古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第104話

 九対一で望んだ模擬戦、こんなにも一方的に負けるとは思ってもいなかったわ。

 最初は取り巻き七人で二十二体のゴーレムを錬成し挑んだけど三十体のゴーレムを素早く錬成して迎撃、一分と掛からずに全滅。

 次は実質バルバドス塾生のNo.2であるセインの牡牛型ゴーレム『グレイトホーン』三体の突進も簡単に止められたわ。

 私の『ヴァルキリー』は刺突三連撃なる技で吹き飛ばされて負け、座り込みたいけど我慢して睨み付ける……

 

 勝利者はゆっくりと歩いて近付いてくる、完璧な勝利も当然って顔ね?

 

「敗者に塩を塗る気か?」

 

「皆で殴り倒そうぜ」

 

 取り巻き達が騒ぎ出す、全く恥の上塗りをしようとする愚か者共め……

 

「お止めなさい、貴方達。

リーンハルト様は英雄ディルク様の長子、騎士として武術にも長けたお方ですわ。杖より重たい物を持った事の無い貴方達では無理です」

 

 真っ直ぐ私の前に歩いて来る彼に圧倒されてか、取り巻き達が左右に分かれてしまう。

 私と彼の前には誰も居ない、護衛のレティシアは隣に立っているが何故か動かない……

 

「お見事ですわ、私達の完敗です」

 

 悔しいけど誰が見ても完璧な負けっぷりで言い訳すら出来ない。潔く負けを認めた方が周りに対しても彼に対しても好印象でしょう。

 

「メディア様のゴーレムですが何故人型に?」

 

 質問?この状況で?

 

「私の操るゴーレムは美しくなければなりません、獣や昆虫など論外ですわ!」

 

 私の拘り、それは伝説の戦乙女達だけの軍団を操る事なので……何故、凄く嬉しそうな笑顔を私に向けるの?

 

「僕もそう思います、確かに異形にも利点は有ります。

ですが基本を疎かにしては意味は無いのです、あの最初のゴーレム達を見た時は目眩すらしました。

手長の蟹擬き・多脚昆虫・・牡牛等々、特徴の利点が生かし切れてない模倣だけの異形のゴーレムとは何とも嘆かわしい。

しかし最後にメディア様の素晴らしい造形のゴーレムを見せて貰いました。古代神話に登場する戦乙女ヴァルキリーですね。

メディア様、有難う御座いました」

 

 深々と頭を下げられたけど、これって私の体面は保たれたって事かしら?負けたのに相手に頭を下げさせたのですから……

 

「いえ、リーンハルト様のゴーレムも素晴らしいですわ。私、感服致しました」

 

 良く状況が分からないけど話を合わせましょう、つまりリーンハルト様は女性型ゴーレムが大好き、まだ若いのに随分と特殊な性癖を持っているのかしら?

 でもジゼルにはお似合いね。

 

「僕のゴーレム、ポーンとナイトですが未だ未完成なのです。量産機としてのポーンは殆ど完成といって差し支えは有りませんが、ナイトは未だ……」

 

「少年、話の途中で悪いが雨が強くなってきた。屋敷の中へと戻ろう」

 

 話し出したら止まらない感じの彼をレティシアが止めてくれたわ、確かに雨が強くなってきたわね。

 中庭は広く屋敷迄は50m近く離れているので濡れてしまう、最悪だわ。

 屋敷に近かったバルバドス様は既に戻られてしまったし、近くの木の下で雨宿りをして使用人に雨具を……

 

「メディア様とレティシア殿は此方の馬車に乗って下さい、屋敷まで送りましょう」

 

「馬車って、これは全金属製の馬車と馬ゴーレムですわよね?」

 

 初めて見ましたわ、見事なゴーレムの馬と馬車……

 動物型ゴーレムは色々と見ましたが、これ程自然に動くのは初めて見るわね、関節とかどんな構造なのかしら?

 即興で作れない精度の高さを見れば常日頃から使っているのが分かる。

 座席にクッションとタオルまで置かれているけど、何もない空中から取り出したのを見れば空間創造のギフトね。

 

 わざわざ私を濡らさずに屋敷まで運ぶ為に、これだけの錬金を見せてくれるとは感動を通り越して呆れたわ。

 

 ですが、厚意には報いなければ淑女とは言えませんわね。

 黙って右手を差し出せば恭しく手を取り馬車の中へとエスコートしてくれる、手慣れている感じだけど実は女馴れしてるのかしら?

 

「レティシア殿も乗って下さい」

 

「うむ、感謝する」

 

 取り巻き達を残して馬車は動き出したけど、結構静かで振動も少ないわ。

 雨は本降り、地面にも水溜まりが出来ていますし歩いたら靴が泥塗れになったわね。

 何を話して良いか分からずに黙り込んでしまったから馬車は直ぐに屋敷まで到着、リーンハルト様は先に降りて手を差し出してくる。

 素直に右手を差出し馬車を降りる、後ろでは取り巻き達が走って来るのが見えるわね。

 

「僕はバルバドス様の所へ向かいます、風邪をひかぬ様に着替えられた方が宜しいですよ。では、失礼致します」

 

 最後まで余裕を崩さない嫌な殿方ですわね。ジゼルめ、あの女狐の婚約者が有能なのが気に入らない!

 

「少年、その……私の話を聞いて欲しいのだ。後で少し時間を貰えないだろうか、出来れば二人きりで」

 

「レティシア、我が儘を言わないで!」

 

 エルフの貴女が興味を持ったとか周りに広まると不味いのですよ、しかも二人きりとか!

 リーンハルト様も困った顔をしていますし、派閥の違う相手に話をとか勧誘や引き抜きと勘違いされては……

 

「今日から三日間は、このお屋敷でお世話になります。

バルバドス様のお手伝いの合間にならば構いませんが、ニーレンス公爵が『ゼロリックスの森』から招いたエルフ族の方と二人きりで話す事は無理でしょう」

 

 良かったわ、リーンハルト様が常識的で本当に良かった。

 下手にレティシアの美貌やエルフ族と伝手を作りたいとか下心満載で近付く馬鹿共が多いだけに、立場を弁えて行動出来る事は素直に好感が持てるわ。

 

「ならば周りに人が居る場所でメディア同伴ならどうだ?」

 

「余計に駄目でしょう、メディア様の立場も有ります。それでは失礼します」

 

 一礼して去っていったけど、レティシアの態度が気になるわ。今も絶望的な顔してるけど、そんなに仇敵さんに会いたいのかしら?

 

「諦めきれん、何故あれほど迄に姿が重なるのだ!」

 

「はいはい、振られたわね。早く着替えて帰りましょう、明日も朝から来るから話す機会は有るわ」

 

 今は早く着替えて休みたいわ。ジゼルめ、私が負けたと知ったら大喜びでしょうね……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 メディア嬢と別れたら直ぐにメイドがバルバドス氏の研究室まで案内してくれた。

 中庭に面した倉庫みたいに広い空間に本棚や研究機材が置かれている、本格的に錬金について研究してるのだろう。

 研究室の真ん中には既にキメラが錬成されているが、前回見た時より一回り小さいか?

 

「お待たせ致しました、バルバドス様」

 

「遅いぞ、しかし馬車を馬ごと錬成するとはな」

 

 ああ、中庭に面しているから窓から見れたのか。

 大きな両開き窓は開け放たれて中庭の様子が見れる、そういえば最初の模擬戦の時はキメラは此処から出て来たんだな。

 

「メディア様とレティシア殿を雨に濡らす訳にもいかないので。馬ゴーレムは最近研究し始めましたが中々有効です」

 

「最近?歩かせ方とか様になってたぞ」

 

 研究室の一角に備え付けられたソファーに向かい合って座る、先ずは方針の確認だ。

 研究室付きのメイドが僕の分の紅茶を淹れてくれたので一口飲む、高い茶葉だな……

 

「お前、前回の模擬戦で手加減したろ?何だ、あのゴーレムの数は?」

 

 少しご立腹みたいだ、バルバドス氏は偶に子供みたいに拗ねる時が有る。

 

「いえ、前回はレベル20でしたが今回はレベルが上がり28でしたので、その差でしょう」

 

 これは最大五十体召喚出来ますって言ったら怒りだしそうだな、理不尽だけど……今でも目付きが危険だし。

 

「レベル20から28って、半月も経ってないぞ!」

 

「魔法迷宮でボス狩りを続けてましたから……」

 

 両目を見開いて僕を見て首を振ってため息をつかれた、呆れた感じだな。

 

「お前って馬鹿なのか天才なのか分かんねーな。普通じゃねぇのは理解したぞ」

 

「有難う御座います。それで僕なりに対策を考えて来ました。先ずは機動力を上げて避ける、例えば馬ゴーレムですが……」

 

 実際に馬ゴーレムを三体錬成し中庭に飛び出して走らせる。

 左右に小刻みに進路を変えて、時に真横にジャンプさせたりと雨で地面がぬかるんで走り難いが大分制御が馴れたな。

 

「不規則な動きで狙われ難い様に動かせます。次に術者の精神集中と呪文詠唱を邪魔します……」

 

 馬ゴーレムの上に槍装備のゴーレムポーンを乗せて同じ様にジグザグに走らせながら槍で投擲、槍は大きく弧を描きながら30m先の樹木に突き刺さる。

 

「この様に魔法障壁は破れないと分かっている攻撃でも、自分に飛んでくる物には神経を使いますので地味に有効です。えっと、バルバドス様?」

 

 何時の間にか隣に立っていたバルバドス氏が惚けた顔で僕を見ている、何か失敗したかな?

 

「リーンハルト殿、俺は俺のキメラで倒したいんだ。

確かに今の戦術は有効だが俺には無理だな、人馬一体のゴーレム操作など出来るか!お前ってアレだな、自分の力って奴を読み違えてるぞ」

 

 そう言って頭に拳骨を落とされた、本気で痛い。

 

「な、何をするんですか!」

 

 頭を押さえながら文句を言うが、逆に睨まれた。

 

「あんなゴーレム操作は、お前しか出来ねぇんだよ!俺だって無理だ、馬鹿野郎!」

 

 二発目の拳骨を落とされた、涙目でバルバドス氏を睨み付ける、理不尽だ!

 

「何だ、その目は?お前は技術だけならギリギリ宮廷魔術師クラスだ。

後は年齢と共に魔力量の増加と実績を積めば宮廷魔術師にもなれるだろう、腹立たしいがな。

だが、それはお前だから出来るので俺には無理なんだぞ。俺のキメラでアンドレアルの野郎に勝つ!」

 

 社交辞令をいれても宮廷魔術師レベルにギリギリ届く程度か、先は長いな。

 だが言われてみれば指名依頼の条件はそうだった、キメラの改良だ。どうも僕はゴーレムの事となると熱くなり過ぎるな、反省が必要だ。

 

「それは申し訳ありませんでした。それでキメラの改良具合はどうですか?前回見た時より一回り程小型化した様ですが……」

 

 見上げるキメラは前回と同様に上半身は螳螂(かまきり)で四本の腕の先端には鋭い鎌が付いている、攻撃範囲は3m程度。

 下半身は蜘蛛で脚は八本、尻から粘性の強い液体を噴出する事が出来て前回はソレで負けた。

 確かに一回り程小型化したが全高は4mはあるだろう、僕のゴーレムルークと良い勝負が出来るかな?

 

「お前の考えと同じで機動力向上の対策として軽量化してみたんだがな、そんなに上手くはいかなかった」

 

 そう言ってキメラを外に出して動かして見せてくれたが、器用に多脚で動いてはいるが……遅いな。

 左右半分の脚を交互に動かして進んでいるが上半身が前方に付いているので、バランスを取るのが難しそうだ。

 上半身をセンターにしてバランスを取ると攻撃範囲が微妙になるので微妙だな。

 

「上半身が前に付いていて重心が偏っていますね、これはバランスが取り辛いのでスピードが出ない」

 

 八本の脚の内、常に半分の四本は地面に接触してバランスを取っているが前二本に負荷が掛かりすぎているんだよね。

 

「だが中心に据えると攻撃範囲が短くなるぞ、それに見栄えも悪い」

 

 単純に腕を伸ばせば良い訳じゃないな、見栄えは……まぁ重要だけどね。試しにキメラを1m位のミニチュアで錬成し動かしてみる。

 

「これは……意外と難しいですね。四本脚の馬と違い倍有ると制御が……ああ、転んだ」

 

 ミニキメラは前のめりに突っ伏してしまった、これは制御が難しい、高速移動は無理だな。

 起き上がるのも一苦労だ、コレを制御しているバルバドス氏の技量の高さが伺える。

 

「ミニチュアで検討か、だが巨大化すれば強度の関係で重量バランスは変わるぜ、アレは補強とか苦労したんだぜ。

それとあっさり俺のキメラを真似て作るなよな!」

 

 本日三回目の拳骨が僕の脳天に突き刺さる、スパルタ教育なのだろうが僕は塾生じゃないんだぞ!


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