(メインシステム戦闘モード起動)
アセンブル――
R―ARM WEAPON
L―ARM WEAPON
R―BACK WEAPON
L―BACK WEAPON
作戦領域に突入、エースはメインシステムを戦闘モードに移行。OBを切り、通常のブースターで飛行する。
それなりの規模を持つ工場の入り口。そこを警備する物を確認する。
(何が歩兵だ。戦車二両あるぞ。8人も信用ならんな)
角ばったフレームに、威圧するような大きな砲台と機関砲を持つ車。戦車だ。
ISの登場により、お役目御免となったものを安くどこかで買ったのだろう。
(まぁ、問題はない。火力もハンドガンで足りるだろう)
ISの技術であるPICも使い、ACでは出来なかった推力を得た降下をする。
降下ポイントは戦車のキューポラ。
その突起した半円目掛けてディターミネイションはさらに加速する。
突如降下してきた物に、二両の戦車は機関砲を使い、上空にいるディターミネイションに攻撃を開始する。
しかし、片方は真上にいるので当たらない。もう片方は急降下する物体に機関砲を当てることがほとんど出来ず、かするように当たった弾はPAにより減衰される。
そんな攻撃とも言えない物にエースが怯む訳がなく、逃げ惑う戦車のキューポラを狙い通り着地する。
ディターミネイションの重量と装甲の硬さ。それとブースターとPICの推力によって生まれた圧力が戦車のフレームを凹ませ、飛び散った細かなパーツが舞う。
戦車の中にいた人達は先ほどの着地の圧力により、すでにミンチになって死んでいるだろう。
だが、エースは凹ませた穴に右手武器LAREを突っ込ませ、下部にあるエンジン部分に向けて発砲する。
数発撃ちこんだ後、エースは右手のLAREをリロードしながら再びブースターで飛び、その直後戦車が爆散する。
それを確認しながらも、エースはもう片方の戦車へQBで突撃。
片方が爆散されたが、もう片方はまだ生きている。
戦車は主砲をディターミネイションに向け、ロックオン。発射。
発射された砲弾がディターミネイションに迫る。
ACとは違い普段より数倍は大きく見える砲弾をエースは冷静に横へQBし躱す。
主砲では捕えられない。そう判断したのか、ディターミネイションに機関砲で攻撃し始めた戦車の後ろへと回り込み、戦車の装甲が薄い背面装甲に両手に持つハンドガンを1マガジン分撃ち込む。
LAREの銃弾が装甲を貫通し、開いた装甲の穴に先ほどと同じように左手のLAREを突っ込ませ、エンジン部分に向けて発砲。
「うわぁ!!」
操縦者らしき男がハッチから出てくるが、エースは男を逃がすわけにはいかない。
エースは逃げる男にロックオン。そして躊躇なく右手のLAREを一発発砲する。
本来戦車やISといった装甲を持つ目標を撃ち抜くための弾を装甲を持たないただの人間が受けたらどうなるか。
答えは簡単。男は悲鳴を上げる事無く、体がばらばらとなり飛散する事は無く、ただ血の霧となり消え去るだけだ。
エースは歩きながら工場の入口へ向け歩く。その数秒後、先ほどの戦車と同じようにもう片方の戦車は爆散した。
着地してから15秒足らず。一瞬の出来事だ。
(戦車二両撃破。これから工場内へ侵入を開始)
エースは両手のLAREで工場の入り口を固く閉ざすシャッターを縦2~3mほどの長方形を描くように撃ち、脆くなったシャッターをディターミネイションの足でシャッターを蹴り飛ばす。
「がぁああ!」
男の悲鳴。それを気にせず、土砂が舞う工場内へ入る。
どうやら飛ばされたシャッターに巻き込まれたのか、生体反応が一つ無くなったことをエースは脳内のレーダーで確認した。
(あとは・・・17人くらいか内男14、女3人。戦車に乗っていた人間を含めると倍以上はいるぞまったく・・・)
「やはり敵か!?戦車の奴らは?」
「馬鹿野郎!ISにやられたに決まってんだろ!」
「撃て!取りあえず撃つんだ!!」
(ヒンディー語だったか?・・・どうでもいいか)
歩兵が手に持つアサルトライフルで射撃をするが、戦車の機関砲ではほぼ無傷。ISのアサルトライフルですら集団で襲わなければ消すのがやっとのPAを、歩兵が持つ雑多な小火器では減衰すら出来ない。
「畜生!全然効かねぇ!!」
「それでも撃つしかないだろ!」
健気にも物陰に隠れながら撃ち続ける歩兵にエースはロックオン。ディターミネイションの右手の弾数が残り少なくなったLAREで一人一発ずつ丁寧に撃つ。
ディターミネイションのハンドガン、LAREの銃弾に悲鳴すら上げることなく次々と血の霧となり、僅かに血痕を残しながら、まるで血痕が無ければ存在していなかったかのように消えていく仲間に恐怖した者達は武器を捨て、窓から逃走を図るが、エースは逃げる者を優先的に狙い殺す。
「うわぁあああああああああああ!!」
一部の者は自棄になったのか、ナイフを手に持ち、ディターミネイションに襲い掛かろうとするも、エースは裏拳でナイフを持つ男の頭を吹き飛ばす。
皮膚が裂け、肉が潰れ、骨を砕く感触に、ノーマルACに乗り始めてから忘れていたその感触に、機械と機械ではなく、人と人で殺し合っていた時の事を思い出す。
(まぁ気分がいい物ではないがな)
そんな事を思いながら、右手に付いた赤い血や白い脂を手を振るいながら払い飛ばし、襲い掛かってくる敵も、逃げる敵も、命乞いする敵を一切の区別なくエースは撃ち、殺す。
それはもはや虐殺としか言いようがない。だが、それを咎める者は工場内には誰もいない。
今工場内を支配する絶対的な正義とは。力なのだから。
「止めてくれ!助けてくれ!俺達は騙されたん――」
また一人エースは撃ち殺し脳内のレーダーで残り人数を再度確認する。
(あと女三人か・・・)
アセンブル――
R―ARM WEAPON
ズシズシと重い音を出しながら歩き、その三人の女がいるであろう部屋へエースは向かう。先ほどの男の言葉の意味を考えながら。
(騙されたか・・・委員会が戦車と人を送ったんだろうか。ふざけた事を)
数分ほど歩き、たどり着いた部屋の前。ドアにはぶ厚いチェーンロックがかけられており、誰がどう考えても残った女三人は捕らわれているのだろう。
エースはチェーンロックを左手のLAREで破壊しドアをこじ開ける。
散らかった部屋の様子。ヨレヨレに汚れた布。部屋に漂う匂い。そして三人の裸の女の姿。
エースはここで女達が何をされていたか。予想はしていたので理解するのに一秒も要らなかった。
「救・・・援・・・?」
「ISだ!やった!助かった・・・」
「ありがとう・・・ありがとう・・・」
まるで、自身を救ってくれた神を見るかのような二十代か三十代であろう女達の目をエースは冷やかに見下ろす。
彼女達は気が付いていないのだ。今、目の前にいる黒いACは地獄から来た、彼女達に死を告げる神だということを。
エースが今回国際IS委員会から受けたミッションの内容。
それは、IS武器生産工場にいる者達の『殲滅』。
殲滅。それは加害者も被害者も関係なく、この工場内にいる者は皆殺しにする事だ。
これは見せしめだ。反抗したら、反抗する者達に捕まったらどうなるか、という見せしめ。
反抗する者には死を、捕まるような愚図にも死を。国際IS委員会は人をただの消耗品としか考えていないのだ。
(せめてもの情けだ。恐怖を感じることなく、跡形もなく消えろ)
地面に向けてある右手武器GRA―TRAVERSをそのまま発砲。
「え?」
トリガーを引き、砲弾が発砲された音だけは聞き取れたのだろう、何の音と疑問を抱いた女の声。
だが、放たれた砲弾の炸薬が部屋を一瞬にして灼熱の世界へと変え、数千もする熱に当てられ、三人の女達は一切の恐怖を感じる事無く、何かの音を聞いたという疑問だけを抱いたまま、汚れた布と共に灰塵に帰す。
黒く、熱によりあちこち焦がれ、床が凹みヒビだらけになった部屋に残されたのは自身の攻撃によりPAが減衰されたディターミネイションと、白い灰だけだった。
「ミッション完了。これより帰還する」
(ディターミネイションAMS終了処理を開始)
脳内のレーダーでしっかりと、生存者はいないことを確認してからディターミネイションを解除。工場の最初に入ってきた入口に向けて歩き出す。
歩きながら国際IS委員会から送られてきた携帯電話の電話帳に一つだけある名前に国際IS委員会と書かれている電話番号にかける。
(・・・かかるだろうか?)
不安に思いながらかけた電話だが、1コール目にすぐに相手が出た。
「はい、この電話番号はエーアスト・アレスさんでよろしいですね?」
(英語・・・この声は)
相手の女の声。それはエースにミッション連絡した人物と同じ声だった。
「そうだ」
「インドまでの行き方にお困りなのですか?それとも、ミッションを破棄するのですか?それなら――」
相手の嫌味に満ちた声にエースはついオーメルの仲介人アディ・ネイサンを思い出した。
「違う。ミッションの完了を連絡するためにかけた。それ以外何がある?疑うのであればドイツからインドまでにある国の状況と、工場内を調べてみろ」
「・・・・・・」
数分間、調べているのか何も言わなくなった女をエースは待つ。
「・・・失礼しました。貴方のISの力を我々は過小評価していたようです」
女は改めて、凛とした声で対応する。
「ミッションお疲れ様でした。この試験は合格とさせていただきます。報酬は――」
「送られたミッションの内容と違いすぎる。最低でも二倍は貰おう。拒否するのであれば、貴様らには相応の報いを受けて貰おうと考えているが、戦場に立つ身としては、正確な情報を渡すことのできない者達には甘すぎる対応だと思うが、どうかな?」
ディターミネイションに乗るエースとっては、戦車が来ようが人が約三倍に増えようが大差ない。ミッションを遂行するだけだ。
だが、今後もこんなことを続けられたら堪ったものではない。
エースの正直な気持ちは怒りよりは呆れに近い。
「・・・二万ユーロを報酬で送りましょう」
「ほう、思ったより素直だな。いいだろう。ドイツの正午までに現金で送ってもらおう」
「分かりました。では、後日我々は改めて貴方の扱いを決めたいと思います。あと、お伝え遅れました。私はマリー・エバンと申します。今後もよろしくお願いします」
「あぁ、よろしく頼む。次があれば、ちゃんと正確な情報を寄越せ。次は報酬で済まさないと思え」
携帯の通話を切り、再び、ディターミネイションを通常モードで起動。装甲を再び纏う。
工場に点々と散らばった血を眺めながらたった一言だけエースは告げる。
「・・・俺の糧となれ」
上空高く飛んでからOBを起動。エースは行きと同じく青緑の流れ星となり、ドイツへ向け空を飛んでいく。
また来たぞ!あいつは本当に何なんだ!?ワーお星様キレーイ。
各国を混乱させながら。
「で、彼をどうする?やっぱり、適当に理由を付けて無理矢理研究所にぶち込んだ方が良いと思うのですが」
国際IS委員会の会議。だが、それは表向きの国から選ばれた議員とは違う、実質全世界のIS技術を握っていると言っても良い大企業の会長や各国研究機関の人間達が集まり議論を行う会議。
それはわざわざ人が集まるという非効率的な事をせず、声だけで行うボイスチャットのようなもので行う。
参加している人間は20も満たないが、ここでの決定は、どんなに巨大な組織でも覆すことの出来ないほどの力を持つ。
「まぁ待て。彼のISは量産型とはいえ、IS八機を相手にして勝つほどの性能だ。そして、子供とはいえあそこまで躊躇なくやれる人間は今時貴重だ。彼の要求通り傭兵をさせた方が我々にとって利益があると考えるが?」
「ふむ。理由は?」
「彼のIS。時速5000kmを叩き出したあの速度、篠ノ之束が関しているとしか思えない程の高性能だ。あれの実戦での戦闘データを取りつつ、各国の専用機持ちと戦わせ国を刺激し、さらに力を持ったISを望むようにさせる事により、今後のISの技術発展のためになると思うが?」
「一理あるな。だが、野放しにして、もし彼にISのコアを強奪しろという依頼をする連中が現れたらどうする?各国のパワーバランスが簡単に崩壊するぞ」
「そうだな。野放しにするのであれば、そうならないように我々の中で約束をしておけばいい。潰す。と」
「約束ねぇ・・・この中にいる連中でそんなものを守る人物はいるのかね?」
「・・・まぁ、たとえ高性能のISを持つとはいえ、コアの重要性を理解しているだろう。そんな依頼を受け、自ら全世界を敵に回したいと考える阿呆はいないだろう」
「それもそうだね~では、コアを奪うようなミッションを我々は提示しない。そして彼も実行しないという条件で彼に傭兵をさせる。多数決だ。これに賛成か否か」
男の声に静聴していた人物達は三分の二は賛成。残りの三分の一は反対した。
「賛成多数。まぁ予想通りISコアの保持数が多い国の所に纏まりましたね、実に分かりやすい。さて次の議論は――」
「待て。その前に彼に国際IS委員会という名目でさせてみたい仕事がある」
「ほう、何かな?」
「フランスに落ち目の企業があっただろう?そこの専用機と戦わせる。金をチラつかせれば飛びつくだろう。これは彼の戦闘データを取れ、さらに、ここにいない中小企業共の宣伝にもなろう。IS八機を倒せ、専用機も倒せる実力を持った傭兵がいると。愚か者は
「・・・なるほど、分かりました。他の方々もよろしいですか?」
男の声に今度は全ての人間が賛成する。反対していた人物も、決まってしまったなら諦めて、エースを利用しつくという考えだろう。
「さて、次は日本に現れた方についての議論を進めますか・・・あと、亡霊の件も含めて」
議論が進む。世界が進む。たった数十の人達の口で。
Q:国際IS委員会について
A:実質企業が支配しているという設定です。ほとんど企業連ですねハイ。