古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第117話

 デオドラ男爵との模擬戦も4回目、戦果は一敗二分と負け越している。

 今回は錬武場での対戦となった、前回は狭過ぎて十全の力を出し切れなかったと思ってるのかな?

 しかしエムデン王国騎士団団長と団員が観戦してる中での模擬戦は緊張する、何故なら派閥関係者への僕のお披露目以外に考えられないから……

 ライル団長の派閥はデオドラ男爵や父上が属するバーナム伯爵派、此処で成果を出せば報告が上がる。

 ニーレンス公爵派のバルバドス師やアンドレアル様の牽制位にはなるだろう、て言うかバルバドス師に相談した方が良いかな?

 僕は宮廷魔術師にはなりたくないって……

 

「さぁ、ヤルか?早くヤルか?もう待てないぞ!」

 

 満面の笑みのデオドラ男爵を見て思う、絶対根回ししてるとは思えない。

 ジゼル嬢に視線を送れば微笑みながら小さく手を振っている、つまり私が仕込みをしてるから頑張れって事だ。

 前回と違い彼女は離れた場所でライル団長と共に観戦しているから巻き込まれる事はないだろう。

 

「さて、本気を出せと言うがどうするかな……」

 

 全員が注目してる中で、デオドラ男爵が腰に吊したロングソードを抜いた。

 刀身が陽光に反射して煌めく、今回は『ピュアスノゥ』じゃないがマジックウェポンだろう。

 抜き放ったロングソードを無造作に持ってダラリと下げている、構えを取らないのは余裕だろうか?

 

「では、行きます。クリエイトゴーレム!」

 

 空間創造からカッカラを取出し一回転させてからデオドラ男爵の向けて振り下ろす、宝環がシャラシャラと澄んだ音を立てる。

 自分の10m前方に十二体のゴーレムナイトを錬成、装備はロングソードにラウンドシールドと攻防のバランスを重視する。

 騎士団好みの戦いをする事にする、つまり正々堂々小細工無し……とはいかないが、ポーンより高性能なナイトを召喚し数を押さえて個の強さで挑む。

 

 三体一組四班でデオドラ男爵を取り囲む様に配置し正面の三体を突撃させる。

 

「これがナイトか?なる程ポーンよりは強そうだな……」

 

 身長160㎝のポーンと違いナイトは200㎝、強度も馬力も高い。

 センターの一体は突きで攻撃し両隣の二体は盾を前に出しつつ上段から振り下ろす、残りの班は左右と真後ろに移動させる。

 

「ふん!中々のスピードだが当たらなければ問題無い……なる程なっ!」

 

 後に飛び去って避けようとするが真後ろに配した三体がプレッシャーを掛ける、攻撃範囲に踏み込めば攻撃させる。

 デオドラ男爵は下がらずに突きを左手のガントレットで持ち上げる様に弾くと、左右の攻撃は身体を捩るだけで躱し横凪ぎに一閃!

 盾で受けさせるが切り裂かれた……

 だがロングソードを持つ右手を左から右へ水平に凪いだ為に左側の護りが無くなったので左側の三体を突撃させる。

 突きと振り下ろしと横凪ぎと、三体が違う攻撃を同時に行う。

 

「嫌らしい攻撃だな……逃げ場を塞ぎ死角を突く、三位一体の攻撃も隙が無い。

常に死角からプレッシャーを掛ける事で動きを限定させるのか。円殺陣や影牢よりもエグいぜ」

 

 常に場所を把握出来る円形や常に死角から攻撃を加える影牢とも同じ様で少し違う、制御数を抑えて高性能のナイトを複数召喚・操作する。

 デオドラ男爵の大技は溜めとモーションが必要だから小刻みに連続攻撃を行い封じているが、何時までも保たないな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ほぅ、子供の癖に嫌らしい攻撃だな」

 

 ライル様の隣でお父様とリーンハルト様の模擬戦を観戦する、今回の主な目的は彼の顔見せ。

 ライル様はリーンハルト様の廃嫡を何故もっと早くしなかったのかと、副団長のバーレイ男爵に言った方です。

 貴族的に考えれば平民の側室の息子より本妻の息子を優先するのは当たり前、その評価は間違いではない。

 だけど野に放って良い人材じゃない事は認めさせなければならない、彼はデオドラ男爵家のバーナム伯爵派に必要な人材だと。

 

「毎回違う戦い方を見せてくれますが今回のも初めて見ます。

最大制御数二十四体、二重の円で囲む『円殺陣』、常に死角に召喚を繰り返す『影牢』そして今回は……」

 

 今回は何でしょうか?大分お父様が戦い難そうな感じを受けますわね。

 

「三体一組四班の攻撃、だがアレは一組の中で役割分担が決められている。

攻撃と防御、他のゴーレムをフォローしながら戦うって凄いな。

普通は単一な命令を聞くだけだろ?『攻撃』とか『防御』とか『避けろ』とかを……」

 

 腕を組み難しい顔で考えていますが大変な事らしいわ……でも古代の知識を持っていても指揮とか連携、運用精度には繋がらないと思う、それは経験だから。

 

「つまりゴーレム同士が連携している、しかも四班同時にですか?」

 

「ああ、そうだ。奴のゴーレム一体は騎士団の平均を少し上回るレベルが有る。つまり最大制御数が二十四体ならば奴は正規騎士団の小隊に等しい戦力を保有している事になるな」

 

 此処で、このタイミングで楔を打ち込むわ。

 

「リーンハルト様はニーレンス公爵派の方々にも気に入られていますわ、宮廷魔術師に推薦すると打診して来ました」

 

「宮廷魔術師に推薦とは大きく出たな。だが我々の派閥に必要な人材なのは理解した、問題は成人後か……」

 

 バーレイ男爵家を継がせる事はデオドラ男爵家としては面白く無い、家名を背負う者は其方を優先するし私やアーシャ姉様が嫁いでも立場上はお父様と対等な同じ派閥の一員。

 それに爵位を継げば国からも干渉される……

 

「ディルクの奴も息子が有能ならば早く教えれば対応は有ったぞ……いや、後継者は騎士団入団が決まりだからか」

 

「いずれ魔導師団に引き抜かれるならば次男に継がせてアルノルト子爵家の顔を立てたのでしょう」

 

 剣と魔法、どちらに精通してるかと言われれば断然後者、騎士団と魔導師団どちらにと言われれば……

 

「そうだな。だがディルクが同僚に零した愚痴は違ったな、貴族の柵(しがらみ)や因習の所為で奴に家を継がせてやれない。

二人の息子を共に愛しているが、やはり出来の良い方を後継者にしたいだろ?」

 

「そうですわね」

 

 違う、バーレイ男爵は自分が愛したイェニー様の息子であるリーンハルト様を後継者にしたかった。

 政略結婚で迎えた本妻よりも苦楽を共にして結ばれた女僧侶の忘れ形見を優先したかったと思う。

 彼の政略結婚を嫌う背景には両親の事が原因なのかしら?あの深い絶望や諦め、嫌悪感や後悔の感情は……

 

「お前等早く結婚しろよ、奴が廃嫡する前なら俺が奴側の媒酌人を受けても良いぞ」

 

 笑顔で誤魔化したが確かに確実な取り込み方法は婚姻、ですがその方法は本人が嫌がっているから無理なのです。

 アーシャ姉様の事を悪くは思ってなくとも現状で十分に貢献して貰ってるから無理強いは不可能……

 

「そろそろ決着を着ける気だな」

 

 模擬戦に意識を向ければゴーレム達が包囲を解いてリーンハルト様の前に整列してお父様と向かい合っているわ。

 

「包囲網を解くとは余裕だな?」

 

「無意味な消耗を強いるのはお互いに不毛、これは模擬戦なのですから……」

 

 どうやらリーンハルト様はお父様に戦術で勝つ気は無いみたいだわ、正々堂々最後は突撃かしら?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 やり辛い、狡猾な戦術を確実に仕掛けて来る……

 三位一体、攻防をフォローし合ったゴーレムナイトが四組が更に連携して攻めてきやがる。

 

「おっと、危ないぜ!」

 

 しかも攻撃の避け方や逃げる方向も地味に制限してくるし大技を出そうにも妨害しやがって!

 

 奴には『五月雨』も『剣激突破』も見せているから尚更か。

 

「そろそろ決着をつけましょう!」

 

「ああ、そうだな。ストレスが溜まり過ぎたぞ」

 

 瞬時に囲んでいたゴーレムナイトを魔素に還し自分の前に召喚し直した、仕切り直しのつもりだろうが凄い事をサラリとやりやがる。

 今のは瞬時に小隊規模の兵力を任意の場所に移動させられるって事だ、正面の敵が瞬時に後から攻めてくるなど悪夢だぞ。

 息を整えてロングソードを握り直す、大した疲労じゃないがチクチクと精神的な疲労が蓄積される。

 コイツ前回負けた事を絶対に根に持ってやがるぜ。

 

 横並びに八体が三列で整列させて盾を構えた、つまり前回は『剣激突破』で負けたが今回は負けないってか?

 だがな、俺も武闘派の重鎮として数多の戦場で戦った男だから……

 

「行くぜ、止めれるもんなら止めてみな、五月雨!」

 

 刀身に纏わせた複数の衝撃波をゴーレムナイトに飛ばしながら突撃の態勢に移る、剣に闘気を纏わせて一気に目標へと突撃!

 これで敵を部隊ごと潰して来たんだぜ。

 五月雨の衝撃波は一列目のゴーレムにぶつかる、ポーンと違い強度が上がっている為に粉砕は出来ない、距離は20m。

 盾を壊し鎧兜に傷を付ける程度だが惜しみなく二撃目を撃ち込む、一列目は粉砕したが二列目は無傷だ、距離は15m。

 三撃目の五月雨を撃ち込んでから剣激突破の準備モーションに入る、この技は助走が必要だ!

 五月雨を受けて体勢が崩れた二列目に突撃、剣激突破の威力を持って粉砕、三列目に迫る……だが大分威力を削がれたか。

 

「障壁よ!」

 

 三列目のゴーレムの真後ろに居た奴が魔法障壁を展開した、ゴーレムを薙ぎ倒して奴まで迫れるか?

 勢いのままゴーレムナイトに突撃し中央の三体を吹き飛ばした所で突進は止められてしまったか……

 俺の周りに生き残ったゴーレムナイト達が取り囲む、五体残したか。

 

「引き分けで宜しいでしょうか?」

 

「ふん、遺憾だな……本当に遺憾だ!」

 

 残り3mまで迫ったが真っ直ぐ杖を突き付ける奴には届かなかったか、あと一振りすれば……

 魔法障壁で防がれてその隙に周りのゴーレム共が一斉攻撃だな、粉砕したゴーレム共も修復を終えて援軍として攻めてくるだろう。

 

 爽やかに笑って杖を一回転させるとゴーレム共が魔素に還る、結果は一勝三分だが気持ちは負けだ。

 コイツ、毎回少しずつレベルアップしてやがるが手加減してないだろうな?

 

「デオドラ男爵、有難う御座いました」

 

 キビキビと頭を下げる、周りを見回せば騎士団員達も好意的だ……本当に良く周りを見ている。

 直ぐにジゼルがリーンハルトに近付き幾つか会話をしながら右手に自分の手を添えている、利き腕を預ける事は信頼の証拠だ。

 婚約者として上手く行っている事を周りに示している、出来た娘だぜ。

 

「中々の見世物だったぜ、凄い餓鬼だな。お前結構本気だったろ?」

 

「ライル殿か……割と本気だったぜ、雑兵なら百人単位で吹き飛ばせる剣激突破を抑え込まれた。前回は押し切れたのによ」

 

 我が娘と談笑する奴を見て、そろそろ本気で殺試合(ころしあい)をしても大丈夫なんじゃないかと思う、いや絶対に大丈夫だ!

 

「何だ、あのまま包囲してれば焦れたお前が無理に攻めて隙を突かれると思ってたのに包囲網を解いたのはリベンジかよ」

 

「負けず嫌いは戦士に必要だ、奴は魔術師だがよ」

 

 首を回すとコキコキと音がする、結構緊張してたのか?

 

「奴はディルクと何度か騎士団に来てるしバンクの出張所に行ってる連中からも好意的に見られている。

次の討伐遠征だがお前の下で参加させろよ、ディルクには次男を参加させる様に伝えておく。

どちら側で参加するかは重要だ、ディルクは後継者をお前は娘婿をだな。余所に渡すには惜しい、上手く取り込んで使え」

 

「ああ、俺はアイツを気に入ってるんだぜ、殺り合いたいぜ」

 

 嗚呼……命を掛けた戦いがしたい、模擬戦?物足りないぜ。

 

「使い潰すなよ、お前の本気は洒落にならん。ジゼル嬢も万更じゃなさそうだし未亡人にすんな」

 

 殺試合が駄目なら共に命懸けの戦場に挑むのも良いな、近々だが隣国と必ず小競り合いが有るだろう。

 奴に人を殺せる度胸が有るか?ああ、野盗をブチ殺してたな。

 あの年で人を理性的に殺せるとウィンディアから報告を受けている。

 モンスターだけでなく人間を殺して平然としているのは俺にとっては得難い人材だな。


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