これはひどい
本来ISを浮かせたり、停止させたりする時に使用するPICを発展させた物で、効果は機体前方のみで起動するには、多量の集中力を使って停止させる範囲と物体を強く注視しなければならないが。
注視し切れないほどの速さで動く物体と範囲外から来る敵。そして、物体として慣性の影響を受けにくいレーザー以外には無類の強さを誇る。
そんな停止結界をラウラはトンネルの入り口に展開し、叩きつけるかのような長距離砲による砲撃を耐えていた。
「クラリッサ!状況は!?」
「生死に関わるほどではありませんが負傷者多数。後方の車両が爆発に巻き込まれたせいで炎上しているようです!」
「最悪だっ……内通者はあとで殴る!」
「えぇその時は私にも殴らせてくださいよ」
クラリッサに庇われたラウラだが、ラウラもまた長距離砲の存在に気がついていた。
即座にISを展開し、イグニッション・ブーストを使い、クラリッサを抱えて車両から飛び出すことで砲弾の直撃をラウラは避け、その後の砲撃も停止結界で防ぐことに成功したが、ラウラの反対側に位置するトンネルの入り口に起きた爆発音については対処できるわけもなく。
現状はラウラの言った通り、最悪だ。しかも車両が通るルートと時間が明らかに敵にバレていなければ、大量の長距離砲に加えて、閉じ込めるかのように起きた爆発が起きるわけがない。
つまり、味方だったはずの存在からいきなり背中を刺された状態なのだから、ラウラの怒りは尚さらごうごうと湧き上がる。
だが、ここで怒りに身を任せるのは素人がやることだ。
怒りを消すのではなく、怒りを溜めていざという時に一時的に力を高めることの出来る火薬として残す。
「瓦礫の撤去は……無理そうだな」
「はい。煙でまともな作業が出来ませんし、炎上している車両に近づくのは自殺行為です。それ以前に撤去したところでその先に敵がいる可能性が高いです」
「ならば中央突破しかないな」
「そうですね。それしか現状を打開する方法はありません」
「ならば……ふぅ……」
ラウラは普段は10秒も使わない停止結界を三分も長く続けていた為か疲れによる重い息を吐く。
それと同時に極度に続いた集中状態が切れ、停止結界が消える。
止まっていた砲弾が地面に転がり落ち、まるでそれが合図かのように砲撃も止まる。
「ん?砲撃が止まった」
「罠かもしれません。ですがここで行かなければ私達以外は全滅」
これを好機とラウラとクラリッサは感じ取り、ラウラはすぐ後ろで簡易的な防壁を作り上げたり怪我人を介護している黒ウサギ部隊の隊員達に声を上げる。
「状況は最悪だ!だが、見ての通り退くことが出来ない。そこで、私とクラリッサはこれから中央を突破し道を作る!その間、すまないが布を水で濡らして口を覆ってトンネルの入り口付近で耐えてくれ。そして、ロートハール曹長。敵がトンネル内にまで来たらラファールを使って迎撃しろ何があってもISコアを敵に渡すな!そして死ぬな!これは命令だ。黒ウサギ部隊の隊員ならばやり遂げて見せろ!」
「「「了解!!」」」
腕などに怪我を負った物がいるが、威勢のいい返答を聞き、ラウラとクラリッサは僅かにだが笑いながら頷く。
数か月前までは、氷のような冷たさで周りを拒絶し、隊長らしい行動をしない所か自身より弱い隊員達を見下していてラウラだが、突如現れた自身よりも圧倒的に強さを持つにも関わらず、厳しいながらも教え導く味方ではなく、限りなく敵に近い存在。
その存在は真面目なのか、おどけているのか、はたまた飄々としているか、まったく感情を表に出さないが時折見せる恩師として尊敬している千冬に似た芯のある姿。
そして何より圧倒的な強さが所詮は、強がれるだけの環境にいただけの少女だと、ありありと感じさせられた。
事実、まだ名も知らなかった時に僅かに共闘したとき、生身であるにも関わらずISに攻撃を仕掛け、イグニッション・ブーストから繰り出された拳をハイパーセンサーの補正なしの動体視力と反射神経のみで完全に避けるという、遺伝子強化体以上の人外の領域に入る動きをその存在はして見せた。
事実、あともう少し口を滑らせたら、隊員達との仲が決定的に裂かれていたであろう言葉をその存在は意図しているかどうかは別としても止めてくれた。
ラウラにとってエーアスト・アレスという男は、敬意を払うべき敵。
いつか倒すと、決めている敵である。
「行くぞクラリッサ。私とお前以外は実戦経験がほとんどない。パニックになる前に……」
「えぇ、分かっています。ですが彼女達は軍人ですよ。そんなに軟じゃありません」
「そうか」
「それにしても、柔らかくなりましたね隊長」
「かもな」
ふと出した言葉にクラリッサは勿論、ラウラ自身も少なからず驚いたがハイパーセンサーに敵のIS反応が入り、即座に長距離砲だけを片付ければ終わるという甘い思考を切り替え、ゆったりと近づくIS二機を見て、そして敵の正体を察する。
「あれはアメリカのアラクネ……ファントムタスクか!」
「大物が出ましたね。もう一機はテンペスタⅡ型ですか……」
「クラリッサは量産の方を頼む。リーダー格はアラクネだろう」
「了解。ご武運を」
ラウラとクラリッサは今も尚煙を吐き続けるトンネルを背に二手に分かれる。
ISの実力はクラリッサよりもラウラの方が上で、量産機と違い専用機は何かしらの特徴を持つ分、厄介だ。
そして、2対1の状態が生み出せない環境下では強そうな方に強い者が当たり1対1で戦った方がトンネルで待機している隊員達が被害を受ける可能性が低くなる。
選択としては特に間違っていない上に、アラクネがリーダー格というラウラの読みは当たっている。
だが、アラクネの方が強いという先入観を持ったことをラウラは後に後悔することとなった。
――――――――――――――――――――
「へぇーあんまり気が乗らなかったが。来て良かった。おいお前、無人機のISコア渡してオータム様に可愛がられるかオータム様に捕まって可愛がられるか。選べ」
「何を言ってんだ貴様?」
「なるほど無知か……いいなぁ。こういうのは私の手で徐々に汚していく感覚がたまらねぇんだよな」
「…………」
会っていきなりの第一声の言葉の意味をラウラは理解しなかったが、フルフェイスで隠された顔越しに来る視線に異常な嫌悪感を覚えを大口径レールカノンを構える。
「とりあえず殺す」
「振られたか。まぁ良い無理矢理ってのも悪くない」
オータムもアラクネの装甲足に付けられたレーザー砲と実弾のマシンガンを構える。
そして、火蓋が切られた。
ラウラは大口径レールカノンを起動。
右肩部に接続されたレールカノンはISからエネルギーを受け取り、砲身に砲弾をプラズマ化させる為と加速させる為の電気を流し込み、リボルバーシリンダー内で砲をプラズマと化する手前まで電離し推進用の液体火薬に着火。
電磁誘導の加速力を得て飛ばされた高温の砲弾は耳をつんざくような音と衝撃纏い真っ直ぐオータムへ飛ぶ。
「当たるかよ」
だが、オータムは装甲脚をバネのように使って側面へ跳躍し、マシンガンを発射。
銃声が小刻みに鳴り、雨のようにラウラへ襲い掛かるが、ラウラはAICを装甲のない生身部分で尚且つマシンガンの銃弾の射線に入るのごく狭い範囲であるが展開し、銃弾の雨をAICの傘で受け止め。
ウィングスラスターの出力を最大まで出し、オータムに風を纏いつつ接近する。
「私相手に近接戦闘か?」
オータムは小馬鹿にするかのような声でラウラを蔑む。
その理由は並みのISよりも一回り大きくウィングスラスターでの飛行は苦手とするが、それを補う歩行、走行、跳躍のスピードが並みのISの倍近くある上に近接戦闘においてアラクネは八本の装甲脚を持つ分手数が圧倒的に多い。
ブレードが付けられた装甲脚をラウラを囲むようにオータムは振り下ろす。
上、左右にブレード。下は地面。
瞬きをすれば、すぐにでもブレードがラウラの細い体を切り裂きそうな距離にあったが、そんな状況でもラウラは冷静に左手のプラズマ手刀を展開し、反転した後、地面を背に倒れ地面すれすれを這うように突進を続けて左右のブレードを回避。
「何!?」
上のブレードを左手の手刀で受け止め、僅かに驚いたかのような声音が混じるオータムの股をすり抜け、右手の手のひらで地面を手跡がはっきりと残るほど全力で叩きつけて起き上がり、ウィングスラスターで飛翔。
アラクネは並みのISよりも一回り大きい蜘蛛の形をしたISの上に人が乗っているような状態な為、高ささえ何とかできれば横幅は広い為すり抜けることが可能だからこそ出来た芸当だ。
そして、ラウラが態々敵をすり抜けたのは勿論狙いがあってのことだ。
アラクネがまだ背を向けて無防備な内に、アラクネの蜘蛛でいう腹部と思われる場所と装甲脚をワイヤーブレード四機全てを巧みに操り、絡め捕る。
「残念だったな、遠距離戦闘だ。近距離も出来なくもないが」
ラウラはそう呟き。
両腕を組みながら、大口径レールカノンをオータムの上半身へと向け、ゆっくりと照準を定める。
ラウラの狙いはあくまでも、シュヴァルツェア・レーゲンの中でも最大の火力を持つ大口径レールカノンでの遠距離射撃。
相手の得意距離に態々入る気はラウラにはないが、避けられては決着がつかないので突っ込んで見せたまでだ。
砲身に再び電気が流れる。
「良い動きするじゃん。まぁ苦労した分だけあとの楽しみが増えるってもんだ」
狙いを定められ、装甲脚を動かしても動かないという状況ではあるが、オータムはいかにも余裕と言いたげに両腕を広げた。
ラウラはそんな態度を疑い、すぐにでも長距離砲を破壊しなければ隊員達に命の危険が迫っている為、何かされる前に早々にレールカノンを構え。
今度はワイヤーブレードで動けないように拘束したオータムへ発砲。
「ほらよ」
だが、その直前オータムはアラクネを捨てて、操縦者が浮遊できる最低限のPICを起動しながら大きくジャンプをして自身に狙いを付けられたレールカノンを難無く躱す。
「なっ!?」
「次やるなら私も縛ることだな」
完全に予想外の躱し方をされたラウラは驚き、第二射を撃ちこもうとするが、砲身はまだ熱が溜まっている為すぐに撃つことが出来ない。
それならばアラクネを装備していないオータムを撃破しようとするも、すでに地面に着地したオータムに反撃を許すほどの隙を与えてしまった。
「おらぁ!!」
オータムは手元に対AIC用の武器、パルスライフルを呼び出しアラクネをPICで軽く浮かした後に全力で蹴り飛ばす。
そして、蹴られたアラクネはワイヤーブレードを巻き取り絡めつつ、空中でコロコロと転がり、牽制用にマシンガンを乱射しつつその後をオータムは追う。
この行動の意味をラウラは思考し、ふと徐々にワイヤーを伸ばせる限度が近づいていると、ISからの警告に気が付いた。
「まさか……!」
瞬時にラウラはオータムの思考を読み取り、ワイヤーブレードを引き戻そうとするが、でたらめに絡められたワイヤーブレードがアラクネをより強く拘束したことにより叶わず。
ワイヤーブレードが最大まで伸ばせられる距離まで達してしまい、ラウラは転がるアラクネに引かれる。
ISには最適化を行った操縦者に対しのみ、装備等の軽量化の効果がある。
そして、軽量化効果は操縦者が多少離れていても作用する。
鉄の塊であるアラクネが成人女性であるオータムの一蹴りで動くのも、身の丈を超す。
剣や銃を持ってもISを操縦する者達が軽々と持てるのはこの効果あってのことだ。
「私の武器が拘束具となるとは」
咄嗟にワイヤーブレードに絡まれたアラクネごと引き下がろうとラウラは動くが、その前にラウラの行動に気が付いたオータムは再びアラクネに搭乗。
PICをその場で静止させる為に使いながら、オータムはゆっくりではあるが六本の装甲脚でさらにワイヤーブレードを絡め巻き取るように動かし、ラウラとの距離を詰める。
ラウラもウィングスラスターを最大まで稼働させて、引き離そうと動くがワイヤーブレードが拘束具となり、ラウラの動きを制限する。
「少し痛いだろうが我慢しろよぉ?」
オータムはそう言い放ち。パルスライフルを構え、紫色の熱量を持ったレーザーを連射。
眼前に広がる一面の紫にラウラは飲み込まれた。
――――――――――――――――――――
嵐を意味する名を持つISの二代目、テンペスタⅡ型。
装甲を常に回復させる守りの打鉄、器用貧乏で安定感のある万能のラファール。
この二つに対して、圧倒的速さと威力を持つ攻めのテンペスタと呼ばれるそれは、量産型であるにも関わらず、試作品の多い第三世代型であり、その構造は風を切るかのように鋭利でISには珍しい一切生身を露出させない作りとなっているが、装甲は申し訳程度に付けたぐらいで非常に薄く、一撃が致命傷になりかねない。
その為、テンペスタⅡ型に対する評価は癖が強く、操縦者の技量がなければまったく役に使えないが、単純な性能自体は他二つに比べ絶大と言われている。
「テンペスタⅡ型ですか……」
クラリッサは、そう呟き。ワイヤーブレードを威嚇するように出しておきながら相手の出方を疑う。
性能頼みの素人ならば相手をするまでもない程、テンペスタⅡ型は扱うには難しいからだ。
「「…………」」
クラリッサは相手の背丈からラウラと同年代か年下かもしれない少女を相手にすることに、ファントム・タスクに対して嫌悪を抱きつつ、にらみ合いを続ける。
(動かない……年齢的にも素人の可能性がありますね。これなら……)
数分の睨み合いの末。
すぐ近くで、ラウラがアラクネを拘束している所を見たクラリッサは、シュヴァルツェア・ツヴァイクの口径を狭くし、冷却装置を強化するために砲身を厚くした結果。
威力を抑えることで連射させることに成功した連射型レールカノンを援護射撃をするべく、僅かに意識を少女から外した。
だが、そのたった僅かな時間。刹那ともいうべき僅かな時間で少女は動き出し、クラリッサは度肝を抜かれた。
一陣の風が吹いたかとクラリッサが思った瞬間、両手に近接格闘を重点に置きながらも、中距離での射撃戦も想定された、特殊な金属で作られた僅かに怪しい揺らめきを見せるナイフのような刀剣型の銀白の銃剣付き
「ッ!」
僅かではあるが、意識を残していたのが幸いし、クラリッサは刃が身に届く寸前にプラズマ手刀を展開。
物理とプラズマの刃が交差し火花を散らし、両者の力が均衡するが、それも一瞬。
少女は銃剣を引き、空中を体を丸めながら一転。
この後の行動をクラリッサは、敵機体が量産型であり情報というアドバンテージがあるからこそ、予測し追撃するのではなく均衡が崩れたことによって前のめりになった体を全身の筋肉を総動員させて背を後ろに倒す勢いで引く。
その直後、クラリッサのいた場所に全身に付けられた小さな突起物からレーザーを噴出し、全身に刃を纏った状態で超高速に回転する、まるで球状のエネルギーの塊と化したテンペスタⅡ型が現れる。
もし、追撃していればブレードで全身を削り取られるかのように切り付けられ、操縦者の身を守る為にシールドエネルギーが根こそぎもぎ取られただろう。
そんな姿を一瞬だけ想像したクラリッサだが、すぐに脳の隅へと追いやり今度こそ追撃を始める。
ワイヤーブレードを二機、左右追い込むように放った後にウィングスラスターで加速しプラズマ手刀で突く。
シュヴァルツェアと名のつくISならば常套手段と言っても過言ではない、いつも通りの攻め方だが、普通は逃げ道を塞がれれば多少でも動揺するのが人情である。
しかし、驚き。ダメージを喰らい動揺するのは寧ろクラリッサの方となった。
空を穿つプラズマ手刀を回転を止め一度は静止した少女は、目を回しかねないほどの速さで回転していたにも関わらずまったく目を回すことなく、ブレードの噴出口をスラスターとして噴出する為の物へと移行。
そして、静止状態から一気に最高速度へと移行しながらプラズマ手刀を空へ逃げることで回避しつつ、機関拳銃を乱射し僅かではあるがクラリッサに命中させ、クラリッサと距離を話す直前につま先にブレードを展開。
肩を蹴り上げるようにして斬り、シールドエネルギーが操縦者の身を守る為に火花を散らす。
「クッ……」
肩に走る痛みにクラリッサは耐えつつ、ワイヤーブレードで空へ逃げた少女を追撃。
しかし、クラリッサが見たのは翼を広げて空を宙返りするワイヤーブレードから優雅に空を飛びながら避ける少女の姿だった。
テンペスタⅡ型の装甲は全身至る所にスラスター兼ブレードの役割を持つ噴出口が付けられており、最大出力でスラスターを吹かせると、その加速力はイグニッション・ブーストにも匹敵する。
そしてブレードについても出力を低くし、一つ一つの威力が低かったとしてもブレードが多段ヒットすれば威力はヒットした数に応じて一撃必殺にもなり得る。
これだけならばただ速い、強力といいところばかりだが、テンペスタの致命的な弱点はスラスターとブレードの機能を同時に稼働できない。つまり、最大速度で移動しつつ攻撃が出来ないことと、軽量化と攻撃力増加の為極限にまで様々な機能を削り速さと攻撃力に与えた結果、エネルギーを蓄える場所が少なく、エネルギーの管理が非常にシビアで管理したとしてもすぐにエネルギー切れになりやすい。
その為テンペスタⅡ型には収納可能な他ISには存在しない、PICやウィングスラスターがある為、今まで存在が無視されてきた揚力を得るための腋から足の外側にかけて収納自在な動翼が存在する。
この翼を使い、テンペスタⅡ型は空を僅かなエネルギーを使うだけで飛行することが出来る。
だが、この翼はグライダー等に使うものに比べて人を飛行させるにはあまりにも小さく、優れた平衡感覚とエネルギー管理、敵の動き、的確な翼の使用の切り替えが必要となる為この翼が使う者を選ぶ極めて操作難易度が高い機体へと変えてしまった。
「行くぞ」
落ち着いているが棘があり、冷たい印象を受けるが、どこか高揚しているかのような少女の声をクラリッサは聞いた。
ラウラの持つ冷たさとは方向性が違うと感じるものの、それが何のか言い例えれない少女の声を。
(どういう人生を送ったらこうなるのやら。ですが、凄腕なのは間違いない。選ぶ相手を最悪間違いましたね……しかし!)
「さぁ来なさいクラリッサお姉さんが受け止めてあげますよ」
「は?」
小さな体のどこから出たか理解できないほどの少女のドスのきいた声と共に急降下。
そして少女の持つ両手の機関拳銃の銃口が光る。
降り注ぐ銃弾をクラリッサは地上を滑るように避けつつ、速射型レールカノンを構え三連射。
砲身を冷やすために、レールカノン後部から大量の空気が取り込まれ、砲弾が発射されると同時に温められた砲身に常温の空気が巡り、砲身を急速に冷やすしながら砲身先端部に配置された排出口から高温の空気が噴き出す。
爆音が三回鳴り響くと共にレールカノンが発射した砲弾は急降下する少女へと向かう。
(当たった)
急降下する少女ではなく少女の行く先に置くように狙いを付けたクラリッサはそう確信しながら砲弾を見送る。
その直後、少女と砲弾の位置がピッタリと交差し爆発が起きる。
しかもそれは一度だけではない、三連射したのだから三回分。
大きな爆発となって少女を爆炎と黒煙が包み込む。
テンペスタⅡ型の薄い装甲では致命傷は必須、シールドエネルギーはほぼ尽きかけているだろう。
これ以上の攻撃は、死に直結しかねない。
だが、クラリッサは砲身が冷却され射撃可能となった連射型レールカノンを再び三連射。
ISを扱う者を殺害、もしくは瀕死に追い込んで初めてそれは立派な撃破と言える。
例え少女であろうが、部隊に被害を与えかねないのであれば、守る為に徹底的に攻撃する。
ドイツ軍人クラリッサ・ハルフォーフ大尉として、そこには容赦もいつものおどけた態度も一切はない。
ただ、仲間の為に攻撃する。
追撃を与えたクラリッサの心情はそれだけだ。
砲弾が無慈悲に、黒煙の中へと侵入した。
三度の爆発が再び起き、周りに衝撃をまき散らし、薄らとは生えている草木が揺れる。
そして数秒後、黒煙の中から小さな何かが黒煙を纏いつつ落ちる。
「やったか」
クラリッサはそう呟き、生死関係なしで、少女の体が悲惨な状態になるのを防ぐべく、落下地点まで移動し、両手を広げて受け止める体勢を取る。
そのまま、ふわりと浮かび空中で受け止めようとしたクラリッサだが。
「私の……」
すぐにでも消えてしまいそうな小さな声だが、少女の声をクラリッサは聞き、すぐさまワイヤーブレードを展開し、拘束ではなく切り裂くためにブレードを少女目がけて伸ばす。
「これで終わりです!」
止めの一撃。
そうクラリッサが思い、飛ばしたワイヤーブレードは。
「私の姉は……あの人だけだぁ!!」
吠えるように叫ぶ少女の声が聞こえたと思った次の瞬間、何もない空を貫いた。
「消えた!?」
「失せろッ!」
そして、瞬きする間もなく少女が再び姿を現し、怪しく光る銀白の銃剣で突く。
「ぐっ……」
隙を突かれた攻撃はクラリッサの下腹と接触し、シールドエネルギーが削られる。
シールドエネルギーによって腹に銃剣が刺さることはなかったが腹部に刺されたかのような痛みが走り、クラリッサは呻き顔を顰める。
しかし、少女の追撃は終わらない。
テンペスタⅡ型の装甲に付けられた小さな噴出口が光る。
(まずい!)
クラリッサはすぐさま距離を取ろうと意識を回す。
PIC、ウィングスラスターとにかく、後ろへ下がろうと尽力する。
だが。
それよりも早くテンペスタⅡ型のブレードが飛び出した。
「…………」
全身に刃物で切り付けれたか、貫かれたかのような感触をクラリッサは味わい。
悲鳴を出す暇もなく意識が薄れていく。
(なるほど、最初の爆発はブレードで斬ったから起きたもので、すぐに上空へ離脱して待機していたからほぼ無傷ですか)
薄れゆく意識の中、ISが最後まで守ってくれた五体は満足であることと、少女の装甲は何一つ傷ついていないことを確認し。
クラリッサはまったく役に立てなかった自らを嘲笑うかのように静かに笑い。
意識を放した。
――――――――――――――――
メインローターが空気を切りながら、戦闘ヘリが戦場と化した山道へと近づく。
黒ウサギ部隊からの救援要請を受け近くの基地からやってきたのだ。
「駄目ですねあれでは」
クロエは耳から聞こえてきた戦闘ヘリの音で結末を予想しつつ、背を低くし、黒鍵で情景に姿を隠しつつ。
ばれない様にひっそりと少しずつ移動しながらトンネルへと向かっていた。
(現状ドイツ側が劣勢……すぎます。ISが来ると嬉しいですが……)
そんなことをクロエは思った数秒後に、耳を防ぎたくなるような轟音が鳴り。
音の方向へクロエは視線を動かすと、長距離砲がヘリを目指して一直線に飛び、地対空ミサイルもヘリを覆い尽くすように飛び交う。
「数の暴力というものですね……あ、逃げた」
望遠鏡でヘリのテールローターを眺め、クロエはため息を吐く。
「これだからISではない兵器は……」
煙をふくヘリにクロエは毒を吐きながらも、着々と歩を進める。
「救援の人が強い人だといいな……」
ぽつりと呟いたクロエ言葉は誰にも届くことなく、むなしく消える。
ただ、願いは叶ったようだ。
――――――――――――――――
国際IS委員会フランス支部屋上。
快晴の空の下、僅かに湿っている白金の髪を風で乾かしつつ。
荷物を片手に黒いズボンに、灰色のTシャツに黒いレザージャケット。
腹いせに例の黒服から奪い取ったサングラスをエースは身に着け、首輪に指示を送る。
(ディターミネイション。システム戦闘モード起動)
アセンブル――
HEAD
WHITE-GLINT/HEAD
CORE
SOLUH-CORE
ARMS
AM-JUDITH
LEGS
WHITE-GLINT/LEGS
R―ARM WEAPON
L―ARM WEAPON
R―BACK WEAPON
L―BACK WEAPON
一瞬で生身の体をACへと変えて、メインブースターを起動して浮かび上がる。
(
周囲を漂う各所の整波装置によって無害化されたコジマ粒子が安定還流され、球体の膜のような防壁、自己再生するあたりバリアとも言えるプライマルアーマーをエースは眺め、一度コジマ粒子の生産と整波装置の稼働を止める。
すると、コジマ粒子は途端に球体の形を保てなくなり、周囲に拡散しつつ地に落ちていく。
残されたのは、素の装甲しかないネクスト。つまり、戦闘中直接ネクストの装甲を削り取ることの出来る唯一無二の時だ。
(さぁ、今ここで砲やらミサイルを当てれてたらどれだけAPが減ることやら)
脳裏に、マザーウィルから発射されたミサイルや砲弾が飛び交い、意志を持った獣のように食い殺さんとばかりに執拗なまでに襲い掛かる情景を思い出し。
エースは止めていた二つの装置を再び稼働、一度完全にプライマルアーマーが崩れたことで再構築に少し時間が必要となったが、プライマルアーマーはエースを守る防壁として復活した。
この間僅か数十秒。呼び出したパーツによって整波装置の数や性能の事情で多少再構築されるまでの時間が異なるが、それでも超高速で三次元起動するネクスト相手では短すぎる。
(これを見逃す馬鹿は猿にも劣るだろうな……)
しかし、戦場での一秒は、運動や食事で使う一秒とは遥かに重みが違う。
たった数一秒で繰り出された攻撃によってAPが逆転され、そのまま負けることもある。
そして、それを音速の戦いすらも超える戦いに身を置き続け極限にまで戦闘に関する技能が練り上げられた人間が理解していないはずがない。
そんな人間相手にプライマルアーマーを消し、APを奪い尽くすには極限以上にまで練り上げられた人間か、天運の持ち主くらいだ。
だが、そんな人間が簡単に見つかるわけがなく、その代わりとして生み出されたのが、ネクストですら処理できないほどの飽和攻撃を繰り出すアームズフォートで、実用性も凡才と称されたリンクスの大半を骸に変えた実績が物語っている。
つまり、アームズフォートのような類は、どうしようもない強敵を相手をしたときに人間が必然的に辿り着く一つの答えだ。
(IS委員会にとっては今回のミッションは実験も兼ねてるんだろうな)
辿り着かなければならない場所に、待ち構えるは大量の長距離砲とミサイル。これをアームズフォートの親類と言わずして何というのだろうか。
質も量も違ったとしても、その本質は同じだ。
(まぁ奴らは無駄だと、知るだろうな)
しかし、幾度となくそんな策を使ってきた相手をしてきたエース相手では最強のISを駆る最強のIS操縦者でなければ討つことは不可能だ。
かつてエースに負けを刻み殺した相手がホワイト・グリントという最強と称されたネクストだったように。
仮にもIS《インフィニット・ストラトス》が名のつくACNIS《アーマード・コア・ネクスト・インフィニット・ストラトス》を殺せるのは、ネクストでもアームズフォートでもなく、ISだけということだ。
(さて、初披露だ。はっきり言っていい思い出しかないからあまり使いたくなかったが……)
脳裏に流れる、そのいい思い出の数々を思い出し、エースは深いため息を吐く。
状況的には最適解で最高の結果をもたらすが、過程も全て良いとは限らない。実際エースはそれを使い、思い出の中で幾度となく死にかけた。
しかし、必要であれば使うだけだ。
(あー使いたくねー……)
国際IS委員会を出し抜くためにエースはネクストに指示を送る。
それの使い方も出し方も、初めてACNISを装着した際に脳に流し込まれた情報の海からすでに理解していた。
(来い、
背中のオーバードブーストを保護する、SOLUH-COREの三つの背部装甲板が開き、ブースターから展開時に溢れ出す青緑の大量の粒子が噴出し、巨大なブースターが形成される。
それは ブースターというにはあまりにも大きすぎた
大きく 分厚く 重く そして大雑把過ぎた
それは 正に巨大な棒だった
Q:テンペスタⅡ型について
A:翼生やした攻撃と速さに特化したISで、攻撃方法はハリセンボンを思い出していただければそれでいいです。
翼についてはモモンガに近いですが、翼が飛行機のように動きますし、翼を使っていてもスラスターは使えますんで上昇や左右への移動もできます。翼はあくまでもエネルギーの節約用です。
まぁはっきり言って量産するもんじゃなさそうです。ハイ。
Q:ロートハール曹長?
ロート=ドイツ語 赤 検索
ハール=ドイツ語 髪 検索
こんなんでそれっぽい名前になるからドイツ語ってすごいです。
Q:ワイヤーブレードの限界
A:あれ一応アニメじゃレーザーっぽくて無限に出せそうですが、拘束できるあたり質量がある=限界もあるってことでお願いします。