IS×AC<天敵と呼ばれた傭兵>   作:サボり王 ニート

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どうも一年以上ぶり更新した安定と信頼のサボり王です。


36 事後処理面談

学園はラウラにとって、見るもの全てが新鮮だった。

軍の基地とは違い、汚れなく清潔で近未来的な建築物が立ち並び。穏やかで、殺伐とした雰囲気をまったく感じられない。

さらに言えば、年齢のばらつきが多い軍とは違い、同年代の少女達が目の前にいた。

 

「転校生?この時期に……」

「ちょっと変じゃない?」

「皆さんお静かに。まだ自己紹介は終わってませんから!」

 

その面には疑惑の文字が浮かんでいたのは、ラウラはそれを初対面であるということを考慮しての緊張と察し、人形のような無表情の仮面の下では。

 

(なるほど。これは思ったより緊張するな)

 

ドイツの軍の中では広く名が通ったラウラが柄にもなく緊張していた。

尚、これからクラスメイトとして交流していく彼女らの考えは一つだった。

 

 

これは。あの人(男子ら)を狙いに来たドイツの陰謀!!?

 

 

ちなみに、ラウラがIS学園に訪れたのは休暇や、他国産のIS視察等が建前で、実際は教室の隅で不機嫌そうに腕を組むドイツで世話になった千冬に会いたかったのが本音である。

そんなこと露知らず様々な期待を込めた視線を送る生徒らを前にしてラウラは心中で幾度となく自己紹介の練習をひそかに繰り返していたが、少しばかり時間をかけ過ぎた。

 

「挨拶をしろラウラ」

「はい教官」

(しまった。自己紹介のタイミングが遅すぎたかっ……!教官の前でなんたる不覚!|あの男<エース>に知られれば笑われるに違いない!えぇい。何を恐れるラウラ・ボーデヴィッヒ!黒ウサギ隊いや、母国の代表という立場を思い出せ!)

 

自らの過ちを叱咤し、決意を改めて胸に抱き。

軍靴の踵をカッと鳴らし。真ん中に一つの筋が通るかのような直立不動の姿勢を取り。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

(決まった!文句はあるまい!)

 

キリッとした顔をしながら名乗りを上げた。

ドイツ軍で生活してた時と変わらない自己紹介。何も変わらない。とことんシンプルな自己紹介だ。

ドイツではこうすれば、相手は恐縮しながらも、共に肩を並べることに対する期待の視線が来た。

だから、きっとこれから同じ学び舎で寝食を共にする彼女達も、共に青春を分かち合う良き友になるだろうと思っていたが。

ラウラの考えとは裏腹に場は静まり返った。

決して引いているのではない。待っているのだ。

これからどのように過ごしていきたいか、休日は何をしているか。好きな食べ物でもいい。

ラウラという人物はどういった人間であるかラウラ自身の口から聞きたいのだ。

そしてそういったものが、ラウラ以外が思う自己紹介というものなのだ。

 

「あのー以上ですか?」

「……?以上だ」

(何か失敗したのか?)

 

副担任である真耶からの歯切れの悪い問いに、何か違和感を覚えたラウラだが、生憎ラウラは気が付くことはなかった。

だが、そんなことよりも気になるのは目の前にいる男子織斑一夏。

恩人の弟。恩人の面子を思うならば敬意を払うべき相手であるが、過去その弟である一夏が原因で織斑千冬というIS操縦者の名に泥が塗られた。

正直な気持ちでは様々な嫉妬も相まって恨んですらいる。

だが一方で、過去に縛らることなく、あらゆる力に変えろとほざいた戦友もいた。

 

「お前が織斑一夏か」

「ん、そうだけど」

 

振り上げられた手は、ビンタとして振り下ろしていたかもしれない。

だが、ラウラの手には友好を示すように手を開き。

 

「ドイツでお前のお姉様に大変世話になった。よろしく頼む」

「お、おう。よろしくな!」

 

堅く結ばれた握手は今後とも二人の関係をよいものであるように。

そんな願いが込められていたかのようだ。

僅かに緊張した雰囲気が流れたが、二人の僅かなやり取りに多少はラウラの人物が掴めた面々はラウラを歓迎し始めた。

 

「こほん!では、ラウラさんの挨拶が終わったところで、朝のホームルームを始めましょ……」

「グーテンモルゲーン」

 

真耶がホームルームを始めようとしたその時、ピシャリと教室のドアは開けられ、ガシガシと爪で頭をかいて、眠気に対してささやかな抵抗を見せるエースが一週間と少しぶりに1組の教室に現れた。

一同に、思い浮かんだ言葉があっただろうが。口をポカンと開けるラウラや、獲物が来たかのようにサディズムな視線を向ける千冬。

つい最近騒動に巻き込まれたシャルロット、その他普段からは親しき人々。

そんな中で、一番初めに動いたのは喧嘩別れをしたまま悶々とした日々を過ごしていた一夏だった。

 

「エース!」

「おう織斑一週間くらいぶりだな」

 

緊張な顔つきをする一夏に対してエースは僅かに口角を上げて応じる。

だが、瞬時にして場は緊張に包まれた。

 

一夏とエースが最近不仲である。

 

そう、IS学園の女子の中では噂となっている。

実際に喧嘩別れのような形を最後に一夏とエースは一切の連絡を取らなかったので、真実と言えば真実ではあるが。

喧嘩の発端が発端なだけに、一夏とシャルロットは当然誰にも話していないが、数日間エースの話題が出るたびに一夏の顔が曇ったので、女の勘とやらで気が付いた者たちを中心に広まっていったのである。

さて、デュノア社倒産と同等の話題となっている当事者らはお互いに睨み合っているのか、腹を探っているのか内心ハラハラとした感情を隠しきれないクラスメイト達はこっそり一夏とエースから距離をとる。

しかし、僅かに一夏が曇った顔をしているのを見たエースは不在の間一夏が何を考えているのかを理解した。

 

「その……俺……」

「お前、吐いた唾を舐める趣味があるのか?」

「え?」

「まぁ、今は引き下がろうぜ。納得したいのなら放課後付き合おう。時間は空けておく」

 

また数瞬の沈黙が訪れたが、何も起きることなく。

一夏はエースの意図を察したかのように静かに頷くと椅子に座った。

また訪れた沈黙。重い雰囲気のなか僅かに頬を引きつかせながら焦った顔をしながら真耶はコホンと可愛らしく尚且つわざとらしい咳払いをした。

 

「え、えーと。ホームルームをって。その前にア、アレス君ちょっとこのあ……」

「キッサマアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「おーう二日三日くらいぶりだな。ボーデヴィッヒさん」

「殺す!貴様絶対に殺す!」

 

落ち着いた。そう思った次の瞬間何か起きる一年一組。

今度はラウラがエースの胸ぐらを掴み怒りの声を張り上げる。

ラウラとしては、しばらく会わないと思っていたのだか、さながら当然のように教室に入った辺りドイツでのミッション時から知っていてからかっていたと察せざる負えない。故に正当な怒りではある。

 

「ここでは級友という奴だ。物騒なことは無しにしようぜ」

「物騒だと!?ISは兵器だ!今更何を痛っ!」

「ちょっと変わったかと思ったら、相変わらずだなお前は」

 

ラウラの言葉を遮るように、千冬の鉄拳制裁飛ぶ。

すでにホームルームの時間の半分以上を無駄に使っている。一限目はIS実習ということもあり、着替えやアリーナまでの移動を考えると時間がないのだ。

 

(おぉ……久々に教官の拳が……)

「アレス。お前はホームルーム後相談室へ来い」

 

頭を押さえて、尊敬する人物の懐かしきやり取りに、喜びに打ち震えるラウラを余所に千冬は簡単にアレスに連絡すると、部屋の隅でいじけている真耶をフォローし、少し長くなったホームルームは終わった。

 

――――――――――――――――

 

荷物を置き、相談室にたどり着いたエース。

室内にあるものは自動給茶機と椅子と机だけ。

不要なものが置かれておらず、外からは青い海が見晴らせる大きな窓がせめてもの特徴だろう。

 

「とりあえず座れ」

 

肘置きのないワークチェアに座る千冬の指差す先にある、備え付けの自動給茶機で出されたプラスチックコップが床に置かれていることに対してエースは正座で応えた。

 

「私も鬼じゃない。お前に都合があるのは知っている。それが、ここでの生活よりも優先されるべきことであることも知っている」

「はぁい」

「だがな、私にも教師としての都合はある。事前連絡あるならばともかく。無断で一週間近く欠席した者にはペナルティを与えなければならない」

「はぁい」

「お前の入室後の殊勝な心がけに免じて、言い訳は聞いてやる」

「ペナルティを軽……」

「すると思うか?」

「思ってないです。俺が悪いです」

「よし。言質は取らせてもらったぞ。委員会から聞いた話では、少しの間は謹慎処分としてミッションは頼まないようだ」

(まぁそうだろうな)

 

学園外においてのISの無断使用言うまでもなく重罪だ。

当然、厳密には限りなくアーマードコア・ネクストに近いISだからというエース以外に通用する言い訳が通用するわけもない。

悪いことは悪いのである。力で意思を押し通すのがエースの好みだが、自身が圧倒的に非がある以上言い訳は自重した。

 

「安心して。特別訓練と宿題に励めよ。マリー・エバン氏からの申出もあり、お前用に特別に調整しておいた。楽しみにしておけ」

(あの女……)

「返事は?」

「誠心誠意頑張りません」

「良い返事だ。よりハードにしてやろう」

「…………」

 

エースの沈黙を返事に話は一応、一区切りついた。

千冬が茶を飲んだので、エースもそれに続いて飲み。お互いほぅと息を吐くと、千冬は話の本筋はここからだと言わんばかりに、鋭い視線をエースに向ける。

 

「で、お前、デュノアに何をした」

「私が話すと思うか?」

 

その言葉と同時に、さっきまでの態度から一変し。

エースは挑発するかのように、正座から胡坐に座り直す。

千冬からの視線に僅かに怒気が含まれているがエースは笑みで返す。

 

「……思ってはいない。だが、あの小娘にこれ以上何かをするというのなら、生徒を守るのが私の仕事だ」

「オイオイ私は生徒ではないと?」

「あぁ、多少はIS学園に染まったのは分かる。だが、お前はそれ以上にIS傭兵だ。少なくとも、私の目にはそうお前自身がそう扱ってくれと言っているように感じている」

「否定はしない」

「そうか。否定してくれた方が嬉しかったが。残念だ」

「……ま、君の言う通りだ。どれだけ場に合わせて取り繕っても、化けの皮の下は昔も今もそして明日も。金の為や思想の為なら色々悪いことをしてきたり、したり、するどうしようもない奴だ。同列に扱う方が不自然というものさ」

 

ふざけたり、煽ったり、渇いた笑いをしながらも。その実、部屋に入ってから一度として千冬の瞳を離さず見つめるエース。

例え自身の手で決別しても、千冬を見てしまうと、決まって脳裏に浮かぶ女性の幻影に思わず、ノスタルジックな感傷に浸る。

エースは無意識に、千冬には多少甘く応じている。もしこれが、他の相手ならば徹底して黙秘を貫いていただろう。

そんなエースの気持ちを知る由もない千冬はエースの考えを聞くと、愁いだかのような表情をわずかに見えると話を本筋に戻した。

 

「それで、シャルロット・デュノアに何をする気だ。黙秘するならIS学園に、お前を置くことはできない。多少の犠牲を払ってでも。IS委員会にお前の身柄を預けさせて貰う」

「……分かったよ。そのつもりで、最初からここに来た訳だしな。では、まずは君がどれだけ理解しているか確認しよう。エバンからどこまで聞いてる?」

「どういった手段を使ったのかは、聞いてはいないが。お前の手でデュノア社が倒産させられたとは聞いた。その際お前のISを使ったということ。それくらいだな」

「なんだ全部じゃないか。そうだな。では、単刀直入に言うならば、私はデュノアにこれ以上何もしない」

「は?」

「まぁデュノア社巻き込んだ盛大な家庭問題って奴だ。面倒だからもう深入りする気がしない」

 

エースは要点だけを掻い摘んで、千冬にフランスでの事の経緯と共に。

会社等々の面倒はエースが見るとして、シャルロット自身に以後どうするかは委ねたということを説明した。

それに対し、千冬は疑うかのような表情で静かに語る。

 

「……大体は理解した。お前。まさかとは思うが、デュノアを助ける為にフランスやIS委員会に喧嘩を売ったのか?」

「どう捉えるかは任せる」

「……危害を加えないということさえ分かればそれでいい。そして、以降もそうであって欲しいものだ」

「私の主義を妨害しない限りは、そうであるよ……ところで千冬センセー。いつからデュノアが女だとお気づきに?」

 

空気が実際に重さを持ったかのような威圧感を放つ険しい表情から一変して、青天のような爽やかな笑みを浮かべるエースに、思わず千冬は困惑したように頭をかく。

傭兵らしい顔も、生徒らしい顔もどこまで演技なのか。

それともどちらにも本心というものはないのか、掴みにくい三枚目。

それが彼という人物なのだ。

 

「あいつも男として見られるように頑張っていたようだが。挙動をよく観察していればすぐに気付く。どうやら1組の中でお前と私しか気づいた奴はいないみたいだけどな。真耶には困ったものだよ」

「そうだな。さて、ではこれで俺は失礼するよ」

「課題はしっかりとやり遂げろよ」

「あー……りょーかい」

 

気だるそうな声を出すエースはがくりと頭と肩を明らか様に落とす。

そして、右手をひらひらとさせて相談室を出て行った。

その後エースは数多の質問が飛び交う中ごく自然に、まるで無断欠席していなかったかのように振る舞い。

放課後。アリーナへと向かった。

 

――――――――――――

 

夕暮れに染まるIS学園。

第六アリーナへエースはお供に背の小さな二人を連れて歩いていた。

 

「……理由は知らんが、嬉しそうな顔しているなエース」

「そうか?」

 

エースは指を口元に当て、無意識に二ヤついている口を確かめるとなるほどと呟く。

エースは授業中必要になった時以外では原則IS学園内でネクストを展開しないようにしている。

高いAMS適正を持つとはいえ、まったくエースの体に害がないというわけではない。将来的に敵になる可能性がある者達に不用意に情報を晒すのもエースは好みではない。

IS学園は学園という名はもっているが、生徒の一人一人の質は紛れもなく。軍にいるIS学園非卒業者のIS操縦者以上はある。

これは、授業や放課後といった日々のIS稼働時間と、それに伴う対IS戦闘経験の差から来るもの。

ただそこにいるだけ意味があるからと言って、まったく動かさない戦わない操縦者と比べれば必然的に質は高い。

つまるところ、対ISという大雑把な括りでは学園生徒は軍を上回る可能性が高い。もし、そんな彼女らが戦場に駆り出されるようなことになったら。

少なくとも、エースの危害になる可能性は1%でも増えるだろう。

そしてそんな中、一夏の雪片と零落白夜の威力は明らかに別格だ。

当たればPAを切り裂き装甲を深く抉りAPを大きく削り取るだろう。

だが、それらすべてをまとめてもエースは、戦いを長く続けた者の性なのか。

自身を落とせる可能性がある敵と相対することになったのならば、知らぬうちに喜んでしまうのだろう。

かつていた世界にいた強敵と同じように。

 

「小耳に挟んだが、お前教官の弟。織斑一夏と険悪な関係ようだな」

「あぁそれアタシも聞いて気になってたんだけど、何をしたのよあんたらは」

「なぁに。ただの意見の食い違いで口論からIS使っての喧嘩になっただけさ」

「えぇ……」

「夕暮れの河川敷の下で結び男の友情という奴か。クラリッサが言っていた」

「うーん。まぁそれでいいや」

 

ラウラ、エース、鈴。

正面から見たら凸の字に見えるこの三人が揃ったのは、ラウラは興味本位や、まだまだ慣れない場所であるので知人であるエースについて行きたいから。

エースは当然一夏と喧嘩をするため。

そして、鈴はというとエースに理由は後程話すと説明だけ言われるがまま誘われてついてきている。

というのが建前で、やはり鈴も意中の相手である一夏のプライベートが気になっているだけである。

適度に会話をしつつ、徒歩10分。

第六に到着したエースらは入口にて別れた。

 


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