古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第10話

 魔法迷宮バンクの一階層のボスはウッドゴーレム。

 最初のボスだけあり丸太に手足が生えてるだけの存在だが、素材が丸太だけに斬撃や刺突系の武器には耐性が高いだろう。

 要はメイスとかアックスとかの材木に効果の有る破壊力が求められる訳だ。弓や槍、レイピアや片手剣でも切り裂く系の物では有効打を与えられない。

 だが僕の召喚するゴーレムは基本的に武器は自由だから、現在全員両手持ちアックス装備でボス狩り実施中です。

 倒したら一旦部屋から出て中に入ると復活しているので時間も短縮されて効率も良い。

 それを両手持ちアックス装備のゴーレム四体でタコ殴りで倒す、倒したら部屋から出て又入って倒す。

 一見他の連中も可能な戦法かと思うだろうが、ウッドゴーレムも反撃するし攻撃が当たるとゴーレムの片腕くらいは簡単にモゲる。

 動きは鈍いが部屋も狭いから簡単に隅に追いやられてしまう。

 だから僕はボスが出現したらゴーレム四体を突撃させて部屋の隅に押し込んで戦わせている。

 これはダメージ無視の僕だから可能な戦法だ。

 

「イルメラ、暫くボスを倒し続けるぞ。

レアドロップアイテムの木の腕輪は、僧侶や魔術師が装備出来る数少ない防御力UPアイテムだ。

それに複数装備しても効果は重複する」

 

「はい、両手装備で最低四個ですね。売れば一個金貨一枚銀貨五枚に成ります」

 

 ハイポーションの三倍とは微妙だな、でも防御力UPの効果自体は少ないから仕方ないのか?

 戦闘中のイルメラは敵が僕のゴーレムを突破しても対応出来るように盾の魔法を準備している。

 僧侶の盾の魔法は文字通り不可視の盾を造り出すので、不意な一撃を弾いて態勢を立て直す時間が稼げる。

 僕はゴーレムの制御に集中する、ダメージを与えられた奴を戦列から下げて直ぐに補修し常に三体以上のゴーレムが戦うように調整する。

 そして一階層とはいえボスはボス、三回に一回はゴーレムが大破に近いダメージを与えてくる。

 

「アレ、ドロップアイテムが違うね……」

 

 連続十回目のボスを倒した時のドロップアイテムが木の盾でも木の腕輪でも無かった。

 

「リーンハルト様、木の指輪みたいですね。ウッドゴーレムが木の指輪をドロップするなんて聞いた事が無いです」

 

 九回倒してドロップアイテムは木の盾が三個に木の腕輪が二個、だが十回倒したら木の指輪が現れた。

 試しに鑑定する……

 

『木の指輪:ダメージ減3%:重複装備可10個』

 

 うーん、重複装備可で10個って全ての指に嵌められるって事かな? 一個だけだと3%だが三個装備すればダメージが約一割も減るのはデカい。

 だけどギルドで買ったマップの詳細欄にも木の指輪をドロップするとは書いてない。

 因みに他の二つは……

 

『木の盾:防具:防御値補正+3』

『木の腕輪:防御値補正+2:重複装備可2個』

 

 となっていて最初のボスにしてはマァマァなドロップアイテムだ。

 

「私も初めて聞きます。木の指輪はもっと下の階層の人面樹のドロップアイテムの筈です」

 

「うーん、有り得ないと言っても現実に起こった事だからな。ならば仮説を立てて検証してみよう。

僕等はウッドゴーレムを連続10回倒した、ならば10回毎に固定アイテムを落とすとか?又は連続してボスを倒してドロップした三個目のレアアイテムは木の指輪とか?

どちらにしても木の防具シリーズだから偶然とかじゃないと思う」

 

 後で冒険者ギルドにも探りを入れてみるか、もし固定ボスを連続して倒すとドロップアイテムが変わるとなると凄い情報になる。

 高レベルのパーティなら同じ事を容易(たやす)く出来るだろう。だが、もしかしたら通算千回とか一万回とかの可能性も有るな。

 

「イルメラ、この事は暫く二人だけの秘密だ。

もし僕の仮説が正しければ低い階層でも良いレアアイテムをゲット出来る事になる」

 

「勿論です。情報は精度を高めないと只の戯言と言われてしまいます。

それにリーンハルト様の仮説が正しければ私達の迷宮探索が有利になりますよね、他の人に教える必要はありません!」

 

 凄く良い笑顔だが君は人々を安らぎへと導くモア教の僧侶じゃなかった?でも僕等は似た者同士の腹黒なのかも……。

 

「ヨシ、先ずは仮説検証の為に連続二十回目までボスを倒すぞ!」

 

「はい、頑張りましょう!」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 結果から言えば僕の仮説は正しかった、二十回目、三十回目と同じ様に木の指輪がドロップしたんだ。

 流石にボスを三十連続で倒したら魔力は有れど精神的に疲れた。集中力の欠落は危険なので一旦ボス狩りを中止する。

 幸いボスを倒した後は小部屋を出るまで再ポップはしないし、誰かが中に居る限りは外から開けられない。ボスを倒した者だけに与えられる安全地帯(セーフティゾーン)なのだ。

 それにレベルが二つ上がり11になった。ボスを三十匹倒して二つとは多いのか少ないのか?

 だがイルメラはレベルアップしてないから容易(たやす)くは上がらないんだな。

 あとレベルアップすると魔力は完全回復するのが有り難かった。連続して戦えたのも魔力が回復したからだ。

 

「リーンハルト様、丁度お昼近くですので昼食にしませんか?」

 

「そうだね、休憩しようか……」

 

 魔力は有っても精神的な疲れから集中力が低下している。休憩を入れないと駄目だな。

空間創造から机と椅子、それにイルメラが作ってくれた料理を出す。

 僕は自分の家財道具一式を入れているので、最悪の場合は自分の魔法迷宮に籠もって休憩も出来る。

 これが空間創造のギフト(祝福)の最大の恩恵、自分だけの部屋や迷宮まで造る事が出来るのだ!

 

「迷宮内のボス部屋でテーブルに座りながら食事って凄いですよね。今紅茶を淹れますからお待ち下さい」

 

 空間創造は入れた時の状態を維持するから熱湯を入れたポットも熱いままだ。

 イルメラが手際良く紅茶を淹れるのを眺める。流石は現役メイドだ、流れる様な無駄の無い動きに暫く見惚れる……

 

「はい、どうぞ。でも意外です、リーンハルト様がハンバーガーが好きなんて」

 

 紅茶の入ったカップを目の前に置いてくれる、辺りに紅茶特有の芳醇な匂いが漂う……

 

「ん? これは父上から教えて貰った騎士団の軍隊食だよ。いわばナイトバーガー!

ハーフポンドのパティにアボカド、それに玉葱とレタスを大きめのバンズに豪快に挟む!

厚みは7㎝を超えるから潰して逆さまにして食べるのが一般的だね」

 

 そう!戦う男の野戦食は豪快に食するのだ!間違ってもチマチマと食べては駄目なんだ。

 

「今切り分けますからお待ち下さい」

 

 笑顔で包丁を持ってナイトバーガーをマナ板の上に乗せているが、やめてくれ!

 

「いや、待てイルメラ、それは違うぞ……」

 

 女性にとっては豪快さなど無意味なのだろう、ケーキのように切り分けられてしまう。

 笑顔で皿を差し出されては強くも言えず、ハンバーガーなのにキッシュみたいなフォークで食べる事になってしまった……

 

「む、ご馳走様でした。モアの神に感謝を……」

 

「お粗末様でした、モアの神に感謝を。お茶のお代わりを淹れましょう」

 

 迷宮内での奇妙な昼食会は終わった。イルメラには冒険者風の食事マナーも調べるように話しておこう。

 貴族のマナーに習った作法も大切だが、僕は貴族を辞めるつもりなので関係ないのだが……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「遅かったな!苦戦してたのか?

それにしては小部屋の中から美味しそうな匂いが漂ってくるけど?」

 

 ボスの小部屋から出ると冒険者風の一団が外に居た。どうやらボスに挑戦する順番待ちをしていたらしい。

 

「ああ、済まない。ボスを倒した後で昼食と休憩をしていたんだ。一時間くらい待たせてしまったかな?」

 

 実は三時間近くボスの小部屋を独占していたのだが、わざわざ本当の事を言う必要は無い。

 喋りながら相手を確認するが男四人に女二人のパーティだ、話し掛けてきたのは気の強そうな騎士風の女性、未だ10代後半だろうか?

 見事な彫刻の施された鎧兜を着ているので貴族なのかも知れない。兜から覗く燃えるように真っ赤な髪と意志の強そうな瞳が印象的な美少女だ。

 

「呑気な事だな、我等『デクスター騎士団』を待たせて食事とはな」

 

 意地の悪そうな20代の男が蔑むような態度で僕等を見ている。金髪碧眼の典型的なエムデン貴族で正直気に入らない。

 だが『デクスター騎士団』って聞いた事があるぞ、確かグリム子爵派閥の次男以降の子弟で結成したパーティだったかな?

 すると、あの赤髪の少女はデオドラ男爵の関係者か? あの一族は燃えるような赤髪を特徴とする珍しい一族だ。

 残りの連中を見ても貴族という特権を鼻に掛けた連中だな。特に男二人は傲慢さが滲み出ている。

 もう一人の女は気弱そうな感じで妙にオドオドしているし驚いた事に杖を持っている。グリム子爵の派閥連中で魔術師が居たとは聞いてないが身なりには金が掛かってるから貴族か豪商辺りの娘か?

 だがその後ろに控える二人組は……

 

「それは申し訳なかった。ボスを倒すと次にポップするまではセーフティゾーンだからね。

何とかボスを倒したらボロボロだったんで態勢を整えていたんだ」

 

 グリム子爵の派閥の長はバーナム伯爵で我がバーレイ男爵家も派閥の一員だ。

 実家の派閥争いに巻き込まれたくはない、何れ僕はバーレイ男爵家とは縁を切るのだから……

 

「弱い奴は大変だな、気を付けろよ」

 

 既に僕達に興味を無くした感じで虫でも追い払うように手を振りやがった。

 

「ああ、有り難う。助かるよ」

 

 絡まれる前に立ち去ろう。僕の後ろに居るイルメラの視線を感じて凄く寒いから、次に何か言われたら爆発しそうだ。軽く頭を下げてボス部屋から立ち去る。

 赤髪の少女の脇を通り抜ける時に凄く見つめられたが、アレは僕等を値踏みしているな。

 僕のゴーレムは還(かえ)しているから、魔術師と僧侶の二人切りの子供パーティがボス部屋から出て来た訳だ。

 彼等は僕達が平民の冒険者風情と思ってるが、実は同じ派閥の新貴族の息子とそのメイドと知れば……

 何か言いたそうなイルメラの手を握り、その場から足早に立ち去る。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「無礼な連中でしたね。

リーンハルト様も下手に出ていましたが、彼等は貴族連中ですか?」

 

 彼等から100m以上離れてからゴーレムを召喚する。暫くはボス部屋には近寄らずゴブリン狩りをしてレベル上げとドロップアイテムを集めよう。

 

「ああ、父上の所属する派閥の連中の子弟達だ。普通冒険者パーティが騎士団とか言えないだろ?

だが、アイツ等の一番後ろにいた男、グリム子爵の何男だか忘れたが息子で昨年何かの功績で士爵になったんだ。

本人も一応は騎士だから騎士団を名乗れるらしい。

もっとも父上に言わせれば、その功績自体も金で他人から奪ったらしいが……」

 

「つまり本人は大した事は無い親の七光りでデカい顔をする連中だという事ですね?」

 

 イルメラ、もう少しオブラートに包んでくれ。表情は笑顔で良いのだが台詞は真っ黒だよ。

 

「そこまでは言わない。

彼等の親達だって馬鹿じゃない、可愛い我が子に危険な真似はさせないだろ?後ろに居た二人は冒険者ギルドから派遣された戦士と僧侶だよ。

貴族の子弟連中にしては老け顔だったろ?かなりの高レベルの連中さ。彼等が居るから魔法迷宮の中でアレだけデカい事を言えるのさ」

 

 あの後ろにいた連中のプレッシャーは相当な物だった。

 ウッドゴーレム程度は軽いだろうな。奴等の目的は高レベルの連中と組んでのレベルアップが目的だろう。つまり直ぐに下の階層に降りていくだろうな。

 レベルアップは効率を求めないと無理だし、六人パーティじゃ経験値も均等割りだ。

 だが同行者が弱いと強い敵を漁れない、見たところレベル10前後と思うから二階層か三階層で暫くレベルアップに専念する筈だ。

 僕等は僕等にとっては効率の良いボス狩りをするつもりだけどね。

 前方の床に魔素が集まり明るく光り始めた。

 

「久し振りのゴブリンだ。ウッドゴーレムとは勝手が違うけど頑張ろう」

 

「ええ、私達は私達に出来るレベルアップを頑張りましょう」

 

 我等『ブレイクフリー』は未だパーティランクはFだし平均レベルも17と弱小パーティーには変わりないからね。


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