古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第110話

 バルバドス氏の指名依頼を請けて三日目の午後、豪華な昼食を頂き暫くベッドで横になって休む、流石は元宮廷魔術師だけありフカフカで寝心地が良い。

 食べて直ぐ寝るのは良くないと言われるが午前中の精神的疲労回復も踏まえての昼寝だ。

 窓から差し込む暖かな日差しを浴びての昼寝は最高だな……

 

 僅か15分程だが大分回復したので身嗜みを整えるとバルバドス氏の待つ研究室へと向かった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「お待たせ致しました」

 

「おぅ、来たか。実戦形式の指導とは面白い事をしてたな。そこの窓から見えてたぜ」

 

 サンドイッチを噛りながら窓を指差す、確かに東側のサロンが見えているな。つまり僕の恥ずかしいアレは丸見えだったのか、牡牛とか蟹とか……

 

「異形のゴーレムも効果は理解しています、人に無い特性は時に大きな力となるでしょう。

好き嫌いで素体を選ぶのも良いでしょう、しかし戦闘用としては些か問題が有ると思い実際に戦って体験して貰いました。

僕も蟹ゴーレムを作ったのは初めてでしたね、動かし方すら分かりませんでしたから勉強になりました、何事も経験ですね」

 

 メルサさんが椅子を勧めてくれたので座ると直ぐに紅茶を出してくれた。シュガーポットは要りません、レモンスライスだけで良いです。

 

「ああ、あの片手のデカいカニか?ありゃ使えないだろ?」

 

 本当に良く見てたな、その通り戦闘用としては使えない、良くて盾か囮だな。

 

「一点特化してみたのですが微妙でした」

 

「奴等は俺の好みの異形を真似れば強いと思ってるからな、それは大きな間違いだ!」

 

 大声で力説するが、バルバドス氏の譲れない部分なのだろう。碌でもない異形ゴーレムは認めたくも無い産物か?

 嫌なら指導して変えさせれば良いと思うのだが、バルバドス氏はしないだろう。

 遅い昼食を食べながら書類にサインをしているが忙しいのだろう、確か領地持ちの筈だから経営とか付帯する仕事が大変そうだ。

 

「ほら、指名依頼達成の書類だ。もう帰って良いぜ、十分役に立ったぞ。後は一人で大丈夫だ」

 

 指名依頼書には達成のサインが書いてあった、これで終了か……

 

「はい、確認しました。有り難う御座いました」

 

 深々とお辞儀をする。色々有ったが有意義な依頼だった。

 

「俺も久し振りに楽しかったぞ、未だ若く上を目指していた頃を思い出した。アンドレアルとの対戦だが決まったら連絡するから見に来い」

 

「宜しいのですか?」

 

 個人的決闘に観客は少ない、立会人と審判だけでどちらが勝っても負けても噂が広まらない様にしている。

 勝敗の結果は当事者だけが知っていれば良いのが通例だ、主にプライドの問題で無様に負けた姿を晒すのは最小人数にする為に。

 僕を誘ってくれたのは関係者として立会人になってくれって事だ。

 

「構わんさ、お前は協力者として俺が勝つ所を見て称えねばならんからな」

 

 豪快に笑っているが心底嬉しい、自分の協力の結果を直接見せてくれるのだ。

 僕から見ても20~30mなら攻撃魔法を撃ち込まれても耐えれるだけの工夫はしたから自信が有る。それに今の時代の宮廷魔術師の力を直接見る事が出来る。

 

「精一杯応援させて頂きます」

 

「そんなに俺が勝つのを見るのが嬉しいのかよ?まぁ楽しみにしてろ」

 

 忙しいバルバドス氏の時間を使わせるのは忍びないので、再度お礼を言ってバルバドス邸をあとにした……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 バルバドス氏からの連絡は早かった、翌日には使いの方が手紙を届けてくれたが書かれた日時は指名依頼達成から二日後、つまり手紙を貰った翌日だ。

 

 使いの方曰く「双方楽しみで待ちきれず、早く戦いたかった」そうだ。

 

 場所はバルバドス氏の屋敷で朝10時に開始と本当に待てなかったのが分かる、使いの方には必ず行きますと伝えて貰ったが当日の朝9時には来いと言付かっていたそうだ。

 確かに行くとは言っていたが、返事を待たずに僕の参加は決定事項だったみたいだな……

 

 

 

 

 そして当日、少し早めに家を出てバルバドス氏の屋敷へと向かった。

 バルバドス氏の協力者として招かれたので貴族的正装に魔術師の証である黒色のローブを羽織っている、手にはカッカラを持ち左右の腕には『剛力の腕輪』と『疾風の腕輪』を装備し不慮の事態に備える。

 朝9時少し前に屋敷に到着したのにも関わらず既に先方は到着、何故かメディア嬢も来ていた。

 

「メディア様、レティシア様、ご無沙汰しています」

 

「おはようございます、リーンハルト様」

 

「おっ、おはよう。リーンハルト」

 

 直ぐに応接室に通されたが既にメディア嬢が到着し寛いでいた、何故だ?それと名前で呼ぶと変に思われるぞ。メディア嬢も不審な顔してるし……

 

「お二方も決闘の立会いですか?」

 

「はい、アンドレアル様がお弟子さんと一緒に来るそうなので私も呼ばれました」

 

「俺も居るぞ、無視するな」

 

 バルバドス氏の弟子の中で一番影響力が有るのは、ニーレンス公爵の愛娘であるメディア嬢。一番実力が有るのは、多分だが牡牛使いのセインだろう。

 前回は簡単に倒してしまったが、三羽烏の操るヘカトンケイルやタイタンに勝てるだけの性能は有る……と思う。

 ただ貴族間の決闘に参加出来るのは基本的には貴族だけだから、その括りの中で最強って事だ。

 

「セイン殿もお久し振りですね、『グレイトホーン』の改良は進んでますか?」

 

「ああ、順調だ。未完成だが確実に向上している」

 

 バルバドス氏側の立会人はメディア嬢にレティシア、僕とセインか。アンドレアル氏の方は何人だろうか?

 

「いらっしゃいましたわ、あのお方がアンドレアル様。隣に居る少年は御子息のフレイナル様、火属性魔術師で噂では素質は父親以上と言われてますわ」

 

 バルバドス氏が二人を伴って応接室に入ってきたが双方ヤル気満々だな。

 しかし初めて見るがアンドレアル氏の纏う魔力は凄い攻撃的だな、此処からでも炎の様な揺らめきが分かる。

 息子のフレイナルも中々の魔力だ、父親程ではないが漲(みなぎ)り立ち上っている。

 しかし気の強そうな親子だな、流石は火属性魔術師というところか……

 

「この馬鹿が予定より早く来てしまってな、直ぐに始めたいが紹介しよう。

宮廷魔術師序列八位、『魔弾の狙撃』の二つ名を持つアンドレアルだ。隣は息子のフレイナル、揃って火力馬鹿だ」

 

 大胆な紹介だが、犬猿の仲とはいえ冗談が通じ合う程度には仲良しなのか?

 

「この絡繰り馬鹿は昔からそうだった、先に引退して楽しやがって。これはニーレンス公爵のご息女、メディア嬢ですな。宜しく、それと男二人も宜しくな!」

 

 端折られた事にショックだったのかセインが呆然としている、意外とメンタルが弱いのか?それとも憧れの現役宮廷魔術師を前に緊張しているのか?

 

「リーンハルト・フォン・バーレイです、宜しくお願いします」

 

 慌ててセインも頭を下げたが、もうアンドレアル氏は僕等を見ていない。息子のフレイナルなど端から無視して目線すら向けて来なかった。

 

「さっさと始めるか」

 

「まだ審判が来ていない、暫く待て」

 

 さっさと中庭に向かう二人を見て何て慌ただしい連中かと驚いた、貴族的マナーとかも端折り過ぎだろ。

 

「何ていうか、凄い人だな……」

 

「アレが現役宮廷魔術師か、色々とブッ飛んでるな……」

 

「親子揃ってフリーダム過ぎますわ、私も何とも言えません」

 

「人間って良く分からん生き物だな」

 

 失礼な事を呟いてしまったが、決して僕等は悪くない筈だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 約束の時間通りに審判役の方がやってきたが、驚きの人物だった。

 宮廷魔術師序列五位のユリエル、風属性の魔術師で『台風』の二つ名を持つ壮年の男性だ。

 一見知的でダンディーな方だが、二つ名の意味はキレると無差別に周りに被害を加えるかららしい。

 エムデン王国の宮廷魔術師達って曲者ばかりだが、大丈夫なのだろうか?

 

 決闘のルールは簡単、お互い30m離れて対峙する。

 キメラを完全に壊したらアンドレアル氏の勝ち、アンドレアル氏の1m以内にキメラが辿り着けばバルバドス氏の勝ちだ。

 あくまでもアンドレアル氏の攻撃を防ぎ切れるかが勝負なのでルールはこの様に決めた、どちらが有利かは分からない。

 

「お前のヘッポコ魔法など怖くもないわ!」

 

「黙れ、自慢のキメラをボコボコにしてやるぜ!」

 

 大人気ないな、良い年をして地位も財産も名誉も有る大人の態度じゃない。ひとしきりの舌戦を終えてから所定の位置に着いた。

 

「いよいよ始まる、上級魔術師達の戦いが……」

 

「そうね、リーンハルト様はどう見ますか?」

 

 基本立会人は中央に立つ審判の後ろに居なければならない、審判は立会人が不正をしない様に見張るのも仕事だ。

 フレイナルも嫌そうな顔で近くにいる、立会人同士も不正が無い様に見張り合うから。

 

「30mという距離はバルバドス様に有利でしょう。アンドレアル様の射程距離は100m前後、精密射撃なら80mを切ると思います。

30mは既に精密射撃を行える距離、一見アンドレアル様が有利と思いますが近ければ近い程接近する時間が短くて済みます。

バルバドス様のキメラは耐熱性を高めたカスタム機、仮にアンドレアル様の魔法が1500℃を超える高熱でも対処出来ます」

 

 軽量化し盾と胴体前面に耐熱処理を施したキメラなら30mは10秒と掛からない、この勝負は貰ったな!

 

「これだから未熟者は馬鹿で見当違いな事を垂れ流すから嫌なんだ。

父上のサンアローは1800℃以上、鋼鉄ですら三秒と保たずに飴の様にグニャグニャだぞ。あのキメラは鋼鉄製、果たして五秒保つかな?」

 

 アハハハハって高笑いしてるけど鋼鉄が蒸発せずに溶ける程度なら、あの盾でも二十秒は持つな。

 

「そうですか、参考になりました」

 

 適当に返事を返した、そろそろ始まるぞ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「両者準備は宜しいか?では……始めっ!」

 

 ユリエル様の号令と同時にバルバドス氏のキメラが突撃する、早い!

 

「特攻か?捻りが無いな……サンアロー!」

 

 アンドレアル氏も早い、既に呪文詠唱は済ませていたんだな、極太の白い熱線がキメラを襲うが盾で防いだ。

 

「上手い、熱線を盾でいなして横にズラした。サンアローの点攻撃を微妙に左右に移動し圧力を逸らす事で盾の一ヶ所に攻撃が集中するのを防いでいる」

 

 だがサンアローの熱量と圧力は相当なモノだ、キメラのスピードが落ちた。残り10m、マズい一枚目の盾が壊れた。

 

「ハッ!あんな盾など紙同然、父上頑張って下さい!」

 

 二枚目の盾を構える前に右脚の一本がモゲてしまった、だが後7mだ。しかしアンドレアル氏を舐めていた、サンアローを二十秒以上連続照射出来るとは驚いた。

 

「厳しいか……あと5m、二枚目の盾ももう保たない……」

 

 その時、二枚目の盾が融解し分解した瞬間、キメラが飛んだ?

 

「馬鹿な、胴体を切り離して上半身が飛び上がるなんて!」

 

 分離した上半身ゴーレムの鎌がアンドレアル氏に突き付けられる、まさかの分離には驚いたな。

 

「俺の勝ちだ、アンドレアル!常識に囚われるから対処出来ないんだよ!」

 

 盾が壊れた瞬間、キメラの上半身がスッポリと抜け出して下半身を踏み台に飛び掛かった。だが、この戦法って僕も良くゴーレムポーンに使わせてるぞ。

 

「勝者、バルバドス!」

 

 年甲斐もなく天に拳を突き出したバルバドス氏が吠える、余程嬉しかったのだろう。代わりにアンドレアル氏は茫然自失だ、手に持つ杖が落ちたぞ。

 

「父上、畜生、反則気味なトリッキーな作戦など卑怯だぞ、恥を知れ!」

 

 フレイナルが地団駄を踏んでいる。久し振りに見たな、あそこまで感情を露にする……子供みたいな奴は。

 

「おい、リーンハルト!総評するぞ、早く来い」

 

 未だに地面を右足で踏み続けるフレイナルを横目に、約束通り勝者であるバルバドス氏を称える為に近付く、満面の笑みだな。

 アンドレアル氏も回復したみたいだ、凄く不貞腐れた顔をしている。

 

「お前等、本当に餓鬼みたいだな。

俺は早く総評して帰りたいんだよ、決闘って体面を整えてるけど実際は餓鬼の喧嘩なんだぜ。リーンハルトって言ったな、バルバドスから聞いてるぜ」

 

 何故、ユリエル様が笑顔で僕の肩を掴むんだ?バルバドス氏はユリエル様に何を吹き込んだんだ?

 




今週は夏休み特集として本日11日から16日まで毎日連載します。

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