アンチ・ヘイトつけろksみたいな感想を受けたら、最初から原作に嫌味付けるために始めているようでつけたくなかった、アンチ・ヘイトタグを付けます。
あとすっごく読みにくくなりましたごめんなさい。
「四脚の不明ネクストを撃破」
「逆関節の不明ネクストを撃破。残りは雑魚だ。さっさと終わらせろ」
『待ってくれ!降参だ!』
『俺は、指示された通りにやっただけだ。あいつがいなけりゃ、戦う意味もない』
『それに、あんた達はまだ生きてるノーカウントだ、ノーカウント』
『な、分かるだろ?同じリンク――』
「全目標の排除を確認」
「容赦ないなお前は」
「…………そして、相変わらず無口だな。お前は」
――――――――――――――――――
ミッションへ行き、一夏の訓練に多少付き合い、シャルロットの行動を監視する。
そんな日々を一週間過ごし、IS委員会より送られる金を無駄遣いすることなく貯金し続けてたことが功を成し、エースが立てた計画を実行するには十分な金を確保した。
計画遂行の為、楯無と実行前にもう一度話をしようと足を楯無の部屋へと向けていたエースだが、制服を手に持ちISスーツを着用したままのシャルロットとすれ違い。
(嫌な予感がする……)
言い例えれないたったそれだけの理由でその足を止め、瞬時に何故シャルロットがISスーツで寮内を走り回っているのかを思考し、脳裏にISに乗る一人の少年の顔を思い浮かべながら一つの答えとたどり着く。
(デュノアの着替え姿でも見ようとしたのか?アイツ本気で……いや、それも個性だ。拒否するのは良く――)
「おーいシャルル!さっき一緒に着替えようって言ったの謝るし、今部屋にボディソープないぞー!」
(…………)
心の中で様々な意味に対する嘆きを漏らしながらシャルロットの後を追うように走る一夏を見て、エースも一夏達の部屋へと歩きながら向かう。
その数分後、一夏の部屋から甲高いまるで女の様な声が響いたという。
――――――――――――――――――――――
ベットに座る、ショックのあまりにほとんど放心状態の一夏をテーブルに座るエースは同情の眼差しで見ていた。
理由は一夏はどう足掻いてもシャルロットの件からは逃れられなくなったからだ。
エースが監視カメラを仕掛けたのはシャルロットが一夏に手を出したという証拠を得る為もあるのだが、万が一フランスと揉め合ったとしても。
一夏はシャルロットの都合を一切知らなかったという決定的な証拠として、一夏を自身の馬鹿に巻き込まない為でもあった。
(まぁ、バレタものは仕方ない。プランDだ。最悪の場合織斑は見捨てる方針で行こう)
酔えるならば酔いたい気分に駆られたエースだが、残念ながら治安が良い日本では見知らぬ未成年の少年に安直に酒を提供する組織はなく。
例え手に入れたとしても酒によって緊急時に冷静な判断を下れるようにアルコール処理能力が強化された肝臓の前には無意味である。
しかし、度重なる水質汚染の原因で水より酒を飲む機会があったエースには酔いの楽しさと言うものを知っている。
大事なものは失った時になって初めて気が付くとはまさにこのことだ。
(ウォッカとかを血液に直接投与すれば酔えるだろうか……いや、結局血が肝臓行ってしまえば意味ないな畜生)
少しはショックから回復した一夏が何かを考え始めたのを知らずにひたすら酔う方法を呑気に模索しているエースだったが、シャワールームのドアが開く音に自然と視線を移動させる。
「…………」
無言で出てきたシャルロットの姿はジャージ姿で、胸元には余程奇妙な形に胸部が突出した男ではないとあるはずのない谷間の存在にエースは鼻で笑った。
見られたからと言って誤魔化す気が一切感じられない、抵抗ではなく最初から諦めを選択した少女の姿をエースは見下すが、エースは静観に徹する。
すでにエースはシャルロットをどう扱うかはある程度決めてあり、一夏がシャルロットをどのように対応するかは一夏の問題だからだ。
「えーと。あれだ、とりあえず何のために男のフリなんかしたんだ」
「…………」
まったく事情を知らない一夏からすれば真っ先に疑問に思うことだろう、単純にして分かりやすい質問だ。
しかし、シャルロットは返答せずにエースに助けを求める視線を送る。
どうすればいいのかシャルロットは考えようともしていないのだ。
そんな態度にエースは不快感を押さえながら言えと唇を動かし。
シャルロットに命令を下す。
一夏はもう無関係ではいられなくなってしまった以上にすでに女とはっきりと象徴する物をシャルロットが隠す気がないのだから隠しても無意味だからだ。
「……実家の人間にそうしろって言われて」
「実家ってデュノア社の?」
「そう。僕の父がそこの社長。そこの人からの直接の命令なんだ」
「命令って……親だろう?何でそんな――」
「僕はね。愛人の子なんだよ」
シャルロットの言葉に一夏は絶句した。
愛人の子。
それだけで、シャルロットがどれだけの苦労したのか想像したのだろう。
一夏も何から何まで知らない純情ではない。
「引き取られたのは二年前。お母さんが亡くなった時にね、父の部下がやってきたの。それで色々と検査している内にIS適正が高い事が分かってデュノア社の非公式のテストパイロットをやることになってね」
「違うだろ。やることにじゃなくてやらされた。だろ?適当なことを言うな。引き取られた時もテストパイロットに誘われた時もお前の意志はそこにはなかっただろ。まぁやらなきゃ愛人の子であるお前が普通に生活が送れる思えんがな。企業は自らのイメージを保つためなら必死になるぞー」
「…………」
(図星か……)
「エース言い過ぎじゃないか?」
「悪い悪い冗談だ。口を閉じるよ、お口にチャックってな。なんなら空気にでもなろうか?」
右手を唇をなぞる様に動かしながらエースは小さく笑う。
まるで現状を楽しんでいるようなその態度は間違いなく場に相応しくない態度だ。
一夏が声を荒げるのも無理はない。
しかし、そんな一夏を気にもせずにエースはシャルロットに話の続きをジェスチャーで促す。
「うん。エースの言うとおり。僕はテストパイロットを……やらされていたんだ。父に会ったのは三回くらい。話をしたのは時間は大体一時間くらいかな?普段は別邸で生活をしてるんだけど、一度だけ本邸に呼ばれてね。あの時は酷かったよ。本妻の人に泥棒猫って殴られたよ『この泥棒猫の娘が!』ってね。参っちゃうよね。アハハ」
(まぁ理屈で動く人間には見えなかったからなあの
口に出したくない話だったからか、シャルロットの歯切れが悪く、聞かせるというよりは独白に近い。
一夏もエースも聞くことに集中する。そうしなくては聞き取れないくらいのか細い声だった。
「そのあと少し経ってからデュノア社は経営危機に陥ったの」
「え?デュノア社って量産機のISシェアが第三位なんだろ?」
「うん。でもね、結局リヴァイブは第二世代型なんだ。それに加えてISを開発するにはものすごくお金が掛かる。大体の企業は国からの援助があって成り立っているところばっかりなんだ。それで、フランスは
(なるほど。嫌な予感もあながち悪くない)
シャルロットの話を聞き、エースはフランスが手を引いていることに確信を抱く。
もし、企業が経営危機に陥り、スパイとしてIS学園に易々と送ることが出来るのならば、IS学園にはスパイが山のようにいるはずだからだ。
筋書きとしてはラファール・リヴァイブが売れて味を占めたフランス政府はEUの第三世代型量産機を決めるイグニッション・プランに参戦し、選ばれた自国のISを世界中で売り捌き、政府の懐をさらに潤したい。
しかし、まず参戦する為の機体を作り上げるにはデータと時間がないので他から奪うしかない。
そこで、一位とはいえ二位と大差のないデュノア社を経営する頭脳部を切り捨てる事を前提で利用し、データを奪取した後、一位と二位の技術屋が一丸となって作った第三世代機で勝負に出る。
(まさに金のなる木だなISは……最初だけはな)
生まれてからまだ10年の歴史しかないISは軍需産業の歴史に突如現れた奇才だ。
圧倒的な機動力と量子化すればどこからでも取り出せる武装、そして操縦者の命を守る絶対防御。
攻撃と防御とスピード全てを兼ね備え、過去の兵器を鉄くずに変えたマルチフォームスーツ。
ISの技術力と操縦者の質が軍事力に直結にする流れもあり、企業や国が自国の兵力を高めるためにIS技術を競争し、売る為の兵器としては完璧な土壌が整えられたISだが、商品としては致命的すぎる欠点二つある。
コアが量産できない事と大破しない限りは勝手に修復してしまう程丈夫過ぎることだ。
全てのISをラファール・リヴァイブに統一して戦場に出し、その全てにスペアを用意したところで、ISを動かすには絶対に必要なISコアが467個しかない現状。
ISという抜け殻は故障等のトラブルを加えた不具合を想定してもせいぜい1500機しか売れないだろう。
これに実験用や専用機、他の量産機等にコアが奪われ、挙句丈夫過ぎる、些細な傷は修復してしまうが故に、修理費からの利益も搾り取れないISを例え1500機生産したところで、半分以上は在庫行きだ。
だからこそ、ISを開発する企業は次から次へと新技術を提示し続けなければならない。
新技術を搭載し、過去のISよりも強いISを次から次へと繰り返し、売り続けなければその企業は堕ちるだけだ。
ラファール・リヴァイブで第三位のシェアを取った所で、次が無ければ意味がない。
デュノア社が経営危機になるのもごく自然だ。
「それで、なんで男装に繋がるんだ?」
「簡単だよ。注目を浴びるための広告塔。それに同じ男子なら日本にいる特異ケースと接触しやすい。可能であれば機体と本人のデータを取れるだろう……ってね」
「つまり……」
「そう一夏と白式のデータを盗って来いって言われているんだよ。僕は、あの人にね……とまぁ、こんなところだね。一夏にばれちゃったし、きっと僕は本国に呼び出されるだろうね。デュノア社は潰されちゃうか、他企業の傘下に入るか。今までどおりにはいかないね。まぁ僕はどうにでもいいことかな」
一通り話し終え、シャルロットは大きく息を吐く。
隠し事を全て言った為か、その顔色はどこかサバサバとしている。
それに対し、一夏は話の内容が内容なだけに普段の笑みは何処かへと消え、険しい物へと変わっていた。
だが、一夏以上の怒りをエースは静かに燃やしていた。
虚空を見つめる目はどこまでも冷たく鋭い獣の目へと変わり、右手を握る力は強く、爪が肉に刺さり掌が血に滲む。
口を強く閉じなければ漏れてしまう暴言をエースは飲み込み続ける。
「本当のことを話したら楽になったよ。聞いてくれてありがとう。それと騙していてごめんなさい」
「いいのかそれで」
「え……?」
「いいのかそれで?いい訳ないだろ!まるでシャルルが道具みたいじゃないか。親が何だっていうんだ!子供は親がいなきゃ生まれない。だけど親が子供の自由を奪っていい権利なんてあるもんか!生き方を選ぶ権利は誰にでもあるはずだ!親なんかに邪魔されるいわれなんて無いはずだ!」
「ど、どうしたの?一夏、変だよ」
シャルロットの両肩を掴み、声を荒げる一夏にシャルロットはその勢いに押され怯えの表情を浮かべる。
普段は柔らかな一夏だからこそ、恐怖が増したのだろう。
「俺は、俺と千冬姉は両親に捨てられたから……」
「あ、ごめん……」
(親なんか、か……なるほど。思わぬ情報を手に入れた)
「悪い、気にしないでくれ。別に会いたいなん俺は思わない。俺の家族は千冬姉だけだから。でも、お前はこの後どうするんだよ?」
「どうって……時間の問題だと思う。よくて牢屋かな」
「それでいいのか?」
「良いも悪いも、僕には選ぶ権利はないよ」
そう言い微笑むシャルロットは全てに絶望し、諦観しきった不幸で悲劇の少女。
可哀そう。
そう、大半の人間が思い、口に出すだろう。
しかし、その笑みは一夏の堪忍袋の緒を完全に切った。
「……だったらここにいろ!」
「え……?」
「俺が黙っていればそれで済む。仮にばれてもIS学園特記事項第二十一、IS学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする」
「ということは?」
「つまり、この学園にいれば少なくとも三年間はお前の親父や会社は手を出せないって事だ。三年もあればいい方法だって見つけられる。急ぐ必要はないさ」
「一夏は僕を……庇ってくれるの?」
「当たり前だ。だって、俺とシャルルは友達だろ?シャルルをそんな顔にさせる奴が俺は許せない。とにかく、決めるのはシャルルなんだから、考えてみてくれ」
「……うん。ありがとう一夏」
(何も解決してないけどな。さて、そろそろ言わせて貰おうか。言った後は織斑に任せる)
例え、性別を偽り、データが目的で接していたシャルロットを最初から怒る気は一夏にはない。
許し受け入れる心。
これも、一つの強さだろう。
大きな拍手を一夏に送りながら、エースは一夏の評価を一段階上げた。
そして小さくため息を吐く。
「はぁ……」
エースの口から出たため息はまるで冷気に包まれたかのように余りにも冷たく重く。
そして、一度気が付いてしまえば息を忘れてしまうほどの殺気が入っていた。
一夏とシャルロットはゆっくりと先ほどまでは空気だったテーブルに座る人物へと視線を送る。
学園内では滅多に見せない冷酷な傭兵としてのエーアスト・アレスがそこにいた。
「随分な物言いだな。さすが愛人の子。尻が軽い」
先制攻撃と言わんばかりにエースから、強く鋭い言葉の暴力が飛び出る。
だが、ほとんど不意打ちに近いその暴力にシャルロットも一夏も脳が処理できずに呆気取られる。
突然起きた大きな衝撃に思考を停止するのは人間誰にも起きることだが、そんなシャルロットの姿にもエースは怒りを募らせる。
それでも、相手を傷付け過ぎないように言葉を模索する冷静さを無くさないのは修羅場をくぐり続けてきた結果である。
「バレたから、織斑の同情でも誘いたかったのか?それとも、このまま同情を誘い織斑を誘惑するまでが君の父親の計画だったのかな?」
エースの言葉に一夏はシャルロットへと視線を移す。
だが、その目は騙された怒りよりも、そんなことまで命じられていたのかと同情をするような目だ。
一夏の甘さにエースはとことん呆れながらシャルロットを睨み続ける。
「あぁ、それとも君自身が考えていたことかな。それはすまなかった」
「ち、違います!僕はそんなこと考えてません!」
「エース。言い過ぎだ!」
「お前さんは黙ってなさい」
エースは一夏の顔を左手で覆い、そのまま口を封じる。
勿論手を振り解こうと暴れる一夏だが、エースの力は多少鍛えている程度の人間では微動だすらしない。
それでも抵抗する一夏を他所にエースは再び口を開く。
「そうか。私からすれば考えてくれた方がまだ君を擁護する気になれた」
「え?」
「まず一つ聞く。なぜシャワー室を出た後男装をしなかった。なぜ少しも誤魔化そうとしなかった」
「それは一夏に……裸を見られたから。隠しても無駄だから」
「なるほど。保身の為に、早急にデュノア社を切り捨て織斑引いてはIS学園に媚を売りたかったと私には聞こえたが?」
「僕は媚なんか売ろうと思って――」
「へぇ。ならなんで織斑にデュノア社の命令を喋った。少しでもIS学園側に良く見られようと、命令されたから仕方ありません。デュノア社がやろうとしたことならいくらでも話すから私だけは助けてくださいと懇願しているのかと思ったよ。牢屋行きではなく被害者として悲劇のヒロインがやりたかっただけだろお前は。まったくとんだ売女だ」
エースの言葉にシャルロットから目が滲み涙が零れ始める。
十五の少女にはあまりにも厳しすぎる言葉だ。
傷付き悲しむのは無理はない。
しかしエースはまだ止まらない。
それだけ、シャルロットが抱える問題は放置するにはあまりにも大き過ぎる。
そして、問題を抱えているシャルロットは問題に直視し受け入れる事が出来るほどの器量を持っていない。
時間を伸ばすだけでは、いずれ器は問題に押しつぶされて壊れてしまい、器から零れ出した問題は他のものまで巻き込む。
器から零れそうなのであれば、助けを出すのも必要だが、器を広げる事もまた必要だ。
「よく聞けデュノア。お前は父親をあの人とか言っていたが、組織の為に娘を犯罪者に仕立て上げたあの人と自らの為にベラベラと企業に雇われた何百人、何千の生活を奪おうとするお前。親として子の要望を裏切ったあの人と組織を裏切ったお前。どう違う?私から見ればよく似た親子だよ」
「うぅ……」
「お前は虫が良すぎる。が、良かったなぁ織斑で。たぶんこいつはそんなお前でも許すほど甘い。例え、何も分からないから何もされていない織斑の命にも等しいデータを奪おうとしたお前であってもだ」
エースは遠慮なくシャルロットを罵倒する。
これは一夏がいたからこそ出来ることだ。
一夏と出会い、すでに二ヶ月共に学園生活を送ってきた中で一夏が下心なく純粋に他者を気遣う言動を幾つも見てきたエースには、一夏の人間性をそれなりに把握している。
エースなりに一夏ならば、自身と違いシャルロットを立ち直らせられると信用している証の様な物だ。
「お前はデュノア社に従うことを状況的に仕方ないとはYESかはいのどちらかを選んだ。選んだならばそれに伴う責任から逃げるな。私なら例え可能性が低かったとしても、最後まで織斑を騙し続ける。それが無意味だとしても、醜く屈辱的だとしても選択した以上最後まで責任を果たすために足掻き続ける。そして足掻き続けてどうやっても逆転不可能になったらその時初めて保身の為にデュノア社を裏切るね」
「…………」
「二年間もあったんだ。選択した結果に至るまでにお前には選択した責任と向き合う時間はあったはずだ。お前はデュノア社を裏切ることを選んだ。なら、今度は裏切った責任を最後まで果たし続けろ」
言いたいことを全て言い終え、エースは一夏を拘束していた左手を開放する。
その直後、エースは一夏に胸ぐらを掴まれるが、簡単に振りほどけるそれを甘んじて受け入れる。
それが一夏の友であるシャルロットを罵倒すると選択した責任だからだ。
「言い過ぎだエース!シャルルが泣いてるじゃないか!それに、いつも以上に口が悪いぞ!!」
「そうか。ならもっと悪くしてやってもいいぞ」
「なっ……!」
「悪いな織斑。私はお前と違って、すぐに組織を裏切る奴がまたすぐに裏切らないとは思わないものでね。今からシャルルを裸にひん剥いて廊下に立た――」
一夏から振り下ろされる拳をエースは淡々と見つめ、反射的に動きそうになる体を理性で押さえる。
これもまた甘んじて受け入れるべき物だからだ。
鈍い音が室内に響く。
「満足か?」
「するわけないだろ!シャルルに謝れよ!」
「吐いた唾を舐める趣味は私にはない」
「ッ!そうかよ!!」
「じゃあな。また明日」
エースは軽々と一夏の腕を退かし、出口へ向かう。
(思っているからこそ殴るか……俺には出来んことだ)
――――――――――――――――――――――
「で、殴られたと。当然ね」
「だから言っただろ。男の傷の理由を聞いたところで女は面白くないってな。それよりも織斑にシャルロットの件がバレたのが痛すぎる。どうやって言い訳しよう……無理矢理押し通るしかねぇよ」
エースが楯無とのデートで訪れた場所はIS学園から数十分ほど離れた場所にある喫茶店だ。
シックで落ち着いた雰囲気が、訓練で疲れた生徒達に癒しを与えることに定評があり、窓から見える夜の海の光景もまた訓練等で高ぶった精神を安定させる好印象な場所だ。
しかし、そんな雰囲気に飲み込まれずにエースは両手を頭の上に乗せながら項垂れていた。
遠くない未来に個人で国を相手に交渉する人間の落胆としている表情を見ることが出来たのはエースの奢りで苺スペシャル・パフェを幸せそうに頬張る楯無だけだ。
白いソフトクリームの上に均等に乗せられた赤く照る苺はまるで赤いルビー。
苺ソースもまた輝きを放ち、ビスケット、ミント、ポッキーの三種の色もパランス良く配置され華やかだ。
楯無が頬を緩ます理由をエースは見ただけでも口内からにじみ出る涎から理解し、アイスコーヒーに様々な感情を混ぜながら胃まで流し込む。
そしてそれを待っていたかのように、楯無は口元についた生クリームをハンドタオルで拭いながらエースに話しかける。
「ところでエース君。一夏君がシャルロットちゃんの正体を知ったということは置いといて。いいかげん何しようとしているか教えてくれないかしら。デートとか言ってたけど私を呼び出したのはそっちの理由なんでしょ?」
「あぁ、そうだ。デュノア社を買収する」
「買収って……うーん。エース君に何の得が?あそこはもうISの開発競争から落ちるのが目に見えているわよ」
「傭兵になる前に少しあったからその腹いせだ。まぁ一応は国のお抱え企業だから正攻法では素直に譲ってはくれんだろうから、先日勝手に入手してディスクにコピーしておき、ダミーデータを加えた白式の機体データを、デュノア名と共にフランスに渡す。これで、デュノアは一応フランスからの仕事を果たしたことになり、デュノアにある程度は弁護出来る。それと、デュノア社の技術屋も少々」
エースの立てた計画はデュノア社を株式会社としてルールに乗っ取り支配するということだ。
だが、フランスは例えデュノア社が落ち目の会社だとしても支援をしている会社がフランス以外の人間に簡単に奪われてしまっては、フランスは落ち目となったら問答無用で切り捨てるとデュノア社以外の会社から不信感を買われてしまう。
それを避けるべく、建前であってもフランスはデュノア社を守る責務がある。
エースはデュノア社を買収するだけの大金は持つが、国が止めに来るとなると間違いなく何かをしなければ収入がない個人と、何もしなくても金が舞い込んでくる組織の地力の差で負ける。
だからこそ、フランス側にもデュノア社を見捨て場合のメリットを用意した。
それが白式のデータだ。
これは本来シャルロットが持ち帰るべきデータだったが、イレギュラーの塊であるエースを除けば純粋にISが使える男性である一夏が使う白式の貴重なデータだ。
IS学園やアラスカ条約の都合上、白式のデータは国籍やIS学園の規則や所在地、ISの開発元等の理由から実質日本が独占と言う形になっている。
各国からは男性IS操縦者のデータ公開をIS学園へと求めているが、情報の露出が極端に少ないIS学園の特性上流出される事はない。
そもそもIS学園をデータ流出を防ぐための体の良い実験場としか扱っていない政府に、どの組織にも属していないIS学園は、経営の危機にならない限りは機嫌取りのために平等に少しずつ白式のデータを渡せばいい。
つまり、日本以外が白式の最新のデータを得るためにはIS学園内部の人間から不正な取引の上で貰うか強奪するしか方法がないまさにレア物だ。
何故男である一夏がISを使うことが出来るのか。
謎が多いISを紐解くきっかけになるかもしれない物であり、第三世代型の白式の機体データでもある物をフランスが欲しがらない理由はない。
極めつけに、デュノア社の命とも言うべき技術力も譲渡するとなれば交渉決裂する恐れはないとエースは考えている。
「……断られた場合は?」
しかし、全て上手く事が運ぶとは限らない。
フランスが口封じの為、エースに宣戦布告する可能性はゼロではない。
エースは交渉が破断された場合の事を楯無に告げる。
だが、その内容は楯無の眉を顰めさせるには十分すぎた。
「フランスが代表候補生をスパイとしてIS学園に送り込み、男性IS操縦者である織斑一夏のISコア、データ、遺伝子を奪おうと計画したとマスコミにリークする。勿論、デュノアには証人として連行する」
「待って!そんなことしたら、フランスは間違いなくシャルロットちゃんを切り捨てしまうじゃない。シャルロットちゃんは二度と日の目を浴びれなくなっちゃうわ」
「知った事か。アイツも牢屋ぶち込まれるなり暗殺されるくらいの覚悟しているはずだ。いや、してなければならん。世界中から狙われている王子様の生命線と言ってもいいデータとコアを盗ろうとしたんだ。チャンスがあるだけ感謝してほしいね」
「でも、愛人の子供であるシャルロットちゃんには誰も味方がいなかったのよ。それは酷すぎるんじゃないかしら?」
「だから何だ?アイツは人の人生を狂わせる仕事を親や政府のせいで断れなかったにしろ、環境のせいだから。私の力では反発出来ないからと諦めることを選んだ。その結果、第三者の介入によって全てを失おうがアイツの選択に伴う責任だ」
「責任?そもそも選択肢が諦めるの一つしかなかったからそれを選ばざる負えなかった。仕方のない事だったの間違いじゃないかしらエース君?」
「あぁその通りだ。奴が生きる為にはその選択肢しか選べなかっただろう。嫌なら自害しろなんて阿呆なことは、いくら私でも言わん。しかし、それを免罪符に責任を逃れすることは私が許さん」
選択に伴う責任。
選択肢や責任の規模は常に変わり続けるが同時に常に付き纏うものだ。
何を食べる、何を学ぶ、何をする。
それら全てが選択で、選択した後に発生する金、時間といった責任が必ず徴収される。
しかしそれは、生きる上で仕方のない事であり。
人類の生死を選択するような選択を選ぶのは世界でも一握りだろう。
だが、エースはその一握りに選ばれ、尚且つ直接的に人類の行く末を自らの意志と力で決定付けた男だからこそ誰よりも責任を重んじる。
例え個人的な感情による我儘だとしても選択に伴う責任を否定されてしまえばエースが自らの答えの元に選択し、選んだ上で背負った責任全てが偶然選ぶ立場だったから仕方のない一言で否定されることに他ならない。
人類種の天敵と呼ばれるまでに糧として喰らってきた全ての人間に対する冒涜だ。
「許さんって……君横暴過ぎない?シャルロットちゃんは専用機を持つとはいえ、君みたいに傭兵が出来る力がないただの子供よ」
「子供?それがどうした。子供なら何をしても良いというのか?私は絶対に思わんね」
「シャルロットちゃんはまだ未遂だから、弁解の余地はいくらでもあるはずだわ」
「やった、やってないの問題ではない。来たか来てないかの問題だ。あいつはもう男としてIS学園に来た以上、罪人として仕立てあげるには十分すぎる。それに、横暴でなければ誰が好き好んで戦闘を生業にするか。例外は勿論いるが少なくとも私は私の為に力を振るい続ける。誰にも口出しはさせん」
口調こそは落ち着き、声量も辺りに聞かれないように押さえてはいるがエースと楯無はお互い睨み合いまさに一触即発の雰囲気を出している。
楯無には学園生徒を守りたいという意志。
エースには例えそれが一般的にはイカレた考えだとしても貫きたい矜持。
お互いに譲れないものがある。
しかし、楯無は止めろと強く言うことは出来ない。
エースの言った計画は武力をチラつかせない極めて平和的でどの組織もリスクを背負う所か、メリットしかないので失敗する可能性が低い。
損をするのは二流になりつつある企業を巨額の金で買収するエースのみで、更識家もシャルロットの尻拭いをする必要は一切なくなる。
楯無はエースの行動を認めるか認めないか、つまりデメリットを背負ってまでシャルロットを庇うか庇わないか二つの選択に揺るぎ迷う。
「……大体お前も、私も。何もせずに織斑の言った通りに、IS学園特記事項を盾にし、IS学園にデュノアがただ居座り続けてもアイツの安全は保障されるのか?」
だが、その選択はエースの言葉に一つへと絞られる。
ただこれは、楯無にとっては自身の信条を裏切る敗北の選択でもある。
「無理ね……持って半年」
「IS学園はどこにも属さない故にどこにも命令をされない権利はある。だが、それを支えるのはどこだ?」
「表向きは日本。でもあらゆる国家の息がある……」
「そんなIS学園にフランス国籍の生徒は何人いるかな?デュノアが寝返ったと思われ口封じのため、特記事項を無視した強制送還または兵隊引き連れて強行手段に出たときに君はデュノアやフランス国籍の生徒の近くに君はいられるか?そして同居人である織斑がいつまでもデュノアの真実を知らずに過ごしていたとフランスは思うか?恐らくフランスは一切の容赦をしないぞ……バレたら各国からのバッシングのいい的だからな。そして、一度でも強制送還に成功したらどうなる?フランスの前例を良い事に今度は他国が織斑のデータやIS学園が保有するコアやISの技術欲しさに生徒を盾にし始めるぞ。特記事項で本人に手は出せなくても、本人が帰りたくなるように間接的に嫌がらせをする手段ならいくらでもあるからな」
「それは……私達が――」
「自惚れが過ぎるぞ何人生徒がいると思ってるんだ。IS委員会に私の計画を報告し行動に制限をさせた後、私の代わりに君達更識家がデュノアの擁護の為動くとしよう。だが、相手は一企業ではなく国だぞ?たかが一人の人間にどれだけの人間と金が動かねばならん?そして助けた所で更識と言う組織にメリットはあるか?」
「……生徒の長である私に、シャルロットちゃんを見殺しにしろと?」
「更識。君の生徒一人一人に対する思いは素直に尊重しよう。だが、それだけで君は良くても更識の人間が危険な橋を渡るのに納得するのか?更識は君一人ではないのだろう?」
「…………」
「もう一度言う。別にデュノアに手を出す気は私にはない。寝床である学園に被害を出す気も勿論ない。ただ、私の買い物に少し目を瞑るだけでいい。君の個人的な感情を押さえ、君の組織の利益を最優先にするだけでいい。良いね?放っておいても君にメリットは存在しない」
エースは徹底的に楯無を折る。
もしこれで、中途半端に楯無を説得した結果。
口約束とはいえ契約を破棄してIS委員会にエースの計画を報告されては今度はシャルロットどころか自らの身が危ういからだ。
強く組織のメリット、デメリットの話を持ちかけたは、組織の長としては異常なまでに自己犠牲の精神にあふれる楯無の性格を読み取った結果だ。
だが、それが功を成した。
「……分かった。改めて言いましょう。私達更識家は私達の利益の為エーアスト・アレスの行動を黙認します」
「感謝する」
そう言いながら不敵に笑うエースに、限りなく敗北に近い勝利を味わった楯無は背筋を凍らせた。
凛々しさと冷酷さを纏い、整った顔立ちから来るその笑みは紛れもない死神の笑み。
そしてその死神と取引していたのは楯無だ。
「どこへ行くの?」
「決まっている。場所も時間もすでに用意してある」
エースは一万円札を机に置いて立ち上がる。
更識家に一切の苦労することなく、エースと言う強力な切り札に貸しを作れたと喜ぶべきか、悲しむべきか。
楯無は喫茶店の閉店間際まで悩み続けることになった。
少なくともエースを止めれる程の具体的な計画も言葉も考えつかなかったのは間違いのない事実であるのだから。
Q:ノーカウントさんハードだと降参しないんじゃ・・・
A:演出ですごめんなさい