生きねばということで、今年の夏はデモンズソウルをやりまぁす。
堂々とした姿勢でエースは、一部編集を加えた監視カメラのデータをモニターに流しつつ簡潔に取引の内容を話す。
そしてエースは一夏のデータが入っているディスクが入ったケースを手に取り、一部のフランス政府関係者の人にチラつかせる。
一部の者とは勿論エースの存在を認知して尚且つシャルロットの件を知っている者だ。
連絡先は、シャルロットの件でフランソワを脅し、探し出そうとしていたエースだったが、物資補給等の依頼を受けた際に、偶然フランスの防衛省からの依頼を受け取りそこから探し出した。
だが、いきなり会って話そうと言っても応じる訳がないため、エースはさっそく最強のカードである。
交渉に応じなければシャルロットの件を公表すると脅迫し、IS委員会に一切の連絡をしないことを約束させ、全員招集した。
しかし全員とは言えども、そもそもエースが男であることを知る人間は世界中でも限りなく少ないため、華美な会議室にいるのはエースとすでに初老と言っていい男が五人だけだ。
「お初にお目にかかる。エーアスト・アレスと申し……まぁ、言わなくても知られているか」
「当然だ。まったく不愉快極まりない」
「君の様な野蛮な人間には分からんだろうが、私達にも予定と言うのがあるのだよ。非常識にもほどがある」
(人を弄んでおいて常識を語るとは……)
さっそく不穏になりつつある空気にエースは僅かに青筋を立てながらも、感情が露呈しないように笑顔を作り、手に持つケースに僅かに力を込めて、ケースにひびを入れる。
その途端、老人達の話はピタリと止む。
それだけディスクが貴重なものであり、少なくともディスクが手の内にある限りはエースは有利であるという証拠でもある。
しかし、老人達も経験を積んでいる。
今ここで引いてしまっては弱みを見せることになることを理解している。
あくまでも強気であることを崩さない。
「まぁまぁ落ち着いて。私は別に喧嘩を売りつけに来たわけじゃない。お互い仲良くしようじゃないか」
「そのディスクをさっさと渡してくれれば考えてやろう。それはデータ奪取のミッションでIS学園に訪れた際に偶然、知り合ったシャルロット・デュノアと共に盗った物だと君は言う。ならそれを所有する権利はこちらにもあるはずだ」
「それに、ここに集まっただけでもこちらは君に誠意を見せたつもりだが?」
「なら、デュノア社の買収許可。そしてシャルロット・デュノアの対処を私に譲ってくれるかね?こちらもそれなりに身を削るんだ認めてはくれんかね」
「デュノア社はともかく、シャルロット・デュノアは我が国の将来有望な代表候補生だ。そうやすやすと部外者に委ねるわけにはいかんそれにそもそも君は彼女とまったく関係がない」
「それに君はいいが、ターゲットの織斑一夏が今回の件を話さないとは限らない。寧ろ君が手を引き私達に任せるべきだ。IS技術者が抜けて私達にとって利用価値が無くなったデュノア社は無償で渡す。金は私達フランスから出そう。代わりに、そのディスクの譲渡とシャルロット・デュノアの強制送還。それでどうだね?」
(うーむ。魅力的ではあるが、老醜共め。下手に出たからと調子に乗りやがって)
まったく金を掛けずにデュノア社を手中に入れることに関してはエースは歓喜したが、シャルロットがフランスに強制送還されればエースにデメリットが発生する。
それは、楯無との約束が果たせなくなり、IS委員会に黙って、軍事企業を買収しようと動いていたことをバラされることだ。
シャルロットとフランスの関係を一度完全に断ち切り尚且つデュノア社を買収する。
これが、エースの果たさなければならないミッションだ。
エースは顔は笑顔のまま、老人達を見つめながらふと、今の現状が昔にあった出来事に非常に似ていることに気が付き。
そしてある男の言葉を思い出す。
分かり易いよりどころを奪ってやればよい。それで、賢そうな妥協が頭を過りだすさ。元より、老人とはそういう生き物だ。成功者であれば特にな。
思い出した瞬間、エースは体中に張り付いていた腫物のような怠さが抜け、その代わりに一つの案が頭を過ぎる。
エースは再度笑みを浮かべる。
しかし、この笑みは老人達には何か閃いたと感じさせる嫌な物であった。
(ディターミネイション。システム戦闘モード起動)
黒い首輪から光が放ち粒子がエースを包む。
アセンブル――
HEAD
03-AALIYAH/H
CORE
03-AALIYAH/C
ARMS
03-AALIYAH/A
LEGS
03-AALIYAH/H
R―ARM WEAPON
L―ARM WEAPON
R―BACK WEAPON
L―BACK WEAPON
エースは右手のVANDAを天井に向け乱射。
銃口から光が弾け、炸裂音が鳴る共に、銃弾が天井を貫き、薬莢が舞う。
会議室の装飾が次々と崩れ、床に叩き落とされ、さらなる破壊の音が鳴る。
暴力。
ただ純粋な力が会議室を廃部屋に変えていく。
唐突に発砲したエースに、老人達は目を見開き椅子を立つがエースはVANDAを今度は老人達の足元に向けて乱射し、その動きを止める。
(やっぱりこうでなくちゃ、賭けではあるが俺にはこっちの方が似合う)
老人達のよりどころ、それはエースと取引さえすればシャルロットの件をばらされない事だ。
シャルロットは裏切ったとはいえ、フランスが危機に訪れるような致命的な行為はまだしていないので、わざわざIS学園に男として転入したと目立つ様なことを言う必要はない。
一夏も同じく、目立たせた所でシャルロットがIS学園に居辛くなるだけなので公表する必要はない。
さらに、それ以外の者はもっと言う必要はない。
IS学園の機密は話してはならない決まりがあり、言った所で当人に監視が付きかねない。
だが、エースは違う。
傭兵ではあるがIS委員会に属する組織に所属するが故に、老人達と取引が成立しなければIS委員会のメンバーとしてISに関わる不正を正すという建前を作れる。
そしてフランスとの取引の内容が露見した場合、エースはIS委員会のメンバーでありながら不正を働こうとしたのでただでは済まないが、どの道、悪事を隠そうとその取引に応じた時点でエースと同罪だ。
エースの口封じに成功させなければ、共倒れするしかない、老人達にはエースはまさに恐怖だ。
しかし、エースの要求通りにシャルロットの身柄をエースに譲ると、エースと言うバックアップを受けたシャルロットが何を始めるか分からない存在へと生まれ変わる。
老人達が個人的な感情で動きかねないシャルロットを手放したくない理由がそこにある。
「貴様正気――ぐっ!!」
一人の議員がそう言いながらエースに指を恐怖で震わしながら差すが、エースもお返しとばかりにVANDAを突き付けながらその議員の襟首を掴み持ち上げる。
「イカれているが同時に正気だよ。私は自分の意志で撃った。さて、こんなあくどい交渉をしてるんだ、人払いをしているとはいえ、大事な議員様を放置する人間はいないぞ。どうする?私の要求を拒否し続け、ずるずると長引けばこのまま共倒れだぞ?」
「わ、私達を殺すつもりか!?フランスを、このIS社会全てを敵に回す気か貴様!?」
「そうなりたくないから今こうやってるんだ。私にはやらねばならんことがあるのでな。さて、私の
「「…………」」
「このまま共倒れするかい?まぁ私は全力で逃げて白を切るがな」
エースはそう言い、襟首を掴んでいた議員を突き放す。
そして最後の脅迫とばかりに再びVANDAを乱射する。
これが決め手になったのかすぐさま五人の議員は小さな声で話し合いを始め、結論を付けた。
「負けたよ傭兵。シャルロット・デュノアを君に預けよう。技術がないデュノアの連中は勝手にするがいい。だが、ここまでの無礼を働いておいて私達に詫びの一つもないのか?」
「データ以外となれば……金か?ふざけてくれる」
「ふん。認めないのならば私達とて引けん」
「……老醜共め。了解した、一人100万ユーロだ。明日までに偽造口座を用意しておけ。これ以上文句を言ったらその皺だらけの上半身を吹き飛ばす」
「野蛮人が……さっさと行くがいい」
「言われなくてもな」
エースはメインブースターを起動。
推力を得た機体が浮き始め、そのまま装甲の堅牢さに任せて壁を突き破り、続いてオーバードブーストを起動する。
(今回ばっかりは真面目に肝が冷えたぞ……やるもんじゃないな、キャラじゃない事は……帰る前にちょっと寄り道するか)
エースは深くため息を吐き、緊張で溜まったストレスを空を飛ぶ爽快感で消していった。
――――――――――――――――――
朝方、シャルロットはエースの部屋に居た。
ガタガタと怯えながら椅子に座っていた。
テーブルの上にある銀色のもはや拳銃と言うにはあまりにも大きすぎる拳銃を見ていた。
そしてそれ以上に恐怖を感じる無表情でお茶を注ぐエースを見ていた。
「S&W、M500。昨晩寄り道ついでに見た目のインパクトに引かれてアメリカで盗った。どうやら銃身が短い物があったが、明らかに銃って分かる物の方が脅しに使えるからな。どうせISを展開するような状況になったら使うことはないからあまり出番はないかもな」
(まぁいちいちAC起動させるとAMSの影響で疲れるわ、脳に負担はかかるわロクな事はないし、GAハンドガンも薬莢隠す必要がないから楽だが、弾が入手出来ないしな)
「そそそそうなんですか」
「怯えている所悪いが、お前に一つ聞きたいことがある」
「は、はい」
「復讐のチャンスをやる」
「…………え?」
素っ頓狂な声を上げるシャルロットにエースは金色の紙に包まれたチョコレートを机に置く。
チョコレートはかつてエースがシャルロットに差し出した物と同じだが、中身はキャラメルではなくまったくの別物だ。
「このチョコレートにはちょっと変わったナノマシンが入ってあってな。起動コードを携帯電話の電波等で発信したら、一時間後に体を沸騰させるほどの熱を発熱させる機能を持っている。まぁ要は死ぬってことだ」
「……それをどうするんですか?」
「食べなければ、お前の父親と義母は近いうちに事故に遭う。二度と会えないくらいの事故になるだろうな。まぁそうなったら指示した人間がいなくなったんだ。お前の件は全部有耶無耶になって消えるだろうな」
「事故……で?」
「そうだ。ところで、私の勘だが、食べれば事故には遭わんだろうな。フランスも手を引くらしいが、どっかの傭兵が哀れな女を好き勝手にするらしい。傭兵が言うには、気分が悪ければ女を殴る、蹴る、犯す、撃つだそうだ。まぁ好きに選べ、お前は食べるか食べないかのどちらかだ」
「…………」
冗談を言う口調ではなく、当然の様に吐くエースの言葉にシャルロットは戸惑った。
遠回しに血の繋がりのある父と、義母の二人の命か自身の自由か。
この二つの選択を選ばなければならないからだ。
「「…………」」
二人はしばらくの間、沈黙を味わった。
エースは決して一言も指示を出す気はない。
シャルロットが二つある選択肢から選び、エースはその選んだ責任をシャルロットに無理矢理負わせるつもりだからだ。
「あの、参考は?」
「私が言うと思うか?お前が決めろ」
「あはは……ですよね……」
「言っておくが片方を生かして、片方を消すか。もしくは全部生かすか糧とするか。本来は私が選ぶことをお前に二つも選択肢を残して譲ったんだ。選んだ責任、徹底的に取って貰うぞ」
「選ぶ……僕が選ぶ」
エースは項垂れて考えているシャルロットに意地悪く笑いながら見ていた。
15の少女に選ばせるには重すぎる内容で、下手をしたらそれが一生のトラウマにもなりかねないものだ。
しかし、それでも有無言わせずに銃口を突き付けない辺りはまだ温情でもある。
本来切り捨てるはずのトカゲの尻尾がまだ付いているのは紛れもないエースのお手伝いの結果だからだ。
(さて、俺のネクストのデータが混入された白式を完璧に解析出来る訳がない、出来ても技術もそもそもコジマ粒子がないからただの欠陥品よくてノーマルだ。イグニッション・プランとやらにフランスが参加するのは絶望的だろう。デュノア社の買収準備も整った。楯無もデュノアが無事に済みご満悦。勝つのは俺だ)
データ流出は極力避けたかったエースには完璧とは言えない結果だったが、それでも手足が増えたことはエースには大きな利益だ。
人類の未来の為に行動し続ける。
それを叶えるためにエースは着実に力を蓄えていく。
少なくともISにネクストのような末路を辿らせる気は今のエースにはない。
「エースさん」
「あ?」
一人思考にふけていたエースにシャルロットは決意を込めた眼差しと共にチョコレートに手を伸ばした。
Q:S&Wについて。
A:出したかっただけで特に意味はないですラスト・スタンドが面白かっただけですごめんなさい。因みに首輪付き君は某州知事と同じく筋肉を活かして片手撃ちです。