そして、視点移動が激しいので分かりにくいかもしれませんごめんなさい。
これはエースがドイツへと向かう少し前の時間に遡る。
僅かに霧がかかった険しい山道を走る軍用車両には黒いウサギのステッカーが貼られ。強靭なエンジンを積まれた角ばった車は凸凹な道を難なく走っていた。
シュヴァルツェア・ハーゼ。通称黒ウサギ隊。
ドイツの10機しかないISが3機も配備された特殊部隊であり、全員左目に疑似ハイパーセンサーにあたる、ISの適性を底上げするためにナノマシンを埋め込まれた。最強の名がつけられたが、一部出自が明らかにされてない者もいる曰くつきの部隊である。
「暇だな」
窓に映る、岩だらけの道の感想を運転席に座るクラリッサに黒ウサギ隊隊長であるラウラはそう呟く。
無人機のISコアの護送という任務を受けたが、特に問題なく、ISの操縦訓練をしたいと考えていたが、部隊長としての役目を果たさなければならない為、それは叶わない。
居眠りしてやろうかと考えたラウラだが、さすがにいつ敵が来るかも分からない状態であり、そもそも副隊長がいるクラリッサがいる手前、面子の為にも寝るわけにはいかない。
「暇だ」
「それなら、日本のしりとりという遊びでもしましょうか?今日の任務が終わらましたら、隊長はIS学園に転入されますし」
「転入か。ぜひとも教官にはドイツに戻って指導してもらいたいものだ」
「本人に言わない方がいいと思いますよそれ」
「何でだ?」
きょとんとした表情を浮かべる、ラウラにクラリッサは苦笑いをしつつ、蛍光の光がなければ暗いトンネルに車が近づいた為、車のライトをつけ。
ふと、クラリッサはラウラが宣戦布告をしたある少年を思い出す。
「ところで、エーアストさんとの戦いはいつにするのですか?」
「奴とは日本についたら教官の前で戦うつもりだ。まぁその前に連絡を取らねばな」
「何だか、嬉しそうですね隊長。妬いてしまいますよ?」
「ふっ……そうか?」
完璧なる兵器として生まれてきたが故に、強者との戦いに心躍るのか、薄暗い車内でも、はっきりと見えるほどの雪のように白い肌を持つラウラの口角は僅かに上がっていた。
二か月ほど、暇を見つけては訓練をし続けた結果少しは自信がついたのだろう。
多少なり、その訓練に参加していたクラリッサは勝負を目にすることが出来ないことを悔やんだが、自身には今後、隊長がいなくなった黒ウサギ隊を支える義務がある。
我儘を言っている暇はないのだ。
「ご武運を」
(まぁその間等身大隊長人形を作って、コスプレとかさせてたっぷり遊んでやるぞゲヘヘヘヘ……)
澄ました顔でクラリッサが妄想の世界に入っていること露知らず、ラウラは小さな可愛らしい欠伸を出す。
そんなやり取りをしながらトンネルを抜け、クラリッサが記憶している周辺の地図によると、10km近くは山と山に挟められた一本道で平坦な道しかない場所へ出る。
しかし、何もないはずの道に置かれた大量の長距離砲とその近くで今まさに発射しようと作業している人影を見たその直後、クラリッサは、ハンドルを右に切りつつラウラを庇う。
その瞬間大きな炸裂音と地震が起きたのかと錯覚するほどの揺れが二度起きた。
――――――――――――――――――――
「着弾確認。車両の炎上も確認。別班によるとトンネルも無事爆破完了し、黒ウサギ隊は完全に孤立されました」
「だ、そうだ。オータム」
「時間も場所も完璧。ドイツ軍のお偉いさんの情報は確かなようだぜハハハ!!」
ファントム・タスク。
反ISを掲げるが、毒をもって毒を制する柔軟な思考を持ち。
目的を遂行するのに必要であればISを躊躇いなく扱う、テロリストとして活動する組織の中でも段違いの力を持ち、その歴史も第二次世界大戦中に生み出されたと言われているが定かではない。
ただ、IS委員会が唯一警戒するテロ組織として世界中で争いを起こしているためか、ファントム・タスクの実働部隊。特にISを扱う者に至っては、練度が低いIS部隊では一人で壊滅出来るほどの戦闘能力を持つ。
その一人である女性、蜘蛛のような脚を持つアメリカの第二世代型のIS、アラクネを装着したファントム・タスク実働部隊所属する女性。オータムはハイパーセンサーを遠距離射撃モードに切り替えることにより見える、遠方に上がる黒い煙を確認し、勝ちを確信したかのような高らかな笑い声を上げた。
オータムの自信過剰と言えばそれまでだが、事実として現状追い込んでいるのはファントム・タスクだ。
トンネルを塞いだことにより、進めばアラクネを装着したオータムと、もう一人の実働部隊であるオータムと比べれば一回り体が小さいが、イタリアの量産型ISテンペスタⅡ型を装着したエムがいる。
そして、後退しようにも、トンネルを崩したことによって生じた瓦礫のせいで逃げるには時間がかかり、それはISや航空兵器以外は援軍に駆けつけるにも時間がかかるという意味にもなる。
だが、たどり着いたところで待つのは大量の長距離砲とミサイルだ。熟練されたIS操縦者以外はかわすことがシールドエネルギーで体が守られているとはいえ数の暴力に押され、被弾してしまえば即座に落ちる。
さらに地形までもファントム・タスクは味方につけた。
空気の逃げ場が出入り口しかないトンネルと車両の炎上。
これにより、トンネル内に煙が蔓延し、進まなければ体内の臓器等に酸素が十分に行き渡らなくなる症状、つまり一酸化炭素中毒になり死ぬ。
よほど腕が立つIS操縦者が超高速で長距離砲の雨を掻い潜り、オータムとエムを撃破しなければドイツ側が勝つことはない。
「よーし。トンネルに着く数分までの間は長距離砲のアシストを頼む。そのあとはケツを任せた。戦いが終わるまで誰も近づけさせるなよ」
「了解」
同志に簡単な指示だし、脚を機械ではあるが、生きている虫のようにカサカサと脚を動かしながらオータムは歩く。上半身は人型であるため、その様はまさにアラクネという名を名乗るに相応しい異様な姿だ。
「行くか。少しは手応えがあるといいが」
そして、エムも手を数回握り直し、ウィングスラスターを起動して、僅かに空を浮きつつオータムに続く。
戦闘の火花は今まさに下される。
―――――――――――――――――――
ドイツの黒ウサギ隊とファントム・タスク。
この両陣営をひっそりと観察している、もう一つの陣営があった。
しかし、陣営と言っても人数はたったの一人の少女で、戦場にいるというのに、その服装は白いブラウスと青いスカートという姿。
流れるような美しい銀髪を持つが、戦場に必要な練り上げられた筋肉を持った戦士というわけでもない、ただの華奢な少女だ。
もし戦うのであれば、あまりにも致命的だが、少女の目的は戦うことではない。
少女の名はクロエ・クロニクル。
遺伝子強化実験中に作り出され、失敗作の烙印を付けられた挙句捨てられた元実験体である。
そんなクロエの目的は無人機ISを黒ウサギ隊とファントム・タスクの争いのどさくさに紛れて奪還することだ。
(こんなの無理ですよ束様)
鳴り響く長距離砲の轟音と、地を揺るがす衝撃。
黒煙を延々と吐き続けるトンネルに向かう二機のIS。
望遠鏡から覗ける状況に対し、当人のやる気は皆無に近い。
捨てられ、今まさに廃棄されそうになった所を拾ってくれた束に絶対の忠誠の誓っているクロエだが、最低でもISが四機は飛び交うであろう中、もっとも意識を向けられるISコアを奪うのは至難というレベルではない。
出来ないものは出来ないのだ。
(私の能力で姿を誤魔化すとしても上手くいくかどうか……)
クロエの持つIS黒鍵は戦闘能力は皆無だが、大雑把に言えば、相手に幻影を見せる力がある。
例としては、対象者の目の前にまるで生きているかのようなライオンを生み出すことが出来るということだが、あくまでも幻影なのでショック死は狙えるかもしれないが、身体的ダメージはない為、ダメージを与えるには自身でナイフ等で攻撃するしかない。
ISの中でも異例中の異例の能力と運用方法だ。
だが、これは攻める場合の黒鍵の使い方であり、今のクロエには必要ない。
なので、黒鍵を身を守る為にクロエは使う。
クロエは、一般的な人間の目とあまりにもかけ離れている。
目の白い部分、所謂強膜と呼ばれる部分が黒く瞳孔が金色の、ISコアを体に埋め込まれた際に目が変色し異彩な色になったその両目を。
事情を知らない者に見られて時に奇異な目で見られることが嫌で普段は閉じている両目を開き、黒鍵をいつでも使えるように準備する。
見えないものが見せれる。逆に言えば見えるはずのものを見えなくすることも出来るということになる。
本来見えるはずの体を、黒鍵を使うことで周りの風景を幻影として見せることで、透明人間のように体を隠すことも出来るのだ。
しかし、気配は消せるわけではないので、もっと周りを気にする余裕がないような混乱とした戦場がクロエには好ましい。
(色々と策がいりますね。一先ず黒ウサギ隊が早々にやられないように救援要請を出しておきましょう)
クロエはナイフを手に、再度望遠鏡を覗きこむ。
(ラウラ・ボーデヴィッヒ……)
クロエの持つ情報の中では妹と言っていいのか、それとも実験仲間と言うべきか、はたまた嫉妬すべき対象なのか。
自身とは違い一度は完成された存在であるラウラに対し、クロエは一言では言い表せない感情が湧きあがる。
ただ、今のクロエがやるべきことはISコアの奪還。
そして、主である束の望みを叶えることだけだ。
Q:黒鍵について
A:私もよく分から(ry相手の脳に毒電波を発信しているのか、それとも目にナニカしているのか、はたまた空間にナニカしているのか、空気中の物質でナニカしているのか、よく私自身が理解していませんがとりあえず幻影見せているといった感じでいいと思いました。ハイ。