古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第111話

「流石はバルバドス様だ!アンドレアル様に圧勝だったな」

 

 大袈裟に喜ぶ一応腹心の行動に頭が痛い、周りに気を遣いなさい。此処には未だアンドレアル様の御子息フレイナル様が居るのです、聞こえたら……

 

「何だと、あんな詐欺紛いの戦い方で勝ったと思うな!」

 

 ほら御覧なさい、地団駄を踏んでいたフレイナル様が絡んで来たじゃないですか。この手の殿方は感情的になりますから対応を間違えると面倒臭い事になりますわ。

 黙る様に視線をセインに送るが気が付かないみたいで口喧嘩を始めてしまった、貴方達って少しは貴族の立場とか柵(しがらみ)とか考えられないのかしら?

 もう少し有能な取り巻きが欲しい、もう少しだけ周りの事が見えて配慮出来る取り巻きが欲しい、割と切実に今直ぐに。

 

「正々堂々と戦ったバルバドス様を愚弄するのか?負けたんだよ、お前の父親は!」

 

「違う、卑怯な手口に嵌められただけだ!」

 

 助けを求めてリーンハルト様を見れば、何やら楽しそうにお三方と話している。

 ユリエル様が親しげに肩に手を置いて談笑してるけど、私も其方の会話に加わりたいです。そのまま屋敷の方に行ってしまったけど、私達って放置なのかしら?

 

「勝負だ、お前もバルバドスの弟子なら俺と勝負しろ!」

 

「望む所だ、同じ条件で叩きのめしてやるぜ!」

 

 中庭に走り去っていく馬鹿共を見ながら、この騒ぎをどう収めるか考える。

 バルバドス様とアンドレアル様の件は正式な決闘で結果も双方納得済みだから良いでしょう。

 ですが彼等の決闘の結果を認めず口喧嘩の末に実力行使に出た二人は大問題。

 アンドレアル様は現役の宮廷魔術師ですが、私のお父様との関係は微妙だから私にまで飛び火すると不味い事に……

 

 

 目の前でセインの『グレイトホーン』がフレイナル様の魔法により破壊されてしまった、三体共に……性格は別として魔術師としての実力は噂通り高いのね。

 

 

「バルバドスの弟子は弱いな、屑ばかりだぜ」

 

「未だだ、未だメディア様の……」

 

 セイン、お馬鹿な子……私を巻き込む気なの?

 

 レティシアが腰に吊していたレイピアを持った、私の安全の為にフレイナル様をブチのめす気満々ですわね、目が吊り上がっているし。

 アンドレアル様と事を構えるのは得策ではないのよ、貴女なら確実に勝てるけど弟子同士の諍いにエルフまで巻き込むのはね。

 

「おい、女。俺と戦え!」

 

 不味いわ、どう切り抜けたら良いの?此処で引いたら私の、ひいてはニーレンス公爵家の面子は丸潰れ。

 私自身が戦って負けても同じ、代理でレティシアに頼めば勝つけどエルフを巻き込む事になる。どちらにしても問題ならば、私が負けるよりは……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「お前がバルバドスの奴の後継者か、中々の魔力制御だな」

 

「何だ、お前はこの馬鹿の隠し子か?」

 

 アンドレアル氏とユリエル氏から許容し難い言葉を貰った、隠し子って偉い誤解だぞ!

 

「ちっ、違います!隠し子では無いし後継者でも有りません」

 

 そんな後継者争いに巻き込まれる様な話をサラリとしないで下さい。後ろに控えているメイドさん達が嬉しそうにしていますが誤解です!

 

「お前等、ソイツを余り苛めるな。家庭が複雑なんだよ、来年廃嫡する奴に後継者とか隠し子とか馬鹿共を刺激する話をするな」

 

 良かった、バルバドス氏は僕の立場を正しく理解してくれている。

 

「それは済まなかったな。じゃ総評するか……アンドレアルの魔法の威力が低くバルバドスのキメラを攻め切れなかった、以上!」

 

 酷い総評だ、子供でももう少し言い様が有ると思う。

 

「ふざけんな!あんな脆い盾なら次は破壊してやるって。同じ手は使えないぞ」

 

「あの盾はコイツの発案だ、俺は分離だけ考えたけどゴーレムを飛び掛からせるのもコイツの得意技だ!」

 

 二人とも子供みたいな口喧嘩を始めた、実は仲が良いんじゃないかな、この二人は?

 

「バルバドス様、その辺でって……何ですか、今の爆音は?」

 

「やべぇな、一寸目を離した隙に馬鹿やっちまったか?」

 

 セインの『グレイトホーン』がフレイナルの熱線攻撃で吹き飛んだ音だ!

 青銅製のゴーレムが半分溶け掛かっている所をみると1200℃以上か、中々の威力だな。

 

「不味いですね、メディア様に食い付いてます。どうやら弟子対決で勝って面目を保つつもりかな?ですがニーレンス公爵と事を構えると……」

 

「エルフのレティシアがヤル気満々だな、『ゼロリックスの森』のエルフとの諍いは不味いぞ。おい、アンドレアル。馬鹿息子を止めろ!」

 

 メディア嬢に挑めば護衛のレティシアが戦うと言い出して必ず勝つ。

 だが、アンドレアル氏の立場でニーレンス公爵の愛娘と『ゼロリックスの森』のエルフ達と諍いを起こすのは大問題だ。

 その場に居て何もしなかった僕等にも被害が及ぶだろう、主に僕とセインは罪を押し付けられそうだな。

 

「無理だ!我が儘一杯に育てた愚息だが魔術師としては一人前なんだ。奴はギリギリ宮廷魔術師としてのレベルだから変な自信を持ってるんだ」

 

 もう止められない。メディア嬢に挑めばレティシアが代理で圧勝し、ニーレンス公爵はアンドレアル氏と敵対する。

 

「バルバドス様、突然ですが前に言われた弟子入りの件を受けたいと思います」

 

「む、いきなりだな」

 

「メディア様の代わりに僕がフレイナル殿と戦います、同じ弟子同士の力比べにします。アンドレアル様には大変申し訳有りませんが勝たせて頂きます」

 

 もはや乱入して圧勝するしかメディア嬢の面目を保つ事は出来ない。

 

「リーンハルト、分かってるのか?お前が負けたら……」

 

「ご安心下さい、我が師とは違う戦い方をお見せ致します」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「さぁ、俺と戦え!」

 

「ふざけないで下さい」

 

「少年、悪戯が過ぎるぞ」

 

「黙れ、亜人の分際で口を出すな!」

 

 このドラ息子は魔術師としては有能かも知れないけど貴族の子弟としては大馬鹿者だわ。

 ニーレンス公爵家と『ゼロリックスの森』のエルフに喧嘩を売った、レティシアを亜人と蔑んだ。

 

 私達に恥をかかせるつもりならば容赦はしない!

 

「この無礼者、もう容赦は……」

 

「我が姫よ、この無礼者の処理は僕に任せて下さい。下がれ下郎、メディア様とレティシア様が穢れるだろうが!」

 

 はい?我が姫って……えっと、あれ?

 

 リーンハルト様が私とフレイナル様の間に立ち塞がる、嬉しいのですが我が姫とは?

 

「なんだ貴様は?邪魔するつもりなら容赦しないぞ。どけ、俺はメディアと亜人に用が有る」

 

「身の程を知れ、下郎が!彼女達に用が有るのなら先ず僕を倒すんだな。

お前がメディア様にご執心なのは分かるが美しき姫には何人ものナイトが居るのだ。簡単には辿り付けない」

 

 嗚呼、そういう事ですか……全くその気も無いのに我が姫とか美しき姫とか、本当に周りが良く見えている殿方ですわね。

 でも今はこの猿芝居に乗るのも一興かしら?

 

「リーンハルト様、私の為にこの無礼者を倒しなさい」

 

 もし貴男が負けたら私の代理でレティシアを出して勝つ、そしてお父様にお願いしてアンドレアル様と事を構えるわ。

 

「お任せ下さい、勝利を我が姫に捧げます。

これで魔力を回復しろ、なんなら休憩するか?本調子じゃないから負けたとか言い訳はお断りだ!」

 

 上級魔力石をフレイナルに投げ付けているけど、挑発が凄いわ。我が姫って連呼するのに一度も私を見ないのが癪だわ、お芝居だからって事よね。

 

「ふざけんな、先ずはお前をボコボコにしてやんぜ!言い訳を考えておけよな」

 

「レティシア殿、審判をお願いします。メディア様、この弟子同士の戦い、必ず勝ちます」

 

 あくまでもバルバドス様とアンドレアル様の弟子同士の戦いで収めて欲しいって事ね、私の実家と『ゼロリックスの森』のエルフは無関係と……

 でもね、私達は侮辱されたのよ、辛勝では納得出来ないわ。

 

「私とレティシアは侮辱されました、分かりますね?」

 

「圧勝します、貴女に歯向かう愚か者の末路を笑い溜飲を下げて下さい」

 

 本当に有能ね、でも圧勝すると貴男が馬鹿息子に目の敵にされるのよ。

 全くジゼルの婚約者の為に動くのは嫌だけど、嫌だけど恩には報いないと駄目だから私が抑えて差し上げるわ。だから……

 

「勝ちなさい、私の為に!」

 

「勝利の栄光を我が姫に!」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「遺言は済んだか?あの女の為に見栄を張ったみたいだが無様に負けるんだぞ」

 

 お前の為に芝居を打ってメディア嬢が乗ってくれたんだぞ!審判のレティシアの前で睨み合い後ろを向いて距離を取る、最初と同じ30mまで歩いていく。

 

「準備は良いか?」

 

 互いに開始線まで離れたのをレティシアが確認する。

 

「ゴーレム出せよ」

 

「呪文の詠唱しろよ」

 

 互いに憎まれ口を叩くが、この距離だと負ける方が難しい。僕は半径50m以内なら三秒でゴーレムを召喚出来る、だから開始直ぐに円殺陣を仕掛けられる。

 

「では、始めっ!」

 

「死ね、糞餓鬼が。サンアロー!」

 

「アースウォール!」

 

 真っ直ぐサンアローが僕に向かって来るが中間地点に耐火レンガ仕様の壁を作る、幅5m高さ3m厚み50㎝と十分な強度を持つ防御壁に流石のサンアローも止められる。

 しかし圧力に負けそうだな、流石はアンドレアル氏の息子って事か。だが初手で勝てなかったのが敗因だよ、お前のな。

 アースウォールを迂回して奴の前に姿を現わしカッカラを一回しして振り下ろす。

 

「クリエイトゴーレム!無言兵団よ、奴を取り囲め」

 

 瞬間、フレイナルの周囲に魔素が大量に集まり全身鎧のパーツを全て完成させてから一気に組み立てる。

 フレイナルを中心に内側十体外側二十体の槍装備のゴーレムポーンが一斉に切っ先を向ける。

 

「きっ、貴様……卑怯だぞ、かっ数が……」

 

 慌てて逃げ出せる隙間がないか左右を見渡すが既に包囲網は完成しているので逃がさないぞ。

 

「圧し潰せ、円殺陣!」

 

 槍を反転させ刃の無い方で一斉に突き出す、所詮は武術や体術など学んでいない魔術師。相当に手加減した棒術によって地面に引き倒される。

 

「負けを認めるか?それとも腕の一本でも折れば良いか?」

 

「貴様、クソッ、クソがぁ!俺は宮廷魔術師アンドレアルの息子だぞ!こんな事をしてタダで済むと思うな!」

 

 ああ、面倒臭い我が儘なボンボンだな。典型的な脅し文句に呆れを通り越してアンドレアル氏が哀れに思えてきた、素質は十分だけど環境と才能に溺れたな……

 

「あら?私のナイト様に何かしたらニーレンス公爵家が全力を使って潰しますわ」

 

「私を亜人と愚弄したな、つまり『ゼロリックスの森』のエルフ族は貴様の敵だ」

 

 女性陣が僕の両脇に立って奴を脅迫し返した。実は相当頭にきていたんだな、レティシアは本気で敵対する気が満々だぞ。

 殺気がさ、凄いんだ……皮膚の表面がピリピリする位に殺気を放っている、亜人は言い過ぎだぞ。

 

「くっ、ぐぐぐ……俺は……」

 

 尚、首だけ動かして僕等を睨み付けるか……

 

「フレイナル、負けを認めて謝罪しろ!さもなくば勘当か廃嫡だぞ、我が家が取り潰される程の失態だ」

 

「リーンハルトに感謝しろよ、弟子同士の勝負に持ち込んで負かせたんだ。

あのままメディアを巻き込んだらレティシア殿が出張って負けていたぞ。そしてニーレンス公爵家と『ゼロリックスの森』のエルフ達と敵対した」

 

 漸くお二方が出て来て説得してくれた、これで負けを認めなければ……

 

「ぐっ、俺の負けだ!メディア様、レティシア様、無礼を許して下さい」

 

 土下座して負けを認めた事により何とか騒ぎを抑える事が出来た……と思う。

 

「俺得な決闘だったな!アンドレアルの馬鹿に勝って面白い弟子まで出来たぜ。メディアも後輩が出来たんだから機嫌を直せ」

 

「後輩?違います、私のナイト様ですわ。ねぇリーンハルト様?」

 

 初めて裏表のない笑顔を見せてくれましたが、それは騒ぎを抑える為の詭弁と言うか嘘ですから!

 


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