IS×AC<天敵と呼ばれた傭兵>   作:サボり王 ニート

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お久しぶりです、遅くてすみません。
相変わらずのIS要素の少なさ。
そして、糞回です。


29 這い寄る戦火と少女の答え

広く機械に埋め尽くされた白い部屋がいくつもある建物を慌ただしく走り回る白衣の男女達。手に持つ端末を睨みつつ、誰もがあるデータを眺めていた。

ここは国際IS委員会が有する世界最先端の設備が整うIS技術研究所。ISはもちろん生身でIS操縦する人の為にも医療や人体に関する研究も進めている場所だ。

IS委員会がコアの所在を把握している物の大半は一度この研究所内で一通り、安全性を確かめ。その後各国との話し合いを経て決められた国へと送られる。

つまり、大体のISのデータを研究所は持っており、この情報はIS関する兵器等の開発に大きなアドバンテージを持っていることにもなる。

だが、国際機関である関係上、対立する組織がまず無い為、膨大な資金を持って試行錯誤を繰り返し、安定した技術の進歩はあるものの、どこか必死さが欠けているため生活を賭けてしのぎを削る資本主義の会社たちに比べたら革新的な技術は偶然でもない限りは開発できない欠点がある。

そんなところだが、先日突如舞い込んだ素材に、彼らの技術屋としての熱が戻った。

 

「ISコアの反応がなし?どうなってるんだこれは!?」

「知るか!ISが元から異常なのは分かっているだろうが!それよりもあの少年、体内の半分が機械で出来てる上に筋肉組織、骨格の出来が遺伝子強化された連中とは比較にならん。その上、未知のナノマシンを体内に保有しているぞ!」

「そして、何より。この細胞にある謎の粒子……重金属と放射性の毒性を持ち、粒子にしては膨大エネルギーを放出している。もしこれが大量に扱えるようになれば……いや、この強力な毒性と除去が非常に難しい粒子という特性上、下手に扱えば人類は地球からおさらばだな」

「まったくだ。それにしてもあの少年。あと十年は持たんな。しかも遺伝子がその粒子によって徹底的に傷つけられている。将来子供が出来ても……女の身としては顔は良くても付き合いきれんな」

「何をしたかは知らんがそれはあの少年の自業自得だ。それに不憫に思って粒子を採取しようにも、すでに手遅れだ。出来ても我々の今の技術では良くて一割除去出来るかどうかという所だ。本当に何者なんだ?我々の常識を遥かに超越している」

「常識といえば……写真で送られてきた少年の傷見たか?」

「あぁ、間違いなく即死レベルの傷跡だった。しかも、真っ二つに裂かれたかのような物だ。それなのに傷跡のすぐ下にある、神経、筋肉、骨どれも正常だ。異常だ!世界中の天才外科医が集まったところで助かるはずがない!」

「気味が悪い。だが、科学者としては非常に興味深い――」

 

話をしていた男は当然喉を抑え込みながら咳き込み、額ににじみ出る汗を拭う。

 

「ど、どうした?」

「風邪か?驚くことばかりで最近妙に疲れがな」

 

そう言った男の腕には赤い湿疹が浮かび上がっていた。

 

――――――――――――――――

 

デュノア社倒産。

経営の悪化が噂されていたとはいえ、ラファール・リヴァイブという一つの成果を世界に残した会社の倒産を知らせる突然の速報だったが、これに世界は沈黙で返した。

理由はフランスの第二位として居座っていた会社にリヴァイブに関するパーツや武装といった全権利をデュノア社が譲渡したことにある。

デュノア社にはリヴァイブ以外の価値はないと証明していると同じだが、ただでさえ一般人が触れる機会が皆無であるISの会社が一社倒れた所で生活が激変するわけではないので然したる影響はないのである。

挙句物が物の上に、そこまで大量生産する必要性が無いISの会社に末端という字がないので路頭に彷徨う人もまったくおらず。

静かすぎて寧ろ不気味だと経済に関わる者にはそう感じさせるほどに、デュノア社は競争から落ちた。

 

「倒産……」

 

朝食時にエースから届いた新聞を読めと書かれていたメールを見たシャルロットは、都市より少し離れた島と言う外界から離れた立地、そして他国に籍を置く人間が少なからずいるというIS学園の環境上。

自国の近況を知る為に、毎日あらゆる国の新聞や雑誌と言った情報媒体を多様な機能を持つ携帯がある現代に大した意味を成すかどうかは別として食堂に置かれている。

シャルロットは普段は人気のない新聞紙を手に取り、軍では主に国産の打鉄を利用している日本の為か新聞にこっそりと記事が載った程度だが、間違いなくデュノア社倒産と書かれている記事にシャルロットは少なからず衝撃を受けていた。

 

「新聞読んでいるなんて珍しいな。何か書いてあるのか……シャルルこれ!」

 

新聞の内容に興味を持った一夏はごく自然にシャルロットの手に持つ記事を読み、事の意味を理解した上で深刻そうな顔を浮かべ。

一夏が何か言い出す前にシャルロットは弁明の意を込めて口を開くが、三人目の男子として注目の的である彼女の言葉を聞き逃す難聴な女子はいなかった。

 

「デュノア社倒産だってさ。あはは……ハッ!」

「「「シャルル君!!」」」

 

突如として集まる視線にシャルロットは冷や汗をだらだらと出しながら、押し寄せる女子の壁に対応しつつ、一人の男を脳裏に考えていた。

 

(エースはどこにいるんだろう?メールを送れてるということは無事なんだろうけど)

 

エースはフランスより帰還し、シャルロットの選択を聞き届けた後すぐ、IS学園より突如姿を消した。

自室の扉に張られた、I’ll be backと書かれたメモを残して。

戻ってくると書かれているはずだが、IS学園や都市周辺をIS学園生徒は無断でISを使う暴挙に出てまでエースを探し回ったが見つからず、千冬の一喝で今後エースが戻ってくるまで、エースに関する話題を一切持ち出すことを禁じ、場は治められた。

だが、喧嘩別れという現状である一夏を含む誰もがエースの行先を考え今も密かに探し続けている。

シャルロットは自身の命を握ってはいるが自身の身を庇ってくれた恩人が何も問題なく過ごせているのかただ心配している。

それだけしかシャルロットに出来ることはないからだ。

 

――――――――――――――――――――――――

 

二人の男一つの部屋にいた。

一人の男は清潔でしわのない黒いスーツを着用し、顔はマスクとサングラスで隠されている。

もう一人の男は細い針を何度も刺されたかのような後を残す両腕と両足首を特殊ファイバーロープで椅子に縛られ、その下には男の物の糞尿がたれ流され、それが椅子以外何もない部屋に悪臭をばら撒いていた。

これだけでも十分悪環境だということが明らかだが、拘束された男の厄は終わらない。

黒服の男が先端に鋭利な棘が付いた警棒、メイスに似て非なるそれを、拘束された男の頭に勢いよく振り下ろされ、腕で防ぐことも出来ない男に直撃する。

脳に響く衝撃に拘束された男の視界がぼやけ、棘によって開けられた穴から血が流れる。

だが、男は悲鳴を上げることも、呻き声一つ出すことなく、むしろ殴った男を煽るかのように鼻を鳴らす。

その態度に男は再び殴られたがそれでもなお、男は余裕の笑みを浮かべ返す。

 

「臭い部屋ですね」

 

室内に男ではなく、女の声が響いた。

声の主は仕事と結婚したと言いかねない、いつも凛とした顔を保ったまま微動だにしない。

エースの上司であるマリーだ。

しかし、マリーは悪臭に顔を顰めて鼻を摘み。拘束されているエースに鼻声で、それ以上評価しようのない部屋の惨状を淡々と告げた。

 

「三日も放置プレイされたんだ糞の臭いくらい勘弁してくれよ」

「臭いものは臭いです。さて、自首されてからその丸三日……水も食事もなし。色々と罰を与えているはずなのに根を一つも上げない。少年にしては出来過ぎてませんか?死んでもおかしくありませんよ」

「傭兵は体が頑丈なのは取り柄でしてね。お前が来たということは何かあったと思ってもいいか?」

「えぇ。その前に何故捕まっているか分かりますね?」

「さぁな」

「やりなさい」

 

マリーの指示に黒服の男は再び警棒を振り下ろし、エースの頭にまた傷口を作り上げる。

だが、どれだけ痛み付けられた所で、人体が切断されない限りは強化人間の並外れた治癒能力が勝手に傷を治してしまう強靭な肉体と決して折れることのない精神を持つエースには罰を持って恐怖を抱かせるには役不足過ぎた。

頭が衝撃で揺れて赤い血が流れる様子をマリーは確かに見たが、エースからは呻き声ではなく呆れているかのようなため息が出た。

 

「冗談を一々真に受けてたらストレス溜まらないか?」

「適度に発散しているのでご心配なく」

「そりゃよかった。ヒステリックを起こされたら適わんからな」

「もし私がそうなる時があるとすれば……それは私がエーアストさんを本当に怖くなったときでしょう」

「殴るように指示しておいて良く言う」

「おそらく、今でしか私はあなたを殴れないでしょうから、先にやっただけです。一方的にというのは好きではありませんので」

「気持ちは分からんでもないが苦労しないかそれ?」

 

マリーの話にエースは僅かに口角をあげたが、それも面白いというよりかは呆れからくる物だ。

血が流れたあとの痒みを拭いたくても拭えないもどかしさを欠伸でごまかし、マリーの言葉を待つ。

そんなエースの態度と悪臭からマリーは一つ咳払いを、ハンカチで口と鼻を覆い、エースの首に付けられている黒い首輪へと変化しているACを指差しながら話し始めた。

 

「念のため特殊ファイバーロープで縛っているとはいえ何をやっても取れないISモドキは未だ貴方の首にある。出ようと思えば出れるのになぜ罰を甘受するのです?この数日、貴方の体とISを調べに来た最先端の設備と技術と知能を持つ研究者達が阿鼻叫喚でしたよ。体の半分が機械の人間とISコアがないISを見たことない……と。あと研究員の方が貴方の血液を調べてる際にアレルギーのような反応を出したそうで」

「アレルギー……私のナノマシンだな。あれはちょっとした仕組みがあって、私以外の者の体内に入れば、軽い拒絶反応を起こす。まぁ私以外の体内では増殖はしないから少し熱が出るだけだ。ところで、ほんの少しでも体内に入れば拒絶反応が起きるとはいえ、血液からの感染以外あり得ないのだが、そんな初歩的なミスをする無能なら解雇すればいいんじゃないか?表向きは国から金貰って成り立つ組織なんだ。人様の金は無駄遣いするもんじゃないぞ」

「そういう訳にはいかないのですよ。無能はいますが、中には使える人もいますし、例え無駄だとしても消費させねば金は留まる一方で経済的にも……さて、話が逸れましたね。申し訳ありません。再度聞きますがなぜ逃げないのです?。あと貴方は何者です?」

「私は傭兵さ。そして、たかが一組織の傭兵もとい犬が許可なくISを使用し、勝手に名のある会社を買収し潰した。ただでさえ、色々と目を瞑ってやってるにも関わらず挙句何を考え始めたのか起業した。そんな者には罰を与えねば。こんなところだろ?まぁ罰を受けても仕方ないとは自負している」

「落とし前をつけると?」

「そういうことだな。まぁ乱暴に注射刺されて殴られたりするだけで終わって万々歳だ。もっとキツイのが来ると思っていたが私に恐れをなしたな?」

「その割には、IS学園に国際指名手配人として知られる前に出頭し。まるで、自分を飼い慣らすことは出来ないとでも伝える為に、あえて今まで隠していた事を晒したかのように私は捉えましたが何か狙いでも?」

 

そう言いながら、静かに睨み付けてくるマリーを血に塗れた顔でエースもマリーやその場にたまたまいるだけに過ぎない、警棒を持つ黒服の男すらも怖気させるほどの強い眼光でエースは睨み返す。

戸籍では十代半ばに過ぎない。だが、最先端技術で解析したとしてもまったくもって正体不明という肩書きが付いたことよってそんな先入観を打ち消す所か、その先入観や異質さによって余計に恐怖を助長させた。

 

(まぁそう思われても仕方がないが、すでに手遅れだ。にごり水はすでに広がり始めている)

 

しかし、そんなエースの内心にはゆとりが合った。

エースの目的に近づく為の言うなれば一次移行をすでに終えて、自身の異質さがIS委員会に露呈するのは寧ろ好都合な展開へと変わっている。

巨大な組織におけるもっとも恐れるべきは組織を運営するにあたっての予測外の出来事。所謂イレギュラーだ。

そしてイレギュラーが発生した際に、組織はそれを無視することはできない。イレギュラーは時限爆弾のようなもので、無視することなぞ出来はしない。

ただの爆弾ならば処分すればいいのだが、強力な武器になると証明している核のような爆弾となれば組織が取る行動は二つに一つ。

徹底的な排除か特別枠として厳重な倉庫に仕舞い込むかそのどちらしかあり得はしない。

 

「睨むなよ。どうせ遅かれ早かれいつかはばれたんだ。深い意味はない。で、再度聞くが用件は?」

「……お話をして頂きます」

「へぇ、誰と?」

「国際IS委員会の最高議会に所属する議員を束ねる議長です」

「…………」

 

エースは静かに驚いていた。

何かあるかとは考えていたが、いきなりトップが出るとはまったくもって想像をしていなかった。

せっかくの脅しが無駄にならないようにエースは顔の筋肉を固定し、マリーが持つ小さな端末から放たれた光が拡散され。

それによって浮かび上がるように空中に投影されたスクリーンの画面に映る仮面を被り、体格からして男性としか断定できない議長らしき人物を視界に捉え、エースは眉間に皺を寄せた。

 

「まずは初めましてだね。傭兵エーアスト・アレス君」

 

そう言った議長の声は変声機特有の無機質な声になっていた。

僅かでも情報をエースには得られたくないのだろう。

身を守る手段としては、ごくごく自然な行為だ。

だからこそ、エースは敢えて煽る。

 

「初めましてだぁ?そのふざけた仮面と変声機を外してからほざきやがれ腑抜けが」

「貴様!議長にぶれ――」

「黙れよ貴様」

 

エースの口を閉ざすべく、警棒を振り上げ始めた黒服の男をエースは一睨みで封殺。

しかし、それだけでは三日間散々嬲られてきたエースの個人的な怒りが収まらない。

僅かに動くつま先を使い、並外れた跳躍力で全身を四肢を拘束する椅子ごとタックルを喰らわせ。

空中で黒服の男の腹に膝がのしかかる状態になるようバランスを整えエースは着地。そして、タックルで怯んだ黒服の喉を頭突き、喉を潰す。

確実に死なない程度に力を弱めているとはいえ、喉の軟骨が折れるほどの衝撃は間違いなく致命傷に匹敵する。

喉を抑えて声にならない悲鳴を潰された喉で必死に出そうとする黒服の男を尻目にエースは肘で器用に起き上がり。

再び議長を強く睨みつける。

 

「血気が良いね」

「ビビッて媚び売り始めたゴキブリ野郎の戯言を聞き入れてやるんだ感謝して欲しいね。それより、貴様本当にIS委員会の議長か?少し若い気がするが」

「本物だよ?そして僕個人としては真摯に仲良くしていきたいとは思ってるんだよ?」

「抜かせ」

「まぁまぁ。君の仕事ぶりは感心しているし。今後もISという商売道具を消そうなんてつまらん人間達を排除してくれるなら君を最高議会の一員に是非とも加わってもらいたい。と思ってるよ」

「おやおや、甘くないか?私に」

「甘いんじゃない。怖いんだよ君が」

 

一切の他意なく純粋にただ自身の感情を呟く議長に対し、エースは少しばかり思考していた。

まずは会話する男が本物の最高議会の議長なのかどうか。

これに、エースはYESと自己回答した。

何故なら元いた世界の支配者たる老人達の存在のせいで、エースには長く続く組織の支配者は老人のイメージが強い。

それと同時に、エースはもう一つあるイメージを抱いている。

立ち上げて間もない組織の支配者は長く続く組織に比べ年齢が若いということだ。

IS委員会設立当時こそは国家間のパワーバランス崩壊を避けるための緊急措置として国や大企業の老人達が支配していたかもしれないが、ISの性能を全世界に知れ渡って約10年。

兵器分野として未開拓の土壌であるISを運よく開拓できた一部の若い者たちが起業した会社が、古くからある企業を差し置き、急成長を遂げ。

僅か10年で世界有数の大企業になり、命綱であるISが生きやすい世界へと変えるために老人達を蹴落としても当然ではないだろうが、可笑しくはないはずだからだ。

 

「当然だろうな。つい最近まではコントロール出来るかとか思っていただろう?その証拠に更識に私の監視を任せすぎた。はっきり言って今回の行動はあの小娘さえ抑えれば楽だった」

「確かに。僕達は君を甘く見すぎていたね……」

「まぁこれ以上増やされても困りもんだがな」

 

ちらりとエースはマリーに視線を移し、もしIS学園に戻れた時にマリーが四六時中監視としてそばにいるという状況を想像し。

あまりの自由のなさに僅かに頭を痛めた。

 

「所でエーアスト君、フランスいや、正確に言えば世界中の至る所に玩具屋を起業したようだけど何でだい?」

「私は面白い事が好きだ貴様は?」

「もちろん僕も大好きさ、面白いことがなければ人生なんて無駄無駄。とまぁ、その話はさておき。世界中に起業するなんて、うまいこと尻尾を隠してくれたね」

「そうでなければ無駄に起業した意味がない。で、そんな下らんことを言いたいわけではないのだろう?」

「そうだね。君に関すると思われる企業は発見次第潰させてもらうとして……親睦を兼ねて少しお話をしよう。僕はアイザック・アンダーグラウンドと呼んでくれ。ISを調べ上げ、月や火星。いや、それだけじゃない。未知なる星という新たな舞台へと人類を進出させる組織IS委員会の最高議員の議長だよ」

「で、その為に今。何をしている訳かね?」

「あちこちに起きる紛争、戦争、勝負。名前は何でもいい、とにかく戦闘データをかき集め。篠ノ之博士ではなく僕達のように大義を持つ組織が擬似ISコアを生み出す」

「擬似か」

「そうだよ。人類が生み出す物なんぞ所詮天才が生み出すオリジナルと凡人達のコピーの歴史。実を結ぶか分からない完全なるオリジナルなんて物は篠ノ之博士のような本物の天才が勝手にやればいい。凡人は巨大なる組織を成し、天才を模倣しながら少しずつ進み、数多の足で先行く天才を踏みにじる。凡人は天才には絶対に勝てない。だが、天才は凡人達には絶対に勝てない。それが必然だ」

「随分な物言いだな。その根拠は?」

「さっき生み出すといったけど、正確には僕達はすでに擬似ISコアを建造中で、あと半年以内には完成する」

「何だと!?」

「議長!それは最高議員と一部の職員にしかっ……」

 

慌てて口を塞いだマリーの姿に、エースは議長の言葉が真実である可能性が高いと考え、そして自身の想定を遥かに上回った衝撃をエースは歯で砕き。ただ冷静に脳を回す。

 

(建造?なぜわざわざ言い直した……)

 

生産ではなく、建造といったアイザックの言葉が妙に引っかかったのだ。

建造という言葉は何か大きなものを建物などを作り上げるときに使う言葉で、拳大サイズのISコアに対して使うものではないはずだからだ。

情報を引き出すための単語を脳から引きずり出し、エースは言葉を作り上げる。

 

「ISコアは篠ノ乃博士にしか生み出せないと聞いたが」

「議長。これ以上は私達の損失になると考えます。この談義の中止を進言します」

「談義?違うなこれは談話だよマリー・エバン君。僕はエーアスト君と楽しく会話をしたいだけさ」

 

マリーは投影された議長の像の正面に立ち、どこか緊張しているかのような声音で訴えかけるが、それに対し議長は冷やかな声で返した。

そしてその言葉の意味をエースは瞬時に理解し、その助け舟に乗るのが癪ではあるものの、疑似ISコアという世界のパワーバランスの崩壊を招きかねない議長の言葉に人類の平穏。

戦争もなく、ただ安寧で秩序ある人類の進歩を第一と考えるエースはその船に乗る。

だが、それは正しくもあり、間違った選択だった。

 

「その通りだ。私も仲良くしたいと考える友と楽しく会話しているだけだ」

 

心にも思ってないことを口に出した途端、マリーに最大限の非難と侮蔑を込められた視線をエースは浴びるが、すでに興味は議長の話にある。

しかし、この話をただの金の為だけに動くと認識されているはずのエースに話すのは明らかに可笑しいとは理解している。

これは罠だ。

エースにIS委員会を敵に回すテロリズムの精神が宿っているかどうかを引き出すための罠。

これから手の平を踊らされるのは議長ではなく、エースのようだ。

 

「そういうことだよ。一先ずエーアスト君の質問に対しての答えはこうだね。あくまでも疑似。似て非なるものさオリジナルじゃぁないよ」

「コアの解析はどうやったんだ。完全なブラックボックスのはずだが?」

「10年だよ?だけどその10年で世界は女尊男卑の世界へと変わり、10年で僕達人類は大きく技術を躍進した。コアの開発も僅かながら進んでいるさ。まぁそれでも完ぺきではないからシールドエネルギーも量子化もないが。宣言しよう。擬似ISコアが出来れば防衛に限っての話だがオリジナルISコアを使用したIS全機と戦っても勝てる」

「私の職を奪う気か?」

「大丈夫だよ勝率は五分以下だけど。虚栄でも凡人を束ねる凡人は大きく見せなきゃ。それに君がこっちの陣営に入ってくれれば勝率は跳ね上がるはずだ」

「その時はぜひともご贔屓に。で、一IS乗りとして質問だが、疑似ISコアとやらの発電と制御システムは?」

「傭兵君はどうやら疑似ISコアがとても気になるようだね。だけど……教えると思うかい?」

「何、興味本位だよ。仕事のライバルになるかもしれん」

 

内心舌打ちをするが、エースには疑似ISコアのぼんやりとしたイメージを掴み、冷や汗をかく。

そのイメージは普通の人間ならばまずは思い浮かばないだろう。

アームズフォートというゲテモノというべき兵器を相対したエースを除いて。

イメージの元は、アームズフォートという凶悪な兵器の中でも、特に歪な兵器。

その名はソルディオス・オービット。これをISに置き換えた姿だった。

 

「続きを聞けるかどうかは君の働き次第だよエーアスト君。あぁ、一つだけ言って置こう。凡人達に寄り添える天才」

「何だそれは?」

「期待しているよ。まったくもって正体不明な傭兵君」

「…………」

 

言葉の意味を理解できず、脳を動かすエースだが、答えは見当たらず、戯言として一先ず片付けた。

目の前に、不機嫌そうに眉間に皺を寄せるマリーがいたからだ。

 

「個人的な感情としてましては非常に不服ですが。ミッションを説明します。依頼主は我々IS委員会と、ドイツ陸軍大将ロルフ・シュタイベルト氏。よって拒否は認められません。場所はドイツとオーストリア国境付近にある山脈の麓。先日エーアストさんが撃墜、確保した無人機のコアを最寄のIS委員会支部まで運送中のシュヴァルツェ・ハーゼこと通称黒ウサギ隊がファントムタスクの待ち伏せに合い、多数の戦闘ヘリと山という立地。そして多数設置された旧式の長距離砲、地対空、地対地ミサイル車両によって進路退路ともに断たれ、反IS組織のなかでは格段に練度が高いファントムタスク実働部隊と今現在交戦中とのことです。依頼内容は無人機のISコアの確保そしてファントムタスクの撃破。可能であれば黒ウサギ部隊の救援です。今後、研究用に我々が管理する未登録の無人機ISコアを無くすのは我々IS委員会に多大な損害が出るとの考えの下、生半可な実力を持つ者では長距離砲に撃墜されかねません。そして撃墜されれば、今後も完璧なる兵器でなければならないISに汚名を与えることにもなります。そこで、完璧に依頼をこなせると議長含む最高議員の方々が懲罰対象である貴方を信用し指名しました。くれぐれも期待に裏切らないように」

「……長距離砲の射程と数は?」

「多種あり。スペック上では約20から60kmの物が40以上確認されました」

(威力や精度は別として単純な数だけならばマザーウィルより少し下回る程度か……ここは一つ、IS委員会にサプライズを用意するか)

「思ってたよりも難儀だな。というより何でそんな要塞もどきが出来上がるまで発見されなかったんだ」

「そうですね……ドイツは少々きな臭い所があります。依頼主のシュタイベルト氏も相当焦っているようでした」

「野暮なことを聞いたな。ここはIS委員会フランス支部だから……ドイツは近いが、まずは鍵を外してくれ。あとシャワーを借りるぞ」

「臭いので嫌です」

「そうかい」

 

そう言いながらエースは手首に力を込めて、糞尿を擦り付け僅かだが劣化させ、椅子で眠らず、殴られた時でも永遠とこすり続けたことにより痛んだ特殊ファイバーロープを自力で引きちぎり、足の拘束を解く。

人間の力ではまず外せないはずのファイバーロープを簡単に外して見せたエースに驚きを隠せないマリーをしっかりと視線に捉えながらエースは立ち上がる。

 

「この程度で臭いのなら、長期作戦終了後の狙撃手には近づかない方がいい」

「参考までに何故です?」

「それ以外の匂いすべてが良く感じる」

 

マリーの目の前でエースは深く呼吸し、常人なら嗚咽するはずの空気でも顔色一つ変えずに、むしろ勝ち誇るような顔をしながら、部屋を出て行った。

 

―――――――――――――――――――――

 

シャワーの温水で糞尿で汚れた服を備え付けられたボディソープでガシガシと手洗いをし、一通り体にも温水を浴びつつ。

取り押さえられた携帯を使い、幸いにも日本では放課後にあたる午後17時である事を確認した後シャルロットの携帯へ電話を掛ける。

エースのフランスでのミッションはまだ終わってはいない。

 

「突然で悪いなデュノア」

「エ、エース!今まで何してたの?皆毎日探して……」

「戻ってくると書いておいたけどな。まぁいい。さて、君の依頼に対する返答をさせて貰おう」

 

シャルロットがエースの奴隷のような扱いを受けてでも構わないという覚悟で依頼した内容は、シャルロットという少女の身の上に関するすることだ。

M500の銃口を突きつけながら脅す勢いでフランソワとネリスから引き出した情報を淡々と告げる。

 

「まず、デュノア社はお前が生まれる数年前は倒産寸前だったそうだ。そして、デュノア社を建て直すために急用な金が必要で、ネリスはデュノア社の大きな取引先の娘で、会って一目ぼれしたようだ。そして後にデュノア社に金が入った。意味は分かるな?当時結婚を考えていたお前の母を諦めるざる終えないほどの金がデュノア社に入った。まぁ畳んでしまえば会社に属する人間は路頭に迷い、自身は多額の負債を抱えていただろうな」

「やっぱりお金なんだ……」

「まぁここからは色々と汚い話でな。金の為に結婚を考えていたお前の母を振り、ネリスと結ばれたフランソワだが、真に愛する女性との関係を断ち切れなかった。その結果の愛人そして妊娠だ。まぁこういえば全部フランソワが悪いように聞こえるが、一概にそうとも限らん」

「どういうことですか?」

「先に宣言する。個人的な感情は多少あるが客観的に判断したうえで話させて貰おう……愛人なんていうが、所詮は不倫。結婚していながらも他の女を求める男も、結婚しているにも関わらず男を求める女。どっちもどっちで両成敗だ」

「なっ!?僕のお母さんを悪く言うのはやめてください!!」

「では言わせてもらうが、デュノア。今まで一度でも金銭に困ったことはあるか?」

「…………」

「国や場所によっては変わるが、論理的には金を受け取った時点でそれは罪だ。しかも、感情論なんて面倒な事は無視すれば、ネリスの方が被害者だと言われかねんぞ」

「何でですか!?僕はネリスに今まで暴言も受けた暴力も――」

「まぁそこは確かにネリスが悪い。その主張は間違ってはいない。だが、一つ聞くがお前織斑をどう思う?」

「え?」

 

シャルロットの反論を聞きいれる前に、エースはぴしゃりと遮るような強い口調で言葉を出し、気の抜けた声を出したシャルロットの返答を待つ。

そして、数秒間が空いたがシャルロットからしどろもどろな声が返ってくる。

 

「それは……その~どういう意味で?」

「私とは違って優しく、温もりのあるだろう?いや、簡単に言えばあいつだったら付き合ってみたいなとか考えただろう?もし、家のことを話あの日、私がいなければ傷心を快楽で忘れたかったとかも考えみたか?」

「ちょちょちょっと待って!待ってください!!話が跳躍しすぎて……でも僕、もし機会があれば一夏ともった仲良くしたいなーなんて……」

 

表情がすぐにでも思い浮かべそうなほど取り乱された声が携帯から鳴り響く。

それに可愛さを感じる人間がいるかもしれないが、エースはそれを笑いもせず、ただ頭に花を咲かせているであろうシャルロットに対し、絶対零度の寒さを少女の温かき花園に与える。

 

「あいつはな、実はIS学園の生徒ではないがすでに彼女がいて。一度会ってみたが、あの二人。私がいながらも人目はばからずベタベタしてやがったぞ」

「えっ……」

 

瞬間、ショックで息が詰まったであろうシャルロットの声を聞き、ようやく今の今までの会話に一切笑うべき所も心浮かせるような場所が何一つとしてないことをシャルロットは理解したとエースは察し。

電話を切られる前に種を明かす。

 

「まぁ嘘だがな」

「……意地悪ですね」

 

シャルロットの声は先ほどとはうって変わり、生気の感じられないひどくしおれた声に変わっていた。

自らの思い人を明かしているようなものだが、煽ることもなくエースは何も変わらず、淡々と話を続ける。

嘲笑うことも、怒るわけでも、失望したわけでもないその口調は、ある意味エースとの会話の中で一番傷付いたシャルロットにとっては救いなのかもしれない。

 

「あぁ意地悪だからな私は。で、再度質問だ。デュノア君?今の話を聞いてどう思ったかね?」

「……すごく、とっても嫌でした」

 

僅かに怒りすらにじみ出る声に、エースは頷く。

散々言葉による暴力で痛めつけてきたが、それでも折れない。

寧ろ、しっかりと言葉の意味を理解し、受け入れることの出来るしたたかさを持つシャルロットに後の事を任せても、問題はないとエースは確信した。

 

「では最後に質問だ。愛する者が他の女と娘をいつまで経ってもずるずると引きずり、振り向いてすら貰えないある女がいる。すごく嫌な思いをしたお前はある女をどう思う?」

「……哀れ。そう思いました」

「そうか……ならば、それがお前の答えだろうな」

「はい」

 

確かな意思を感じる声を聞き届け、エースは大きな欠伸を出し、こけ脅しを黙ったまま育てれば、良い右腕になったかもしれない少女に最後の種明かしをすることに決めた。

 

「結局の所、どう思いどう感じどう答えを見つけるかは当人しか出来やしない。ただ、言うとすればシャルロット・デュノアが生まれるまでの状況をすべて理解したうえで、今後の処遇について私に委ねる。というミッションは失敗だ。私には身を売ることで社員達を助け挙句、不倫関係を結んだフランソワ。献身に夫と夫の会社を第一に尽くしながらも嫉妬で暴力を振るう女。金で動く男との関係を断ち切ればいいのに、不倫を続け金を受け取った女。全員悪い気がするし、全員悪くもない気がするから判断しかねた。そこで、失敗の詫びに、フランス行きのチケットを用意した。あの二人をどう扱うかは夏休みを使い、お前らが話し合って選べ。もう私を面倒な家庭事情に巻き込むな」

「……あの模擬選の時、全然容赦なかった割には投げやりですね」

「心というのは本当に面倒だからな。あぁ、もう一つ詫びに良いこと教えてやろう。先日のナノマシン云々あれだが、あれは全部嘘だ。金もないし、そもそもそんな危険なもの私個人に譲るわけがないしな。傑作だったぞお前の無駄な覚悟を決めた顔は」

「えぇ!?」

「もう一度言う。お前が選べ。以上だ切るぞ」

 

電話を切り、濡れた体をタオルで拭いながらエースは踵を返す。

 

(思った以上に時間は残されてはいない。状況も俺が戦える時間も……)

 

携帯を持つエースの左手が、無意識であるにも関わらずかすかに揺れる。

例え今扱う機体が無害化されたコジマ粒子だとしても、体内にすでに存在する人類を壊死させるまでに追い込んだコジマ粒子は今なお肉体を傷付け。

そうでなくてもAMSを使う以上、脳は酷使され、寿命は削り続ける。

彼の戦いは乗るだけならばリスクを負わないISに操縦者に比べればただの自殺志願者の馬鹿と言われても仕方のない領域にある。

それでも走り続ける彼を誰にも止めることは出来はしない。

触れれば最後、その地獄の業火に焼き消されるだけなのだから。

 




Q:首輪付きの体内について
A:第一話のWG戦闘の際に負った怪我が完治+体を小さくした状態なので、元から体内に存在する有毒のコジマについては絶賛活動中。なので転生とは少し違う感じです。
無害化についてはクロスするうえで毒性が厄介だから消しま(ry
Q:疑似ISコアについて
A:こいつはACVDでいうタワー、ACFAでいうクレイドル、ACLRでいうインターネサイン、AC3でいう管理者、AC2でいうフォボス、ACでいうレイヴンズネスト的なこの糞ったれ二次創作物におけるキーとなる建築物として扱います。

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