古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第12話

 乗合馬車に居合わせた姉妹、姉は戦士で妹は魔術師。僕に興味が有ると話し掛けてきたが新手の勧誘だろうか?

 

「私達は『静寂の鐘』のメンバーよ。私がリーダーのヒルダ、妹のリプリー、それとポーラ。ヌボーとタップは兄弟なの」

 

 名前を呼ばれた順に会釈したり軽く手を振ったりと顔と名前が一致した。

 戦士四人に魔術師一人、武器もロングソードからメイスにアックスと多様性に富んでるね、割と有名な連中なのかも。

 だが名乗られたからには僕等も名前を教えるしかないか……

 必要以上に相手を拒絶する事はないからな。

 

「僕が『ブレイクフリー』のリーダーのリーンハルト、御覧の通り魔術師です。彼女はモア教の僧侶のイルメラ」

 

 漸くイルメラが起きて目を擦り、僕と彼等を見比べて状況を把握したのか軽く頭を下げた。

 年上なのに同い年か年下に感じる仕草に、『静寂の鐘』のメンバーもホッコリしたみたいだ。自然と笑みが零れ雰囲気が柔らかくなる。

 

「貴方達は二人組でしょ?バンクは初級とは言え最大六匹ものモンスターが現れるのよ。後衛職だけで大丈夫なの?」

 

 妹が魔術師に興味が有ると言いながら最初の質問がパーティ編成についてか……

 

「ああ、皆さん疑問に思いますよね、僕等みたいな子供が二人組で迷宮探索とか……少し調べれば分かるから教えますが、僕は土属性の魔術師です。

迷宮内では青銅製のゴーレムを四体召喚して六人組にしています。

前衛のダメージを無視出来るメリットは大きい、だから僕等二人組で迷宮探索してるんです」

 

 僕のゴーレムについては既に何人もの目撃者が居るから噂が広まるのも早いだろう。

 だが最大召喚数や性能まで親切に教える必要は無い、バンク攻略は行ける所まで青銅製ゴーレムで行くつもりだ。

 

「へぇ……そうなんだ……ゴーレムか、珍しいわね」

 

 ゴーレム使いは決して珍しくは無い筈だぞ。スカラベ・サクレからの情報でも土属性の魔術師は必ずゴーレム召喚は覚える。

 それが実戦に耐えるかは別問題だけど攻撃系魔法が少ないから、必ず一度は覚えようとするだろう。

 

「土属性の魔術師ならば必ずゴーレム召喚魔法は覚えますよ、それが実戦で使えるかは別としても」

 

 ヒルダの表情を窺いながら逆に質問をぶつけてみる。属性魔法とは各々に特化した性質が有る。

 火属性は攻撃、水属性は治癒、風属性は付加、土属性は錬金。

 火は単純に火力の強い攻撃魔法、水は治療もだが僕は毒も扱う、風の付加は短期的な体力UPとかのブースト、土の錬金は魔素を何かに変えられるので殆どはゴーレムだ。

 これは魔術師の基本且つ常識だ。

 

「えっと……その……リプリー交代!」

 

「えっ?お姉ちゃん?」

 

 魔術師に詳しくないのに無理して会話を繋げようとしただけか、本職じゃなきゃボロが出るよね。ワタワタと小動物みたいな動きをするリプリーという女を見る。

 良く観察すれば杖に魔法石が嵌め込まれているが属性は火だ、つまり彼女は火属性の魔術師か……

 

「あの、その、初めまして、ごめんなさい」

 

「いや、慌てなくても謝らなくても良いよ。何か聞きたいなら教えられる範囲で答えるが?」

 

 被っていたフードを脱いだ彼女は若い、僕と同い年か少し上だろうか?

 白に近い金髪、プラチナブロンドだっけ?に特徴的なのは瞳がルビーのように赤い事だ。肌も白いから色素が薄いのだろう。

 たまに生まれる先天性の体質だが、基本的に他の連中より体力が無かったり短命だったりする。

 

「あの、貴男の魔力量が凄かったから高レベルの魔術師かと思って……」

 

「む、すまない。僕は未だレベル12だ、魔力制御がイマイチなので垂れ流し状態だからな。未熟な魔術師と笑ってくれて良いぞ」

 

 現状レベル上昇に伴う魔力増加に制御が追い付かないのだ。

 レベル三つ上がっただけで総魔力量は当初の三倍以上だからな。転生の恩恵は生前の鍛え抜いた状態に早目に追い付く事だ。

 レベル20を越えれば全盛期の三割くらいにはなれるだろう。完全に元の状態になるにはレベル50前後だろうか?

 

「え?レベル12なの?だってレベル15の私の数倍……」

 

 驚く彼女に対して人差し指を口に持っていくジェスチャーをして黙らせる、情報を公開するのは不利益でしかない。

 

「あっ?その、ごめんなさい」

 

「うむ、他人の事をベラベラ教えない方が良いよ。僕は未だ迷宮探索コースの初心者だけど、自分達だけで自分のペースで進めていくつもりなんだ。

ゴーレムの恩恵は経験値と収入に直結するからね。大変でしょ?ポーションの代金がさ?」

 

 傷の治療をポーションに頼らないと駄目な連中は必要経費も馬鹿にならない。

 

「それはパーティメンバーを増やさないし他のパーティにも入らないって事?」

 

「はい、僕は来月には冒険者養成学校に入学しますし、バンク攻略は一時的な資金稼ぎと割り切ってます。だから今の段階では下層階への攻略は考えてません。

パーティについても同級生達から選ぶ予定です。

海千山千の先輩冒険者には太刀打ち出来ないですし、長く一緒に行動する相手はよく見極めないと……」

 

 嫌味にならない程度の毒を入れて牽制する。所詮は子供と甘く見る連中が多い事は二日間で嫌になる程学んだ。

 結局今のパーティでの順位を落とさずに僧侶や魔術師を囲いたいんだ。

 熟達した僧侶や魔術師は知識の豊富さとパーティ内の貢献度の関係でリーダーか助言者的なポジションになるからな。

 子供なら言う事を聞かせやすいとでも考えてるのだろう、浅はか過ぎて笑えない。

 

「そうですね、僕等は役割分担が出来てますから今更他の誰かを仲間にするメリットは殆ど無いでしょ?」

 

 前衛にゴーレム、後衛に僧侶と魔術師、必要なのは盗賊系くらいだ。

 

「あら、私ならメリットが有るわよ。私は盗賊だから迷宮探索には必須のメンバーでしょ?」

 

 ポーラと呼ばれた女性が艶めかしく話し掛けてきた。20代半ば、顔立ちは派手目な感じだが長い髪を無造作に縛り背中に垂らしている。

 革鎧に革の手袋とブーツ、腰にダガーを幾つも提げている、いかにもな盗賊スタイルだ……

 

「宝箱に罠が仕掛けられるのは?」

 

「三階層からよ、因みに通路にもランダムな罠が仕掛けられるのは五階層からね。それより上の階層はギルドで売ってるマップに書かれた固定罠だけよ」

 

 会話の中に結構重要な情報が有ったな。彼女達は少なくとも五階層を攻略しているんだな。

 

「貴重な情報を有難う御座います、参考にさせて貰います。僕等は冒険者養成学校に入学する迄は三階層までしか攻略しない予定です。

目標は入学前にレベル20になる事ですね」

 

 教えませんがボス狩り二百回を達成する迄は一階層止まりですけどね。何としても木の指輪を十個装備してダメージ減30%にしたいので……

 

「明確な目標を持ってるのね。どうかしら、試しに一緒に迷宮探索しない?

別にパーティは組まなくても良いわよ」

 

 パーティを組まなければ経験値の分散は無い。だが、どうやってパーティ編成がされていて経験値が分配されているか、そのあたりの理屈やシステムは分からない。

 この提案は回復魔法が使える僧侶と一緒に行動したいだけだな。

 

「うーん、僕はゴーレム使いだから人間の戦士の戦いは参考にならないんですよね。自身も騎士の家に生まれたので、魔術師ですが幼少の頃から剣の扱いも仕込まれてます。

基本動作を体に叩き込んでますので、他人の戦い方を参考にするのは今のイメージが狂うので逆に悪影響なんですよ」

 

 これは事実、ゴーレム制御はイメージが大切なので実際に体を動かしてゴーレムの動きをイメージすると上達が早い。人を動かすなら先ずは自分からって事だ。

 

「それ本当?私、ゴーレムの制御が全然ダメで……」

 

 リプリー……君は火が得意と言ったが土も扱えるんだね、簡単に情報を教えては駄目だよ。だが一方的に情報を教えて貰ったじゃ駄目だな、変な負い目を感じてしまう。

 

「クリエイトゴーレム」

 

 全長30㎝の小さな青銅製のゴーレムを造りリプリーのもとへと歩かせる。ゆっくりと歩くゴーレムだが揺れが酷い中での二足歩行は制御が凄く大変なんだよ。

 

「凄い、こんなに揺れてるのに普通に歩けるなんて……バランス感覚が凄過ぎるわ」

 

 うん、流石は同じ魔術師だけあり凄い点に気付いてくれたので嬉しい。

 

「手に取ってよく見るんだ、特に関節周りとかをね。ゴーレムだからって安易に全身鎧を作ってないかい?

勿論全身鎧で間違いは無いが、構造を学んでるか?

幾らラインを繋いだ魔素を充填させて動かすにしても、物理的に動かせるかが問題だ。

僕は自分で一から全身鎧のパーツを錬金して組み立ててみたよ。動ける鎧が出来たら後は動かす魔素を制御出来るかだ。

これは完全なイメージの世界だから反復するしかない。この二つが噛み合ってのゴーレム制御なんだ」

 

 皆さんポケーってしているが魔術師でない連中には内容は全く分からないだろうな。

 

「なぁ少年、このミニチュアのゴーレムを等身大に造れるんだろ?」

 

 ヌボーだかタップだかは知らないが兄弟戦士から質問が来たので黙って頷く。

 

「じゃ新品で買えば金貨200枚はする全身鎧がタダ(無料)で造れるのか?造りたい放題か?」

 

「スゲーじゃん、鎧兜もそうだが武器も造れるんだろ?」

 

 ああ、誰しも初めは疑問に持つ事だ、ある意味正解だ、父上も僕のゴーレムナイトの持っていた盾と剣を使いたがった。

 前世の時に武器の参考にさせて貰った名工の逸品を大量に造れるんだ。

 

「うん、ある意味正解だが僕の魔力を魔素として金属に錬金してるからね。維持出来る時間には限界が有るんだ。

迷宮に入る直前に鎧兜を錬金すれば可能だが、無人で動かせるゴーレムが使えるから人に着せるのは無意味だろ?

僕の魔力が枯渇したら消えちゃうから、ピンチの時に真っ裸の可能性も有るぞ」

 

 前世では錬金術を悪用した詐欺が横行して大問題になったんだ。

 実は素材と触媒を用意すれば僕の魔力が枯渇しても消えない武器は造れるが、教える必要は無い。

 

「そりゃそうか……楽して金儲けは出来ないのか」

 

「だけど迷宮内限定なら武器は使いたい放題じゃん!弓矢や投擲槍や投げナイフとか地味に金を使う消耗品はさ!」

 

「消費魔力とコストが合わないな。地味に錬金は魔力を消費するから、使い捨て武器より攻撃魔法を使った方が殺傷力は高い。

弓矢一本を錬金して維持するならファイアボールやウォーターボールが撃てるよ」

 

 ガックリと肩を落とす兄弟だが、もしかしてリプリーに錬金させて経費削減する考えか?冒険者って金銭感覚がしっかりしてないと大成しないって諺があったな。

 

「魔素は考えられる限り万能だ。多種多様なモンスターが魔素のみで生まれるくらいだからね。

ゴーレムの中に充填する魔素を液体金属のようにして鎧を動かすんだ、人によりイメージは千差万別だが僕は魔素を液体としてイメージしているよ」

 

 そう言ってリプリーが持っているミニチュアゴーレムを魔素に還す……

 

「ああ、もっと調べたかったのに……」

 

「盗賊さんの情報に対する対価だよ。じゃ、王都に着いたみたいだから。お互い頑張ろう」

 

 丁度乗合馬車は王都に到着し『静寂の鐘』のメンバーと別れる事となった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「不思議な少年だったね、リプリー」

 

 微妙な距離間を保ちながら歩く『ブレイクフリー』の二人の背中を見つめる。彼等は恋人同士と言っていたけど本当かしら?

 

「うん、あの年でアレだけのゴーレム制御が行えるなんて凄いの。

魔術師じゃないから気付いてないかも知れないけど、私の師でも……齢60歳の師以上に熟達した制御だったわ。

天才って本当に居るのね」

 

 この子はこう見えても素質が高いと太鼓判を押された程の自慢の妹なの。

 

「リプリーの御師匠様って元宮廷魔術師のバルバドス様でしょ?まさか、そんな訳ないでしょ?」

 

 幾らなんでもバルバドス様を凌ぐなんて事は、ねぇ?

 だけどリプリーの表情は熱に浮かされたような潤んだ目をしている、もしかして彼に尊敬とか憧れとか変な感情を持ってしまったのかしら?

 大人しいけど時に大胆になる妹をみて、迂闊に彼に接触したのは間違いだったのかと溜め息をつく……

 


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