古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第118話

 模擬戦を終えてデオドラ男爵の屋敷へと戻った、僕とジゼル嬢だけで……

 元々デオドラ男爵と一族の連中は騎士団員と合同の練習が予定されており、僕は模擬戦の為だけに同行させられたらしい。

 馬車の向かい側に座り微笑みを絶やさないジゼル嬢から無言のプレッシャーを感じる。

 練武場へ出掛ける為に普段よりも活動的な衣装だった事を今更気付いた、友好を深める為に褒めるべきだろうか?

 

「あの、何か?」

 

 褒めるのは無理だった、微動だにせず微笑まれても対応に困る、かなり本気で……

 

「いえ、お疲れになりましたか?」

 

 少しだけ労る様な表情をして首を傾げる、今回も彼女が動いた可能性が高いんだよな、派閥上位陣に顔見せと力を見せる為に。

 

「ええ、毎回の模擬戦は疲れます。でも得る物も多いので一概に嫌と言えないのが困りますね」

 

 正直毎回デオドラ男爵との模擬戦は疲れる、訓練としては破格の相手には間違い無いのだがキツい。

 だが格上の強敵と戦う事が凄い経験なのは確かで模擬戦後は何らかが上達する。

 ゴーレムの操作効率とか魔力運用、行動の先読みとか普通のレベルアップでは上昇しないスキルが磨かれる気がする。

 今回は複数の班に別れたゴーレムの連携精度が高まった感じだ。

 

「お父様相手に四回も戦った相手は居ませんわ、大抵は一度目でボロ負けして二度と挑んで来ません。戦果は一敗三分ですが大きな意味が有ります」

 

 あの人に再戦出来る連中か……挑んでも受けてくれるか分からないだろう、興味の無い相手は放置しそうだし周りも止めると思う。

 なる程、今の扱いは愛娘ジゼル嬢の為に僕を鍛えているって事か……

 

「何時かは勝ちたいと思いますが先が長いですね、努力と訓練有るのみかな」

 

 今は勝てるイメージが浮かばない、デオドラ男爵も手加減しているのは確かなんだ。

 現状で使える切り札を使っても返されるだけだろう、あの戦鬼(オーガー)はそんなに甘くない。

 

「酷い謙遜ですわ、そろそろ屋敷に到着します。直ぐに昼食の準備をさせますのでお待ち下さい」

 

「時間は少し過ぎてしまいましたね」

 

 チラリと時計を見れば一時半を過ぎている、そろそろ空腹感を誤魔化せそうにない、お腹が鳴らない様に気を付けなければ……

 

 屋敷に到着後、ジゼル嬢と二人だけで遅い昼食を食べる、何故かデザートの時にアーシャ嬢とルーテシア嬢も同席した。

 華やかで羨ましいと思うかも知れないがホスト的な役目をするからかなり気を遣う、パトロンの愛娘達に気軽な雑談など出来ないのだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 昼食後に直ぐに衣装合わせにはならず中庭でティータイムとなった、アーシャ嬢と二人で懇親を深めろって配慮だろうか?

 ジゼル嬢の笑顔が怖かったのは内緒だ、上手くやりなさいって無言の圧力が辛かった。

 折角なのでドレスを着て貰う前に装飾品に対する本人の希望を色々聞いてみる事にする。

 

「そうですか、派手目な物は苦手で好きな色は青ですか」

 

 微笑みを絶やさなかったが質問された時は真面目な顔をして少し上を見るのが彼女の癖みたいだ。

 

「はい、原色に近い赤色とか黄色とかは苦手ですわ」

 

 深窓の令嬢は好みも控え目だが見せて貰ったドレスも青色となると、合わせる装飾品の色をどうするか悩む。

 金か銀を素地として宝石を配置するのだが彼女に似合うのは……

 

「あの、見詰められると恥ずかしいですわ」

 

「すみません、アーシャ様に似合う宝石は何かなって考えていたので」

 

 謝罪し間を繋ぐ為に紅茶を一口飲む、彼女の立場や性格からして同世代の異性と話す事など殆ど無かっただろう、緊張はお互い様って事かな?

 

「サファイア(青)はドレスと被る、エメラルド(緑)は髪飾りに使おう、彼女の金髪に映えるし、後は……」

 

 他に価値の有る宝石類でとなると、トパーズ・ジルコン・アクアマリン・キャッツアイ・トルマリン・ペリドット位か……

 少し価値を下げれば、ヒスイ・オパール辺りだ。

 平民の間で流行っている比較的安価な宝石だと、クリスタル・アゲート・ガーネット・アメシスト・シトリン・スピネル・ラピスラズリ・タンザナイト・クンツァイト・アイオライト・ターコイズ・ムーンストーン・タイガーズアイ・マラカイト・フローライトと結構種類は有るな。

 特に水晶系は色のバリエーションは多い、むー何にするか悩むな?

 

「あの、見詰められて呟(つぶや)かれても困りますわ」

 

 どうにも考え込む時は周りを見ている様で見ていないんだよな、一点を見詰めてブツブツ呟く癖は直さないと駄目だな。

 

「えっと、一応希望を聞きますが好きな宝石は有りますか?」

 

 僕だって年頃の女性と話す機会など少ないのだ、会話がぎこちないのは仕方ないと思う。

 

「特に拘りは有りません。ですがこのブレスレットに嵌め込まれた魔力石は綺麗で好きですわ」

 

 そう言って鷹を模したブレスレットに触る、僕が作った物だが大切にしてくれてるのが嬉しい。

 力が満タンの上級魔力石は若干の輝きの差が有る、鮮やかだったりくすんだり……

 これは最近知ったのだがチマチマと魔力を込めるより一気に満タンにした方が綺麗な色合いになる、後は魔力の質かな。

 

「有難う御座います。ですが魔力石は宝石ではないので何か好みは有りませんか?無ければ僕が見立てますが……」

 

「リーンハルト様は私にどんな宝石が似合うと思いますか?」

 

 質問に質問で返されたが彼女に合った宝石をデオドラ男爵に用立てて貰わないと駄目なんだよね、立替は無理だし。

 

「そうですね、アーシャ様の綺麗な金髪と抜ける様な白い肌に釣り合うとなれば……

髪飾りを考えています、エメラルドを中心に女王の結晶を配してみようかと」

 

 ビックビーの女王の結晶は本来エルフの里に加工を依頼する予定だったが僕に託された、重責だが期待されているのが嬉しい。

 解放された空間創造の中に宝石類が入っているから丁度良かった、幾つか使うつもりだ。

 

「エメラルドですか、確かに綺麗な緑色ですわね。でも素直に褒めてくれたのが意外です」

 

「褒めた?ああ、髪と肌の事ですか?事実ですから褒めた内には入らないでしょう」

 

 兄弟戦士曰く女性を褒めるとは、もっと歯の浮く様な台詞と態度を組み合わせるらしい……

 だが僕の中での彼等の評価は急降下中だ、アレは特殊な性癖の連中に喜ばれるんじゃないか?

 女性関連では低レベルでノーマルな僕には難し過ぎるんだ。

 ほら、真っ赤になって俯いてしまったアーシャ嬢を見て対応に失敗した事が分かった、後ろに控えるメイドさん達に視線を送り助けを求めたが微笑んでいるだけだし……

 

「そろそろ衣装合わせをしましょうか?実際に着て頂いて簡単なサイズ合わせをしてみましょう」

 

 彼女のカップが空になる直前位のタイミングで話を変えてみた、時間的にも三時を過ぎてるし……

 メイドさん達と一緒に部屋を出る彼女を見送り暫く此処で待つ事になるだろう、女性の着替えに時間が掛かる事は理解している。

 

 紅茶を飲み切るとメイドさんが直ぐに注いでくれる、この好待遇も辛い……メイドさんとはいえ部屋に女性と二人切りなんだよね。

 彼女に話し掛ける事は出来ない、質問や職務の範疇のお願いなら問題ないが間が持たないから雑談しようなどは駄目だろう。

 

「アーシャお嬢様はリーンハルト様が屋敷に来られるのを楽しみにしております」

 

 む?話し掛けてきたぞ。

 

「はい?ああ、それは嬉しいですね」

 

 真っ直ぐに見詰められたが、まさか彼女の方から話し掛けて来るとは思わなかった。確かアーシャ嬢付きのメイドさんだと思ったが……

 

「殆どお屋敷から出る事も無かったお嬢様が『ブラックスミス』にお出掛けになられた事は私達も驚いています」

 

「確かに深窓の令嬢がドワーフの工房に行ったのは驚きでしょうね」

 

 さり気なく彼女を観察すれば二十代後半、此方に向ける視線からも気が強い事が容易に想像出来る。僕は婚約者が居るのに彼女に近付く悪い虫って思われてるのかも知れない。

 

「はい、その日は凄く嬉しそうに帰られてきました。ですが翌朝、リーンハルト様が屋敷に二日酔いで運ばれて来た時の慌て様は……

看病は私達がしますと言っても聞かなくて。初めてでしたわ、お嬢様が自己主張なされたのは」

 

 ん?少しだけ視線が優しくなったみたいだけど、アレは深酒して屋敷に運び込まれた訳じゃないぞ、ドワーフの霊酒の副作用です。

 アーシャ嬢の事を少しだけ知る事が出来た。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 仮縫いドレス姿のアーシャ嬢は中々の美しさだった、深窓の令嬢特有の儚さみたいな保護欲を掻き立てる感じだね。

 アレは誕生パーティー後に結婚の申し込みが殺到するだろう……

 大体のサイズを測らせて貰ったので次に会う時迄に完成させて微調整かな、仮縫い担当のメイドさんに支給希望の宝石の種類とサイズを渡しておいた。

 品質はデオドラ男爵家任せにした方が良いだろう、高い安いで揉めたくはないから……

 

 夕飯迄に時間が有るので依頼を探そうと冒険者ギルド本部に向かう、ビックボアの肝集めの依頼は有り難かったが経験値稼ぎが伸びなくなったので四階層に下りて新しいボス狩りを始める。

 その代わりのギルドポイント集め用の依頼が何か無いかな?

 

 冒険者ギルド本部は混んでいた、依頼達成や買取手続きなど一日頑張った連中で溢れている。

 掲示板の方も人集りだ、特にEやFランクは短期で達成出来るから明日の依頼を請けておくのだろう。

 そうすれば明日は早朝から行動出来る……ゴブリン討伐か薬草採取ばかりだけどね。

 Dランク掲示板を見ると幾つか新しい依頼書が貼ってある、前回はオーク絡みが多かったけど今回は……

 

「カミオ村とミオカ村のアタックドッグ討伐は継続中なのか……他は商隊の護衛、これは拘束期間が長いし経験値もギルドポイントにも旨味がないが報酬は多い。

目新しいのは素材集めだが見付けるまで終わらない、素材採取コース専門の依頼だな」

 

 効率的な依頼は討伐系だが騎士団絡みのオークやミオカ村のモータム村長には会いたくない、やはり適当にゴブリンを数多く狩ってギルドポイントを稼ぐか……

 

「あら、リーンハルト君。久し振りね」

 

「えっと……アグリッサさんとニケさん。ご無沙汰してます」

 

 声を掛けられた方を見れば『野に咲く薔薇』の三人が居た、そう言えば最後の一人は名前を知らなかったな。

 

「依頼探し?精力的に依頼をこなしてるらしいわね。早々に冒険者養成学校も自主卒業したそうじゃない」

 

「Dランク昇格おめでとう、凄い早いペースよ」

 

 ニケさんが軽く肩を叩いてくれた、親愛の印かと思えば僕の鎧を両手で肩・脇・腹・腰と順番に叩いて確認している、流石は鎧兜に拘りが有る人だ。

 

「あの、余り叩かないで下さい」

 

「この鎧は自作でしょ?私と同じ性能かしら……」

 

 アグリッサさんが苦笑いで見ているけど止めて欲しいです、仮にも女性に身体を触り捲られてますから。周りの連中も少年を取り囲み触り捲る女性達って目で見てますよ!

 

「ニケさん、そろそろ魔力の補充と点検が必要ですか?」

 

 約束通りマントを羽織って鎧を目立たない様にしてくれているのに、僕が普通に着てたら駄目だった。

 

「うん、お願い。ウチに来てくれると助かるわ、アグリッサもライズも良いよね?」

 

 ライズさん?ああ、名前を知らなかった女性の事か……

 ライズと呼ばれた女性は髪を短く刈り上げた目付きの鋭い引き締まった身体をした人だ、装備は金属パーツで補強した皮鎧に両手剣、腰にハンドアックスを差している。

 防御のニケさん、攻撃のライズさん、司令塔のアグリッサさんって所かな?

 

「構わないわよ」

 

「歓迎しよう」

 

 二人が了承した途端にニケさんが背中を押して冒険者ギルド本部から出そうとするけど、年頃の女性なんですから落ち着いて下さい。

 

「ちょ、押さないで下さいって……」

 

 周りから奇異な目で見られながら冒険者ギルド本部を後にした。


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