古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第107話

 僕が300年前に実在した人物、ツアイツ・フォン・ハーナウである事がバレた。

 転生前に出会い今も存命のエルフ娘と再会した事が原因だった、まさか300年振りに僕を知っている人物に会うとか想定外だ。

 彼女は未だ五十歳位の幼生態で、リュリュシープトと呼ばれていたが名前も変わっていたので全然分からなかった。

 今も目の前で不機嫌そうに僕を見てるが、当時も怒ってばかりだったな。

 

 懐かしい再会だが、転生の件は秘密にして貰わないと大騒ぎになるだろう。

 

 何故か衰退した魔法技術の知識を僕は持っているのだから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「先ずは防諜系の魔法を掛けて貰って良いですか?この部屋の前の廊下には定期的に警備兵が巡回しますので、話し声が漏れては大変です」

 

 時間は夜の十時過ぎ、寝るには早いが女性が男性の部屋を訪ねて良い時間ではない。

 しかも彼女はエルフ、どんな誤解を受けるか考えも及ばない。

 

「大丈夫だ、風の精霊に頼んである。部屋の中の会話は外には漏れない」

 

 精霊魔法、直接力有るモノに干渉して奇跡を起こすエルフ族特有の魔法。

 人間は自分の保有魔力を消費して魔法を行使するが、精霊魔法は基本的にお願いらしい……膨大な魔力を持ちながら消費コストが低いのはズルいだろ。

 

 昨晩と同じ様にソファーに座らせオレンジ果汁水を出す、長い話になりそうなので自分も同じ物にする。

 昨夜の慌て振りと違い随分落ち着いているな、ゆったりとソファーに座り僕を眺めている……

 

「何から話しましょうか?」

 

「お前が何時の間にか少年になってる事だ!」

 

 最近不機嫌な知り合いが増えたな、早くイルメラに会いたい……ホームシックかな?

 だがイルメラには前世の夢と説明したが、彼女には通じないだろう。

 

「僕は父王の謀略により粛清されました、まさか肉親に殺されまいと慢心していたからですね。

事が動いた時には配下の仲間達を逃がすので手一杯、自分が逃げる余裕など無かった……」

 

 マリエッタ達に警告し財貨を与え自分が捕まる事で周りの注目を集めたが、彼等のその後は知らない。

 

「全く人間とは愚かだな、肉親といえども自分の為に排除するとは……」

 

 真面目な顔で辛辣な評価を頂いた、確かに父王は纂奪(さんだつ)を恐れて僕に濡れ衣を着せて処刑した、そんな気は全く無かったのに。

 

「肉親の情や種族間の結束の強いエルフ族からみれば、確かに愚かでしょう。

僕は捕まって処刑される前に転生の秘術を自分に施しました、処刑されたのは魂の無い脱け殻です」

 

 用意したオレンジ果汁水を一口飲む、まだ肉親に殺された事を悲しむ心が残っていたみたいだ、割り切った筈なのに……メンタル面は全然成長してないって事か。

 

「私もお前が処刑されたと聞いたのは随分後だったんだ。何故、我等を頼って逃げて来なかったのかと思っていたが捕まってたのか……」

 

 エルフ族を頼る?何を馬鹿な事を……当時はそんなに良好な関係じゃなかったと思うが?

 

「いや、そんなに友好関係を築けて無かったですよ。国家反逆者を匿うなんて無理、下手したら戦争ですから……

だから他国に亡命も無理だった、周辺諸国の軍事バランスも微妙だった様な?

すみません、記憶が完全じゃないのか忘れてしまったのか優先度の低いモノは思い出せないんです」

 

 マジックアイテムに意識だけ移して300年も待っていたからな、物忘れも酷い。

 

「私の事は覚えていたからヨシとするか。転生の秘術か、何故300年も掛かったんだ?」

 

 此処からが嘘をつく部分だな、さて……

 

「む、多分ですがモア教には輪廻転生という教えが有ります。人は死ぬと生前の罪を償い新たな生命を得る為に輪廻の輪に加わるそうです。

僕の生前の罪が重く償うのに300年掛かったのでしょうか?転生前の記憶を取り戻したのも最近なんですよ、全盛期の力の半分以下しかないし鍛え直しですね」

 

 凄い嘘だが真実を伝えるのは憚れるので許して貰おう、記憶が蘇ったのが最近なのは本当だし……

 

「それでは勝負が出来ないではないか!勝ち逃げされて死んだと思っていたのが生きていると分かり喜んだのに、弱体化してどうするんだ!」む、やはり負けっぱなしが嫌だったのか?

勝ち逃げした相手と偶然会ったのだ、再戦したいのに相手が弱くなってるのは我慢がならないと?

 

「申し訳ないとしか……今戦えば100%負ける、勝つ要素が無い、残念だけどお互い分かり切った勝負はしたくないでしょ?」

 

 全盛期に辛勝して、それから300年も研鑽してきた相手に挑まれても困る、だがそれでも勝負となれば受けよう。

 

「300年も待たされたからな、あと何年待てば良いんだ?」

 

「レティシアと戦ったのは26歳だったかな?あと10年、いや8年位で前より強くなってみせます。

だから僕が転生した事は秘密にして欲しい、バレたら勝負どころじゃないから……」

 

 真剣な顔をして頭を下げる、この秘密は誰にも知られたくないんだ。

 

「分かった、折角また会えたのに粛清されては堪らんからな。流石の私もあと150年位しか待てないぞ」

 

 僅かに口の端が笑ったが、彼女なりの冗談なのだろうか?

 流石に僕も再度転生し三度目の人生を送るつもりは無い、今の人生を終えたら足掻かずに死ぬつもりだ。

 

「有り難う、レティシア」

 

これで今回の件は何とかなったな、今後はもっと気を付けて行動するぞ。

 

「ん?ツアイツの腕に、いやリーンハルトの腕に嵌めている腕輪は何だ?ドワーフの『剛力の腕輪』じゃないだろうな?」

 

 僕の右腕に嵌めている『剛力の腕輪』にキツい視線を向けている、エルフとドワーフって仲が悪かったっけ?

 

「ドワーフ工房『ブラックスミス』のヴァン殿に貰ったんですよ。

彼は僕の錬金術の目標にしていた、ボルケットボーガン殿の弟子だったんです。同じ人物を目標としていた事で親近感を……」

 

「理由はどうでも良いのだが気に入らない。ソレを外して、この『疾風の腕輪』を嵌めるんだ」

 

 そう言って自分の腕に嵌めていた『疾風の腕輪』を強引に渡してきた、噂話程度しか知らなかったがドワーフ族と仲が悪いのは本当だったんだ。

 彼女の気が悪くならない様に腕輪を嵌め替える、これは文字通り敏捷性を上げる効果が有りそうだ。

 

「有り難う御座います、大切にしますね」

 

「口調が変だ、昔は我は我はって偉そうだったのに、いきなり敬語だと気持ち悪いぞ。

まぁ良いか……私は来月には『ゼロリックスの森』に帰るのだ、強くなったら訪ねて来てくれ。300年も悲しんだのだ、10年位は待てるさ」

 

 そう言って微笑むと霞の様に消えてしまった……残されたのは今まで飲んでいたガラスのグラスだけだ。

 エルフ族固有の精霊魔法って反則気味だよな、魔力反応が消えたって事は部屋から居なくなった訳だから空間移転?

 だけど最後の言葉、300年も悲しんだって言ったけど、転生前の僕ってリュリュシープトに何かしたかな?

 そんなに気にしてくれる程に友好関係を結んだ記憶が無い……何か大切な事を忘れているのだろうか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

僅かな残り香だけを残してレティシアは消えた、流石はエルフって事だ。

後は寝るだけなので部屋の灯りを落としてベッドへダイブする……

 

改めてヴァン殿とレティシアに貰った腕輪を触って確かめる。

 

『剛力の腕輪:体力・筋力・物理抵抗力・魔法抵抗力UP 効果大』

 

『疾風の腕輪:敏捷・魔力・物理抵抗力・魔法抵抗力UP 効果大』

 

前者は戦士としての、後者は魔術師として必要なステータスが向上し、どちらも物理と魔法の抵抗力が上がる。

模様にも差が有り『剛力の腕輪』質実剛健っぽく幾何学模様、『疾風の腕輪』は蔦の絡み合う意匠がデザインされている。

材質は金と銀っぽいが強固な固定化の魔法が幾重にも重ね掛けされていて凄く丈夫だ。

右腕に『剛力の腕輪』、左腕に『疾風の腕輪』を装着し指にはデモンリング、これだけでも効果は重装備並みに向上するだろう。

流石に他人に貸すのは憚れる、僕が有り難く使わせて貰うがバレない様に隠すか偽装するか……

 

「後はお礼として何を贈るかだな……

妙齢の美女とむさ苦しいオッサン、共に百歳以上も年上だ」

 

これだけのマジックアイテムを貰って何もお返ししないのは非常識過ぎる、価値は金貨千枚でも足りないだろう。

幸いにして空間創造も第四段階まで解放されたから、それなりのマジックアイテムや素材も取り出せる。

ヴァン殿には工房を訪ねて技術を提供すれば良いだろう、場合によっては保管しているボルケットボーガン殿の作品を渡しても良い。

模倣し尽くした物だが参考資料にはなる筈だ。

 

「問題はレティシアだな……」

 

仮にもニーレンス公爵が愛娘のメディア嬢の為に『ゼロリックスの森』から招いた護衛だから、迂闊な接触も贈り物も出来ない。

他人に知られたら誤解が酷いだろう、下手したら派閥間の争いの種になるな……

 

「早めに力をつけて再戦するか一ヶ月以降に『ゼロリックスの森』を訪ねるかだろうな。

だが何を贈ったら良いのかは全く分からない」

 

流石に350歳のエルフの女性が欲しい物など分からないな……

悩みながらもバルバドス邸での二日目の夜は過ぎて行った。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

バルバドス邸三日間の朝、定刻にメイドが起こしに来てくれて身嗜みを整えるのを手伝った後に朝食を運んでくれた。

どうやらバルバドス氏は早起きらしく、既に食事を終えて研究室にいるそうだが九時に来れば良いそうだ。

現在七時十二分、時間に余裕が有るな……

窓の外を見れば初日と違い快晴だが風が強い、雲の流れが速いな。

朝食のメニューは焼きたてクロワッサンにホウレン草とベーコンのキッシュ、ソーセージにポテトサラダ、コーンスープにオレンジ果汁水とボリューム満点、クロワッサンはバスケットに山盛りだが二個で十分だ。

給仕のメイドは初めて見るが若いな、下手したら同い年位かな?

 

「クロワッサンのお代わりは如何でしょうか?」

 

「もう十分です、ご馳走様でした」

 

美味しかったが一人で食べる食事は味気ない、しかもメイドさん何気に僕をチラチラ見てるし……

 

「あの、何か?」

 

「しっ、失礼しました」

 

目が合うと慌てて逸らすが、この娘ってメルサさんに似ているな。

 

「何か気になって仕方ないのですが、何故チラチラ見てるのでしょうか?何か付いてますか?それとも寝癖ですか?」

 

下を向いて両手をモジモジ擦り合わせているが、そんなに言い辛いのだろうか?

 

「申し訳有りませんでした。その……同い年なのにバルバドス様から頼りにされていると聞いて……」

 

「興味があったと?」

 

コクンと頷かれた、やはり良く見ると目鼻顔立ちがメルサさんに似ているな……

 

「あの、そんなに見られると恥ずかしいです」

 

「済まない、君はもしかしてメルサさんの……」

 

娘さんかな?

 

「はい、孫です」

 

「孫?お孫さん?つまりメルサさんは君のお婆さん?」

 

黙って頷くが……いや、早婚は珍しくない、メルサさんが16歳で結婚・出産してお子さんが16歳で結婚・出産すれば14歳の孫は最短で46歳の時に……

 

「はい、祖母・母・娘の親子三代でバルバドス様にお仕えさせて頂いております」

 

「そうなんだ、親子二代は普通に居るが三代となると珍しいのかな?

僕もバルバドス様には良くして貰ってるよ、スパルタは勘弁して欲しいけどね。君の名前は?」

 

「はい、ナルサと申します。宜しくお願いします」

 

 少しだけバルバドス氏のプライベートの事も知る事が出来た、あの人先妻と死別して後妻とは別居。

 先妻と後妻との間には子供が居ないし養子縁組の話も無い。

 だけど屋敷の外にお妾さんを二人囲っているそうだ、こりゃ相続争いで揉める要素が満載だぞ。

 後妻のフィーネ様はニーレンス公爵の派閥に属している、フレネクス男爵の次女らしい。

  メイドさん情報はその家の情報を裏の裏まで知り尽くしているが、僕に教えるのって意味有りか?

 


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