IS×AC<天敵と呼ばれた傭兵>   作:サボり王 ニート

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ヒロインとのいちゃつき要素がほとんどないですね(目を逸らしながら)


21 クラス対抗戦 後編 疾走者は戦場を駆ける

再び鳴り響く警報ブザー。

モニターに映る新たな無人機は先ほどよりも異形な何かだった。

決定的な違いはまず人型ではない。

エースが見た無人機は二つとも両腕が異常に巨大なだけで人型ではあった。

だが、これは例えるなら翼が付いた鉄の処女。

小さな突起や線が走る芸術家が作り上げたかのような細かな所まで手の込んだ意匠、そして体はどこか古風な雰囲気を出しているがそれに比べて両翼には羽の代わりに明らかにまで近代の最新兵器と主張する三門の細長い砲身、そして穏やかな表情を浮かべる聖母マリアを象られているはずの顔の部分は片目が抉り取られているかのように欠損されており、悲痛な表情を浮かべ、残されたもう片方の目は血走り、狂気に満ち溢れていた。

何を思って統一感のないデザインしたのかは製作者のみ知る。

しかし、新たな来訪者に興味を示しているのはエースだけの様だ。

 

「システムは!?」

「織斑先生!システムクラック成功、突入可能です!」

「分かった。突入部隊出撃。生徒の避難を最優先。一人飛び出した篠ノ乃も回収!」

 

指示を飛ばす千冬と真耶を一目見て、エースは指令室を出る。

傭兵が立つべき場所は指令室ではなく戦場だからだ。

 

「どこへ行く気だアレス。止まれ」

 

淡々としているが殺気すら感じる千冬の命令。

世界最強という肩書きを持つとはいえただのスポーツ選手がどうやったら出せるのか疑問になるほどの重圧な視線をエースは受け、不敵に笑う。

 

「その命令はキャンセルだ。それに、私がどこに行くのか分からんほど阿呆ではないだろう。仕事もあるし、寝床を荒られて喜ぶ趣味がないのでな。学園に敵が来たから最悪命の危険があると判断し、その最悪の出来事が起きる前に迎撃した。今から戦闘行動を行う大義名分はこんな所か」

「だが、生徒を――」

「今ここに立っているのは生徒エーアスト・アレスではない。ここに立っているのはただのリンクスだ」

「……リンクス?」

 

真耶やその他指令室にいる教師に傭兵と名乗る訳にはいかないので元いた世界での、最強の兵器アーマードコア・ネクストを駆る人々の呼称。

それが何を意味するのかはエースしか知る由も無い。

 

「安心しろ。貴方には迷惑はかけんし、俺は何があったとしても絶対に負けんよ」

 

まるで知人を安心させるかのように、声色を優しくしてエースは言う。

千冬は突然、傭兵としての冷たさも、普段の生徒としての穏やかさ。

どちらの仮面を付けていないエースの本来の性格とも言うべき部分に目にしたせいか、口を閉ざす。

エースはそれを出撃許可と認識し、ピットへ向かって走り始める。

彼は進む、敵を撃滅するために。

彼は進む、何故なら彼は疾走者だからだ。

 

――――――――――――――――――――――――

 

「織斑先生アレス君は……」

「聞くな深入りするな。アイツにはただの戦闘能力だけではない巨大な力がある。下手に関わると命の保障は出来ん」

 

何故一生徒に関わると命の危険があるのか。

教師としての矜持が真耶を悩ませる。

 

「……篠ノ乃さん、凰さん、無事は第二アリーナから撤退しました。織斑君は気を失ってますがISが守ってくれたそうです。行きますか?」

「そうか。オルコットには引けと行っておけ。行くのは全てが終わってからだ」

 

姉と教師、教師とブリュンヒルデ。

一人の少年と一人の男性のせいで千冬にも矜持があるので頭を押さえて悩む。

 

「……上手くいかんな世の中は」

 

ふと過去の思い出を千冬は思い出し、感傷に浸った。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

セシリアは気を失った一夏やシールドエネルギーが減った鈴の撤退を援護した後、静かに闘志を燃え上がらせていた。

 

(よくも一夏さんを!!)

 

セシリアはISによって女尊男卑の社会が生まれる前から男を見下していた。

その理由はいつもオルコット家の貴族として家のために尽力した母に婿養子としてオルコット家に父は色々と引け目があるとはいえ情けなく頭を下げる姿を何度も何度も見てきたからだ。

幼心にはそれが卑屈な態度と感じ、母を邪魔している父に比べ、凛々しく堂々としている母を尊敬していたセシリアは心に決めていた。

将来は情けない男とは結婚しない。

しかしそれはISの登場によって男性の立場が下がり、女尊男卑の社会を受け入れた同学年の男性達を見て失望し、理想の男はこの先出会えないと思い始めてきた頃にその男が現れた、それが一夏だ。

家族を守る。

ただその意志だけで、素人と代表候補生という圧倒的な状況の中でも媚びず、諦めずに果敢に攻めて、負ける一歩手前まで追い込んだ強い意志を持つ一夏にようやく理想の男と出会えたと理解した瞬間。

この人しかいない。

簡単に言えば惚れたのだ。

そしてその惚れた人間が傷つけれられた。

 

「この私、セシリア・オルコットがその気味の悪い顔を吹き飛ばして差し上げますわ!ブルー・ティアーズ!!」

 

この怒りをセシリアは動かぬ敵の代わりに、動いている敵にぶつけるということだ。

セシリアはブルー・ティアーズを展開。

レーザービットに脳のイメージを送り、鉄の処女の前に二機、死角に二機にビットを配置する。

 

「オルコット!お前も引け!勝手に出撃しているんだろう!」

「嫌ですわ!絶対に引きません!さっきから動いていない敵なんてすぐに片付けて差し上げますわ!!」

 

教員の一人がセシリアの肩を掴み、無理矢理ピットに引き込もうとするが、セシリアは手を振り払い、スターライトmkⅢを構える。

左目を射撃モードに移行、セーフティを外し、トリガーに指を掛ける。

射程、弾速、威力減衰、ISは既存の兵器に使われるFCSを使われていないために弾や予測射撃は自分で行うしかない。

セシリアは動かぬ敵にも油断せず瞬時に考え。

トリガーに掛けていた指を引く。

スターライトmkⅢの反動をPICで押さえ、銃口から飛び出るレーザーがハイパーセンサーで、鉄の処女の右側の小さな突起や線から青白い光が出たと同時に左へ大きく動き、外れるのを見た。

 

「な!避けた!?」

 

セシリアは驚きの声を上げる。

一瞬にしてすぐに反撃できるように配置しておいたビットからも逃げられるほど動いていたからだ。

 

「イグニッション・ブーストよりも速い!」

 

教員は敵が厄介と判断し、セシリアを引っ張りピットへ逃げようとしたが。

鉄の処女は動き出す。

キィっと金属が擦れる音を立てながら前面の扉が左右に分かれる。

本来は棘があるはずの空洞には。

片面三十三発、片面三十三発計六十六発のミサイルが埋まっていた。

 

「ミサイル!」

「ちぃ!ブレードしかねぇぞ!」

 

放たれるミサイルの弾幕。

セシリアは展開していたレーザービットを乱射する。

ビットから放たれるレーザーがミサイルを次々と射抜き、第二アリーナに爆炎の花火が上がる。

 

「うぉらぁ!!」

 

教員もウィングスラスターを吹かしてたった二つしかない斧の様な大型ブレードを振るい、目にも止まらぬ速さでミサイルを斬り捨てる。

セシリアは一発一発正確に、対する教師は強引ながらもブレードを振るうたびに二~三発。

それに加え近接武器でミサイルを斬るという無茶をしながらも、斜めに滑るように動いて大量のミサイルを掻い潜り、被弾を許さない。

 

「行くぞおおぁぁあ!!」

 

それどころか鉄の処女へ接近し、ブレードを振りかぶる。

しかし、それも青白い光が出ると同時に鉄の処女がまるで消えたかのようにいなくなり、ブレードは空を斬る。

そして鉄の処女の扉が再び開かれ、ミサイルの弾幕が降り注ぐ。

 

「クソ何だありゃ!」

「先生!私が――」

「グダグダ言わずにさっさと逃げろ!おい援護!」

 

教員の声に、一夏達を避難させていた四人の教員達も参戦して、セシリアを庇うように前へ出ながらマシンガンでミサイルの弾幕を迎撃する。

ミサイルと銃弾の弾幕。

始めは均衡していたが、銃は使用していれば弾を補充しなければならない。

弾を補充するために一回一回、量子化されたマガジンを具現化させ、銃に詰めるのは中々に時間が掛かる。

それに対し、ミサイルは撃ったらすぐに再装填され、迎撃せねばならないミサイルの量が増えていく。

そして敵の武器はミサイルだけではない。

両翼の六つの長細い砲門が、銃で迎撃していた教員の一人に向けられる。

砲身の先端から白い光が集まり、甲高い機械音を立て。

高出力のレーザーが発射される。

そして六つの砲身から飛び出たレーザーが絡まり、一つの巨大なエネルギーの塊になって飛ぶ。

ミサイルの弾幕と破壊されるたびに生まれる黒煙に隠されたその攻撃は、自ら飛ばしたミサイルを破壊し、黒煙に巨大な穴を開けながら進み。

 

「ッ!!」

 

声を上げることも出来ぬまま、巨大なエネルギーによって壁にまで押しつぶされ、そのままラファール・リヴァイブの装甲を破壊され、全てのシールドエネルギーを絶対防御に変えなければならないほどの攻撃を直撃し、具現維持限界まで迎える。

死んではないとはいえ、押しつぶされた衝撃や熱の痛みを全身に刻まれ、教員は意識を奪われる。

セシリアは仇討とばかりにスターライトmkⅢを撃つが、鉄の処女は再び青白い光を出しながら躱すため当たらない。

 

「よくも!」

「引け!守り切れる余裕がない!!」

「嫌ですわ!自分の身くらい自分で守って見せますわ!」

 

生徒を守る役目を果たそうと、ブレードのみで何度も何度も飛びかかるミサイルを斬る教員の声をセシリアは拒否してレーザービットを再展開。

一人動けなくなったことで一セット六十六発のミサイルを五人で対処しなければならない。

単純に割っても十三発。

視界を覆い被さるように迫りくるミサイルに対応するセシリアは怒りで完全に冷静さを失っていた。

ただでさえBT兵器を使用するためには極限にまで高められた集中力が必要だというのに、冷静を失っていては攻撃が当たる訳がなく。

 

「危な!」

「う……」

「オルコット引け!誤射する前に!」

 

味方であるはずの教員にレーザーが当たり掛けるという失態までしてしまい。

セシリアは勝手に出撃する前に、千冬から言われていたことを思い出す。

 

「お前は一対複数の複数側になった時に邪魔になる」

 

そんなことはない。

セシリアは思い出した言葉をすぐに否定したが。

邪魔。

今現在戦場に立つ、教員達からは言葉も視線もいらない雰囲気だけで伝わる感情に、かつて父に対して抱いて感情が、今度は自身にぶつけられセシリアは手に持つスターライトmkⅢを震わしながら戸惑う。

 

「私は……私は……」

 

代表候補生、貴族の誇り。

その称号を得るために努力をしたセシリアの最も自慢するべき物が、周囲には邪魔と評価された。

ガラガラ。

自慢が音を立てて崩れる音色がセシリアには聞こえた。

ふとセシリアはミサイルを放つ、鉄の処女と目が合った。

醜い。

そうとしか表現の出来ないはずの顔に、イギリスの令嬢と持てはやされていた自分が見下されている。

セシリアは間違いなくそう感じた。

 

「…………」

 

動かぬセシリアに、動く鉄の処女の羽が無慈悲に向けられる。

そして放たれ、迫りくる白い光と。

その射線上に立つ教員の姿がコマ送りのように流れてセシリアには見えた。

 

「おおおおおおおおおお!!」

 

教員はセシリアを覆い被さるように庇い、背中に巨大なエネルギーの塊を受け止める。

教員とセシリアは先ほどの別の教員のようにレーザーに押され、セシリアは地面と教員に挟まれると思い、その痛みを堪えるために目を閉じる。

 

(……痛くない?)

 

レーザーが放たれる機械音と地面が震える振動。

今現在攻撃されているはずなのに発生するはずの痛みがない。

その理由を調べるためにセシリアは恐る恐る目を開ける。

 

「ぐっ……うっ……」

 

そこには二本のブレードを地面に突き立て、背中と両腕の力だけでレーザーに押しつぶされそうな体を支えている教員の姿だった。

 

「あ……あぁ……」

「逃げ……ろ!」

 

自身がもっと連携訓練をしていれば、教員の言葉通り引いておけば起きなかったであろう光景を見てセシリアはショックで凍りつく。

目の前で苦痛に顔を歪める教員を見て、何も出来ない不甲斐無さ。

セシリアはそれを嫌と言うほど味わわされた。

そしてレーザーの攻撃が止み、続いて迫るミサイルの弾幕。

迎撃する人数が減り、尚且つ倒れた人間も庇わなければならない状況で六十六発もあるミサイルを迎撃仕切れるわけがなく。

一人、また一人とミサイルの爆炎に沈む。

第二アリーナ内で無事なのはもはやセシリアだけになった。

だが、鉄の処女の攻撃は止まらない。

再びレーザーキャノンの照準がセシリアへと向けられる。

敵にロックされています。

ISから送られる情報を頭で理解しながらもセシリアはすでに恐怖で動けない。

視界が僅かに滲む中、迫りくるレーザーをシールドエネルギーが底を付き、間違いなく危険な状態だというのに今度はブレードを盾にして構える教員の姿が入る。

 

「扱いづらい生徒置いて教員が倒れるわけいかねぇだろ行くぞおおぁぁあ!!」

 

教員は両の足をしっかりと地面に付け、ブレードを交差させレーザーを受け止める。

エネルギーの塊にブレードはその熱量に焼き爛れ始めるがそれでも教員は地面に膝を付けない。

教員としての役割をただひたすらに果たすべく気丈に立ち続ける。

しかし、それでも限界がある。

徐々に押され始め、教員は咄嗟にウィングスラスターを盾にして再びセシリアを覆い被さる。

セシリアはラファール・リヴァイブのウィングスラスターが壊され、すでにシールドエネルギーが底着いた教員に迫りくるレーザーに。

止まって。

叶うはずもないその願いを念じ始める。

最悪の光景を思い浮かべセシリアはその覚悟出来ぬままレーザーを見続ける。

 

「おい」

 

セシリアの視界に、青緑の光を放ちながら身の丈の倍以上はある巨大な兵器を携える黒色のISの姿と、ひどく冷たい声を聞いた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

時間は少し遡る。

 

アセンブル――

HEAD

HILBERT-G7H

CORE

C01-TELLUS

ARMS

AM-LANCEL

LEGS

ARGYROS/L

 

R―ARM WEAPON

NONE(装備なし)

L―ARM WEAPON

HLR01-CANOPUS(ハイレーザーライフル)

R―BACK WEAPON

NONE(装備なし)

L―BACK WEAPON

XCG-B050(チェーンガン)

 

「最初からミッションのために戦うつもりだったとはいえ、少し時間をかけ過ぎたか……敵が強くてよかった。まったく、量子化とはつくづく便利な機能だ」

 

二機目が襲来してから十分経過した。

試作品をIS学園の港にあるコンテナから引っ張り出し、ピットに置き終えた頃には最悪戦闘は終わっているとエースは考えていた。

突入部隊は五人でISラファール・リヴァイブを装備している。

一夏達を回収とその護衛をするために四人使ったとしても、代表候補生のセシリアがいる。

一定距離を保ちながら攻撃すれば数の力によって勝てるはずだ。

だが、エースはレーダーにて教員達が全滅中であることに一種の感動を覚えながら試作品を手にする。

R―ARM WEAPON

QuadPhalanx(四門ガトリング)

R―BACK WEAPON

QuadPhalanx(四門ガトリング)

クアッド・ファランクス。

25mmの七つの砲身を四門持つ約4~5mのガトリング。

設計思想は通常兵器でのIS撃破。

攻撃力の代わりに弾数を増やしたことによる重量と元々は四門も同時可動させることを想定していないガトリングを無理矢理四つくっ付けたその反動故に現時点固定せねば使えないという、圧倒的な機動力を誇るISを相手にするには厳しすぎる条件があるが一度ISの動きを封じることが出来れば圧倒的な連射速度でISを固めて、機動力を潰したまま撃破出来るという代物だ。

 

「PCを弄って良かった」

 

エースは本来は固定する必要がある物を自身と本来は十mの巨体であったディターミネイションのパワーで持ち上げ、用意しておいたコードに繋ぐ。

するとディターミネイションから一つの情報が送られる。

 

――不明なユニットが接続されました――

 

ディターミイションはISとは全くの別物なのだからIS用の武器に接続したらエラーが出て当然だ。

エースは勿論予測しているので、エラーを解消するべく、続いてシステムをハッキング、クアッド・ファランクスを動かすためのエネルギーとシステム側の使用許可命令を送る。

 

「さて、仕事を始めよう」

 

自身の体の倍以上はある巨大な武器を右側に携え、エースはカタパルトに乗って、クアッド・ファランクスのズルズルと床に引っ掻きながらピットから飛び出し、メインブースターを起動。

ピットから出た直後に、かつてIS学園の実技試験で勝手に自滅した相手がセシリアを覆い被さろうとしている姿を視界で捉えた。

OBを起動、QBを合わせながら時速2000kmは達するほどの速度でレーザーの射線上に立ち塞がり、左手に持つCANOPUSを放つ。

CANOPUSの銃身を冷却させる時に発せられる炭酸が弾けるような音を立てながら放たれた高出力レーザーが敵へ。

敵から飛んでくるレーザーにはPAと、エネルギー兵器には滅法強いTELLUSの装甲で受け止める。

CANOPUSのレーザーをまるでネクストのQBように躱す鉄の処女と冷却によって出る蒸気と、それなりに減ってしまったAPをACのシステムから脳へと送られた情報を見ながら、レーダーで大量に映っていたミサイルを対処するための物を呼び出す。

アセンブル――

SHOULDER WEAPON

GALLATIN02(フレア)

ハッチを開け、電波、光波ホーミングのミサイルならばイメージングセンサを使用した物でも一時的に麻痺させる光学フレアを上空へと射出。

ミサイルが目標を失い在らぬ方向へと飛んでいく様を見て、フレアが別世界でも通用することにエースは安堵した。

そして改めて現状を確認する。

倒れる五人の教員の姿と、軽いPTSDになりかけているセシリアの姿を。

 

「おい」

 

フレアを使い、大半のミサイルを騙しながら、エースはXCGーB050を使用してミサイルの弾幕に対抗する。

エースはあくまでも正当防衛、つまり身を守るために武力を使っているということなので、味方ではない教員を助ける義務も、セシリアを守るために力を振るう義務はない。

だからこそ、義務がある人間へと声を掛ける。

 

「何を座り込んでいる。立て。立って動いて見せろ、動いて助けてもらった人間に恩くらい返して見せろ」

「ですが……私は……」

 

CANOPUSを再び、鉄の処女へ向ける。

銃口下部にあるセンサーから照準用の弱レーザーを当てる。

一次ロック完了。

続いてFCSと弱レーザーの情報とリンク、FCSが敵の動きを予測する。

二次ロック完了。

 

(これで当たらなかったら試作品も使おう)

 

エースはCANOPUSを発射、眩い青いレーザーと共に再び銃身が冷却される音を聞きながら、敵の動きをしっかりと見る。

QBを起こしているであろう原因、青白いエネルギーの光の様な物を出した途端、鉄の処女は突如何かに押されたかのように動き始めのを確認した。

だが、FCSはその動きも予測済みなので、レーザーが本体に直撃こそしなかったが左翼にある一門の砲身に当たり焼き切る。

 

「何があったかは知らんが勝てない相手に無策に挑む馬鹿は俺は笑う。が、しかし。出来んことを理解して出来んと言える人間を決して笑わない」

「…………」

「貴様に出来ることは何だ。セシリア・オルコット」

 

ミサイルが再び迫る。

セシリアを守るべくフレアを射出しながらエースはOBを起動、ミサイルの群の中央に向けてCANOPUSを撃ち、ぽっかりと空いた穴に突撃する。

ミサイルはエースを追うために中心に集まり始め、そのためにミサイルが次々と別のミサイルに当たり、自爆する。

CANOPUSとXCG-B050をパージ、そして新たな武器を呼び出す。

アセンブル――

L―ARM WEAPON

LB-ELTANIN(レーザーブレード)

L―BACK WEAPON

RC01-PHACT(レールキャノン)

鉄の処女から新たにミサイルが装填され、今まさに射出しようという所で。

エースはRC01-PHACTを撃ちこむ。

銃口から発砲された電気的エネルギーを纏った銃弾が超高速で鉄の処女へと向かっていく。

鉄の処女は咄嗟に扉を閉じて、ミサイルの爆発によって内部から爆散することは防いだものの、レールキャノンの速さと貫通能力は避けることも許さず、シールドエネルギーを纏った扉を貫通させる。

続いてエースはLB-ELTANINを起動。

逃げられる前にQBで接近し、ブレードで上から降りおろし、右翼の付け根を斬り落とす。

鉄の処女は再び青白い光を出しながら一度距離を取って、反撃に左翼の二門の砲をエースへと向けレーザーを放つ。

QT、QB。

メインブースター、サイドブースター、バックブースターのノズルからコジマ粒子を含んだプラズマの光を辺りに撒き散らしながらディターミネイションは空を舞う。

そして空を舞う鋼鉄の人間は、セシリアの前へと降り立ち、左手でその頬を強かに叩く。

殴らなかったのはビンタの方が恐怖以外の感情を呼び起こせるからだ。

 

「もう一度問う。貴様の出来ることは何だ。セシリア・オルコット。有りもしない誇りに縋り、勝てない相手に挑み無様に負けるか?恐怖に押しつぶされ無能なかかしになるか?」

「かかし……」

 

入学当初に言った侮辱の言葉をそのままそっくり返される。

これほど屈辱的な言葉はないだろう。

だが、エースは言葉を止めない。

 

「動け。動けるのであれば這ってでも動き続けろ。貴様の今すべき貴族の義務(ノブリス・オブリージュ)は何だ?」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

貴族の義務つまり、力ある者が、下々のために成さなければならない仕事。

 

「私は……」

 

ISという力があるのに一人で、目の前に救助が必要な人間を捨てて逃げる。

自分が思いついた仕事をセシリアは拒否する。

その救助者が自分のせいで生み出してしまったのだから。

 

「私はかかしではありませんわ!」

「では、貴様は誰だ?」

「イギリス代表候補生にして貴族、セシリア・オルコットですわ!有りもしない誇り?そんなことありません!誇りがあるかどうか決めるのは私ですわ!!」

 

セシリアは思いの丈を全てエースにぶつける。

不思議と息が荒くなっていることに気が付いたセシリアは深呼吸を繰り返し、強い意志を持ってエースを見つめる。

 

「……了解した。では、お前の出来る仕事を頼んだ」

「はい!」

 

淡々としてひどく冷たかったエースの声が、ふと柔らかみのある物に変わる。

同い年のはずなのにまるで上司や年上の人間から頼られたかのような錯覚を覚え、セシリアは勢いよく同い年相手に対しては少しおかしな返事をした。

その事に気が付き、頬を赤くしたセシリアだが、エースは興味を無くしたかのように背を向けていた。

 

「悪いが私には誇りというものが理解することが出来ん。だが、刻んだぞ。お前の答えを」

 

発言内容を一部反論したかったセシリアだが、それだけ告げる男の背は10mも高く大きなものに見え、口を閉ざす。

瞬間、目の前から消えたかのようにいなくなった男にセシリアは一つの感想を抱く。

 

(もう一人、強い意志を持つ人がいましたのね。一夏さんには負けますが)

 

上空高くで、青緑色の光を散らしながら飛ぶエースの姿を見ながら。

セシリアは身を挺して守ってくれた教員達に心から感謝しつつ、自分の出来る仕事を開始した。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

エースはRC01-PHACTを構え、ロックオン。

RC01-PHACTの一撃は危険だと判断した鉄の処女が右へ左へと大きく揺れる。

 

(面倒だが……そろそろ終わらせよう)

 

RC01-PHACTをパージ。

アセンブル――

L―BACK WEAPON

OSAGE03(垂直ミサイル)

 

ミサイルカーニバルです。

 

ORCAに加わる前に、自身が殺したORCAのネクスト。

PQが使用していた二つのミサイルの内の一つを呼び出す。

コジマミサイルはセシリアが第二アリーナにいるので、無害化されたとはいえ多量のエネルギーを持つ粒子を周囲に大量に撒き散らすわけにはいかないので自重した。

鉄の処女をロック。

一切止まらず動き続けているのに二次ロックが出来ないがエースはそれでもOSAGE03に発射命令を送る。

ハッチオープン。

六発のミサイルを発射させ、エースはOBとLB-ELTAINを起動。

真上に発射されたミサイルはFCSとのリンクが十分に出来ていない為、あまり追尾しないがそれでもミサイルを避けるために動く鉄の処女に迫り、大きく動いた直後の僅かな硬直時間を狙いブレードを振る。

シールドエネルギーを消費して作られる絶対防御と純粋にまで高められた電気的エネルギーの力がせめぎ合い、光を散らすがエースの持つエネルギー武器はどれも、ISの扱うものに比べれば出力が規格外だ。

鉄の処女の表面を浅く斬り、そのまま左脚で蹴り飛ばす。

そして蹴られた衝撃によって怯んだ鉄の処女に、デュノア社試作品クアッド・ファランクスにエネルギーを送り弾丸を撃つために砲身を回転させ、前へ突き出す。

ハッキングして無理矢理使用可能とさせた物なのでFCSがロックしてくれる訳がないので狙いは目視となるがエースは冷静に狙いを定め。

 

「醜い顔だ可愛そうに」

 

鉄の処女の作品としての感想を述べ、クアッド・ファランクスを撃つ。

低く唸るようなモーターの回転音と銃弾が空を切る轟音、ジャラジャラと排出されていく薬莢達が破壊の音楽を奏で、四門から毎秒約60発の弾丸を射出。

エースはクアッド・ファランクスの反動をブースターの推進力とACの高精度バランサーで封じ込み、本来は砲台として扱うはずの兵器を難なく扱う。

鉄の処女はクアッド・ファランクスの弾から逃げようとするが弾の衝撃によって固められ、身を守ろうと絶対防御を発動させるが、弾の連射速度が絶対防御を飽和させる程の速さで装甲を削る。

無人機の最後の抵抗を二度も見てきたエースは慢心せずに、鉄の処女が無残な鉄塊に変わり果てるまでクアッド・ファランクスを撃ち続け。

熱によって使用不可となったガトリングをコードごと捨て、再びLBーELTAINを起動させる。

袈裟斬り一閃。

鉄塊を斬り捨て、元々顔だった場所にに埋まるように鎮座していたコアを引き抜いた。

そして、千冬が見ているであろうモニターに見せつけるように、用意しておいた色と姿形が一緒なだけの偽物のダミーのコアをブレードで破壊して。

 

(取っておこう。交渉の道具に使える)

 

こそこそとクアッド・ファランクスの影に隠しておいた、争いの種にしかならない本物のコアをクアッド・ファランクスの弾倉に入れた。

 

 

 

 




Q:無人機(二号機)について
A:完全にオリジナルISですのでしっかりと解説します。
  ゴーレムⅡ(何故原作にないんだ)。
  人型ではなく鉄の処女の形で作られた顔については作者の束の性格を表したつもりです。
  66連装マイクロミサイル。
  破壊天使砲もとい、三門レーザーキャノン×2。
  青白い光云々=展開装甲。
  エネルギーをブワーと出して横QBのみ出来るように束さん製QB。
  対エース用のはずが、一発一発しかミサイル処理できないという意味ではいつのまにか対セシリア用になっていた無人機ちゃん。
  弾幕の中に本命を隠すというAC4~VDのオンラインでよくある戦法を取ってくる厄介な奴です。
  ミサイルですが火力を補うために数を用意した赤外線誘導アクティブ方式。
  レーザーキャノンですがシールドエネルギーを使用することで疑似雪片砲を撃ってることにしてくださいじゃないと攻撃力が証明できないので。

  展開装甲ですが私は電気的エネルギーとシールドエネルギーを自由に変換できる束さん印の特殊技術で絢爛舞踏も電気的エネルギーをシールドエネルギーに変換させるものだと思ってます。
  ただし人しか出来ない制約付き。
  詳しくは福音戦で。

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