世界最悪の女   作:野菊

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世界最悪の女、氷炎魔団と戦う 2

夜明け、2度の轟音。すると体は急に軽く。

結界が消えたのだ。上手く炎魔塔と氷魔塔を片付けることが出来たよう。

「クハハハハ――どうやら軍団長どもはダイに敗れたようだな。これでますますダイの首に値打ちがついた!!あいつを倒せば、オレの1人勝ちだ!!お前ら、配置につけ!!」

高笑いと共に、フレイザードは塔を飛び降りた。

――今だ!!

「リリルーラ」

塔の上には、氷漬けのレオナ姫。それを守るようにブリザードが5匹。フレイザードは異変があればすぐに駆けつけられる距離。

「ん…何か言ったか? 」

「いや、どうした? 」

「……なんでもない、気のせいだ」

レムオルの粉で姿を消して、足音を消して、気配を消して。レオナ姫の周囲に輝石を等間隔で配置していく。1つ、2つ――。あれ、なんだろう、あっちに何か…。

「なあなあ、勇者って強いのか? 」

「さあ。まあ、どんなに強くてもどうせここまで辿り着くことは出来ないだろう」

「そうだな。フレイザード様の手に掛かれば、あいつらなんて全員氷漬けだ」

3つ…4つ目。

寒い。ブリザードが5匹もいるせいだろう。

「ハハハ、オレも人間を氷漬けにしたい」

「オレはザラキで殺してやる」

5つ――よし、気付かれなかった。

 

「シャナク!!」

 

「「「「「!!!!! 」」」」」

 

「な…なんだ一体!?この光は…」

「まずい、氷が溶けていくぞ…おい、フレイザード様に報告だ!!」

以前散々マトリフ様のところで鍛えられた私のシャナクは、輝石で増幅され、みるみるフレイザードの禁呪を解いていく。

「おい!!何があった――誰だキサマ!?」

流石に姿を消しても、フレイザードは私に気付いたようで。

「この…食らえ!!」

5つのメラゾーマが襲い掛かる。こんなもの、まともに受けていられない。

「リレミト!!」

解呪された姫を抱きかかえ、塔から脱出する。胸に手を添えれば緩やかな鼓動。大丈夫、気を失っているだけだ。洞窟に戻れば、賢者も医者もいる。何とかなる。

「待ちやがれ――!!」

誰が待つか。

「ルーラ」

追われない自信はあった。ダイたちをおびき寄せた今、レオナ姫に対する執着はフレイザードに無い。

みんながフレイザードに敗れない限り、姫はもう安全だ。

「姫――!!」

「大丈夫、生きているよ――後はお願いね」

岸辺でやきもきしながら待ち構えていたエイミさんにレオナ姫を預けると、私は再び戦場へ。

治療方針については、大いに喧嘩してくれ。

 

 

 

「ダイ!!」

「ソウコ――レオナは!?」

「大成功! 今は洞窟だよ……そっちも上手くいったみたいだね」

ルーラで再びバルジ島へ飛んだ私は、リリルーラでダイ、スカイ、ポップ、マァム、そしてゴメちゃんと合流を果たす。

「聞いてソウコ!!ヒュンケルが来てくれたの…! ヒュンケル、生きていたの!!ソウコの言うとおり…!!」

「おいおい、クロコダインもだろ」

どうやら、漫画どおりの展開だったらしく。炎魔塔にはザボエラ率いる妖魔士団とミストバーン率いる魔影軍団が集結していた。そして氷魔塔にはハドラーが。

ピンチになったところを、助けに現れたのが、クロコダインとヒュンケル。ダイはクロコダインとバダックさんに、ポップとマァムはヒュンケルに後を託し、今は中央塔を目指しているところ。

もともとその予定だった。

私が失敗した場合に備え、炎魔塔と氷魔塔をそれぞれ破壊したら、全員中央塔を目指すという話になっていたんだ。

「姫さんも無事救出したし、後ろはあいつらに任せて、おれ達はこのままフレイザードを倒しちま――」

 

ドオオオン

 

凄まじい光。

かつてアバン先生がメガンテを放った時とそっくりの。

思わず足が止まり、呆然とその光を見ていた。

「ど…どこ行くんだよダイ!!」

駆け戻ろうとするダイの手を、ポップが掴む。ヒュンケルを助けに行くと主張するダイ。それを反対するポップ。いまだ呆然としたままのマァム。

「そう思うだろマァム!!ソウコ!!! 」

ダイの言うとおりヒュンケルの事は心配だけれど、この勢いでフレイザードを倒したいというポップの言葉も最もだ。

レオナ姫を助け出した今、どちらの言い分も一理ある。

いずれにしても、フレイザードは早めに倒しておきたい。もし戻ってヒュンケルに万が一のことがあったら――モチベーションは保たず、一事撤退することは必至だ。立て直すのには時間がかかる。

あの手段を選ばない性格。私たちをここで取り逃がしたら、たくさんの人たちを巻き込みながら地の果てまでも追ってくるだろう。

今なら、他の軍団長はクロコダインたちが足止めしてくれている。他の軍団長に邪魔されず、単体で倒す最大のチャンスは今だ。

誕生してから間もないフレイザードが未熟な今のうちに。

「ソウコ…お願いなんだけど」

考えあぐねる私に、マァムが話しかけてきた。

「何? 」

「…ヒュンケルの様子、見てきてくれない? ソウコなら何かあってもうまく切り抜けられると思うし」

私が!?――1人で!?ハドラーがいるかもしれないのに!!??

「え………うん。分かった。じゃあみんな深追いはしないでね…ポップ、これ――魔法の聖水。魔法力が回復するから。全員薬草使って。怪我があったら教えて、薬塗る――じゃあスカイ、みんなのこと頼んだよ」

「アウ! 」

全員の回復を済ませ、スクルトを掛けなおすと、私は氷魔塔があった場所を1人目指した。

まあ、順当だ。

マァムの攻撃力はこの中のエース。ダイがいなきゃ話にならない。ポップのメラゾーマとスカイのブレスは対フレイザードの重要な切り札。

ボス戦で外すとしたら、誰だってソウコ一択になるだろう。

みんな、いのちだいじに――。

 

 

 

「誰にも会いませんように!!誰にも会いませんように!!誰にも会いませんように――!!」

ザボエラもミストバーンも無理。ハドラーなんてとんでもない。

とにかく、猛ダッシュでヒュンケルを目指す。ヒュンケルが心配だからというよりは、ヒュンケルがいれば、いざという時何とかしてもらえるだろうという気持ちが大きい。会ったことは無いけれど、あのマァムより強いらしいから相当のはず。

「!!!!」

それはものすごい光景だった。

煙、モンスターの死骸、十字に割れた地面――いまだかつて見たことの無いほど激しい戦いの痕跡。その中心に、2つの人影。ヒュンケルとハドラーだ。ハドラーの胸には、兜から伸びた剣が突き刺さっている。

ここでハドラーに止めを刺せば――飛び出そうとした脚を、第六感が制止した。

「――!!」

黒い影が、ハドラーの上空へ。

 

――ミストバーン!?

 

闇の衣に包まれた、大魔王の影。

まずい、絶対見つかりたくない!!無理!!無理無理無理!!絶対無理――!!

どうみても強い。フレイザードとは比べ物にならない貫禄。これはヤバイ。かつて対峙した溶岩原人や竜王よりもずっと。ここにいるだけで捕らわれそうなほど、不気味な黒いオーラ。足が震える。全身に鳥肌。渇いた喉。つばを飲み込むことすら出来ない緊張感。

ミストバーンはハドラーとヒュンケルを交互に見比べる。まずい…今ヒュンケルは無防備な状態だ。あんなに接近しているミストバーンの気配にも気付かないぐらい、深く気を失っている。ていうか死んでいるのかも。

死んでいるんなら仕方がない。だけど、生きていたら――助けなきゃ。ルーラでヒュンケルを回収し、どこまでも逃げなきゃ。

「……」

息を殺し、アサシンダガーに手を掛け、いつでもルーラの詠唱が出来る状態にしておく。最悪、ミストバーンの秘密を知っている事を匂わせれば、ヒュンケルから私に標的が移る。

私よりヒュンケルのほうが戦闘の役に立つ。みんなの力になる。優先すべきは、私よりヒュンケルの命だ。

「……――」

しかしミストバーンは、ヒュンケルを一瞥しただけ。ハドラーを抱えると、どこかへ消え去り。

「――はあ…怖かった…――」

すごい汗だ。思わず膝から崩れ落ちる。息を整え、再度周囲を見回してから、ヒュンケルに駆け寄った。

 

 

 

ヒュンケルの息がある事が確認できて、まずは一安心。

傷の手当をしたかったけれど、アムドがどうなっているのかよく分からないから剥がすのはやめておこう。下手に触って壊しても嫌だし。

学生の頃、友人がコレクションしていたガンプラを、むやみに触ってめちゃくちゃ怒られたものだ。同じ轍は踏まない。

薬草を液状にしたものを口に含ませ、更にスポーツドリンクを流し込む。

「う――ゲホ!!」

「あ、ごめん――気付いた? 」

喉元を押さえ咽るヒュンケルは、私に気付くと間を取った。

「――お前は!?」

「……」

無言で首から提げていたアバンのしるしを服の中から取り出す。ヒュンケルの息を飲む音。

「ヒュンケルだよね? 私もアバン先生の弟子――ソウコ」

「――お前が? 確かにもう1人アバンの弟子がいると、マァムが言っていたが…」

「うん、それ私。よろしく」

ヒュンケルは、私を上から下まで何度も見ていた。これはあれだ、「マジで!?こいつがかよ!?」という時のリアクションだ。今まで何度もこういう顔を見てきたし、もう慣れた。

私が一見してアバン先生の弟子にも、あの薬やコーヒーの考案者にも見えないことは、言っても仕方が無い事なのだし。

「とりあえず姫は助け出したよ。今はダイたちがフレイザードのところに向かっているところ」

「!!――そういえばハドラーは!?あれからどうなった!?」

「私が見た時は、ヒュンケルとハドラー? 見たこと無いから分からないけれど、とにかくふたりが倒れていた。ハドラー? の胸にこれが突き刺さっていて…」

さっき拾っておいた兜を手渡す。

「で、近付こうとしたら、ひらひらしたコートのフードで顔隠してる黒いオーラのめちゃくちゃ怖いのがやってきて、とりあえず隠れて様子を見てた。もちろんヒュンケルがやばそうだったら助けるつもりだったけれど…でも、ハドラー? 連れてどっか行った」

「ミストバーンか…隠れていたのは賢明だったな」

さすが、歴戦の戦士ヒュンケルは、私の実力を既に見抜いたようだ。

「ルーラあるから怪我が酷いようなら撤退するけど…すぐそこの洞窟に賢者も医者もいるし――」

「いや、このままダイたちと合流する。どうやら先ほど無理矢理飲まされた薬草が効いたようだ」

いやいや、メガンテ並みの闘気を放出して、ついさっきまで死にかけていたのに、いくらなんでもこんなに早く薬草が効くわけ無いじゃん――と突っ込めなかったのは、明らかにこの短時間でヒュンケルの顔色が良くなっていたからだ。

動きも問題なさそうだし。多分この人は人間じゃないんだろう。きっとそうだ。

「了解。でも無理しないでね。せっかく、アバン先生やマァムたちから話に聞いていた最強の兄弟子と会えたのに、すぐに死なれちゃ嫌だし」

 

 

 

「ヒュンケル!!」

「おお、ソウコさん!!ということは姫は――!?」

とりあえずリリルーラでバダックさんと合流すると、そこにはピンクのリザードマンが。

「お前がソウコか――じいさんから話は聞いた。単独で姫の救出に向かったと…」

「クロコダインだね!!――うん、安心して。レオナ姫は助け出して、今は洞窟にいるよ。命に別状は無いし、後はあっちに任せれば大丈夫!!」

念のため、ふたりに薬草を飲んでもらい、スクルトをかける。ヒュンケルには鎧のせいで上手くかからなかったが、まあ、この人は心配ないだろう。

「人間の薬草の効果は凄いな」

「はは、ありがとう。私が調合した、通常の3倍効果がある上薬草だから――じゃあ、ダイたちのところに行くよ。捕まって――リリルーラ」

次の瞬間、私たち4人はダイたちのいる戦場へ。

「ソウコ! ヒュンケル! ――クロコダインにバダックさんも!!」

「ヒュンケル、無事だったのね!?」

ポップから聞いたところによると、フレイムとブリードを今し方一掃したところだという。

「スカイ凄かったんだぜ――まあ、オレのメラとヒャドもだけどな」

「アウ!!」

スカイ偉い。アポロさんの目が覚めたら100モフモフしてくれるよう交渉してあげなければ。

「で、この爆弾岩か――」

「うん…多分これを抜けたところにフレイザードが。でも、こいつ触れると爆発するから、慎重に突破しないと…」

確か、漫画じゃフレイザードは地中に埋っているんだったよな。

よし、その努力を無駄にしてやろうじゃないか。

「大丈夫! みんな捕まって――ポップ、よく見てて。これがニッチな呪文の活用の仕方だから」

7人は流石に初めてだけど、この距離なら問題ないだろう。

私は全員を連れ、ルーラで爆弾岩の絨毯を飛び越えた。

「凄い!!やっぱソウコって凄いんだね――!!」

「まあ、このくらいはね…ポップ、攻撃呪文は出来ないけれど、私の呪文なかなかでしょう? 」

「うん、まあ…な」

あらら、ポップのことだからムキになって言い訳するか、突っかかってくると思っていたのに。よっぽどマトリフさんに絞られたんだろうな。

ポップはアバン先生のところにいた頃、補助呪文を馬鹿にして覚えたがらなかった。まあ、戦力としては攻撃呪文が出来ればそれで充分なんだけれど。――今は、ね。

「残る敵はフレイザードだけだ!!行くぞ――」

「ああ、この勢いでさっさと倒しちゃおうぜ!!」

「さっさとだと――!?キサマら、調子に乗りやがって!!」

――思わずトベルーラで単身上空へ回避する。

地中から、凄まじい怒声と共にフレイザードが現れた。




悪いなソウコ、このバトル4人用なんだ。

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