古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第112話

「なぁ?アイツさ、俺と戦っても勝てたんじゃないか?」

 

「三秒で三十体、少なくとも半径20m以内ならゴーレム召喚が可能か、何て言うか色々と良く出来た弟子だな」

 

「さっきのゴーレムな、ポーンって下級タイプなんだと。上級のナイトも中々の性能なんだぜ」

 

「「お前が自慢してどうすんだよ!」」

 

 気を遣い過ぎだ、だがパトロンであるニーレンス公爵の顔を潰さずに済んだ。下らない喧嘩に巻き込んでの失態を犯す所だった……

 

「お前の馬鹿息子、もう少し何とかしろ!下手したらお前も強制的に引退だったぞ」

 

「息子のフレイナルが宮廷魔術師になる道も閉ざされただろうな、だが馬鹿だが力は本物のボンクラ息子を相手に圧勝するとは……

本当にお前の後継者じゃないのか?てか、要らないなら俺にくれよ、誰の子弟だ?」

 

 そう言えば正式に挨拶してなかったよな、コイツ等は……適当に端折ってたし。

 

「騎士団副団長のディルク殿の長子だ、側室の子だから来年廃嫡される」

 

「バーレイ男爵家か、確かアルノルト子爵の次女が正妻だったな。だが手放すには惜しい逸材だ、実績さえ積めば数年で宮廷魔術師に推薦出来るぞ」

 

「次男が継ぐバーレイ男爵家に囲われるには惜しい人材だな」

 

 アイツは廃嫡される来年迄に自立する為に動いている、同じ派閥のデオドラ男爵に認められて愛娘のジゼルの婚約者に収まっていやがる。

 だが俺はニーレンス公爵の派閥、積極的にアイツに絡むのは果たして……

 

「だが我が国の為に有能な魔術師を不遇には出来ない、只でさえウルム王国の動向が怪しいのに」

 

「国境付近がキナ臭いな、本格的な戦争までは行かなくても小競り合いは起こるだろう」

 

 ウルム王国はコトプス帝国と婚姻外交も結んでいた事も有り、残党が国の中枢にまで食い込んでいる。

 敗戦後に逃げ込んだ奴等も多いし、準備が整えば攻めてくる可能性は高い。

 エムデン王国宮廷魔術師団は全盛期を過ぎた者も多く、今は若手との世代交代の時期なのだ。

 だから能力が高かったフレイナルに将来宮廷魔術師入りって話が有り、奴は自惚れて増長した。

 そんな奴に圧勝した男を放っておく事は出来ない。

 

「リーンハルトにゃ恨まれるだろうが今回の件は、エムデン王国の国王に、アウレール様には報告しない訳にはいかないな」

 

「恨まれる?何故だ?宮廷魔術師は俺達魔術師の憧れだろ?」

 

「家に囚われて良い様に使われるより万倍マシだろ?上手くすれば爵位も貰えるだろう」

 

 廃嫡されるって奴が自分の家を興せるとなれば本望か……

 そうだよな、出世の道が開けるんだ、悪い話じゃないよな。色々と迷惑も掛けたし借りも有る、此処は俺等が動いてやるか。

 

「今回俺は奴に借りが出来た、引退する前に息子と一緒に推薦するぜ」

 

「アンドレアルは派閥が違うだろ、フレイナルだって反発するに決まってる。

ユリエル、お前ならバーナム伯爵と仲が良いだろ?奴の派閥の娘を側室に迎えてるんだし話を付けろよ」

 

 アンドレアルの馬鹿に貴族的根回しなんて期待出来るか!

 ユリエルなら腹黒いから根回しも得意だろう、有能な魔術師を推薦するとなれば奴にもメリットが有る。

 フレイナルは性格的に不安だが、リーンハルトならその点は大丈夫だ。

 

「ん?ああ、だけどデオドラ男爵にも筋を通さないと駄目だ。

抱え込もうとした魔術師を国に差し出すんだ、見返りは必要だろうし下手すれば自分が推薦するって言い出すぞ」

 

 デオドラ男爵は宮廷魔術師入りが確実と言われたアルクレイドを配下にしている、流石に二人も宮廷魔術師級を抱え込むのは不味いだろう。

 その辺に交渉の余地が有ると思うし面倒を見た奴が宮廷魔術師になれば色々とメリットが有る。

 早くジゼルと結婚させれば娘婿として太いパイプも出来るかな。

 

「だが実績を積ませないといきなり推薦は無理だ、残念ながら血筋が良くないからな。モンスター討伐にでも参加させて小隊の指揮でも執らせるか?」

 

「騎士団による討伐に同行させるのも手だな、後継者を同行させる事は多い。そこで手柄を立てれば大丈夫だろうし周りのウケも良い。

俺からバーレイ男爵に話す、廃嫡される予定の長男が宮廷魔術師入りとなれば食い付くさ」

 

「近々大規模なオークの討伐遠征が有る、騎士団も参加する作戦だ。この作戦には他の貴族の子弟達も大勢参加するから根回しするぜ」

 

 国が主催する討伐に自分達の子弟達を参加させ、顔見せや実力を示させる事は多い。

 オーク程度なら奴のゴーレムを持ってすれば楽勝、三十体も指揮出来るなら手柄も立て易いだろう。

 

「ふむ、良いアイディアだな。それで進めるか……」

 

 早く奴にも教えてやるか、喜ぶだろうぜ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 この時代の貴族の決闘を初めて見た、双方宮廷魔術師だった事も有り見応えが有った。

 だが当人同士が喧嘩友達みたいだから決闘と言う名の力比べだろう、互いに頑固だから認めないだろうけど……

 問題は息子の方だった、自身も強力な魔術師で有り父親は現役の宮廷魔術師だから我が儘で周りが見えない奴だったな。

 あわやニーレンス公爵と『ゼロリックスの森』のエルフ族と事を構える所だった、しかもレティシアを亜人と馬鹿にしたんだ。

 奴は人間至上主義者かもしれない、付き合いに注意が必要だ。それと……

 

「セイン、貴方はもう少し周りを見なさい。あそこで私に話を振るのは悪手でしたわ!そもそも相手の神経を逆立てる様な……」

 

 メディア嬢がセインを説教中だ、確かに問題行動は此方も有ったみたいだ。

 

「レティシア殿、気を悪くしないで下さい。人間が全員あんな馬鹿な考えを持ってる訳では有りません」

 

 かなり不機嫌な顔で隣に立つ彼女に話し掛ける、種族間の諍いになる程の酷い発言だった。

 

「気にしてないと言えば嘘になるが、我々の一部にも人間を見下す連中は居るからな。エルフも人間も変わらない奴は居るって割り切る事にする」

 

 軽く微笑んでくれたけどさ、口元が歪んでいるんだよな。相当怒ってるな、亜人発言は……見下していた人間の亜種扱いだから仕方ないけど。

 

「えっと、『疾風の腕輪』ですが凄い効果ですね。先程の戦いでも移動力が凄く上がりました」

 

 話題を変える事にする、少しでも気が紛れてくれれば良いのだけれど。

 

「ふむ、そうか。早く全盛期の力を取り戻して私を訪ねて来い。その腕輪を見せれば『ゼロリックスの森』の集落に入れる」

 

 セインへの説教は佳境に入っているが、奴は嬉しそうに恍惚としている……何故だ?

 

「なぁ?人間って叱られると性的に興奮するのか?あの男だが恍惚としているぞ」

 

「僕に聞かれても全く理解出来ないのですが……

人間にはエム属性と言って普通辛い苦しいと思う事を愉しいと感じる人が居るそうです。彼等からすると説教はご褒美だそうです」

 

 凄い蔑みの表情でセインを見下すレティシアを横目で見ると背中がゾッとする、これがご褒美な訳ないだろ。

 

「欲望に忠実で謎に満ちた種族だな、人間って奴は……」

 

 言い返せないので苦笑いを浮かべて誤魔化す、僕にも兄弟戦士という特殊な性癖の友人が居るし。

 アイツ等も『静寂の鐘』のヒルダさんやポーラさんに説教されてた時に嬉しそうにしていた、叱られて何が興奮するんだ?

 

「分かりましたね?今後は気を付けるのですよ」

 

「済みませんでした、メディア様」

 

 どうやら説教タイムは終わったみたいだけど、セインは満ち足りた顔だ……お前は何も遣り遂げてないだろ?

 

「その、お疲れ様でした」

 

疲労困憊気味のメディア嬢に労りの声を掛ける、彼女も何げに大変なんだな。

 

「お疲れ様なのはリーンハルト様でしょう。今回の件は私達とアンドレアル様との諍い事でした、貴方が無理をする必要は無かった筈ですわ」

 

「いえ、大騒ぎになれば傍観しても罪を問われた……特に僕とセイン殿は最悪の場合は処分でしょう、宮廷魔術師と財務系派閥の重鎮ニーレンス公爵との諍いは国としても大事です。

何より奴は貴女達を侮辱した、貴族の男としては絶対に許せない事です。ではメディア様、レティシア様、失礼致します」

 

 スケープゴートにされる可能性は高かったから介入するしか無かったんだ。

 それが家名を大切にする貴族の性、善悪など爵位と金で何とかしてしまう嫌な連中なんだよ。

 

「リーンハルト様、ジゼルに会ったら伝えて下さい。

貴方の引き抜き工作は止めます、精々大切にしなさいと……それと私の大切なナイトには、ご褒美を与えなければならないわね」

 

 そう言って頬に触れる位のキスをされた?

 

「なっ、何を……」

 

「またバルバドス塾で会いましょう、私の後輩のリーンハルト様」

 

 最後に見せた顔は何か吹っ切れた様な清々しさに溢れていた。

 これで余計な勧誘による派閥争いは無くなった、メディア嬢も最初は嫌な思いもしたが義理固いみたいだし今後は大丈夫だろう。

 漸くバルバドス氏の指名依頼が完了した、これで冒険者ギルドからの指名依頼は全て完了。

 明日からは魔法迷宮バンクの攻略を再開、エレさんのレベルが20を超えるまでビッグボアを狩って肝を集めて……

 その後は四階層に降りてみよう、盗賊職も仲間になったし罠の解除も問題無くなったぞ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 色々と疲れた決闘立ち会いだったが時間的には短く昼前に自宅に戻れた。

 

「ただいま」

 

「お帰りなさい、リーンハルト君早かったね」

 

 ウィンディアが出迎えてくれたが……

 

「何故メイド服を着ている?」

 

 ウィンディアはその場でクルリと回ってからスカートの裾を摘み少しだけ持ち上げながらお辞儀をした。

 髪型も纏めてバレッタで留めていて妙に似合っている、だが何故メイド服を着てるんだ?

 

「イルメラさんのメイド服を借りて着たんだけど……どうかな?」

 

「どうかなって?不思議と似合ってる、新鮮な感じだけど……」

 

 魔術師の君がメイドに変身してどうするんだよ?

 

「やった!じゃご奉仕しますわ、御主人様」

 

 何だよ、ご奉仕って?

 

「変な物でも食べたのか?それよりイルメラは居ないの?」

 

「イルメラさんは買い物に行ったわ。メイド服は家の掃除をしてたから借りてみたの。家事をするならメイド服みたいな?」

 

 そう言えば兄弟戦士がメイド服に憧れが有りご奉仕されたいって言ってたな。

 一度メイド服を着たイルメラを見たいって騒いでヒルダさんに叩かれてたっけ、何故か見せるのは嫌な気分になったけど……

 

「良く分からないけど汚れても良い仕事服って事?」

 

「うん、それと男の人ってメイド服に憧れが有るんでしょ?リーンハルト君も素直に似合ってるよって言ってくれたし」

 

 そんな輝く様な笑顔を向けられてメイド大好きみたいな誤解は止めてくれ。玄関で立ち話もアレなので中に入るか……

 

「男が全員メイド大好きなんて誤解するなよ」

 

「でも巷で大人気の本に書いてあったよ、男女共に大人気で漸く手に入れたんだ」

 

 巷で大人気の本?嫌な予感がする。

 

「どんな?」

 

「リーンハルト君も読んでみる?もう私達は読んだから」

 

 居間に移動してソファーに座る、羽織っていたローブはウィンディアが受け取ってくれて直ぐにお茶の準備もしてくれる。

 見た目も仕草も貴族の屋敷で働くメイド達と遜色が無いな……

 

「ん、ありがとう」

 

 淹れてくれた紅茶を飲む、やはり自宅は落ち着くな。お茶請けのマドレーヌを一口、バター風味で旨い。

 

「えっと、この本だよ」

 

 差し出された本を受け取る、娯楽用の小説みたいだ、確か普段から清貧を心掛けているイルメラが定期的に娯楽用の小説を買っていたな。

 

「ふーん、タイトルは『御主人様とメイドの午後』って何だコレは?」

 

 思わず口に含んだ紅茶を吹き出しそうになって咳き込んだ。

 

 


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