ドラゴンクエストV 天空の俺   作:az

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第3話

 ユートは逃げ出した!

 

 しかし、回り込まれてしまった!

 

「うひょおおおおおッ!?」

 

 みなさん、お元気ですか。最近めっきりと寒くなってきましたが、いかがお過ごしでしょうか?

 僕ユート。体は六歳、でも心は二十八歳。ちょっと前まで一般人やってました。現在情けない声を上げながら、洞窟の中を全力疾走している最中であります。

 

 その理由とは……。

 

「ピキーーッ!」

「グワーーッ!」

「ギャーース!」

「ウガーーッ!」

「パタパタッ!」

 

 こいつらのせいです。

 

「嫌ぁーッ!? 来ないでぇーッ!?」

 

 集団で襲ってくるとは卑怯ですよ、おい!?

 

「君達に誇りというものがあるならば、ここは正々堂々と一対一の戦いを……」

「ピキーッ!!」

「すんませんでしたぁッ!?」

 

 飛び掛ってくるスライムにぶつかられ、突進してくるいっかくウサギに尻をつつかれ、とげぼうずに刺され、せみモグラに足を噛まれ、ドラキーに頭をどつかれる俺。

 

 それでも死にたくないから必死で逃げる。逃げる。恥や外聞なんて気にしない。命あっての物種だ。

 

「うおおおッ!?」

 

 鼻先を何かがかすめた!? 角? 今の角ですか!? 目の前を凄い勢いで横切った、いっかくウサギの角が当たる寸前でしたよ!?

 

 死んだらどうすんだよ、この人でなし! まぁ、人じゃなくて魔物だけどねッ!

 

「あ、痛ッ!? めっちゃ痛い!? や、やめて! そこはダメ!」

 

 逃げ惑う俺に、容赦なく襲い掛かる魔物達。致命傷だけにはならないように、時には転げ回ったりしながらも逃げ続ける俺。でも逃げ切れない。敵の数が多すぎて、すぐに回り込まれてしまう。

 

 何この集団暴行? 包囲作戦ですか? 俺専用のABCD包囲網ですか? 俺が一体君らに何をしたと?

 

「……って、危ねぇ! 今度は上から!?」

 

 俺の頭上からドラキーが急降下。全力疾走している俺の目の前に回り込み、鋭い歯で噛み付いてこようとするのを強引に方向転換して回避。

 

 すると、今度は回避先にとげぼうずの姿が。このままだと、あのトゲトゲの体にぶつかって大怪我必死。

 

 また回避を……ダメだ! とげぼうずの左右にはスライムとせみモグラの姿が見える。

 

 なら、何とか直前で急ブレーキを……無理! 勢いがつきすぎて止まれない!

 

「死ぬ! 死ぬ死ぬ、死んでしまう!?」

 

 何か、何か手はないか!? だめだ。だめ、無理。無理なものは無理であるからして無理。

 

 何か手はないかと考えてみたが、そんなの急に考えても何も思い浮かばない。せめて被害を減らすためには……。それももう考えてる暇がない! ええい、ままよ!

 

「ちくしょおおおおッ!!」

 

 万策尽きた。そう思っていたが、気がつくと俺の両足は走り高跳びの要領で、とげぼうずにぶつかる寸前で思い切り地を蹴っていた。

 

 痛いのは嫌だという一心で出た、半ば無意識化の行動。火事場の馬鹿力発動。渾身のベリーロールもどき開始だ。

 

 一瞬、世界がスローモーションになったような感覚が俺を襲った。これが世に聞く走馬灯の世界ってやつだろうか。浮遊感に包まれ、まるでこの身が空を飛んでいるような気分だ。

 

 ゆっくりと、ゆっくりと、俺の体はとげぼうずの上を通り過ぎていく。正面の顔に始まり、頭頂部を過ぎ、背中から腰へいき、そして最後は足から踵。そんなとげぼうずの姿を眼下に眺めながら、俺は何とか強引な体勢で着地した。

 

 具体的に説明すると、顔面から着地した。

 

「痛ぇええええええッ!?」

 

 でも痛がってはいられない。今がチャンスだ。せっかく魔物達の包囲網を、一瞬とはいえ掻い潜れたのだ。ぐずぐずしている暇などない。

 

 俺は顔の痛みを無視して、そのまま後ろを振り返らずに洞窟の奥へと走り去った。

 

 

 

 

 どれだけ走っただろうか。息が切れて動けなくなった俺は、地面へと座り込んだ。

 

「はぁ……し、死ぬ……かと……はぁ……お、思った……」

 

 心臓が早鐘のように鼓動を刻んでいるのが分かる。足は棒のように硬くなっていて、動かそうにも動かない。体中が悲鳴を上げている。筋肉には、奥の奥まで乳酸が溢れていることだろう。しばらく休まないと、歩くことすらままならない。

 

「明日は筋肉痛確実だな……」

 

 ドラクエ世界に湿布ってあるんだろうか? サロンパス的なものとか、そんなのが。

 

「多分ないだろうなぁ」

 

 薬草は筋肉痛に効果はあるのかな? あ、そうだ。いざとなったらパパスからホイミかけてもらおう。あのスーパーホイミなら、俺の筋肉痛まで回復してくれそうだ。

 

「うぅ、何で俺がこんな目に。せめて、俺も自分で魔法使えればなぁ……」

 

 もしくは、もうちょっとレベルがあれば魔物に対抗できるのに。レベル不足の自分が憎らしい。でも、待てよ……? そもそもこの世界に来たばかりの時に、偶然とはいえスライム二体を俺は倒したはずだ。その後もサンタローズに向かう際、パパスに引っ付いて魔物を何匹か倒した。なのに、それなのに。

 

「何故未だに俺は1レベルのままなんだよ、おい……」

 

 理不尽だ。不条理だ。不公平だ。納得いかない。これはきっと孔明の罠だ。まさか俺はレベルの上がりが人一倍遅いとか、そんな特異なキャラなんじゃなかろうな?

 

 確かにドラクエではレベルアップするまでに要する経験値は、キャラによって個体差が存在する。

 

 レベルが上がり難いキャラというものがいたのは覚えている。ゲーム後半でレベル1から仲間になるようなキャラは、大抵そんな感じだった。それ以外にも、一定以上のレベルになるまでは能力がさっぱり伸びないキャラもいたような。

 

「俺、もしかしてそういうキャラですか?」

 

 問いかけに答えるものは、もちろんいない。だが、レベルが1のままという現状から鑑みると、俺の考えは恐らく正しいのだろう。

 

 勘弁してくれ……。ただでさえ俺は一般人で弱いのに、レベル上がるのまで遅いとか最悪だ。しかも俺は後半に仲間になるタイプというよりも、イベントの進行状況から見れば、ほぼゲーム開始時からリュカの仲間ですよ? 成長率が遅いのはひどいです。これはないんじゃないでしょうか。強くなる前に死んでしまうと思います。ゲームバランスどうなってるんですか。俺一人だけ糞ゲーですか。

 

「ひでぇ……」

 

 泣きたいです。泣いてもいいですか。泣きますよ、俺? 本気で涙が出てきそうだ。

 

 そんな俺だったが、ふとある偉人による名言を思い出した。

 

『──逆に考えるんだ』

 

 逆……? 逆に……考える……?

 

 レベルが上がるのが遅いというのを逆に考えてみる。これはつまり、俺は大器晩成型の証。そういうことなんじゃないか? いや、きっとそうに違いない。俺はやればできる子だ。レベルが上がった暁には、デコピン一発ではぐれメタルを屠るような男になれるはず。今は雌伏の時なのだ。未来はきっと薔薇色に輝いているのだ!

 

「よーし、元気出てきたぞー!」

 

 いつのまにか暗鬱とした気分も晴れ、体には力が漲ってきた。四肢には溢れんばかりの活力が充満している。座り込んでいる場合じゃない。

 

 立ち上がれ、俺! 

 

 走り出せ、俺! 

 

 駆け抜けろ、俺!

 

「うおおおおおおおおッ!」

 

 俺はバネ仕掛けのように勢いよく立ち上がると、洞窟の更なる奥を目指して走り出した。向かうは、栄光の明日。

 

 さようなら弱気な俺。

 

 こんにちは新しい自分。

 

「おおおおおおッ!!」

 

 薄暗い洞窟を、一筋の風のように駆け抜ける。一歩踏み出す度に足音が壁に反響して洞窟に響き、心地よいメロディを奏でてくれる。走り出した足は止まらない。今や俺は、洞窟を疾走する一匹の獣。光速を超え、神速に迫る弾丸野郎。夜空を切り裂く流れ星。俺は風だ。風になるのだ! 今の俺なら、烈海王にだって勝てるッッ!!

 

「いや、やっぱり烈海王は無理だな……」

 

 そんなことを考えながらしばらく走っていたが、俺はあることに気が付いて足を止めた。

 

「ところで、ここ……どこ?」

 

 右を向いても洞窟。左を向いても洞窟。もちろん上を向いても下を向いても洞窟だ。ハイになって走っていたため、どちらが出口なのかも覚えていない。

 

「どう見ても迷子です、本当にありがとうございましたッ!!」

 

 こうして俺は迷子になった。

 

 

 

 

 ドナドナのメロディが頭の中を流れていく。これほど、今の心情にマッチした曲はないだろう。

 

「いや、いかん。暗い曲だと、気分が更に落ち込むだけだ。ここは一つ明るい曲で気分転換しなければ」

 

 脳内BGMをトトロのテーマ曲に強引にチェンジ。

 

 歩くのー、大好きー。

 

「どんどん……行こう……」

 

 行きたくねーよ。もうこれ以上歩きたくねーよ。歩くの大好きでも何でもねーよ。ふざけんなよ、おい。聞いてんのかコラ。

 

「だめだ、この曲は迷子の時には向いてないことが判明した……」

 

 明るくなるどころか、一層暗い気分になっただけだ。このままだと突発的に自殺でもしたくなりそうだ。何か明るくなれる話題を考えよう。楽しいこととか、そういうのを。うん、そうしよう。

 

 えーと……。そうだ。俺はこの世界にはしばらくい続けることになりそうなんだよな。ってことは、最悪本気でこちらの世界に定住するのも考えないといけない。

 

 となると、今のうちから人生設計を立てておいた方がいいだろう。やはり俺にも将来的に伴侶がほしいな。美人で気立てがいいのはもちろん、できれば楽して過ごしたいから相手は金持ちがいい。美人で気立てがよくて、金持ちの娘……。そんな女、そうそういねーよな……。

 

「あ、いた」

 

 フローラという存在がいた。いましたよ。このまま俺がリュカと一緒にずっと旅を続けると仮定しよう。で、リュカのヤツを意図的にビアンカと仲良くさせて、最終的にくっつけてしまえば……。そうすれば、俺にもフローラを嫁にできる可能性が出てくる。

 

 アンディ? そんなヤツは知らん。どうせヤツはサラボナ火山でリタイヤだ。その間に俺がフローラにアプローチしまくれば、惚れてくれる可能性が高い。

 

 もしすぐに惚れてくれなくても、まだ手はある。ルドマン邸で俺も花婿候補として当初から立候補しておけばいい。これならリュカと共に指輪探しを終えた時には、俺にも花嫁選びをする場が提供されるはず。

 

 基本的にフローラは親の言う事に黙って従うタイプ。ルドマンが俺を認めさえすれば、フローラは流されるままに受け入れて結婚は確実。結婚さえしてしまえば後はこっちのものだ。逆玉の輿万歳だ。

 

「フローラは俺が頂くッ!」

 

 俺は胸の奥で決意の炎を燃やした。今後はリュカとビアンカのキューピット役をしてやろう。うんうん、俺はなんていいヤツなんだ。ありがたく思えよ、リュカ。お前がビアンカと結婚すれば、みんな幸せになれるのだ。

 

「うははははははは!」

 

 笑いが止まらねぇぜ! 本当は行くのを強引に拒否しようかとも思ったが、この先のレヌール城のイベントも自主的に参加決定だ。リュカを立てて、存分にビアンカの前で活躍させまくってやろう。

 

 ビアンカは強がっては見せているが、本当はお化けは怖いはず。リュカに対してお姉さんぶっても、まだ八歳の子供だ。俺がわざと後ろから脅かしたりすれば、思わずリュカに抱きついたりするかもしれん。あるいは、手を繋がないと歩けなくなるかも。こうしてフラグは着実に立てられていくのだ。うん、この方向でいこう。

 

「うはははは! ん、何だ……?」

 

 少し先の方で、何やら騒がしい気配がした。誰かが争っているような激しい物音も。

 

「魔物が喧嘩でもしてんのか?」

 

 気楽に考える。もし魔物がいても、今度は見つかる前に逃げてしまえばいいだけだ。今の俺は一味違う。油断さえしなければ絶対逃げられる。そう思い、のんびりと歩を進めた俺の前に現れたのは、

 

「くうッ!?」

 

 魔物に囲まれ、苦悶の呻き声を漏らす満身創痍のリュカの姿だった。

 

 苦痛に顔を歪め、体の痛みに耐えながら必死で立ち回っている。

 

「リュカ!?」

 

 おいおいおい。デジャヴュな光景が飛び込んできましたよ。どっかで見た光景だな、おい。……って、思い出に浸ってる場合ではないな。このままだとリュカが魔物にやられてしまう。

 

 敵の数は……全部で三体か。スライム一匹に、いっかくウサギが二匹。これなら俺が加勢すれば、何とかなる……のか? えぇい、ごちゃごちゃ考えてる暇はない! 当たって砕けろだ!

 

「おああああああああああッ!!」

 

 わざと大声を出してから突撃する。こちらは素人な上に、素手のまま。戦法も糞もない。俺は腕をぐるぐる回しながら、だだっこパンチで突貫した。

 

 予想通り魔物は一瞬こちらに気を取られ、リュカへの攻撃が止まった。俺の姿に呆気にとられたのかもしれない。それでも、結果として作戦は成功だ。

 

 

 

 

 リュカには当初、何が起きたのかは分からなかった。魔物が動きを止めた時間。それは時間にすれば数秒にも満たない、ほんのわずかな時間。一瞬の隙にしかすぎない。されど、一瞬でも魔物の手が止まったのは紛れもない事実。

 

 ──そして、その隙をリュカが見逃すはずもなかった。

 

 未だ子供とはいえ、パパスより譲り受けた戦士としての天賦の才は伊達ではない。魔物の攻撃を受け続けて朦朧としていた意識が、生存本能によって呼び覚まされる。何が起きているのかは分からなくとも、何をすべきなのかは体が理解している。

 

 リュカの体が沈んだ──と思ったのも束の間。まずは正面にいたいっかくウサギを、手に持った樫の杖の頭で殴り付ける。鈍い音がして、いっかくウサギは後方へと吹っ飛んだ。二度三度地面をバウンドし、それからピクりとも動かなくなる。

 

 だが、リュカの攻撃はこれだけでは終わらない。そのまま殴った反動を利用して、背後のスライムを杖の先端部分で刺し貫く。突然の闖入者に気を取られ、硬直したままだったスライムがその攻撃を避けられるはずもない。スライムは、フォークを突き刺した後のゼリーのような姿になって地に沈んだ。

 

 残るは、リュカに対して右斜め前方にいるいっかくウサギのみ。このままいけば楽勝か? そう思われたが、そうはならなかった。

 

 野生の力か、それとも魔物の本能か。残るいっかくウサギは、今までの二体とは違ってリュカに対して素早く反撃を敢行してきた。鋭い角をかざし、リュカのわき腹目掛けて突進してきたのだ。何とか隙をついて二体の魔物を倒したものの、杖を振り切って不自然な体勢のままだったリュカは、とっさに反応することができなかった。回避は、間に合わない。

 

 ──失敗しちゃったな。僕、やられちゃうのかな。

 

 悔しさと恐怖がごちゃまぜになった感情が、リュカの心の中を支配する。

 

 もうダメだ。

 

 リュカはこれから訪れるであろう痛みと衝撃に備え、思わず目を閉じた。

 

 そして……いっかくウサギの角が、今まさにリュカを捉えんとした瞬間。

 

「どっせーい!!」

 

 目を閉じたリュカの耳に聞こえてきたのは、頼もしいかけ声だった。

 

 

 

 

 俺のグルグルパンチが、いっかくウサギの後頭部に炸裂!

 

 会心の一撃! 俺はいっかくウサギを倒した!

 

 全ての武を捨てた俺の攻撃の前では、ウサ公など臭いだけの小動物に過ぎぬわ!! ざまぁみやがれウサ公め!

 

 ……正直言うと、まさか倒せるとは思わなかったけどな。偶然当たり所が良かったというのと、今までにリュカがダメージを与えてたおかげか? まぁ、勝ったんだからいいや。

 

「おいリュカ! 大丈夫か!?」

 

 目を閉じたままよろめき、今にも倒れそうになっているリュカに駆け寄る。

 

「何で目を閉じてんだお前は? おいコラ、平気か? 生きてたら目を開けろ!」

「あれ……? ユート……?」

「おう、俺だよ。俺、俺。やっと目を開けたか」

 

 なんかこの問答では俺俺詐欺みたいだな。俺はリュカに肩を貸すと、その華奢な体を支えた。

 

「あ、そっか……。ユートが、たすけてくれたんだね……」

「その通りだ」

「ユートは……いつも、僕の……あぶないところを……たすけて、くれるんだね。あは、すごいや……」

 

 そう言って力なく笑うリュカ。どことなく剣呑でヤバい雰囲気だ。これは少し、怪我が大きすぎるのかもしれない。

 

「ええぃ! くそッ! めんどくさい! 何で俺がこんな目に!!」

「わッ? な、なにを……?」

「うるさい! いいから黙ってろ!」

 

 俺はリュカを強引に背負うと、脇目もふらずに洞窟の道を走り出した。

 

 

 

 

 あの後、奇跡的に村へはすぐに戻ることが出来た。よくよく考えれば、サンタローズの洞窟の中はそこまで複雑な地形ではない。一度川を見つければ、後は下流に向かえばいいだけだしな。……そんな洞窟で一度迷子になった俺のことはさておき。

 

 リュカはパパスの反則ホイミと、サンチョの献身的な世話のおかげであっという間に全快した。もちろん大目玉を食らって、パパスから説教を一時間ほど受けてたけどな。納得いかないのは、俺も巻き添えで叱られたことだ。曰く、子供だけで洞窟に行くとは何事だ、と。パパスからはリュカと一緒に拳骨を頂いた。理不尽だとは思ったが、パパスは本気で叱ってくれていたのが分かっていたので黙って受け入れた。自分の子供と同じように接するパパスに、ちょっと感動したのは秘密だ。

 

 ちなみにリュカの方は、しっかりと洞窟で薬を取りにいった人を助けていたらしい。その帰りに魔物に襲われてたら世話ないけどなー。

 

「しかし、パパスさんの拳骨は痛かったなぁ……」

 

 夜、ベッドに入ってもまだ頭がズキズキする。コブになってるんじゃなかろうか。ちょっと涙目の俺。だが、同じく拳骨を受けたはずのリュカは、隣のベッドで何故か笑っていた。

 

「おい、何笑ってるんだリュカ?」

「あ、ごめん。でもうれしくって」

「嬉しいって何が?」

「んー……秘密」

「秘密かよ、おい」

 

 秘密を持ちたがる年頃なんだろうか。何となく悔しくなった俺は、

 

「今日は遅いし、もう寝ろよ。リュカはあれだけ怪我してたんだし、早く休め。じゃあな、おやすみ」

 

 と、強引に会話を打ち切って目を閉じた。

 

「ねぇ、ユート」

「何だ?」

「……今日はありがとね。じゃあ、おやすみ」

「……あぁ、おやすみ」

 

 しばらくすると、リュカの穏やかな寝息が聞こえてきた。リュカの寝息を聞きながら、ゆっくりと俺も眠りの世界に落ちていった。

 


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