古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第100話

「知らない天井だ……」

 

 僕は確かドワーフ工房『ブラックスミス』のヴァン殿に酒宴に誘われて、その後に……

 

「お気付きになられましたか、リーンハルト様?」

 

 心配そうに掛けられた声の方を向けば、最近良く見る深窓の令嬢が目の前に居た。

 

「あれ?アーシャ様、何故此処に?」

 

「いやですわ、此処は私の家ですわ」

 

 アーシャ嬢の家に僕は泊まったのか、不味くないか?

 

「それは……痛い、頭が……」

 

「昨夜の事を覚えてないのですか?」

 

 昨夜の事を思い出そうとすると頭が割れる様に痛い、何が有った?

 

「済みません、その……全然覚えてません。思い出そうとすると、頭が割れる様に痛いのです」

 

「まぁ?もう少しお休みになって下さい」

 

 優しく肩を押されて再びベッドへ横になる、直ぐに絞ったタオルを額に乗せてくれた。ああ、看病してくれたのか……

 

「ゆっくり休んで下さいね」

 

 僕は直ぐに意識を手放した……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「知ってる天井だ……」

 

 僕は確か目覚めたら目の前にアーシャ嬢が居て、看病して貰った筈だ。

 

「リーンハルト君、気が付いた?」

 

 心配そうに掛けられた声の方を向けば、信頼する風属性魔術師の少女が目の前に居た。

 

「あれ?ウィンディア、何故此処に?」

 

「随分うなされてたよ、大丈夫?」

 

 僕は確かドワーフ工房『ブラックスミス』のヴァン殿に酒宴に誘われて、その後に……

 

「そうだった、あの後強制的に酒宴に招かれて……最初は普通にワインやエール酒を飲んで、その後に秘蔵の火竜酒を振る舞われたんだ」

 

 ヴァン殿の弟子全員と酒を酌み交わし、どうしようもなく酔っ払った後で、あの酒を飲んだんだ。

 

 『火竜酒』とは伝説級の秘酒らしく名前の如く火竜の血と肝が混ざった魔法の酒らしい。

 大酒飲みのドワーフ族が生涯で一度飲めれば幸せという希少価値の高い酒をジョッキで一気飲みしたんだ、ヴァン殿曰く一気飲みがマナーらしい。

 

 そして奇跡が起こり僕のレベルが上がった、副作用で二日酔いが酷くなったけど……この二日酔いは魔法でも緩和出来ない一種の代償だと教えられた。

 

「はい、冷たい水よ。ゆっくり飲んでね」

 

 ガラスのコップに半分程水を入れて渡してくれた。ゆっくり飲むと身体に染み込む旨さだ、レモンを絞ってくれたんだな。

 

「有り難う、大分落ち着いたよ。僕は伝説の酒を飲んで倒れたんだ、あの『火竜酒』は飲んだら何故かレベルが上がったんだ、奇跡の酒だったよ」

 

 相変わらず頭痛は酷いが、魔力は漲ってる。一気にレベル28になったのだ、空間創造も第四段階まで解放された。

 

「まだ寝てた方が良いよ、顔が真っ青だよ。イルメラさんには私から伝えてあるから平気だよ」

 

 そう言って肩を押されて再びベッドへ横になる、確かにまだ辛い。

 

「ウィンディア、僕はデオドラ男爵の依頼を途中で放り出してしまった。君は叱られなかったか?」

 

 武器・防具の鑑定を頼まれたのに、途中で依頼人から離れて酒宴に参加してしまった。

 

「大丈夫よ、ヴァンさんがお詫びにって魔法剣をタダでくれたの。デオドラ男爵様は大喜びだったわ、だから指名依頼は達成よ。もう少し休んだ方が良いわ」

 

 かなり参っているのだろう、目を瞑ると直ぐに意識を手放した……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「知ってる天井だ……」

 

 僕は確か目覚めたら目の前にウィンディアが居て、昨夜からの経過を思い出したんだ。

 

「リーンハルト様、体調は大丈夫ですか?」

 

 心配そうに掛けられた声の方を向けば、信用する謀略系令嬢の少女が目の前に居た。

 

「あれ?ジゼル様、何故此処に?」

 

「リーンハルト様の看病です、大分うなされてましたわ」

 

 うなされていた?悪夢でも見てたのかな?体調は……大分回復したな、もう頭痛も無いし吐き気もない。起き上がってみたが、特に目眩とかもしない。

 

「大丈夫みたいです、ご迷惑をお掛けしました」

 

「迷惑なんてしてませんわ、リーンハルト様はデオドラ男爵家に必要な大切な方ですから」

 

 ニッコリ微笑まれたが派閥にガッチリ食い込まれた感が半端無いな。

 落ち着いて周りを観察すれば豪華な客室の天蓋付きのベッドに寝かされていた。窓から差し込む明かりは燃える様に赤い、もう夕方だろうか?

 

「ヴァン殿の酒宴に招かれて酔い潰れた迄は覚えているのですが……何故、僕はデオドラ男爵家で寝てたのでしょうか?」

 

 人差し指を額に当てて思い出す、家まで送ってくれる約束だった筈だ、記憶に自信はないけど……

 

「ヴァン殿はリーンハルト様の家がデオドラ男爵家と思ってましたわ。アーシャ姉様の旦那様と誤解していたみたいですね」

 

「それは重(かさ)ね重(がさ)ねご迷惑を」

 

 確かに『ブラックスミス』では接触が多かったし端から見れば良い関係と誤解されたのか……

 何と無く違和感を感じ左手首を見ると、ヴァン殿から貰った腕輪が嵌まっている。強い魔力を感じたので鑑定すると……

 

 『剛力の腕輪:体力・筋力・物理抵抗力・魔法抵抗力UP 効果大』

 

 これは高ランクの装備品だな、特に効果大は中々お目に掛かれない逸品だぞ。

 

「素晴らしいマジックアイテムですわね。リーンハルト様はヴァン様に大層気に入られたと聞きました、流石は錬金を得意とする土属性魔術師ですわ」

 

 そうだった、昨日は不用意に鎧兜製作に対する秘密を暴露し捲ったんだ。

 反省はしているが後悔はしていない、転生前に心残りだった事が一つ解決したんだ。

 『ブラックスミス』のドワーフ達は話せば分かり合える連中だ、特に鍛冶に関しては教えられた事ばかりで凄く参考になる。

 偏見で彼等を見ていた、反省しなければ……

 

「はい、彼等と出会えた事は僕にとって素晴らしい財産となります。ドワーフ族の名工達には教えて貰う事ばかりで、僕は……」

 

「秘密にして下さいね?リーンハルト様にしては珍しく迂闊ですわ。

アーシャ姉様とウィンディアには口止めしています、お父様は理解してるので大丈夫です。

貴男は僅か十四歳にして大地の精霊ドワーフ族に認められる腕を持っています。とても素晴らしく、とても危険です。

私は貴男が心の底から怖いと思ってます、本当の貴男はどんな人なのでしょう?でも、アーシャ姉様とウィンディアは、そんな事は関係無いそうです。

リーンハルト様はリーンハルト様、頼りになる殿方だと……私も年頃の女としては異常なのかも知れませんわ」

 

 ため息をつかれた、心底呆れた感じがしますが?

 

「あのですね、僕は……」

 

「私の婚約者、新進気鋭の冒険者、そして私が一番怖いと感じる殿方。婚約者の私を安心させて下さい」

 

 言葉を遮られて難題を突き付けられた、女性を安心させる方法って何だ?教えてくれ、兄弟戦士!

 

 優しく抱き締めろだと?却下だ、バカ者が!

 

「僕は、デオドラ男爵と敵対するつもりは微塵も無くてですね。ジゼル様が心配する様な事は……」

 

 しどろもどろの言い訳しか出て来ないぞ。

 

「ギリギリ失格ですわ。アーシャ姉様は純粋に貴男を慕っています、無下には扱わないで下さい」

 

 一礼して部屋を出て行くジゼル嬢に声を掛けられなかった、大分警戒されたかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 結局僕は朝方にデオドラ男爵邸に運び込まれ夕方まで二日酔いで寝込んでいた、途中二回程目が覚めたが直ぐに寝てしまった。

 ドワーフ族の秘酒とは恐ろしい物だな。

 ジゼル嬢が出ていくと直ぐにメイド達に囲まれて着替えをさせられた、有無を言わさず晩餐に参加の流れだ。

 正式な晩餐ともなれば貴族でないウィンディアは参加出来ない、当主たるデオドラ男爵とジゼル嬢にルーテシア嬢、もしかしたらアーシャ嬢位か?

 晩餐の後は泊まっていく様にも言われている、体調の悪い者を帰らせる訳にはいかないそうだ。

 つまり尋問の為の時間は明日の朝まで有る訳だね。

 

「二日酔いで胸が苦しかったが今は別の意味で胃が痛い」

 

 暫くするとアーシャ嬢が迎えに来た、完全に正装なのは僕を主賓として遇す事を意味する。

 従来貴族のデオドラ男爵が新貴族のバーレイ男爵の長子への対応としては過分だ。

 

「お迎えに上がりました、リーンハルト様」

 

「有り難う御座います、アーシャ様」

 

 正式な招待ならば貴族的対応をしなければならない、使者であるアーシャ嬢に対して貴族的マナーに準じたやり取りを行い晩餐の会場へと向かう。

 流石はデオドラ男爵家の令嬢だけあり見事な作法と美貌を兼ね備えている、お披露目の誕生日パーティーの後は大変だろうな。

 

 通されたのは豪華な食堂、長いテーブルには純白のクロスが敷かれて既に準備が整っている。

 正面にデオドラ男爵、右側にルーテシア嬢、左側にジゼル嬢とアーシャ嬢が座る。

 正面といってもテーブルが長いので僕とデオドラ男爵達との距離は15m程離れている。

 

「ふむ、体調は良くなったみたいだな。我が娘達全員に心配を掛けさせるとは感心したぞ」

 

 食事のマナーは細かい事は言わなそうだ、気さくに話し掛けてくる。

 

「ご迷惑をお掛けしました。しかしドワーフ族の秘酒とは不思議な物です、飲むだけでレベルが上がりました」

 

 秘酒というか酒を越えた別の何かだろう、霊薬エリクサーと言われても信じるぞ。

 

「『火竜酒』は長寿種のドワーフ族といえども生涯に一度飲めるか分からない秘酒と聞きます。

それを振る舞われたとなればヴァン殿にとってリーンハルト様は大切な友なのです」

 

「はい、『ブラックスミス』のドワーフ達はヴァン殿を筆頭に卓越した鍛冶の腕を持ってます。土属性魔術師として学ぶ事は多いので嬉しく思います」

 

「そうか、それは良かった。先ずは乾杯だな、我々の未来の為に……」

 

 そう言ってワイングラスを胸元の高さ迄持ち上げるデオドラ男爵に合わせて同じ様にグラスを上げる。

 だが我々の未来の為にって意味深な言葉だったぞ。

 前菜が運ばれてきたのでマナーを気にしながら食べる、高級食材をふんだんに使ったご馳走だが全く味が分からない。

 暫らくは無言で食事を続ける……

 

「リーンハルト殿、実は折り入って頼みが有るのだが……」

 

「何でしょうか?」

 

 ナプキンで口を拭いて応える、良かった驚いて吹き出さなくて。

 

「アーシャの事だ。知っての通り来月で十六歳の誕生日を迎える。大々的に祝う予定だが未だ衣装に合う装飾品が決まってないのだ。

ジゼル達に即興で作ったアクセサリーは見事な出来栄えだったので、装飾品の作成を依頼したい。親馬鹿と笑ってくれて構わんが頼めるだろうか?」

 

 レベルが上がり空間創造も第四段階まで解放された、高レベルの素材も取り出せる様になった。

 それに今回の事で僕の錬金レベルが高い事も知られてしまったので、適当な品で誤魔化す事も出来ない。

 ならば中途半端な対応をせずに今の僕に作れる最高の物を贈ろう。

 

「分かりました、アーシャ様の為に今の僕に作れる最高の装飾品を用意しましょう」

 

 真っ赤になって俯くアーシャ嬢と不貞腐れたルーテシア嬢。凄く恨めしそうに上目遣いに見られるのだが、君に装飾品を贈る事は出来ないんだよ。

 

「なんだ、ルーテシア?不満か?」

 

「はい、私にも何か装飾品をお願いしたいです」

 

 ストレートなおねだりが来た、デオドラ男爵も思案顔だ。

 でも確かに姉妹と幼馴染みだけプレゼントされて自分は何も無いのは悲しいのだろう、仲間外れ的な意味で……

 

「それではルーテシア様には武器か防具を贈りましょう、何が良いですか?

フルプレートメイルでもロングソードでも何でも言って下さい。作ってみせましょう」

 

 武器と防具を何でもかって呟いて下を向いて考え込んでしまった、やはり武闘派なだけあり装飾品よりも武器が欲しいのだろう。三分程考え込んで漸く顔を上げた。

 

「いや、私も装飾品が欲しい」

 

 ルーテシア嬢も乙女だったみたいだ、武器・防具よりも装飾品を欲しがるとは驚いたな。




いつも作品を読んで頂き有難う御座います、色々有りましたがお陰様で100話達成出来ました。
これは読者の皆様のお蔭です、これからも宜しくお願いします。

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