認させて貰おうか」

 

「此処でですか?並べるのに苦労しますが」

 

 少しだけ表情を変えた、子供がオークを倒したと言っても大した数じゃないと思ってるな。

 此処も広いが村の入口にオークの死体を積んで良いのか判断出来ない。

 

「そうか、では中央広場に行くか」

 

 そう言って先に歩いて行くセタンさんの後を追い掛ける、早歩きでドンドン先に進むから小走りになってしまう。

 中央広場に着く頃には噂も広がってしまったのか結構な人集りが出来ていた、あの緑色の皮鎧を来た女性パーティも既に居て此方を伺っているな。

 

「此処で良いか?」

 

「では一緒に確認をお願いします、一体……二体……三体……」

 

 丁寧に向きを揃えてオークの死体を並べて行く、最初は騒ついていたが十体を過ぎた所でヒソヒソ声になり二十体を過ぎたら完全に沈黙した。

 

「これがリーダーで最後です、全部で三十四体全て若い個体で構成された群れでした。

討伐証明部位は切り取りますが、残りは引き取って貰えますか?今なら奴等の使っていた武器も付けますよ」

 

 武器と言っても殆どが棍棒でメイスやアックスは少しだ、でも村では貴重な資源になるだろう。

 オークの死体も脂肪は燃料油として肉や骨も利用価値は高い、厳しい生活環境の中では捨てて良い物など少ないのだから……

 

「驚いたな、Dランクの依頼で来たパーティとは思えない。魔術師二人、火力特化パーティならではか……

オーク共の死体は一体銀貨五枚で良いか?武器はサービスして欲しい」

 

 素早く銭勘定したのだろう、オーク一体銀貨五枚は相場より銀貨一枚安いし武器込みも強欲だ。だが全部で金貨十七枚は悪くない稼ぎだ……

 

「武器込み金貨二十二枚、嫌なら持ち帰ります」

 

 だが買い叩かれるのは舐められているみたいで嫌なので相場の値段を提示する、一発交渉値引きはしない。

 暫く考え込んでいる、エレさんが手際良くオークの討伐証明部位で有る鼻を切り取り終わったみたいだ。

 

「今回は残念ながらですかね?では収納しますから依頼書の方にサインをお願いします」

 

 別に空間創造に収納しておけば必要な時に取り出せるので売買に拘る必要は無い、他でも売れるし最悪はモンスターを呼び寄せる餌にしても良い。

 空間創造から依頼書とペンを差し出す。

 

「せめて切り良く金貨二十枚で頼めないか?」

 

 渋い顔で小刻みに値切ってくる、財源が少なく大変なのかもしれないがそれは相手の事情だから……

 

「相場を下回る取引はしません、此方にサインを」

 

「しっかりしてやがる。金貨二十二枚だな、手持ちが無いから金を取ってくる」

 

 サインを確認して依頼書を空間創造にしまう、これで完了だから早く王都に帰ろう。今から帰れば夕方には着くから明日も依頼を請けれるな。

 

「了解しました、僕等は此処で待ってます」

 

 握手をして契約成立を互いに認め合ってからセタンさんが自宅に向うのを見送る、さて接触してくる連中をどう捌くか……

 血生臭い場所に留まるのは嫌だがセタンさんが戻る迄は此処でコレを見張っていなければならない。

 右手の親指と中指を使いパチンと鳴らして一瞬でテーブルと椅子を錬金すると周りが騒ついた。

 

「座って待とうか?」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 遠巻きに僕等を見ている連中は五十人以上、未だ増えている。

 殆どが村人だが冒険者ギルド本部で見掛けた連中も何人か居る、果たして接触してくるか……

 空間創造から紅茶セットを取り出すとイルメラが皆に注いでくれる、場違いに芳醇な香りが漂う。

 

「あの、余裕なんですね?この場でお茶を飲むなんて普通出来ませんよ、私達は『春風』で私はリーダーのフレイナよ」

 

 人当たりの良い笑顔、気の弱そうな雰囲気、パーティ名も穏やかで事前に受付嬢から聞いていなければ第一印象は良い人と感じただろう。

 勿論、受付嬢の言葉を鵜呑みにはしてないが……

 

「僕等は『ブレイクフリー』です、宜しくお願いします。昨日から長距離移動に夜間襲撃と立て続けて疲れたので少しでも休みたいんですよ」

 

 おざなりな笑顔を張り付けて応えた、疲れたから放っておいてほしい感じを滲ませて。

 エレさんはテーブルに突っ伏して寝てるしイルメラとウィンディアは無関心に紅茶を飲んでいる、彼女達にしたら結構居たたまれない反応だ。

 この失礼な反応にどう対処してくるかで彼女達の本質が分かると思う。

 嗚呼、ジゼル嬢のギフトの有効性が分かるな、彼女なら一発で見抜けるのだから……

 

「ふふふ、それは大変でしたね。今夜はヒスの村に泊まるのでしょ?良い宿を紹介しますよ、料理がとても美味しいんです」

 

 友好を深める方針かな?しかし善意で言ってくれていると思うぞ、本当に他人に寄生するのだろうか?

 

「有難う御座います。残念ですが直ぐに王都に帰りますので大丈夫です」

 

 申し訳なさそうな表情をして断る、善人であろうと悪人であろうと関わらなければ関係無い。

 やんわりと断ったつもりだが相手は表情も変えない、笑顔のままなのが不思議に思う、普通は怒ったり残念がったり悲しんだりしないのか?

 拒絶されても笑顔を絶やさないとは期待してなかったか、或いは作り笑顔か……

 最初から人を疑うのは嫌な気持ちになる、ギルド本部の職員が嘘を言うとは思えないから彼女達の悪い噂は本当なのだろうけど。

 

「無理してない?少し休まなくて大丈夫?なんなら私達が……」

 

「待たせたなって、テーブルと椅子なんて何時持ち込んだんだ?」

 

 何か言い掛けた所でセタンさんが現れたので中断された、その時に顔を顰(しか)めて直ぐに笑顔に戻ったのを見逃さなかった。

 

「錬金ですよ、確認させて下さい……金貨二十二枚確かに頂きました。では失礼します、『春風』の皆さんも頑張って下さい」

 

 一礼して全員が立ち上がったのを確認しテーブルと椅子を魔素に還す、結果的には短期間でギルドポイントと報酬を得る事が出来た。

 

「今から帰るって本当なの?乗合い馬車は早朝に出てしまったわよ!」

 

 初めて表情が焦りに変わった、やはり友好を深めるつもりだったのかな?同じ宿で寝食を共にすれば結構早く打ち解けられるから……

 

「ああ、移動手段は有るから平気なんです。昨日の朝、王都の冒険者ギルド本部に居ましたよね?また会えますよ」

 

 笑顔で手を振りそのまま村の外へ歩き出す、昨日の朝に僕等が依頼を請けた後に直ぐに同じ依頼を請けた事を知っているって匂わせる。

 別に脅威は感じない、適度な距離を保てば良いだけだ。この先同じ様な連中も現れるだろうし彼女達は直接何かした訳でも無いから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「あらあら、振られてしまったわ」

 

「私達の事を知ってる口振りだった、でも逃すには惜しいわね。まさか一晩でノルマを達成して引き上げるなんて……」

 

 全くだわ、十日間有れば仲良くなって警戒心を外させる事も出来たのに、これじゃ私達がヒスの村に十日間拘束されただけ。

 攻めてくる筈のオークは討伐されたから、この依頼は日数を消化するだけの安全な依頼となった。

 本来の目的は果たしたけど、上手くしてやられた感が半端無いわね。

 

「ふふふ、暫く『ブレイクフリー』に狙いを定めましょう。

私達もう少しでCランクになれるのよ、後少しだけ安全にポイントを稼ぎたい。彼等には内緒で手伝って貰いましょうね?」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。