初弾命中。銀髪のパワードスーツらしき物を着た少女が開けた無人機の装甲のヒビを、対パワードスーツ用ライフルに使用されているAPFSDS弾が貫通した事を確認。衝撃により、少しだけ動きが止まる。
だが、無人機の停止までには至らない。
『英語?・・・貴様何者だ!?無人機とはどういう事だ!なぜ封鎖区域にいる!?』
インカムタイプのオーメル製通信機から耳をつんざくような若い女の声が響き、彼は顔をしかめる。
『それに、なんだその銃は!?ただの対物ライフルではISの装甲を貫通するなんて不可能だぞ!!』
(ドイツ語か・・・話せる言葉で良かった。それにIS?なんだそれは?)
IS。聞いたことのない単語を常識のようにいう女の声に、彼の中に抱いていた一つの懸念。ここは、もしかしたら自分の知る世界ではないのではないか。という懸念。
その可能性が上がり、面倒な事になりそうだと彼は内心舌打ちをする。
『・・・話は後だ。まだそいつは稼働しているのだろう?まずはそいつの撃破が最優先だ。すぐに連絡する』
彼はそう、ドイツ語で伝えてから一旦通信機を切り、武装以外の持ち物はすべて置き、速くかつ静かに射撃ポイントを変え、光学照準器を覗く。
(相手のスペックが分からない以上、あと、9発しかない弾は無駄に使えん。確実に戦闘能力を半減させるためにも腕を狙うか。まだ武装は分かり切ってない上、貫いてくれるか分からないがな・・・)
彼は通信機を再び銀髪の子に繋ぐ。
『君たちが無人機から離脱したタイミングに合わせて右腕関節を撃つ。自信はあるが注意はしてくれ』
『おい、貴様。あとで洗いざらい吐いてもらうぞ』
『了解した。では頼んだ』
ターゲットの右腕の関節に狙いを定め、紫色のレーザーブレードらしき物とワイヤーのような物で交戦中の二人が、無人機と離れた隙を見てトリガーを引き、反動を肩と地面に建てた二脚で受け止める。
轟音と共に飛び出たAPFSDS弾が無人機の右腕の関節に直撃し、圧倒的な運動エネルギーを持った鋼鉄の矢が狙い通り関節を引き千切れるように奪い取った。
(効いてるな。命中を確認。次弾装填。・・・おいおい)
彼は脳内のレーダーに意識を映すと、無人機が高速で向かって来るのを確認した。
『貴様の所に向かったぞ!』
『分かってる』
対パワードスーツ用ライフルを地面に置き、アサルトライフルをすぐにでも撃てるように迎撃態勢を取る。
迫りくる灰色の無人機に、当てれる距離だと確信した所でトリガーを引く。
アサルトライフルから放たれた9発のケースレス弾が全弾無人機に当たる。だが、装甲を纏ってる無人機にはろくにダメージを与えることが出来ない。
(やはり、火力不足だな)
アサルトライフルでは撃破出来ないと判断した彼は、アサルトライフルを転がり込めばすぐに拾える場所に捨て、置いておいた対パワードスーツ用ライフルを拾い、腰に構え、迫りくる無人機にすぐにトリガーを引けるように指をかける。
だが、彼はトリガーにかけた指をすぐに引くことはなかった。
さっきまで高速で向かってきた無人機が彼の目の前で停止し、まるで観察するかのようにセンサーレンズの光を走らせる。
(なんだ・・・こいつは?)
無人機のはずなのに、目が合った。そんな感触を彼は感じた。
『邪魔だ!!』
銀髪の女の声に、我に返った彼はアサルトライフルを捨てた場へ転がり、そのままアサルトライフルを拾い全力で逃げる。
ある程度距離を取った後、彼が振り向くと銀髪の女と濃い青髪の女が、片腕となり、拳しか武器がない様子の無人機と交戦。
どうやら戦局は有利のようだ。連携がとれた二人組による隙のない攻撃が無人機の装甲を傷付け、破壊し、追い詰める。
『コアが見えた!あれを無傷で確保したいが狙えるか!?』
(コア?)
その単語に反射的に光学照準器を覗くと、くすんだ灰色で手のひらサイズの球体らしき物が無人機の人間で言う心臓部分に当たる所から見えた。
彼は対パワードスーツ用アサルトライフルを構え、言われた通り、球体の周辺を狙いトリガーを引こうとした。
だが、ここで予想外の出来事が起きる。
『イグニッション・ブースト<瞬時加速>だと!?』
交戦していた二人組を無理矢理引きはがすように振り払い、まるでネクストのQBのような速さで、彼に迫り左腕のスラスターを展開し、鋼鉄の拳で殴りかかろうとする。
(速いな。だが見えるぞ)
平均速度約1000km/h。時には4000km/hも達する戦闘を常時とする戦場において鍛えられた、彼の動体視力がその動きを捉え。
数多の戦いにより研ぎ澄まされた経験から来る直感が体に迫りくる死の拳から守るため反射的に体を反らし、躱す。
(貫け)
持っている対パワードスーツ用ライフルを構え、再びコアの周辺を狙いを定めトリガーを引く。
二脚の支えを得ていないが、反動を強化人間の強靭な体で無理矢理抑え込む。
命中。APFSDS弾が装甲を貫き、その衝撃により無人機の動きが再び止まる。
「あとは頼んだ」
動きが止まったその一瞬の隙を見て、黒いパワードスーツを着た銀髪の女と青髪の女が動きだす。
「隊長!」
「行くぞ!」
無人機の腕を、体を、脚を、頭を、4つの紫色の刃が絶え間なく装甲を傷付ける。
最後の抵抗の様に無人機がスラスターをフルパワーで展開し、左腕で反撃を試みるが、銀髪と青髪の二人のパワードスーツから飛び出るワイヤーにより拘束。
「止めだぁ!」
コアの周辺を、半月を描くように銀髪の女の紫の刃が抉り取る。
機能停止。センサーレンズからの光が消え、僅かに動いていた左腕も力を失ったように止まり。
「エネルギー低下・・・損耗率90%・・・IIK続行不能・・・機能を・・・停・・・止・・・しま・・・」
そう無人機から機械音声と、ピーという電子音が鳴る。
「目標沈黙。作戦終了」
誰に告げるわけでもなく彼は言う。もはやそれは癖に近い。
(さて、どうするか)
彼の目的は無人機の撃破ではなく、情報収集。
無人機に襲われていた人間がいたので情報収集が出来ると思ったからこそ助けた。
だが、現実は非情である。
彼の目の前には、紫色のブレードの刃を向け、明らかに敵対心を持つ銀髪の女。いや、少女としか言えない幼い顔をした人間がいた。
(まぁ戦闘能力を有するパワードスーツを着てる時点で、どう考えても軍関係の人間であることは予測できたがな)
「さぁ、約束通り洗いざらい吐いてもらうぞ」
「おいおい、明らかに劣勢だから手を出してやった恩人に対してその態度はないだろう」
「黙れ。質問はこちらが行う。武器を捨てろ」
チッと内心舌打ちをし、彼は大人しく逃げるべきだったと後悔した。
持っている武装全てを投げ捨て、両手を上げる。
「では、さっそく質問だ。貴様、何処の国の者だ?民間人が耐Gスーツを着る訳がない」
(国か・・・もう、ここは俺がいた世界と考えるのが愚かというものか。そもそも、全世界で人類種の天敵として顔を知られてる俺の顔をみて反応がないというのがおかしい。さて、どう答えるか。全て話すは論外、記憶喪失を装うには少し暴れすぎた)
「そうだな。たしかに俺は民間人ではない。傭兵をしていた」
ほぅ、といかにも面白そうに見つめる赤い右目と目が合う。
「なら、傭兵。答えろ。その銃はどこで手に入れた?どこが作った?」
銀髪の少女が指差したのは対パワードスーツ用ライフル。
たしかこの銃で無人機の装甲を貫通した時、銀髪の少女がやけに驚いた声を出したことを思い出した。
彼は恐らくこの世界の兵器技術力は、元いた世界に比べ劣っている可能性が高いと考えていた。
理由としては、あの驚きからして、歩兵が携帯する武器では先の無人機の装甲を貫通することはできない。それが常識。
そう思っていたが、それを破った銃が目の前に現れた。
彼女たちにとってこの銃は、まったくもって見たことのない、高い貫通能力を持つ、自分たちの着る対パワードスーツ用の新作の銃だと思っているだろう。
だが、彼にとってはこの銃は多少値が張るが手に入れようと思えば手に入る、パワードスーツぐらいが持つ装甲なら貫けて当然。それが常識と認識している銃。
互いの武器に関する常識のずれ。それから劣っていると考えた。
「こいつは・・・試作品の大口径ライフルだ。製造会社は契約で言えん」
「ほぅ・・・では傭兵。次の質問だ」
(戦闘以外ではあまり頭は使わないタイプなのか?それとも・・・)
彼の予想では丸一日かけて問われる可能性があると思っていたが、あっさりと次の質問に移ったので拍子抜けた。
「どうやって、ここにたどり着いた?ここはドイツ軍が封鎖しているはずだ」
(これは正直に話すか)
「信じてもらえるかはそちら任せるが、俺はついさっき目覚め、情報収集をしようとしたら、そちらの青髪の女性が無人機に襲われてるところを確認した。なので、持つ武器を使って助けようと思ったら君が無人機に攻撃したのを確認し、この二人は同じ軍か何かに所属して、かつ、青髪の女性と同じく無人機とは敵対関係であると考えた。それを踏まえて、その試作品の大口径ライフルで狙撃した。以上だ」
「・・・・・・」
銀髪の少女の顔が訴えている。何を言ってるんだこいつは、と。
「どうやら信じては貰ってないようだが、事実だ。何度問われても答えは変わら――」
彼は驚き、それと同時に助けるべく動き出す。
ブレードを向ける銀髪の少女の後ろ。
止まっていたと思ったそれは再び動き出した。
「ッ!」
銀髪の少女が突然動き出した彼を止めるべく冷静にブレードを振るう。刃が彼の左腕かすり、左腕から僅かに痛みが走るが構わず飛び出し、銀髪の少女を守るべく射線上に立つ。
(なんで今頃になってそんな隠し玉を使うのかね、まったく)
対パワードスーツ用ライフルにより吹き飛ばされた右腕が浮き、手の甲からレーザーの銃口が露わになる。
銃口からピンク色の粒子が集まり、収縮し、高温の光が発射。
高速の光の線が彼に向けて真っ直ぐ迫る。
だが、その光が彼からみたら嫌にゆっくりと動いて見えた。
(元より死んだはずの命。生きてる人間を助けれるなら光栄か)
二度目の死への覚悟を決め、目を閉じる。
すると、ふと思い浮かんだのは彼が駆る鋼鉄の巨人。
全身が漆黒、サポートカラーとして決して目立つことないが、確かな存在感を放つ金色。
革命の為、人類に平穏をもたらす為、破滅への運命を救う為に戦うことを決めた時に変えた名を。
彼は首にかけてあった首輪から不思議な暖かさを感じた。
首輪から全身へと暖かな青緑色の光が彼を包み込む。
足からWHITE-GLINT/LEGSが。
腕からA11-LATONAが。
胸にはCR-LANCELが。
頭にはHD-HOGIREが現れる。
そして、その全身から彼を守るように溢れ出る青緑色の球体の形をした粒子装甲PA<プライマル・アーマー>が形成。
PAがレーザーと衝突し、互いの粒子が拡散する。
「ぐぅ!?」
AMSによってネクストとリンクした時と同じ感触が彼の全身を巡る。
だが脳内にこの機体の、ありとあらゆる情報が普段の彼とネクストがリンクした時の数倍の情報量を、まるで濁流のように雪崩込む。
(何だこれは!!)
まったく聞き覚えのない単語が脳内を巡り、様々な情報が脳内を縦横無尽に飛び交う。
彼は、意識が暗闇の中に飛びそうになりながらも、その情報全てを吸収し、理解した。
そして、その情報の海から一つの単語と一つの名前を見出す。
ACNIS<アーマード・コア・ネクスト・インフィニット・ストラトス>ディターミネイション。
彼に見つけられた。
彼を包む黒い機体がその喜びを表すかのように、一つの武器が左腕に現れ装着される。
「ッ!!」
何かに突き動かされるように彼はMOONLIGHTを起動。QBによる推進力を得て浮いている右腕に急速接近。
紫色の光の刃を無人機の右腕に振るい、二つに別れた右腕をさらに二度三度振るうと光の刃に右腕が飲み込まれ完全に消滅した。
質問がありそうなので書いておきます
Q:APFSDS弾ってな~に?
A:めちゃくちゃ硬いダーツの矢です