古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第120話

 偶然冒険者ギルド本部で『野に咲く薔薇』の三人に会い、ニケさんの鎧兜のメンテナンスをしに彼女達の家に招かれた。

 商業区に有る個人経営の武器屋の二階を間借りしていたのだが、着くなり武器屋の親父に絡まれた。

 曰く装備品のグレードがレベルに合ってないから皮鎧に替えろって事だ、職人系頑固親父によく居る俺が作った物は俺が認めた奴にしか使わせないタイプ。

 それはそれで良い、自分の顧客に対してなら納得しても……

 だが自分が作って装備している物にまで文句を言いやがった!

 

『その鎧兜が泣いてるんだよ!どうせ親の脛を噛って買って貰ったんだろ?』

 

 父上に迷惑を掛けない様に独立して頑張っているのに酷い偏見だ。

 確かに腕は良いみたいで店に並んでいた武器や防具の質も高く安価だったが暴言を許す気は無い、僕も土属性魔術師で錬金を得意とする職人系魔術師なのだから根本を否定されたんだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 メンテナンスを終えたハーフプレートメイルを着て貰い微調整を行う、半月程度でサイズが変わる事も無いので特に問題は無い。

 ラウンドシールドは腕に固定する金具の微調整を行い自前のロングソードを固定する金具も調整、完璧だ!

 

「はい、終了です。上級魔力石は二つ予備を渡しておきますが、多分市販品でも問題無いでしょう」

 

 ニケさんはニヤニヤして鏡に向かってポーズを取り出したので、アグリッサさんに説明して渡す。む?睨まれてるが何かしただろうか?

 

「むぅ?なんか狡い……いや、ニケが羨ましい」

 

「そうね、君にそこ迄して貰えるなんて羨ましいわ」

 

 そうだった、パーティメンバーの一人だけ優遇するのはメンバー内の不和を招くかな?

 幾ら守りの要とは言っても戦士系の連中は装備品に拘るからな。

 

「良かったらお二方の分も作りましょうか?」

 

同じグレードの物なら構わないだろう、デオドラ男爵にも作る訳だし何れ広まるなら問題は少ない筈だ。

 

「「是非ともお願い!」」

 

「近い、近いです。もっと離れて下さい」

 

 両手を握って迫ってくる程嬉しかったのか、それともニケさんが羨ましかったのか……多分後者だな。

 

「では先ずはアグリッサさんからですが、ニケさんと同じハーフプレートメイルで良いですか?」

 

「全然OK、でも意匠は変えてね」

 

 同じデザインは嫌って事か……同じパーティだから三人共同じデザインにする予定だったけど女心は分からないな。

 両手を前に突き出して周囲に溢れる魔素を集め目の前に立つアグリッサさんの身体をイメージして部品を形成、全ての部品を作り終えてから組立を始める。

 胸元に上級魔力石を嵌め込んで完成だ。

 

「完成です、着てみて下さい。微調整をしますから……」

 

 薄らと額に汗をかいたが保有魔力的には余裕が有る、ライズさんの分も問題無いだろう、ソファーに座り込むとイルメラが濡らしたタオルをウィンディアは冷えた紅茶を用意してくれた。

 両隣に座るのは……まぁ良いかな。

 

「ありがとう、助かるよ」

 

 汗を拭いアイスティーを飲む、程良く甘く冷たくて渇いた喉が潤う。

 

「幸せだ……作りたい物を作れる喜び、錬金を主とする土属性魔術師の本懐が此処に有る」

 

 ゴーレムを用いて戦うよりも物を作る方が純粋な楽しさが有る、許されるならば……

 

「リーンハルト君、見た目より全然軽いわ!でも動くと少し腰廻りがキツいかしら」

 

 屈伸運動をしながら気になった点を教えてくれたが、身体にフィットする調整は着てくれないと分かり難いんだ。

 

「肩に掛かる荷重を腰を締め付けて分散してますから、少し調整しましょう」

 

 微調整だけで問題は無くなった、イルメラ達に作った鎧よりも簡略化してるから調整も楽だ。

 

「次はライズさんの分ですが、同じハーフプレートメイルで良いですか?」

 

 最後に期待に満ちた目で僕を見詰めるライズさんに希望を聞く。

 ニケさんとアグリッサさんは二人で並んで鏡に向かいポーズを決めているが……いや、喜んで貰えて嬉しいです。

 

「すまないが私のはもう少し軽量化出来ないか?」

 

「軽量化ですか……ではベースをキュイラスにして腰部を守るフォールドと吊り下げられた二枚一組の小板金のタセット。

それに臀部を守るキュレットを組み合わせてみますか」

 

 丁度イルメラとウィンディア用に作ったのと同じ構成で錬成してみる。

 

「ふむ、胴体の急所は守られているわね。軽いわ、6㎏位だから未だ大丈夫かしら?」

 

 イルメラ達のよりはダウングレードしているので少し重いが、ライズさん的にはもう少し重くても平気みたいだな。

 

「では追加でチェインメイルスカートに大腿部を守るキュイラスと膝を守るポレイン、脛を守るグリーブと足を守る鉄靴ソールレット迄作りますか?

他の方と同じになります3㎏位の増加ですよ」

 

「それだけ足しても10㎏を超えないの?凄いわね、軽量化の魔法付加って……」

 

 追加装甲を錬成して着て貰うが大丈夫みたいだ、その場で飛び上がったりと普段どんな戦い方をしているのが気になるアクロバティックさだ。

 三人が落ち着く迄に十五分を要したが気に入って貰えて大満足、やはり自分が作った物を喜んでくれるのは嬉しい。

 

「さて、代金の話をしましょうか?要らないなんて駄目よ、ニケは別として私達は対価を払う必要が有るわ」

 

「そうだな、これ程のハーフプレートメイルだから……金貨五百枚でどうかしら?」

 

 真面目な顔を近付けて結構な金額を提示してきた、二つで金貨五百枚とは驚いたな、一財産だぞ。

 

「それで構いませんが極力内緒にして下さい。不用意に広めると鍛冶師ギルド辺りから目を付けられそうですし、バレたら製作に一ヶ月以上待たされたと誤魔化して下さい」

 

 既得権侵害とか迄は行かないが、その気になれば一日に同程度の全身鎧でも五セットは作れる。

 一ヶ月で百五十セットも流出すれば市場価格は狂い普通の鍛冶師の高級鎧兜は売れなくなる。

 一ヶ月に一セットなら販売シェアは犯さずに済むだろうし鍛冶師ギルドからは問題視もされないと思う。

 その他の連中からは注目されるが、その内に広まる情報だから割り切ろう。

 

「ありがとう、明日の夜に持ってくるわ」

 

「でも金貨五百枚ってオークションの初期設定金額だけど本当に良いの?」

 

 そう言えば盗賊ギルドが魔法迷宮内で発見したマジックアイテムのオークション権利を持ってたな、其方にも配慮しないと駄目か?

 

「構いませんよ、お世話になってますから特別です。まぁお金を積まれても他の方に作る気は無いですけどね」

 

 大層喜ばれたが翌日に持ち込まれた金貨は一千枚だった、どうやら一セットが金貨五百枚だったそうだ。

 イルメラ達はパーティ収入じゃないから分配は要らないとキツく言われてしまった、甘やかし過ぎらしい……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 臨時収入が入ったので上級魔力石を買い漁りに『ブレイクフリー』全員で冒険者ギルド本部へと向かう、序でにDランクの討伐依頼を探して請ける予定だ。

 

 冒険者ギルド本部前でエレさんと待ち合わせ予定だが、入口に一人で待っている彼女と初めて一緒に指名依頼を請けた時のウィンディアと姿が重なった。

 あの時は気合いが入ったお洒落をしてたな、純白のローブにリボンを結んだスタッフを持って髪型もセットし金の髪飾りも着けていた……

 

「リーンハルト君、何を嬉しそうにしてるの?」

 

「いや、初めてウィンディアと待ち合わせした時の事を思い出してさ。あの時の君は純白のローブにリボンを結んだスタッフを持っていて周りの視線を集めていたよね」

 

 主に不審者として周りから警戒されていたと思う、異様な雰囲気を醸し出してたから。

 

「そうだったね、懐かしいな。私達の馴れ初めだね!」

 

 嬉しそうに笑っているが楽しい思い出だったか?

 

「そうだったんですか……私も外で待ち合わせしたいです」

 

 イルメラが悔しそうにしているが、君は一緒に住んでいるんだから外で待ち合わせる意味が分からない。

 変な雰囲気になりそうになったが、スルーしてエレさんと合流し冒険者ギルド本部に入る。

 早朝だからか依頼を請けて出掛ける連中が多い為か混んでいる、そして毎回のヒソヒソ話……正直嫌な感じだ。

 二手に分かれて僕は売店で空の上級魔力石を百個買い込む、最近利用頻度も高いし応用も利くので大量大人買いだ。

 出掛ける前にポーションを買い込む連中で混雑していて、掲示板を見てるイルメラ達を待たせてしまった……

 

「お待たせ、良い依頼は有ったかい?」

 

 EやFランクの掲示板と違い依頼書を見るパーティは少ないが、それでも真剣に依頼書を読む冒険者も何人か居る。

 

「オーク討伐依頼が増えています、ザルツ地方で異常繁殖してるみたいですね。郊外の村でなく街からも討伐依頼が出ているとなると……」

 

「人口密集地帯まで出張って来ているのか、それは問題だね」

 

 途中に有る村を通り過ぎて街まで侵入してるって事は途中の領主軍の防衛網は機能してない可能性が高い、そろそろ騎士団が動くレベルだな。

 

「他には真新しいのは無いよ、どうする?」

 

「そうだな、バンクに籠もれば資金と経験値は溜まるがギルドポイントを疎かには出来ないし……」

 

 正直オークは手頃な討伐対象だ、三十匹程度の群れなら問題無く倒せる。改めて依頼書の詳細を確認する。

 

「王都から一番近い依頼はヒスの村かループの街、共に常駐して期間中の警護かオークを捜索して討伐するかだね。

常駐警護は十日間、複数パーティとの連携が発生する、捜索討伐はオークの群れを探して殲滅か……」

 

 ラコック村の件を思い出す、僕は拠点防御の方が得意だが先任パーティの指揮下に入るのは嫌だ。

 

「拘束期間が長い警護は他のパーティとの連携も有りますから自由には動けませんね」

 

「エレちゃんのギフトが有れば捜索は可能だよ、奇襲は防げるから討伐の方が良いよ!」

 

 うーん、何れは他のパーティとも連携する場合も出て来ると思うが未だギルドランクを上げる方を優先した方が良いな。

 

「確かに拙い連携はデメリットも多いし常駐して拘束されるならバンクに籠もりたい。討伐依頼にしよう、だが対象の村か街はどうするか?」

 

 ヒスの村もループの村もオークの目撃数は二十匹前後、既に何回か襲撃されているが未だ住民に被害は無い、追い払ってるだけみたいだな。

 

「目撃例が多いのはヒスの村ね、近くに奴等が潜伏しそうな森が有るから探し易いと思うわ。

ループの街は周辺は幾つかの村と田園に囲まれているから、何処からどうやって侵入してくるのか分からないわよ」

 

「エレさんはどう思う?」

 

 イルメラやウィンディアと違い自己主張が極端に少ない彼女は話題を振らないと発言しないんだよな。大分改善はしたんだけど……

 

「ヒスの村で良い、近い方が良い」

 

 近いと言っても馬車で一日以上掛かるんだけどね。

 

「分かった、この依頼を請けよう。手続きしてくるよ」

 

 掲示板から依頼書を剥がして受付へと向かう、何故か同じ依頼書を争う様に剥がしている他のパーティを横目で見ながら絡んで来るのかと不安になる。

 だが討伐は警護と違い自由に動けるから大丈夫だな。

 

「何故、彼等は同じ依頼を請けたがるのかな?」

 

 受付に依頼書を提出しながら何と無くイルメラ達に聞いてみた。

 

「それは名有りの『錆肌』率いるオークの群れを単独で殲滅出来るラコック村の英雄リーンハルト様が討伐依頼を請けるなら、ヒスの村の護衛依頼は楽が出来るからですわ。

安全に楽して報酬とギルドポイントが貰えますから……

あの緑色に染めた皮鎧を着た女性のパーティには注意して下さい、他の冒険者を利用して楽をする前歴が有ります」

 

 受付嬢から冷めた答えと情報が返って来た、集団行動の時に要領良く動いて楽をする狡猾なタイプか。

 二十代女性ばかり六人の大所帯、戦士職四人に盗賊職が二人、緑色に染めた皮鎧を着てる彼女がリーダーで盗賊職かな?

 緩い雰囲気を纏った優しそうな感じだが擬態だとしたら相当な食わせ者だな。


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