IS×AC<天敵と呼ばれた傭兵>   作:サボり王 ニート

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ACVDDLCの追加BGMを使ったメインM9のDayAfterDayの演出に泣いたクリスマス


5 黒ウサギの巣 2

「エーアストさん、クラリッサ・ハルフォーフ大尉です!朝のモーニングコールです!!」

インターホンから聞こえるクラリッサの声にさっきまでエースが読んでいたIS運用協定、通称アラスカ条約について書かれている書籍に栞紐を挟んでから入れと返答し、クラリッサの入室を許可する。

「俺はホテルに泊まっている覚えはないのだが」

「いえ、ホテルの様に寛いでくれと、シュタイベルト大将が言っておりました。朝食の準備が出来ましたのでシュヴァルツェ・ハーゼの食堂に案内します。付いてきてください」

「・・・了解した」

エースは立ち上がり、昨日の21時から朝の6時までずっと読んでいた本を本棚にキチンと片付けてからクラリッサに付いていく。

「ところで、眠れましたか?」

「あぁ、三時間程な。久しぶりに良く寝た」

「三時間って・・・久しぶりって・・・それに昨日は18時くらいに寝ると言いましたし、今まで何をしていたのですか?」

「本を読んでいた」

エースが指差す本棚に置かれてる本は条約やら法律、世界地図と言った眺めるだけでも頭が痛くなる用語がズラリと並ぶ、クラリッサも一通りは読んだことがある本だった。

「あれを読んでいたのですか?眠れなくて暇でしたらコミックとか貸しますよ?」

「いやあれで良い。今日はそのあれを購入する予定だ」

「理解しにくいですね。あれは好き好んで買う物ではないと思いますが」

「俺もそう思う。だが、必要な物だから買うまでだ」

「必要ですかね。あれを読んでいると頭が痛くなりますよ・・・食堂に着きました」

基地内にある黒ウサギ隊専用の食堂へ入ると、ほのかに香るパンプキンスープの匂いが嗅覚を刺激し、食欲も自然と湧いてくる。

入ったと同時に聞こえてきた声を聞くまでは。

「「「おはよう御座います。お兄様!!」」」

「帰る。ザックの中に食える物があったはず」

「「「待てぇぇぇええええええええい!!」」」

踵を返し帰ろうとすると、黒ウサギ隊が昨日の様に、食事係の人間までわざわざキッチンから飛び出てまでエースを包囲する。

「何か気に入らないところでもありましたかエーアストさん!?」

ジョークを狙って言ってるかと思ったら真剣に焦ってる様子のクラリッサにエースはこめかみを手で押さえる。

「ナイスジョーク・・・尚更帰りたくなった」

「「「駄目です!!」」」

いつの間にか包囲していたはずの黒ウサギ隊達が食堂の出入り口を防ぐ。

「退いてくれる気はないかな?」

黒ウサギ隊達なりの厚意と分かってはいるが、さすがに会って一日も時間を共にしていない人間にお兄様と呼ばれる事になるとはエースは予想をしていたかったため堪えた。

「「「ないです!!」」」

「了解した。ならば無理にでも通る」

「邪魔だ」

エースは押し切ってでも帰ってやると思っていたが、黒ウサギ隊の後ろから聞こえた冷たい声に隊員達全員がビクリと体を震わす。

出入り口を防いでいた壁は真っ二つに分かれ、そこから食堂へ入ってきたのはエースの予想通り黒ウサギ隊隊長の朝から仏頂面なラウラだ。

「「「おはよう御座います!ラウラ・ボーデヴィッヒ隊長!!」」」

黒ウサギ隊全員が姿勢を正し敬礼をする。

「・・・・・・」

それに対し、あいさつも返事の一つせず、それどころか隊員達の存在すら意識してないかの様な態度をしているラウラ。

昨日から周りを自分から拒絶か嫌われたいかのような態度が、黒ウサギ隊隊員達の誰でも仲良くしようとする性格からしてラウラは異常に思え、エースは気になった。

(この少女に何か事情があったのか・・・)

「ボーデヴィッヒ少佐」

エースの発言に周りからの視線が一気にエースに向けられる。

誰もが、ドライアイスに触っても火傷するだけだ。と物語っている。

「なんだ?異常者」

ラウラも昨日、エースに押されっぱなしだったのが気に食わないのか、最初から喧嘩腰の態度をとるが、それに対しエースは。

「寝癖ついてるぞ」

近くのテーブルに合ったフォークを手に取り、髪を傷付けないように優しくかつ反撃を喰らう前に素早くラウラの寝癖を直す。

「・・・・・・」

完全にエースの行動がラウラの予想とまったくもって違うことをとったためかラウラは対応出来ずに口をぽかんと開ける。

「同い年の人間が多いとはいえ、君は部下の上に立つ者として相応の振る舞いをするべきだ。身嗜みなど基本中の基本だ。注意しろ」

今自分が何をされているかようやく理解したのか、顔を赤くしながらエースの手を振り払う。

「なな何だお前は!?」

「髪を梳かした。それだけだ」

「そういう事ではない!」

激昂しているラウラを無視し、エースは周りに聞こえるように声を出す。

「髪を梳かしたフォークで食べるのは嫌だろう?責任を取り、食事に同席しよう。いいかな?」

(まぁ、洗って食えと言えば済むだろうが、気が変わった。少しぐらいは馴れ合ってやろう)

「「「もちろんです。お兄様!!」」」

ラウラが嫌そうにエースを睨むが、周りの隊員は歓迎してくれたようだ。

「では頂こう。あとその呼び方はやめろ。人数は少ないが、俺より明らかに(肉体年齢は)年上の人間がいるのに不自然だ」

「「「嫌です!!」」」

「・・・・・・」

(・・・我慢してやろう。どうせ長くないと思いたい)

ついさっきフォークを借りたテーブルの席にエースは座り、その隣の一席を黒ウサギ隊隊員達が奪い合いのジャンケンを始める。

「「「相子ぉおおおおおおおでぇええええええええええ!!」」」

もっと効率よく分割したり出す手を五種ではなく、基本の三種にすれば良いものを、わざわざ黒ウサギ隊全員でジャンケンをしているのは仲が良い故にである。

「ふん・・・」

ジャンケンをしている内にラウラはエースの隣の席へと座る。

「「「・・・・・・」」」

ジャンケンを止め、恨めがましく視線を送る隊員達を、ラウラは無視しエースを憎たらしそうに睨むその視線をエースは無視する。

ラウラ相手では、立場上やら色々含めて反対しにくいためか、隊員達は諦めて食事を配り始める。

朝食のメニューは丸いライ麦パン、湯気が残るパンプキンスープとポテトサラダに、黒いステーキのようなソーセージそれと水。

「ほう・・・」

どれもエースの世界では化学物質をふんだんに使った合成食品でなら食べたことあるものばかりだ。

天然食品など、あってもコジマ汚染などのせいで遺伝子組み換えや化学肥料を使った植物。そしてそれを食べた家畜だ。

だが、それでも企業の重役達はそれを欲し、リンクスだとしても中々食べられるものでなくなってしまったのだ。

グーテン アペティート(召し上がれ!)

「「「グーテン アペティート(いただきます!!)」」」

食事係がキッチンの前に立ち全員の食事が行き届いた事を確認してから、召し上がれと言いそれを返すようにいただきますと返す声が食堂内に響く。

「・・・グーテン アペティート(いただきます)

周りがわいわい食べ始めたの見てからエースも食べ始めた。

(こいつらが毒を盛るとは考えにくいが、スープは少しずつ飲もう。まぁ有ってもよほど強力な物でない限りはナノマシンが治療してくれる)

ソーセージをナイフとコップの水で洗浄したフォークで一口分切り取り、食べる。

「・・・・・・」

(旨い!)

エースは決して顔を崩さないが、口の中でソーセージの味を噛みしめる。

真っ先に来る濃厚でとろりとしている肉の柔らかい触感。

肉の中にある豚の脂がじわりじわりと口の中に広がり、くせが強い風味が深く舌に浸み込ませる。

「あ、そういえば今日はブルートヴルストでしたね・・・どうですか?口に合いましたか?」

エースの反対側にいつの間にか座っていたクラリッサが心配そうに聞いてきた。

その理由は、ブルートヴルストは、血のソーセージを意味をし、豚の血や脂肪を使って作られる。

土地が痩せ、農作物が多く取れない環境からか、育てた家畜を全身無駄にする事のないようにするために生まれたソーセージだ。

だが、血を食すことを良く思わない宗教もあり、何よりくせが強く。野菜の代わりになるくらい栄養価が高いが万人受けはしにくい食べ物なのである。

「あぁ、旨い」

しかし、合成食品ばかりを食べ、食事の娯楽というものが楽しめなかったエースの舌を満足させるには余りあるものだった。

エースはまた、ソーセージを一口分切り取り口に運ぶ。

噛めば噛むほど口に溢れでそうなほどのくせの強い味を楽しむ。

次にポテトサラダをフォークで掬い食べる。

ホクホクとした出来立ての温かさと、ポテトとマヨネーズの甘さ。そして時折入る塩胡椒の辛さが舌を刺激する。

サラダの中にあるグリーンピースやニンジンもまた違った甘さを生み、くせの強いブルートヴルストとは真逆のマイルドな味が興奮した舌を抑えさせる。

ナイフとフォークを一旦置き、スプーンでパンプキンスープを少量掬い、飲むとこれもまた旨い。

薄味だがしっかりと甘みがあり、見た目を良くさせるためのパセリが僅かに苦味を出す。

(・・・薬はなし。だが、数日間は油断しないように気を付けなければ)

そんな事を思いつつも次の一口はスプーン一杯に掬い飲んでいる自分に気が付き、エースは自傷するように内心苦笑いしてしまう。

最後にエースは丸い形をしたライ麦パンを手で掴み齧りむしり取る。

ほんのり酸味がする素朴な味。硬く、よく噛まなければ飲み込めない。

だが、噛めば噛むほど、他の味が欲しくなりより食が進む。

気が付けばエースの目の前にあった食事が無くなっていた。

「いかがでしたか?実はあまり良い物を揃えなかったのですが」

(これで良い物ではないのか・・・)

クラリッサの言葉にこの世界の食べ物はこれよりもさらに旨い物が溢れているのか、と感心するエース。この世界に少しだけ楽しみという感情を抱く事が出来た。

「いや、旨かったぞ」

「それは良かったです」

喜ぶクラリッサを相手にしながらもラウラをチラリと見ると黙々と食べながらエースを未だに睨む目と目が合った。

「何かな?」

「ふん!」

目が合ったら目が合ったでラウラがそっぽ向く。

(何がしたいんだか)

「ところで換金は出来たか?」

「えぇ、5000ユーロ(70万円)ぐらいはありました。大金ですね」

(どれくらいかは分からんが大金か。安い衣服、本くらいはなら大丈夫だろう)

「そうか、どこで受け取ればいい?」

「お部屋に用意しておきました。全部現金ですが」

「ありがとう。この後さっそく買い物に出かける」

ガタリと食事途中でも立ち上がる隊員達が次に何を言い出すか理解したエースはすぐに。

「案内はいらん。夕方までには帰る。あと一人で行くから座れ」

釘を3つ刺しておいた。

食器を片付け、食堂を出る。

(せめてコートでも着るか)

街中に耐Gスーツを着た人間が出没したら間違いなく警察に捕まるのが目に見えているので、部屋へ金と服を取りにエースは食堂を出て行った。

 

(何なんだあいつは!!)

エースが食堂を出た後ラウラはどうしようもない怒りを爆発させる。

(気に入らない気に入らない気に入らない!)

昨日、エースの迫力に圧され何も言えなかった自分が。

髪をいきなり触られドキっとした自分が。

睨みつけるも相手にもされないような自分が。

(情けない!情けないぞラウラ・ボーデヴィッヒ!!これが教官に指導してもらった人間か!?教官の名誉のため挽回せねば!!)

憧れる女性の名誉のためにさて、どうするとラウラは考える。

(あの男を負かしたい!!)

負かせるには簡単な話。勝負をし、勝てばいい。

だが、昨日ラウラはロレフに呼び出され。

『命令だ。エーアスト君と戦うな。何があっても戦うな。あと・・・』

と、色々と言われているので上官に逆らう訳にはいかない。

それに、負かすといっても自分がラファール・リヴァイヴ八機も相手にして勝てるとは思えない。だが、相手はそれを成し遂げた相当の実力者だ。

(戦えないか・・・それに勝てるかどうか・・・だが、今はダメというだけかもしれない。今は勝てないかもしれない。だが、偵察くらいなら出来るのではないか?よし、やろう!!)

思い浮かんだ案にラウラは秘かに笑む。

さぁ、実行。エースを追うためにさっさと食器を片付けるためにラウラは席を立つ。

「隊長どこへ?」

ラウラが笑った姿に嫌な予感を覚え、クラリッサが尋ねる。腐っても副隊長なので隊長の考える事くらいは想像できるのだ。

「奴を尾行する」

「ついさっき一人で行くと言ったばかりではないですか?」

「あぁ、奴は勝手に一人で歩き回るだけだ。そしてその後ろを私が尾行する。それだけだ」

「それだけって・・・」

ラウラとクラリッサの声に周りにいた黒ウサギ隊がざわざわと騒ぎ出す。

「隊長。お兄様を尾行するって」

「いいなぁ~もっとお話ししたい」

「話したら尾行にならないよね?」

その話がどんどん広がり、最終的には。

「「「隊長!お姉様!私達も尾行します!!」」」

黒ウサギ隊全員がエーアスト・アレス尾行作戦参加を希望した。

「いや、私は参加しないし、尾行自体が駄目です」

「良いではないかクラリッサ。これは監視にも繋がる。奴がどこかへ行かないか、奴が市民に手を出さないか。そして、手を出そうとしたら軍人として止めるべきだ。そうだろう?」

「・・・たしかに一理あります。ですが、もし昨日の様に緊急な任務があったりでもしたらどうするんですか?」

「安心しろ。黒ウサギ隊はしばらく、この基地周辺から出ないことを条件になら休暇と同じと思っても構わんと、シュタイベルト大将が昨日言っていた」

「行きましょう!」

ガタリと勢いよく立ち上がったクラリッサにラウラは体をビクリと震わせながら驚いた。

「即答なんだな・・・」

「えぇ」

クラリッサ・ハルフォーフ。黒ウサギ隊副隊長。隊最後の理性にして、真の統括者。

「ぶっちゃけ私も彼が気になります!!」

だが、己の欲望には弱い。

「では黒ウサギ隊全隊員に告げる!」

ラウラが食堂の中心で、隊長として命令を下す。

「隊長命令だ!奴を尾行する!私に付いて来い!!」

「「「了解です!隊長!!」」」

事情や経緯は何であれ、ここに、間柄が良くなかった部隊の心が一つにまとまった瞬間である。

 

(すごいな・・・)

目の前に広がる、歴史の重みを感じさせる石造りの街並みにエースは感動した。

歴史的建物はエースの世界ではほとんど見るも無残に壊されてしまったので、壊れてしまった建物が元通りに戻ったような風景を眺めながらも歩を進める。

(・・・あいつらどう撒こうか)

脳内のレーダーに映る明らかに自分を追いかけてる黒ウサギ隊の扱いを考えながら。

 

「隊長、副隊長。お兄様は服屋に入りました」

「そうだな・・・クラリッサ、通信を頼むU1に中の様子を確認させろ」

「了解しました」

『こちらU0。U1尾行を頼んだ』

『了解ですお姉様』

黒ウサギ隊達の尾行作戦はU0からU5各3人のチームを組み、U0が指揮通信車でエースを追いかけながら指令、U1から5がエースを直接尾行するという作戦だ。

各員もちろん簡素ながらも変装はしている。軍服のままでは目立ちすぎるので当然である。

『こちらU1。お兄様、白いYシャツと黒色のジーンズといった服複数と、マフラーを5つほど購入。特に目立った動きはありません。尾行続行します』

『分かった。安心しろ我々は常に君達と共にある。エーアストさんはまだ店内か?』

『はい。え?うわぁ!!』

『きゃあ!』

『わぁ!』

通信機から聞こえてくる3人の可愛らしい悲鳴。

『どうした?U1!応答しろU1!ユュウウウウウワァアアアアアアン!!』

クラリッサは仲間の安否を心配し叫ぶ。だがU1に届くことはなかった。

「どうしたクラリッサ!もうバレたのか!?」

「クッ!その様です。U1がやられました・・・」

「何だと!?早すぎる」

「隊長、副隊長。お兄様が服屋を出ました!」

「クラリッサ。U2にU1の回収。我々は追うぞ!」

「・・・了解。彼女達の犠牲無駄にはせん!」

クラリッサはU1の通信を切りU2へ通信を繋ぐ。

『こちらU0。U2、先ほどエーアストさんが入店した店にいるであろうU1達を回収。急げ!』

『了解お姉様!』

U2がU1を回収するために先ほどエースが入店した服屋へ走っていった所を確認した後、U0は通信車をエースを追うために走らせる。

「お兄様、次は・・・鞄屋に入ったようです」

「そうか・・・クラリッサ。次はU3とU4に向かわせろ。U3はU1と同じくあいつを直接追わせ、U4はU3に何かあった時のために後方で待機させておけ」

「・・・分かりました。それで行きましょう」

クラリッサは別の場でじっと待機していたU3とU4に通信を繋ぐ。

『こちらU0。U3、エーアストさんを追え。U4、U3に何かが起きた時のためにいつでも行動できるように後方で待機。すでにU1がやられた決して気を抜くな』

『『了解ですお姉様!』』

クラリッサはU3U4に連絡を終え、次はU2に連絡。

『こちらU0。U2、U1の状態は?』

『こちらU2。U1を発見。三人マフラーで足首を拘束された状態で更衣室にいました!』

『外傷は!?』

『額に小突かれた跡があり!えーと。うんうん。ありがと、お兄様にやられたようです!』

『そうか・・・ありがとうU2。U1を回収した後また待機していてくれ』

『了解です!』

U2との連絡を切った瞬間、次はU4から通信要請が入り繋ぐ。

『どうしたU4?』

『お姉様!こちらU4!あ、お兄様に―痛い!通信機が――』

スピーカーからザーという砂嵐のようなノイズが鳴る。

やられた!そうクラリッサは思い、すぐにU3へと連絡したが。

応答なし。つまりU3もU4とほぼ同じタイミングでエースに襲撃された事を意味していた。

「どうやって・・U3U4同時に・・・」

「クラリッサ!まさか!?」

ラウラはあり得ない。そう言いたげな顔をするが、事実U3U4も応答なし。通信機を取り上げられたか壊されたのだろう。

「えぇ・・・U3U4も・・・」

「・・・仕方ないまだ目視可能な距離だ、私が出よう。U2、U5にU3U4の回収させろ」

「それしか無いようですね。私も行きましょう」

「あの・・・私は?」

同じくU0に所属しているエースを見張っていた子が恐る恐ると手を上げる。

「お前は部隊の皆に伝えてくれ。お前達の犠牲は・・・黒ウサギ隊隊長として決して無駄にしない。尾行作戦を完璧に遂行すると伝えてくれ」

ラウラはそれだけ言うと指令車を出て行く。

「お姉様・・・」

心配そうな声を出す部下を尻目にクラリッサはU2とU5に連絡を繋ぐ。

『こちらU0。これだけ伝える。U2U5。U3U4を回収。そしてU1と共に撤退しろ』

『え?尾行はどうするのですか?』

『私と隊長の二人で行く。安心しろ、必ず尾行してみせる』

「そういう訳だ。あとは頼んだ」

ポンと部下に手を置きまるで戦場に向かうかのような顔でクラリッサは指令車を出て行こうとしたが。

「あの、私・・・車運転出来ないのですが」

「えっ!?」

出て行くわけにはいかなくなり、結局ラウラだけが尾行を続けることになった。

 

(残りはラウラか・・・)

鞄屋でアタッシュケースを購入し、次は本屋にでも行こうかと考えてるエースだが、まだ残ってる追っ手をどうするかとエースは考える。

(まぁ、歩きながら考えるか)

耐Gスーツを隠すためのカーキ色の全身を隠せるほどの長いトレンチコートの裾を風になびかせながら歩くが、足首辺りにまで届く裾は歩くには多少煩わしさが伴う。

(まったく、スーツが体のサイズに合わせてるのならこちらも合わせればいい物を)

体が15cmくらいは縮んでいることに、コートを着た時にようやくエースは気が付いた。パイロットスーツと耐Gスーツは共に体のサイズにぴったり合っていたのもあり、気が付かなかったのだ。

(もっと色々と考えんとな。どうやって生き返ったのか、ここの世界に来た手段とかな・・・)

エースは改めて色々な事を思考しながら歩いていると、ふと、本屋と書かれているドイツ語を見つけ店内に入る。

店内にて、買い物かごを手に取り、ISや政治関連の本を次々とかごの中に入れる。

15か16にしか見えない少年が政治やIS関連の本を大量に購入している姿は客が少ない本屋でも目立つ。

周りからの物珍しそうな視線を受けるが、一々気にしていても仕方ないのでエースはサッサと本を買って出て行こうと思ったが。

「ねぇあなた。この本片付けてくれない?面倒だから」

見知らぬ女から突然話しかけられた。だが、話の内容が内容なだけにエースは無視で返した。

(なるほど女尊男卑か。こんなにも早く我が身に降りかかるとはな。運がない)

「聞こえてるの?こっち向きなさいよ!」

エースの態度が気に食わないのか、ヒステリックな声を女が上げたせいで、店内で目立っていたエースがさらに目立つ。

「あんた自分の立場分かって――」

「知らん黙れ。自分で片付けろ雌豚」

これだけ言うとエースは最初からこの場には自分しかいなかったかのような顔で欲しい本を探し続ける。

だが、男は女に尽くして当然と考えている女はエースの言葉に怒りの感情の赴くままエースの手首を捕まえる。

「あんた本当に自分の立場分かってんの!?」

このままほかっておいたら警察沙汰になると察したのか、男性店員も面倒くさそうに寄ってくる。

「店員良い所に来た。星座とかの本はここにあるのか?探しているのだが」

「えぇ!?その前にあんた!」

店員としてはさっさと女に謝ってほしいと思っているのだが、エースは最初から女を無視すると決めているので、女も店員の心中を察していながらも店員と会話をする事を選んだ。

しかし、これがさらに女の怒りの火に油を投下してしまう事になった。

「店員!あんた警察呼びなさい!」

「えぇ!?それもちょっと・・・」

エースは話し合っている二人を尻目に一通り欲しい本は取ったので女の手を振り払い次の欲しい本へ向う。

「ちょっと!何逃げようとしてんのよ!?」

そう叫ぶ女を無視し結局店員から聞きそびれた星座関連の本を取りに行こうとしたが。

肩をグイと引かれる感触がし、誰がやったか予想は簡単につくがエースは振り返る。

「もう店員が警察を呼びに行ったところよ。ここで待ってもらうわよ」

いかにも勝ったとでも言いたげな顔をしている女にエースは溜息を吐いた。

「・・・離せ。3秒待つ。次はない」

「はぁ?何言ってんの?脅しのつも・・・」

女が最後まで言葉をいう事はなかった。何故なら目の前に。

鉄の様に冷たい顔をした人物が、手に持つ厚い本の角を高く掲げ、今まさに頭に向けて振り下ろされたからだ。

「ひっ!」

「止めろ!」

「やるわけないだろ」

エースはピタリと女の頭の側面に置くように本を止める。

「まだ本を買ってない。これは店の物だ」

「・・・お前目が本気だったぞ?」

ラウラは確かに見た。あれは人を見ただけでも恐怖を覚えさせるほどの殺気に満ちたエースの目を。

「あぁ、本気さ。本気で殴られるという恐怖を教えてやっただけだ」

恐怖で腰が抜けどさりと座り込む女に微笑を浮かべながらエースは近づき。

「その恐怖。よく覚えておくといい」

それだけ言うとエ―スは本をさっさと買い本屋へ出て行った。

 

「で、何故お前達は俺を尾行していたんだ?わざわざ通信車や部隊全員使ってまで」

「尾行だ。それ以上でも以下でもない」

エースはせっかくなのでラウラを引き連れ休憩のために喫茶店へ寄った。

オープンカフェ形式を取っているそこには食事を楽しんでいるカップルが多い。

そんな喫茶店をエースが選んだ理由はシンプルだ。なんとなくだ。

「まぁ、俺の現状を考えて一人で行くと言っても、はいそうですかで済むのがおかしいか」

「お客さんご注文は?」

エプロンを付け、ハンディを持った女性ウェイトレスが来た。

年齢は40代ほどで、とても人懐っこい顔をしている。

「ホットコーヒー。あぁ、ボーデヴィッヒ少佐奢るぞ」

「要らん私が払う、ココアを頼む」

「はいよ~」

ハンディに商品を打ち込み、店内に入って行ったことを確認してからエースは声をなるべく小さく、最低限相手に伝わるくらいの音量で話した。

「で、目的は?正直に話してもらうぞ」

「その前に私の質問に答えてもらうぞ」

「理由は?」

「昨日、お前は言った。落ち着いて話が出来る場を用意したら可能な限り話すと」

あぁ、とエースは思い出した。

昨日、色々な事が一気に起きたせいで頭が混乱し、適当に出した約束をこの少女は一応守ったのだ。

エースは大人しくラウラの要求に応えることにした。

(頭冷やす時間と上の人間呼んでくれと言う意味でもあったがな、まぁいい)

「なるほど。了解した。質問をどうぞボーデヴィッヒ少佐。君がこの話を不用意に話さないと約束してくれるならな」

「・・・分かった約束しよう。まず一つ目。お前は何者だ?」

「傭兵希望者・・・は、望む言葉ではないか。そうだな・・・俺は革命家だ」

「革命?」

「まぁ色々あったと思ってくれ。俺が生きてきた環境は複雑だった。それでいいか?」

(10億近い人間を殺した屑だとは言えんしな。この世界で起きてないことなのだから信じてもらえんだろう)

「・・・まぁいいだろう。では二つ目。なぜ昨日私を助けた」

「そうだな・・・俺は一度死んだと思っていた。だからせめて生きてる人を救う為にならまた死んでもいいと思った。まぁ、ISが使える君には不要だったな」

「死んだと思った?どういう事だ?」

「そのままの意味さ。俺は死を覚悟した。だが、生きていた。それだけだ。あと、安心しろもう二度と誰かのために命を張ることはない。やるべきことを見つけたからな」

「・・・聞けば聞くほど訳の分からん奴だな貴様は・・・三つ目。貴様のやるべきこととは何だ?」

やるべきことは決まっている。だが、これを話すべきではない。さらに異常な者と認識されるだけだからだ。

「まずは傭兵となり金を稼ぐだな」

「次は?」

「いや、今の所それだけだな。まだ俺は一般常識に欠けているからな勉強もせねば。とまぁ、こんなところだな」

「・・・単純だな。では最後だ」

「意外と早いなもっと聞かれると思ったが」

「貴様はしつこく聞くと適当に返されそうだからな・・・さぁ質問だ。何故貴様はそんなに強い?」

「と、言うと?」

「私も・・・選ばれなかった者が使う量産型とはいえ、さすがにラファール・リヴァイヴ八機も同時に相手をして勝てるとは思えん。出来るとしたら私の教官しかありえない」

「教官?」

「あぁ、世界最強の女性のみが持つことを許される称号ブリュンヒルデの名を持つ女性だ!」

(尊敬、いや崇拝か?)

ラウラの目が会った時からずっと、周りを見下すような冷たい目から、ブリュンヒルデ、その名を口に出しただけで、目を光り輝かせた。声も僅かに興奮している。

エースはその世界最強の女性の名前を知らないが、少なくともラウラという少女にとっては自身を救った神のような女性であると認識した。

「教官は強かった。凛々しく堂々として私の憧れる理想そのものだった。一点を除いて・・・私は強くなりたい彼女のようにただひたすらに強くなりたい」

一点。それが性格からなのか経歴なのかは分からなかったが少なくともラウラにとってその一点だけはどうしても許す気はないというラウラの強い恨みの念をエースは感じた。

「で、何故君の願望が俺に関係する?勝手に鍛えて強くなればいい」

「いや、それでは決して彼女に届かない。少なくとも私は貴様に勝てねばならない」

「俺は君と戦った覚えはないのだが」

「私は確かに貴様に負けた。昨日も、今日も言い返すことが出来なかった。これは私にとって負けた以外の何物でもない。それに今戦った所で私は負けるだろう」

「随分と負けず嫌いな事で」

「そうだな。尾行した理由も貴様という人間を知るためだ」

「そうか。無意味な偵察だったな」

「いいや、貴様が一般市民にでも平気で暴力を振るえる外道というのはよく分かったぞ外道め」

ニヤリと相手の弱みを握った子供の様に笑うラウラ。

「まだ未遂だが否定はせん」

弱みを握ったとラウラは思っているがエースは実際に何億の非武装の人間を殺したエースにとって今さら一人殴ろうが十人殴ろうが変わらないのだ。

それを脅しの材料に使うのは無意味。そういう意味でもエースは否定をしなかった。

先ほどの女にエースが暴力を振るわなかったのは、勿論振るったら後が面倒だからである。

だが、ラウラにはエースは非武装の人間でも容赦なく暴力を振るえる外道な男とさらに思われるはめになった。

「・・・おい外道。私もドイツの冷水とか周りから言われてるがさすがに一般市民には手を出さんぞ」

「ふむ、冷水か。俺からしてみれば多少棘のある少女にしか見えんがな」

「私は特別だ。周りのくだらん連中と一緒にするな。あと貴様は私と同い年だろう?少女と言うのはおかしい」

(特別ね・・・この少女が自身を特別と言う理由。彼女に何があった?)

「そうか、それはスマンことを言った。では特別なボーデヴィッヒ少佐。なぜ君は力を欲する?」

「簡単だ。それが私の存在理由であり、そしてあの人に近づくためだ」

「存在理由ね・・・」

(出生か?まさかとは思うが実験でも?)

エースは一切表情を変えなかったが、内心穏やかではなかった。もしそうだったら、すでに企業か国家で人体を使った悪事を働いている事他ならないからだ。

「外道答えろ。貴様はどうやって力を手に入れた?」

「それは機体か俺か。どっちだ?」

「・・・貴様の力だな。力は機体の性能が負けていたとしても勝てるからこそ力だ。だから、見てはいないがIS八機を同時に相手をする貴様の判断能力や反射神経。並の鍛錬や環境では身に付かないはずだ。私に教えろ」

(教えろ言われてもな・・・ハッキリ言って強化人間による物が大きいだろうし、一部は感覚としか言いようがないのだが・・・)

エースはセレン曰く、もしかしたら先天的に戦闘適正に優れた者なのかも知れんと一度言われた事があるのだがエース自身は自覚がない。

「了解した。が、言葉で表現するのは苦手でな。俺の処遇が決まるまでの間、君達の訓練に付き合おう。しばらくは本を読んで過ごすつもりだが、ずっとというのは暇でな。訓練に付き合い、可能な限りは指導する。それでどうだ?」

「・・・分かった。本来は休暇だが、明日からシュヴァルツェ・ハーゼの訓練に参加してもらおう。いつか貴様と堂々と戦い勝つためにな」

「そうか、ではボーデヴィッヒ少佐改めてよろしく頼む」

 

後、クラリッサが二人の様子を確認するために喫茶店へ行ったら仲良く市街地におけるISの運用方法について語り合う二人を写真に収めようとした所をエースにより阻止された。




Q先天的に戦闘適正に優れた者
A首輪付きは(というよりACシリーズ主人公全員)戦闘の天才。ドミナントだと思ってます。ここでの首輪付きはネクストに乗る前に実戦を積んでいるという設定ですが、ラインアーク襲撃が初の実戦でそのまま虐殺ルートまでいったらそれこそ短期間で人類種の天敵として成長した化け物ですね。

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