古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第121話

 冒険者ギルド本部にて新しい依頼を請けた、最近頻発するオークの討伐依頼だ。

 ヒスの村周辺で度々オークの目撃例が有り警護と討伐の二通りの依頼書が掲示板に貼られていて、僕等は討伐を選んだ。

 その後に同じ依頼を何組かのパーティが競って依頼書を奪ってたが、彼等は僕等に便乗し安全に楽に報酬とギルドポイントを手に入れる依存系。

 受付嬢から特に気を付けなければ駄目なパーティを教えて貰った、一見優しそうな雰囲気を醸し出しているが曲者らしい。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「では、この依頼書にヒスの村の村長に確認のサインを貰って下さいね」

 

 にこやかに油紙に包んだ依頼書を差し出す受付嬢に笑顔で応える。

 

「有り難う御座います」

 

 依頼書を空間創造に収納し冒険者ギルド本部を後にする、今回は乗合い馬車でなく錬金馬車を使う事にする。

 流石に王都の中での使用は憚れるので城壁を出てからだな、時間も有るし歩いて行くか……

 

「城壁の外に出たら馬ゴーレムと馬車を錬金するから、歩こうか?」

 

「天気も晴れて気持ちが良いですね」

 

「馬車に乗ったら座りっぱなしだから歩こう」

 

「……了解」

 

 女性陣も乗り気なので大通りを並んで歩く、早朝だけど結構な人通りだ。

 綺麗に整備された石畳を歩くが気を付けないとスリや引ったくりが偶に現れるらしい、裏通りなら普通に居るけどね。

 治安が良いとは言っても悪い奴等は何処にでも居るんだよな……

 擦れ違う人達を警戒しながら歩く、最も貴重品は全て空間創造の中だから大丈夫だ。

 乗合い馬車の停留場を通り過ぎて城門へと向かう、視界の隅に冒険者ギルド本部から後を付けてきた連中が慌てている。

 僕等が乗合い馬車を利用してヒスの村に行くと思ったのだろう、予定が狂って慌てているのは滑稽だ。

 多分だが乗合い馬車に同乗し色々と接触するつもりだったのだろう。あの閉鎖空間は逃げ場も無いから危なかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 城壁の外に出て暫く歩いて擦れ違う人が居なくなってから馬ゴーレムと馬車を錬金する、焦げ茶色は遠目では普通に見える。

 

「乗ってくれ、出発しよう……って、何故ジャンケンしてるの?」

 

 無言で拳を突き出す三人を不思議に思う。

 

「ヤッタ!私が一番目ね」

 

「二番目は私」

 

「私は最後ですか……」

 

 どうやら何かの順番を決めたらしい、見張り番だろうか?御者台に上るとウィンディアが隣に座った、どうやら見張りの順番らしい。

 

「リーンハルト君、出発だよ!」

 

 元気よくスタッフを前に突き出したが、そんなに張り切らなくても見張り番は逃げないぞ。

 

「む、分かった。そんなに見張り番がしたかったのか?」

 

「え?リーンハルト君、それ本気で言ってる?」

 

 本気で呆れた顔をしているが、僕は何を間違えた?教えてくれ兄弟戦士!何だと、微笑み掛けろって?呆れられて笑えって意味が分からんぞ、自虐か?

 

「で、では出発しようか……あの、アレだ。ははは、ウィンディアが隣に居てくれて嬉しいよ」

 

「えへへ、そうかな?」

 

 ぎこちない笑いだが正解だったみたいだ……

 馬ゴーレムに命令を送り歩き出す、街道沿いはかなり先まで田畑になっており見通しも良く襲撃される事も無い、安心してスピードを出す。

 

「リーンハルト君、ヒスの村にはどれ位で着くかな?」

 

「そうだな……王都から約60㎞って所だから七時間、休憩を含めて九時間位だから向うに着くのは夕方六時過ぎだね」

 

「野生のオークは夜行性、探索は昼間よね?着いたら宿を取って休むにしても他の連中に絡まれないかな?」

 

 討伐依頼としてもヒスの村にオークが攻めてくれば戦わなければならない。それは当然、村人を守る為に探索して討伐するのだから戦わなければ本末転倒だ。

 

「つまり討伐依頼を請けたのに夜の警戒にも駆り出されるって事?でもオークが今晩攻めてくるか分からないし、攻めてくれば殲滅すれば良いだけだよ」

 

 警戒するのは分かる、あの手の連中は厄介事と責任を押し付けてくるから。だがオークが攻めてくれば手間は省ける。

 

「そして警護に参加したパーティは全員任務達成だよ、意地悪するつもりは無いけど簡単に利用出来ると思われるのは嫌なの。

甘く見られれば次も付き纏われるし同じ様な連中も寄って来るわ」

 

 成る程、確かに甘く見られれば同じ様な連中が集まってくる可能性は高い。彼等に同じ依頼を請けるなとは言えない、合法だから……

 

「ヒスの村の手前で夜営して翌朝からオークを探そう、退治してからヒスの村に行けば良い。

依頼はオークの群れの討伐でノルマは最低二十匹、倒した奴は空間創造にしまって報告時に村長に見せれば良いだろう。

討伐証明部位は切り取るが死体は村に献上すれば良いな、利用価値は有るみたいだから……」

 

 ラコック村でも出来れば死体が欲しいって頼まれたからな、ギルドは買い取ってくれないから丁度良いだろう。

 

「そうしようよ!夜営ならデオドラ男爵家秘伝の野戦食の出番だね、腕を振るうから期待して!」

 

「ああ、楽しみにしてるけど量は考えてくれ。僕も世間一般的には少食の類だよ」

 

 彼女の作る料理は美味いが唯一野戦食となると量が半端無くてスープだけで満腹になる。

 拳大の肉の塊に丸ごとジャガイモの入ったスープ、サラダはキャベツ半分、パンも特大と大変男らしいんだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 大分自然な動きが出来る様になった為か馬ゴーレムと気付かないで擦れ違う人達も増えて来た、目立つ事も少しは減るだろう。

 既にヒスの村の5㎞位手前まで到達したが未だ日は沈んでいない、午後四時を少し過ぎた所だ。

 街道沿いに小川が流れ林の先が小高い丘になっていて周囲を警戒するのに丁度良い地形。

 丘の上まで移動すると眼下に王都から追って来ただろう乗合い馬車が見えた、アレに冒険者ギルド本部で見掛けた連中が乗っているのだろう。

 自分達が先にヒスの村に着いたと知ったらどうするのだろうか?

 数組のパーティが依頼を請けているから村の守りは大丈夫だろう、しかし被害が出る前にオークの群れを探さなければ駄目だな。

 

「さて見晴らしの良い丘の上だから近付く敵は見付けやすい、防衛陣地の構築は最低限で良いか……」

 

 障害物が無く周囲50m位は見渡せるので早々不意討ちは受けないから光源の確保だけすれば大丈夫かな?

 視界の隅では女性陣が夕食の準備を始めている、空間創造に熱々の料理が多数用意してあるが野外で料理し食べるのも楽しく美味しいそうだ。

 肉や野菜を適当な大きさに切り揃えて串に刺し、塩と胡椒で味付けをして網焼きにする豪快で簡単な料理だが確かに美味しそうだし野外で食べ易そうだな。

 因みに分担は食材を切るのがイルメラ、串に刺すのがエレさん、焼くのがウィンディアだ。

 エレさんは余り料理をした事が無いらしく、イルメラに教わっているのを良く見る。

 手先が器用なので野菜の皮向きとかは上手いが味付けに苦労してるみたいだ、こればかりは経験と慣れらしいから徐々に上手くなるだろう。

 周辺に良い匂いが漂い出した、僕も自分の分担のテーブルと椅子を錬金するか……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 肉と野菜の串焼きは素材の旨味が引き出された美味しく手軽な料理だった、塩と胡椒のみの味付けだが自然の中で食べる事もプラス要素だろう。

 寝床は馬車をそのまま使い二人交代で見張りをする事にした。

 

「リーンハルト様、寒くないですか?」

 

「ん?大丈夫だ、毛布も有るし暖かいよ」

 

 毛布に包まり御者台に並んで座る、端から見れば見張り番というよりは恋人の語らいだな。

 半径50mに魔法の灯りを点しているので近付いてくる連中が居れば早期に発見出来るし待機モードのゴーレムポーンが十体馬車を囲んでいる。

 

「月が綺麗ですね、雲一つ無いので夜なのに明るい……」

 

 そう言ってイルメラが体重を掛けずに肩を寄せてきた、少し甘い彼女の匂いが鼻腔を擽る。

 

「イルメラ、僕は……ああ、ウィンディアの予想が当たったな。今晩ヒスの村で過ごしたら護衛連中と共闘する事になったよ」

 

 眼下の街道に向かい側の森から現れる黒い影が増えている、その数は三十を上回る。

 

「ヒスの村を襲う気ですね」

 

「そうだ、僕はゴーレムで先行する。皆を起こして警戒しながら合流してくれ!」

 

 御者台から飛び降りて丘を駈け下りる、空間創造からカッカラを取出し残り50mの距離で立ち止まる。

 オーク達は僕に気付いてたのか此方を向いて威嚇する様に奇声を上げたり武器を振り回したりしているが、少年一人とみると欲望にギラついた目で僕を見る……若く柔らかい肉が来たから喰いたいってな!

 

「クリエイトゴーレム。不死人形よ、無言兵団よ、ゴーレム戦の真髄を見せてみろ!」

 

 街道一杯に広がったオーク達が一斉に僕に向かって来るが横一列に二十体のゴーレムポーンを両手持ちアックス装備で錬成、突撃させる。

 オーク達のリーダーを探すが突き抜けた個体は居ない、統制も取れずにバラバラに突っ込んでくるので第一陣を抜けて五匹が僕に向かって来る。

 剥き出しの牙で威嚇し手に持つ棍棒を振りかぶる……

 

「残念だな、第二陣も居るんだ!」

 

 涎を撒き散らしながら突撃してくるオーク達の前にゴーレムポーン二十体を錬成する、出し惜しみは無しだ。

 

「リーンハルト様、先走り過ぎです」

 

「そうだよ、私達を待ってて下さい」

 

「悪い、でも逃げ出されたらゴーレムポーンじゃ追い付けないと思ったんだ。だが……」

 

 殲滅したオーク達を改めて確認する。全てが若い個体だ、大きさや肌の張り、汚れや染みが少ない、精々が三歳前後だろう。

 リーダーは群れの中心に居た奴だと思う、周りに指示を出したり最後に突撃したりと何て言うか……らしい動きをしていた。

 

「若い個体ばかりの群れだった、リーダーが指揮していれば苦境になれば逃げだすと思ったんだ。だが経験の乏しい腕っぷしが自慢のリーダーだったな。

討伐証明部位の切り取りは後にして空間創造に収納するよ、エレさんギフトで周囲の探索を……」

 

「もうしてる、探索圏内には居ない」

 

 周囲に立ち込める血の臭いに胸がムカムカするが唾を飲み込んで堪えてオークの死体を空間創造に放り込む。

 奴等は街道に沿った森から出て来た、つまりこの先に巣が有る可能性が高い。

 つまり攫われた被害者も居る可能性が高い、出来るだけ早く確認しなければならない。

 

「奴等が出て来た森の中に入る、巣が有れば攫われた被害者が居るかもしれない、覚悟してくれ」

 

 僕の言葉にイルメラ達の表情が曇る、繁殖と食用に人を攫う連中の巣に行くのは覚悟が要る、だけど目を逸らす訳にはいかない。

 ゴーレムポーン四十体に周辺を警護させながら森へと入る、奴らも木の枝や背の高い草木を切ったり踏み締めて通って来たので大体の方向は分かるのが救いだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 200m程進むと森の中にポッカリと開けた空間が現れた、30m四方の草木は倒されオーク達が腹を満たした残りが無造作に散らばっている。

 

「酷い、こんな事……」

 

「オークは種を滅ぼす必要が有るのよ」

 

「……酷い」

 

 街道を通る旅人でも襲ったのだろうか皮鎧やブーツ、マント等が引き裂かれた状態で散乱している。

 人間以外にも鹿や熊の残骸も有る、あの数の群れの胃袋を満たすのにどれだけの犠牲者が居たのか分からない。

 だが本格的な巣じゃない、奴等は洞窟や平地にも巣を作るが見掛けによらず器用だから必ず牢屋を作る。

 攫った人間が逃げ出さない様に繁殖部屋と食料庫をだ……

 

「異常繁殖で若い個体の群れが街や村を襲っているんだ、騎士団も近々動くから何か情報を掴んでいるのかもしれないね」

 

 明朝ヒスの村に討伐結果を報告して依頼書に達成サインを貰ったら、この事も教えよう。

 

「戻って少し休もう、明朝ヒスの村に報告に行くよ」

 

 エレさんが口元を押さえて踞っている、流石にモンスターと違い人の死を間近で感じたから初心者にはキツいだろう。


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