IS×AC<天敵と呼ばれた傭兵>   作:サボり王 ニート

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今回も平和です。
あと2~3話以内にはシャルロット編を終わらせたいです。




26 傭兵一週間

戦場において速さとは命だ。

速く武器や食料と言った物資を運ばなければ、人は戦えずに一方的に殺され死ぬ、飢えで死ぬ、病気で死ぬ。

人は生死を賭けた戦いにおいても戦える環境を整えなければ、人はすぐに獣と化す。

獣は己の身を守るため、欲望をぶつけるために、地を這うように強者から逃げ続け弱者からは根こそぎ物を奪い、犯し、殺す。

理性無き戦いと言う物は物資がない事から始まり、死に物狂い動く獣は強い。

しかし、後先考えなしで行動する獣では考えて行動し常に学び続ける人には長期的には絶対に勝てない。

人類が地球上の支配者であるという事実がそれを証明している。

 

『IS傭兵管理機構BIND所属傭兵アレスだ。目的地視認。降下する、場所を開けてくれ』

 

物資は生きている限り必ず必要な物なのだから、全人類全てがその重要性を理解していると言っても過言ではないだろう。

だからこそ、人であるための生命線である物資を補給する部隊は敵に最優先に狙われる。

だが、高額であるがとある傭兵に依頼すれば、物資が手に入るようになった。

体のサイズがサイズなだけに持ち運べる積荷の量は補給部隊の物には劣るが、レーダーに捉えるよりも速く、横取りしようものなら良くて壊滅、最悪殲滅させるほどの力がある傭兵がいる。

ISが生まれ、その圧倒的な性能差からお役目御免となった軍隊のお古である戦車や戦闘ヘリがただでさえ不安定な地域へと流れ込んだ。

その結果、たった数十人しかいないはずのテロリストグループが戦車を持つという、ISが登場する前までは一線で戦っていた兵器と戦う可能性が高い、極めて危険な場所となった。

だからといって、あくまでも世間の建前では競技用で、さらに存在するだけでも核のように脅すことが出来る数少ないISを前線から簡単に離すわけにもいかない為、エースのような国籍関係なく素早く運搬してくれる人間はそれなりに需要がある。

そしてエース自身も現地に荷物を持って行って書類を書くだけで終わる楽なミッションを気に入っている。

互いに旨味があるまさに理想的な仕事だ。

 

アセンブル――

R―ARM WEAPON

CANTUTA(マシンガン)

 

しかし、勿論戦闘ヘリを引っさげて横取りしようとする者も、依頼主であるはずの人間が歓迎してくるとは言い切れないのでいざと言うときの武器は忘れない。

CANTUTAをチラつかせながらエースはブースターの出力を調整しつつ、物資を載せた補給車を前線基地の敷地内に優しく置いて地面に降り立ち。

そして周囲を警戒しながらエースは見える範囲で基地内の女性を見渡し責任者らしき人物を探す。

女尊男卑の影響で、テロリストグループ以外ならば女性だからという理由だけで階級が高い彼女らを探せば自然と現地の責任者が見つかる。

無能は真っ先に死ぬ世界に生きてきたエースからすれば色々と悩みたくなるものだが、ISを扱うことが出来る唯一無二の存在である女性に英雄的な華々しい活躍を。

ISを扱わない人間には銃を手に取り人を撃つという汚れ仕事をさせない潔白さをイメージ付ける気なのだろうと解釈しエースは目を瞑っている。

その結果敗戦しようとも傭兵であるエースには関係のない事だからだ。

 

(警戒しているのは男だけだな)

 

武器を持っている為か怪訝な視線を送る男達を押し飛ばすように近づく女達の中心を歩く。

ラファール・リヴァイブを纏い、警戒心を微塵にも感じない女性にCANTUTAを握る手を強め、エースは女の言葉を待つ。

 

「君がIS傭兵か。戯言と思っていたが本当にいたのだな。夜分遅くにご苦労だった」

 

一先ずは安全そうだとエースは自身に言い聞かせながら、差し出された手をエースは無視して、物資を積み込まれた補給車のフレームをCANTUTAで軽く叩く。

暗に慣れ合う気はないとエースは伝えている。

 

「すまない。迂闊だったかな?」

「契約通り、物資の確認が済み次第すぐに口座の振り込みを頼む。あぁ、半日以内に送り込まなかった場合は……」

「ISを持ちながら国に縛られることなく傭兵をやっている女性だ。無駄な事はしない。すぐにでも送らせてもらおう。物資を運べ!」

 

エースの声はマシンボイスに変換され、スピーカーを通して発音している。

そのため、ISは女性にしか使えないという先入観が大きいのもあるが、エースは完全に女だと思われている。

男性操縦者がもう一人いるという事実は世界に更なる混乱を招くので性別を偽るのは仕方ない事だ。

 

「遅いぞ早くしろ!」

「雑用ぐらいは役に立って見せろ無能共!」

(溜まるのは理解できるがほどほどにしておけよ……)

 

ISを装備しなければいつ死ぬか分からない上に場所によっては物資が乏しい場所では肌は容赦なく荒れ、食事は満足に出来ない、熟睡するには難しい環境等性別関係なくストレスが溜まりやすい。

ストレス発散の為に上下関係を利用し下の物に八つ当たりするのはいつの時代でもある物だ。

エースは女と勘違いされて良かったと男達に罵詈雑言を加えた指示を飛ばすだけの女達の声を聞き流しながら、次の戦場へと飛んで行く。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

放課後のグラウンドに降り注ぐ夕日の光を浴びながら、一夏はウィングスラスター吹かし、左右に動きながら飛来してくる液体を回避しようと動く。

 

「はぁ!」

「ヒット」

「おりゃ!」

「ヒット」

「ふん!」

「ヒット。いい感じだな。水を補給する」

「当たりまくってるけどいい感じなのか?」

 

しかし、射手であるエースが使用しているピンク色の塗料を混ぜた水を使用した水鉄砲を連続で当たり続けている為その姿は全身ピンク色だ。

色が変われば騎士の様な高貴さを感じさせる白式の姿も一変し、愛らしさよりも奇妙さが浮かび上がる。

 

(次は青式にしてみるか)

 

一夏が行っている訓練の目的は零落白夜に使用するシールドエネルギーを少しでも残すために、回避行動を慣れさせるというものだが、その成績は全弾命中で芳しくない。

訓練の結果がそのまま生死に直結する戦場に生きてきたからこそ、エースは手加減することなく全力でやっているのもあるが、それ以上に一夏はまだISに慣れていない。

生身の人間が前方から飛来してきた物を左右へ避けるときは反射的につま先に力を入れて跳ぶが、ISは常に浮遊しているため跳ぶことが出来ない。

その代わりにウィングスラスターやPICがあるのだが、一夏はその生身での動きが残っている為判断が少し遅れ、回避行動を取るまでに僅かに時間が掛かる。

そしてその僅かな時間が敵の攻撃を被弾する許す事になる。

人間という地に足を付けて生きる生命が空を飛び戦うというのは並大抵では慣れる物ではない。

そして慣れるためには時間が必要になる。

ISの操縦技術がISの操縦時間に比例する例の一つだ。

しかし、それを克服すれば動きが格段に良くなる証明でもある。

一夏はまさに熱した鉄でエースが全力で打てば打つほどその強度は増す。

 

「大丈夫一夏?タオルあるよ」

「いいよ汚しちゃうから。それよりも見てみろよ全身ピンク色だぜ?ハハハッ」

 

エースが水を補給している時間を見計らい、関わりを持とうと必死になっている女子達から逃げてきたシャルロットがタオルを持ちながら一夏に話しかける。

痛みはないとはいえ、集中し続ければ人は疲れる。

そして、疲れている最中にすっと差し伸べられる優しさは心に沁みるだろう。

普段以上の人懐っこい笑みを浮かべながら一夏は陽気に笑い、シャルロットもクスクスと小さく笑う。

もしシャルロットが着ている制服が女物ならば、ただのカップルにしか見えない一夏とシャルロットの会話を聞きながらエースは青色の塗料を水に入れ、水鉄砲のタンクに注いでいく。

そして水を入れたタンクを水鉄砲にくっ付け、エアタンクに空気を入れるポンプを上下に動かし、水鉄砲の銃口を一夏へと向ける。

 

「織斑再開するぞ。デュノア濡れたくなければ離れろ」

 

エースの手に持つ物は市販でも普通に売られている、ちょっと性能がいい程度の水鉄砲だが、一夏はシャルロットとの会話で緩んだ頬を引き締めエースを強く睨みつける。

ISがただの水鉄砲如きに負ける訳がない。

脳ではそう理解している一夏だが、水鉄砲だとしても殺してやると言わんばかりの気迫を放つ人間を前に萎縮しない為にも、例え虚勢でも強く見せようとしているのだ。

 

「頼むエース」

 

一夏の言葉にエースは静かに頷き、水鉄砲のトリガーを少しだけ引く。

勢いのない青色に染色された水が銃口から飛び出るが、たった1mしか離れていない人間に当てるには容易い。

 

「ふっ!」

 

一夏は息を短く吐きながらウィングスラスターを起動し、右へと体を傾けながら飛来してきた水を避ける。

だが、その直後に一夏を追いかけようと地面を抉るまでの力強さでエースは駆け出し、一夏の進行方向に向けて水を置くような形になるように、トリガーを引く。

真っ直ぐに飛ぶ普通の銃弾とは違い、勢いはないものの水鉄砲だからこそできる簡素な罠に一夏は左へと体を傾けウィングスラスターを起動しようとするが、その前につま先が動く。

結果的に回避行動は取ったものの一夏のピンク色の装甲が今度は青色に染まった。

 

「当たっちゃうなー何でだろ?」

「まぁ次第に良くなるさ。所で今後突発的に訓練をするときに備えて少しお前のISデータを貰いたい。いいか?」

「あぁいいぜ。やっぱり男同士の方が気楽でいいや。訓練とはいえ若い女子に囲まれるのは緊張してどうもな……」

 

そう言いながら腕を組んで顔を顰める一夏にエースは安堵する。

鈍感を抜いてもあまりにも女子に対して無反応過ぎる対応を時折見せる一夏にエースはあらぬ疑惑を持ちつつあったのだ。

しかし、一夏は周りにいる生徒と比べてスタートラインがあまりにも遠すぎて、今は周りに追いつこうと日々ISを乗る一夏に恋愛をするような心理的な余裕がなく。

重要な部分だけは聞き逃すのは一夏が無意識にISの訓練に集中できるよう耳栓をしている。

エースはそう思考した後、あまりの無意味な考えに頭を痛め、気分転換に矛先をシャルロットへと向ける。

 

「だってよデュノア君」

「な、何のことかなーエース君?アハハハ」

「何でそこでシャルルの話が出るんだよエース?」

「さぁな。次は水風船も全力で投げるから気を付けろよ」

「良し来い!」

 

その日の回避訓練は別のグラウンドで行われた。

懲罰用の特別メニューにより、倒れるまでパワーアシストをカットした状態のISで走り続けろと指示された箒とセシリアが、文字通り倒れる限界まで続き、その間青式や緑式といったカラフルな色に染められた一夏の姿を見た千冬が吹き出した姿を見た者は僅かである。

 

―――――――――――――――――――――――

 

防犯カメラに映る一夏とシャルロットを見ながらエースは目の前に座る生徒会長こと楯無と雑談を交えていた。

エースは職業柄世界情勢を知るために新聞やテレビのニュース等は見るが、漫画を読む暇もテレビドラマを見るはない。

趣味等で話すことが出来ずに盛り上がりに欠けるが、お互いに気を使いあい、特に苦することなく時間を過ごしていた。

しかし、楯無の一言がエース‎に呆れを大量に含めたため息を出すことになった。

 

「そういえばエース君って、六月の末に行う学年別個人トーナメントに優勝した子には一夏君かエース君のどちらかと付き合う権利が貰えるって知ってる?」

「はぁ……何だそれは?」

「女の子だけの秘密だったけど。一夏君はともかくエース君は突然言ったら怒りそうだから」

「怒りはしないが呆れているよ。まぁたった二人しかいない上に俺の面は女受けはいいとは思ってるよ」

「自分で言うそれ?」

「自覚がない上に無差別に惚れさせる奴よりはいいだろう。それに女も顔が良ければ男は掃いて捨てるほど寄ってくる。違うか?」

「……否定はしない」

 

更識家の令嬢としての付き合いで様々な厄介があった。

その厄介な事を思い出したのか苦々しい表情を浮かべた楯無に、エースはまだまだ言い足り部分があったのだが、ただの16の少女相手に夢も希望も浪漫もない辛辣な話をする気もない。

それ以上に機嫌を損ねたら敵対しかねないので言及を止めて、財布から五百円硬貨を取り出す。

人間、嫌な事を思い出しても他に意識を集中させればすぐに忘れられる。

簡単に用意できてルールも単純。

その上賭けでもすれば緊張感も煽れるのでコイントスはまさにうってつけと言う訳だ。

 

「勝負だ。当たったらデート一回」

「あら積極的ね。お姉さんの魅力に気が付いたのかしら?」

「利用価値のある女だとは思ってるよ」

「嘘は嫌いだけど正直過ぎるのもどうかと思うわよ?」

「表裏どっちだ?」

「見事にスルーするわね……裏で活躍する暗部組織なだけに裏で」

「背中を刺されない程度に聞き流すのが人間一番生きやすいのさ。じゃ表」

 

金色に輝く硬貨を親指に乗せ、軽く指で弾く。

照明の光が硬貨に当たり、光をあちこちに反射させながら重力に引かれ落下する。

エースは右手の甲で受け止め、すぐに左手で硬貨を覆い、そして左手をゆっくりと右手の甲から剥がす。

硬貨に描かれていた絵は桐の花、つまり表だ。

 

「デートだな」

「あら楽しみにさせてもらうわね」

「言っておくが楽しくないぞ」

「そういうことを最初に言っちゃダーメ。まぁデートには期待せずにエース君の言う計画には楽しみにしておくわね」

「なんだ。デートをする気は最初からないと見える」

「私は安くないわよー」

 

軽くあしらってみせた楯無にエースは苦笑いを浮かべつつ両手を広げて肩をすぼめた。




Q:IS世界の戦場
A:戦車や戦闘ヘリ等が短期決戦の使い捨て前提でバンバン出てきそうです。
ISだけに軍事すべて任しているとは思えませんがそれでも廃棄するにも金がかかるものですし、どこでもいいから売ってしまえと考える企業もいそうです。
そしてテロリストもISによって職場が奪われ元軍人がいて、現役だったころのコネを使って回した等も考えられます。

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