IS×AC<天敵と呼ばれた傭兵>   作:サボり王 ニート

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後編は一週間後くらいかな(適当)
対抗戦後はオリジナル展開増えそうです。
因みに原作ではラウラとシャルは同じ日に転入しましたがアニメ版のように少し時期をずらします。


20 クラス対抗戦 前編 一般人は戦場に出会う

君の戦闘での動き。

 

例えるならScorcher(疾走者)だな。

 

全てが停まって見える私が見切れぬほどの速さで立ち塞がる障害を何もかも、黒く焼き尽くしながら前へとひたすらに駆け抜ける者。

 

怖い怖い。

 

ハッキリ言って私は君を恐れている。

 

ORCAランク一位の座もすぐに奪われるだろう。

 

何故そんなことを言うのかって?

 

それは勿論。

 

私が臆病者だからだ。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

クラス対抗戦当日。

アリーナ全席が埋まり、通路に立っている人物やモニターで観戦しようとする生徒や学園関係者がいる中。

第二アリーナ上空に浮かぶ二つのISがあった。

片方は一夏の白式。

もう片方は実用性と効率化を主眼においた近・中距離両用型のIS。

ブルー・ティアーズに比べると力強さと堅牢さを感じるゴツゴツとした装甲に丸い非固定浮遊部位を持つ中国が開発した第三世代型IS甲龍だ。

 

「一夏!一回しか言わないからちゃんと聞きなさい!」

「な、なんだよ……」

 

戦闘前なのに相手の視線や息遣いといったどう動いてくるのだろうか。というプレッシャーから来る緊張とはまた違った緊張した顔をしている鈴に一夏は気後れする。

そして戦闘開始を告げるブザーが鳴り響くと同時に、鈴は口を大にして言い放つ。

 

「ビンタしたことについてはごめん!でも勝負に手は抜かないから!」

「……え?グッ!」

 

素っ頓狂な声を出した一夏に突然見えない弾が当たったかのような衝撃が体を巡る。

何故ダメージを受けたのか。

一夏は突然やってきた衝撃に慌てず冷静に考える。

しかし、そんな暇を与えるほど鈴は素人ではない。

両手に持つ青龍刀としては巨大な刃を持つ双天牙月を連結し、バトンのように軽々と振り回しながら一夏を斬る。

一夏は雪片で回転によって力が増している双天牙月を、シールドエネルギーを代償にすることによって形成される光の刃で捌く。

一回二回と金属がぶつかり合う高音を奏でた後に、鈴は一夏との距離を離す。

 

「さっきのはジャブだからストレート行くわよ一夏」

 

甲龍の非固定浮遊部位の装甲がスライドされ一つの装置が現れる。

そして、装置の中心にある穴が一瞬光ったかと思ったら、鈴のストレートの言葉にふさわしい先ほどに比べるとさらに強い衝撃が一夏の体を吹き飛ばす。

 

「ッ!?弾が見えない!」

 

無茶苦茶に動き回りながら回避行動を始める一夏の言葉通り、鈴が放つ物は弾が見えない。

理由は鈴が使う武器は固体ではないからだ。

 

「結構躱すじゃない。これ衝撃砲、龍砲って言うんだけど砲身も砲弾も見えないのが特徴なのに」

「ご高説どうも」

 

龍砲はPICの応用によって生まれた兵器だ。

空間そのものを圧縮して見えない空気で出来た砲身を形成してその内部に存在している空気を圧縮しつつ、空気中に含まれている水蒸気をISのエネルギーによって熱や電気によって分解し、水素と酸素の混合気を電気着火で爆発させて圧縮した空気を飛ばす。

簡単に言えば空気砲なのだがPICやISの無尽蔵に生み出すエネルギーによって初めて生まれた立派な兵器だ。

龍砲は砲身を大きくすれば打ち出すための力をチャージする為に一発の威力が強くなるが打ち出すのに時間が掛かる。

砲身を小さくすれば打ち出すための力をチャージする時間が短くなるので威力が弱くなるが打ち出すのに時間が掛からないといった風に調整も可能だ。

そして鈴も見えないという利点に酔わずに正確に的確に相手の動きを読んで攻撃をする。

一夏は見えない衝撃に畏怖の念を抱きながらも、手に持つ雪片で鈴を斬るためのチャンスをひらすら待つ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

エースは飛び回る二機をどちらも応援せずにただじっと眺めていた。

そして楯無がどこからか突然現れて、代表戦のように視線合戦をしている女子生徒達のことなんか知らぬといった顔でその隣に座る。

誰が隣に座ろうが最初からどうでもいいとしか思っていないエースは特に気にせず観戦を続ける。

口と耳はしっかりと動かしながら。

 

「エース君ならあの龍砲をどうやって攻略する?」

「砲身も砲弾も見えないようだが所詮、的は一つで、扱うのは人間だ。隙を作って誘い込む、フェイントを仕掛ける、どうやっても当たりそうにない射線に移動するなり攻略法はある」

「じゃあ一夏君が勝てる可能性は?」

「低いな。ISによって立体的な動きが出来るというのに織斑の動きが直線的すぎる。それに加えアイツは間違いなく頭を使って戦う人間じゃない。やられていないのは白式の機動力が高いからだ。しかも、このままでは攻撃に回すシールドエネルギーが尽きそうだしな」

「痛烈ね」

「事実だ」

 

エースの言葉通り、一夏が鈴に負けていないのは白式の機動力が高いので龍砲の攻撃を当たりはしているものの掠っているからだ。

それに加え、避けているだけで攻撃しようとすらしていない。

シールドエネルギーがある内に多少のダメージを覚悟してでも攻撃しなければ勝てる可能性が低いと言われるのも仕方のないことだ。

 

「なら一夏君が勝つにはどうすればいい?」

「織斑は戦いというものを知らない。一か月前にISを触れたばかりなのだから当然と言えば当然だが、まずは白式の特性や武器の特性を理解してそれに合わせた戦術を組みたてなければいけないな。じゃないと勝ててもそれは運だ。織斑の実力とは言えない」

「ふむふむ。参考になるなー」

「聞いてどうする?」

「いつかでも役立つ情報だと思ったら聞きたくなるものでしょ?」

「織斑に手を出す気か?」

「うーんどうしよっかなー。私としては今は君に夢中だからね」

 

楯無の言葉は捉え方によっては甘酸っぱい青春を匂わせるものだが、残念ながら二人はそういった関係ではない。

所詮、二人が仲良くしているのは利害が一致しているだけにすぎないからだ。

 

「暴れ出さないか見張ってないといけないからな」

That's right(その通り)!エース君は攻略難易度が高そうだねー」

 

エースは楯無の言葉を鼻で笑い。

その態度が気に入らなかった楯無が文句を言うが無視して一夏と鈴の試合を観戦することに集中した。

 

「本気で行くぞ」

 

そう言った一夏にエースは何をするのだろうかと期待したが、その期待はすぐ消え去ることになる。

脳内のレーダーが明らかに異形な何かを探知したからだ。

 

(戦闘機、いやISか?……どこから来たか知らんが、まぁ私は好きなように動くとしよう。傭兵らしく、な)

 

エースは椅子から立ち上がり、これから起きるであろう事態に備える。

 

「どうしたのエース君?」

 

楯無はつい数秒前は口は悪いが傭兵として戦場を渡り歩く人間かと疑いたくなるほど穏やかな雰囲気を持っていた男が、既に一度見た恐怖で体を震わせるほどの冷酷な目と傍にいるだけ銃口を突き付けられるかのような鋭い雰囲気を持つ人間に変わったことに怪訝な視線を送る。

エースはその視線に気が付き、自身がこれから起きると思ったことを一つだけ楯無に伝える。

 

「試合結果は中止でノーカウントだ」

「え?ちょ、それどういう。あ、待ちなさい!」

 

静止を呼びかける楯無の声を無視してエースは走る。

楯無もエースを追いかけようとするが、並みの人間ではありない速度で走るエースに度肝を抜かれてISを使わないければ追跡不可と判断し、立ち止まる。

そしてエースが走り去った数十秒後、空からビームのような光と黒い何かが、第二アリーナのISと同じエネルギーで構成された遮断シールドを突き破りアリーナのフィールドに落ちた。

 

「……エーアスト・アレス」

 

楯無の目にはもくもくと煙を上げるすぐ隣にいる敵を映していない。

ただ底知れぬ化け物のどうするべきか、けたたましく鳴る警報のブザーを聞きながら考えていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

一夏と鈴はお互い動きを止めて、落ちてきた何かの衝撃によって飛ぶ煙をジッと凝視していた。

 

「な、何が起きているんだ?」

「一夏試合は中止よ!すぐにピットに戻って!」

 

明らかに異常だと一夏はようやく把握し、それと同時に混乱する。

それに対し鈴は代表候補生として非常時における対処を理解しているのでプライベート・チャンネルを使って一夏にすぐに逃げるように伝える。

しかし、一夏はすぐに行動を移すことが出来ない。

つい一か月前まではただの一般人だったので仕方のない事とはいえ、一夏は自身の生命を脅かす危機に瀕したことがほとんどない。

 

「なっ――」

 

白式が落ちてきた何かをISと判断、そしてロックされている。

つまり、敵は操縦者である一夏を敵として攻撃しようとしていると告げているのだ。

ISには絶対防御があるがこれは完璧ではない。

それを貫通するような武器なら普通に怪我をする。

絶対防御ですら防げない攻撃ならば。

最悪、死ぬことを意味している。

 

 

 

一般人(一夏)は今日初めて自分か相手の心臓の動きを止めるまで、生きるために戦う戦場に出会った。

 

 

 

そのことを一般人(一夏)は理解したかどうかは別として。

 

 

 

「一夏早く!」

 

鈴の声に、一夏はようやくしっかりと現状を把握し、相手のISの情報がまったく分からないので、何かあった時に余裕をもって躱せるようにする、戦闘における基本中の基本である間合いを離した。

 

「お前はどうするんだよ!?」

「あたしが時間を稼ぐからその間に逃げなさい!」

「逃げるって……女を置いてそんなことできるか!」

 

一夏の一番の懸念は、危ないと思っている場に同じくいる幼馴染である鈴だ。

姉が自身を守ってくれたように、誰かを守ることに憧れている一夏にとって守るべき人間が危険な場にいることは一夏にとっては許容できない事だ。

一人だけで逃げるなんてことは一夏は最初から考えていない。

しかし、そんな一夏に対し鈴は釘を指すかのように言った。

 

「馬鹿!アンタの方が弱いんだからしょうがないでしょうが!」

 

遠慮のない鈴の言葉に一夏はついさっきまでの試合を思い出し、最悪ジリ貧で何も出来ずに負ける可能性があったので一夏は押し黙る。

実力は鈴の方が上だと一夏は自覚しているのだ。

 

「別にあたしも最後までやろうとは思ってないわよ。こんな緊急事態すぐに学園の先生達が――」

「あぶねえ!!」

 

話しかけている鈴に向かって、突如煙の中から飛来する高出力ビームを一夏は鈴を抱きかかえながら避ける。

そして、一夏はビームによって空いた煙の穴から黒い機体を垣間見る。

エースのIS同様に全身を包む黒い装甲と常軌を逸した巨大な両腕を持つ黒いISの姿とその両腕から今まさに防護壁を破ったビーム射出せんとエネルギーをチャージしている射出口を。

 

「ちょっと馬鹿離しなさいよ!動けないじゃない!」

「うわ!馬鹿殴るな!」

「いいから離しなさい!こんなんじゃ当ててくれって言ってるようなものよ!」

「だったら避ければいいだろ!」

 

言葉通り回避行動に映る一夏だが、鈴を抱きかかえる姿勢であることと、飛行操縦に慣れていないことため、ふらふらと蛇行するような動きになったためビームが掠る。

 

「お前、何者だよ!」

 

一夏は乱射されるビームを避けながら黒いISに向けて呼びかけるが黒いISは一切応じない。

だが、何故か黒いISは攻撃を止め、両腕にあるビームの射出口を地面に向けて一夏と鈴に興味があるかのように観察している。

一夏もこの行動を不信に思い黒いISと同様に敵を観察するが、真耶からの通信が入る。

 

『織斑君!凰さん!今すぐアリーナから脱出してください!すぐに先生達がISで制圧に行きます』

 

普段のおっとりした声とは打って変わって威厳すら感じる麻耶の声に一夏は出入り口であるピットゲートを見る。

視線の先にあるピットゲートは開いている、脱出しようと思えば脱出は可能だ。

しかし、一夏は逃げずに視線を敵に向ける。

遮断シールドを突破するほどの攻撃力があるということは誰かが相手をしなければ観客席にいる人間に被害が及ぶ可能性が高い。

これも一夏の信条が許せない。

 

「先生たちが来るまで俺たちでこいつを食い止めます」

『えぇ!?だ、駄目ですよ!』

「いけるな鈴?」

「誰に向かっているのよ!それより離しなさい!」

「あ、悪い」

 

ようやく一夏の腕から離れた鈴は自分の体を抱くような格好をしながら一夏を睨む。

助けるためとはいえ、十五の乙女を無理矢理抱き寄せたのだ仕方のない事だ。

 

「とりあえず衝撃砲で援護するからアンタは突っ込みなさい!その刀しかないんでしょ!」

「あぁ、頼んだ」

 

鈴は衝撃砲を、一夏は雪片を。

それぞれの獲物を持って敵に構える。

そして、それを待っていたかのように敵も動いた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

第二アリーナの外、エースはデュノア社の試作品の状態を確認し終え、IS学園と協力関係であるという名目を果たすためにAC、ディターミネイションを展開する。

アセンブル――

ARMS

03-AALIYAH/A

L―ARM WEAPON

02-DRAGONSLAYER(レーザーブレード)

展開し終え、さっそくエースはブレードを起動。

ブレードから発信されたエネルギーの刃で第二アリーナの出入り口を固く閉ざす扉を、反対側にいる生徒に被害が及ばないように浅く斬り。

そしてDARAGONSLAYERをパージしてレーザーの熱で焼き爛れた金属のドアを両手を突き入れ、無理矢理こじ開けた。

続いてエースはこじ開けたドアに止めを刺すべく、もう一つ、破壊のみを追求した鉄塊を呼び出す。

アセンブル――

R―ARM WEAPON

GAN01-SS-WD(ドーザー)

L―ARM WEAPON

GAN01-SS-WD(ドーザー)

第二アリーナに一度入り、ヒーローが現れたかのように見つめる生徒達に自身の背を見せ、GAN01-SS-WDの先端をぐにゃぐにゃとドアとしての役割を二度と果たせない金属の塊に押し付け。

 

「建物に当たらないように」

 

口だけは学園の施設を心配しながら、金属製の分厚い金属の塊を押し飛ばした。

 

「で、出られる!」

「ありがとう!」

 

敵の襲撃によって閉じ込められた窮地にやってきたヒーローにその一連の行動見ていた生徒達は感謝の言葉を送り出ようとした生徒達をエースは両腕でその動き制して声を大にして言う。

 

「勝手に動くなぁ!!!!」

 

襲撃による混乱によって半ばパニック状態となっている生徒達によって騒がしくなっている第二アリーナ内の通路に絶対的とすら感じるほどの威圧感を込めながら放つ怒声が響き、場が静まる。

静まったところでエースはACどころか一般的に普通に使われている機能、今現在は何故声の音量調節が出来なおかつ外部スピーカーから声を発したような音声になっているのか理解していないマイク機能を使う。

 

「大声を出してすまない。だが、このまま私の声が聞こえる人間は聞いてくれ。落ち着け!慌てるな!今君達の一番目の敵は織斑と凰が押さえている。焦る必要はない!」

 

誰もが息を殺しているかのように物音一切立てずに、エースの言葉をただ聞くべく集中する。

そこに一年生二年生といった年齢の差は存在しない。

 

「いいか。君達の二番目の敵は焦る自分自身だと思え!焦りは恐怖を呼び、恐怖は被害を生む!!もう一度言う。落ち着け、慌てるな。これから私が指示を出す。私の声が届いていない人がいるのなら一字一句全て伝えろ」

 

エースは本来は教師がやるべき仕事を奪っていいのだろうかと悩みながらも、勝手に考えた指示を伝える。

 

「今から二列作り、私が開けた出入り口から二人ずつ順番に脱出しろ!そして各年各組クラス代表、代表がいない場合は出席番号一番!生徒全員をグラウンドに誘導しろ!そして全員の安否を確認したら近場の教員に連絡!その後はその教員から指示を貰え!いいか、冷静に行動することを忘れるな。行動開始しろ!!!」

 

一方的にエースが話していただけで、エースの声に返事を返す物はいなかったが、混乱は確かに消え、生徒達に指示を達成させようと確かな意思が宿る。

その証拠にすぐに二つの列が生まれ、誰が指示したわけではないが順番に、一定の間隔で二人ずつ生徒達が第二アリーナを脱出していく。

エースは数秒生徒達の行動を見守った後に生徒達に指示を出した身だが、脱出する気はないので千冬がいるであろう指令室へと展開していたディターミネイションを解除しゆったりと歩きながら向かう。

 

(とりあえず協力関係の責務とIS学園生徒としての役割は果たした。文句は言われないだろう。さて、一機は織斑と凰が戦っているようだが、もう一機の無人機はどう動くつもりなのだろうか。とりあえず生徒らしく先生に指示を貰うとするか。実行するかどうかは別としてな)

 

普通の生徒なら敵の増援がいると分かったのなら教師に伝えるのが普通だ。

だがエースは違う、彼は生徒の化けの皮を被った傭兵だ。

IS学園にとっては彼は敵ではなく、味方でもない。

どちらかに雇われない限り唯一無二中立の存在であるエースが味方ではないIS学園側に伝える義理は一切ないのである。

 

「……っ」

 

しかし、エースとて人の情を完全に忘れ去った訳ではない。

危険な場所に座り込んでいる人間がいたのなら助けるくらいの情はある。

 

「どうした?」

「…………」

「失礼」

 

何も言わずに右足首を抑える髪が水色で目が赤い眼鏡を掛けた少女。

IS学園の生徒から聞きまわったり、学園のコンピューターをクラッキングしたりして得た更識家とそれに付き従う布仏家の情報。

それによって顔を知った楯無の妹である更識簪に姉の面影を感じながらエースは些細な抵抗を受けながらも少女の右足のブーツと履いているタイツを無理矢理脱がし、素足となったところで足首をジッと見つめる。

足首の一か所が僅かに張れて変色しているのを確認。

捻挫と判断し、さっそく治療するために行動に移す。

 

「誰かに押されて転んだか?どちらにしろ思ったことがあるのなら口で言え」

「…………」

「まぁ好きにしろ。お前の勝手だ」

 

ずっと口を閉ざしながらただただ見つ続ける少女の足首をエースは制服の内側に着ていたタンクトップを脱ぎ、そのタンクトップと脱がしたタイツを使って、捻挫した箇所を手慣れた手付きで包帯のように巻いて圧迫させる。

 

「保健室まで運ぶいいな?」

「……うん」

 

ようやく返した返事を安心させる目的も含めてエースは笑みで返し、少女をお姫様抱っこする形で運ぶ。

怪我人を運ぶという意味では特に不思議なところはないのだが、頬を赤く染めて俯く少女と周りからの羨望の眼差しを受け流しながらエースは指令室へと向かっていた足をUターンさせて保健室へと向かっていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

黒いISが襲来してから十分の時が経過した。

鈴の衝撃砲によって相手を牽制し、最も単純な火力が高い一夏の雪片で止めを刺す。

この戦法を幾度となく繰り返すが、一夏の雪片の攻撃がとことん当たらない。

それどころかカウンターすら決められ一夏のシールドエネルギーが徐々に減っていく。

 

「うぉおおおおおおおおおお!!」

 

これで七回目となるトライだが、これも後少しで雪片の刃が黒いISに届きそうになった所で黒いISが全身に付けたスラスターを巧みに使って躱し、再び距離を取られる。

そして反撃とばかりに両腕を広げ、ビームを射出しながら回転。

ビームと加速しながら迫りくる巨大な両腕を一夏は白式のウィングスラスターの出力で大きく距離を離しながら躱す。

 

「くっ……」

「一夏!ちゃんと当てなさい!」

「当てようとしてるつーの!」

「当てなきゃ意味ないでしょーが!!」

 

至極当然な鈴の言葉に一夏は反論しても負けるだけなので押し黙る。

一夏は雪片を再度よく握りなおした所で、飛来するビームを体を逸らし躱す。

 

「で、どうすんのよ?」

「逃げたきゃ逃げていいぞ」

「馬鹿にしないでよ。代表候補生が尻尾巻いて逃げるなんて笑い話にもならないわよ」

「そうか。じゃあお前の背中を守って見せる」

「え?あ、うん。あたしだってちゃんとアンタを――ひぃ!!」

 

戦闘中なのに一人頭の中に花が咲きそうになった鈴を戒めるが如く飛んでくるビームを鈴はギリギリの所で上体を逸らして避け。

衝撃砲を展開し砲撃を開始する。

黒いISもそれに応じるようにビームを乱射する。

 

「なぁ鈴。あいつの動きってなんか変じゃないか?何か機械っぽいっていうかなんというか無人機?」

「そんなもんいいから攻撃しなさい!それにISは機械で人が乗らなきゃ動かない――」

 

一夏の言葉に鈴はハッと気が付いたかのように砲撃を停止。

そしてそれと同時に黒いISも砲撃を止めた。

 

「何で攻撃を……話に興味があるのかしら?」

「かもしれないな。話をしていて隙を晒しているのに攻撃しないわけがない」

「でも無人機なんてありえない。そんなんじゃここまで来るのに必死に努力した私が馬鹿みたい……」

「鈴?」

「何でもない。で、あり得ないかもしれないけど無人機だったらどうなるの?」

 

鈴の言葉に一夏は握っている雪片を見つめる。

ISのコアは常に二つのエネルギーを生産する。

第一、飛行やPICをレーザー兵器等に使用するための通常の電気的エネルギー。

第二、操縦者の体を守るための防御膜の元となるシールドエネルギー。

しかし全身にISを展開すると生産したシールドエネルギーを操縦者をGや気圧といったあらゆる危険から保護するために全て使う。

そのためシールドエネルギー残量はコンデンサに蓄えられたものを使うしかない。

ネクストACで例えるとブースト等で動くためのEN(電気的エネルギー)は常に生産し、コンデンサが一杯になるまで蓄えられるが、KP(シールドエネルギー)を使って構築されるPA(防御膜)を維持するためのKPが他に回されているため再構築出来ない状態。

つまり、PAゲージに蓄えられた分しかPAが構築出来ない状態となる。

なのでPAすら超える攻撃を受けた場合はAP。

人間で言う生身の体が超えた分のダメージを受けとめる。

しかし、ISの場合は意地でも操縦者を怪我や死から守ろうとするためシールドエネルギーにはある特性がある。

絶対防御。

シールドエネルギーの上位版ともいうべき物で継戦戦闘能力を除いた場合だが、ISが鉄壁と言われている要因でもある。

これは通常のシールドエネルギーを超えた攻撃から操縦者の身を守ろうとISコアがシールドエネルギーを攻撃箇所に集中させ、ISコアからは生産されないの第三のエネルギーとも言うべき絶対防御エネルギーを大量のシールドエネルギーを消費して生み出すことだ。

通常のISバトルがシールドエネルギーが切れたら負けなのは、シールドエネルギーがそこ尽きると絶対防御が発動されなくなり本格的に死の危険があるからだ。

 

「零落白夜……」

 

ポツリ呟く一夏は姉から直々に享受してもらった特性を思い出す。

白式の単一仕様能力で今現在一夏が使っている刀身が変形し、シールドエネルギーを喰って形成されているエネルギーの刃の正体だ。

これは対象のエネルギーを全て消滅させる能力を持つ。

零落白夜によって発動された雪片の青いエネルギーの刀身はシールドエネルギーが元となっている。

これによって、第一のエネルギー、レーザーやビームといった電気的エネルギーや銃弾と言った運動エネルギー、斬った際の衝撃等はシールドエネルギーによって防ぐ形で対象のエネルギーを消滅させ。

第二のエネルギー、シールドエネルギーはシールドエネルギーを集中させて。

第三のエネルギー絶対防御エネルギーを強制的に生産させる形でシールドエネルギーを消滅させているのだ。

一夏の白式の単純火力が高いのは、少しでも触れればISがその部位が甚大な攻撃を受けていると錯覚させて過剰に反応させてしまうからだ。

その能力の結果、雪片は最悪絶対防御でも防ぎきれないほどの火力を秘めている。

スポーツとして使うには常に出力を抑えなければ過剰すぎるくらいだ。

 

「何それ?」

「雪片の特殊能力だ。無人機ならその特殊能力を全力で使って容赦なくやれる。たぶん絶対防御でも防ぎきれないくらいの強い奴」

「何それ……ていうか全力って言っても当てなきゃ意味ないでしょ」

「次は当てるさ。鈴。衝撃砲頼んだぞそっちも全力で」

「全力で撃ったらその前に逃げられて当たらないけどいいの?」

「それでいい」

 

一夏は雪片のISバトル用のセーフティーを解除し、もう一つ姉から享受して貰った技を思い出す。

イグニッション・ブースト。これは位置や運動、電気といったエネルギーという名を持つ物を使って一時的に直線のみだが圧倒的なスピードを生む。

 

「行くぞ!!」

『一夏ぁ!!』

 

雪片を振っていざ突撃しようとした一夏の耳に箒の声が響く。

声の方向、中継室の方へと一夏と黒いISが顔を向ける。

 

「何してるんだお前!」

『男なら……男ならそれくらいの敵に勝てなくてなんとする!』

 

愚か。

激戦地に武器を持たずに生身でやってきた箒をそう言わずになんとする。

黒いISは中継室を興味深そうにセンサーレンズを向ける。

これでもし撃たれたら一夏と鈴が他生徒達を逃がすために囮となった意味がなくなる。

一夏はこれから行うことを必ず達成せねばという使命感が箒の危険によって身に宿る。

 

「箒っ……鈴!やれ!」

「分かった。行くわよ甲龍!!」

 

そう言いながら衝撃砲を最大出力で撃とうとチャージ。

一夏はその隙に射線上に躍り出る。

 

「な、何やってんのよアンタ!」

「いいから早く!!」

「あーもうどうなっても知らないから!」

 

自棄になった鈴は一夏の指示通り衝撃砲を発砲。

そしてそれと同時に一夏はイグニッション・ブーストの準備を始める。

ウィングスラスターに白式のコンデンサにある全てのエネルギーとそして衝撃砲の運動エネルギーを吸収しエネルギーを送る。

 

「零落白夜発動!」

 

イグニッション・ブースト発動し、その加速によって周りが引き伸ばされたような変わった光景になりながらも、雪片からエネルギーの刃を生み出し。

千冬、箒、鈴、オルコット、クラスメイト達。

自身が関わる全ての人間を守る。

一夏が突き動かす誰かを守るという感情を爆発させ、カウンターをしようと右腕を伸ばす黒いISの右肘を、一夏はまっすぐ上から雪片を振り下ろす。

 

「オオオオ!!」

 

そして咆える一夏に呼応するかのように、雪片の刃は黒いISのシールドエネルギーを眩い光を発しながら突破し、絶対防御を突破し、黒いISの右腕を斬り落とした。

黒いISの切口から人間の赤い血でなく黒いオイルのような物が噴出する。

一夏の予想通り間違いなく人ではない何かだった。

しかし一夏は予想が当たったからと喜ぶ暇なく、黒いISの左腕が雪片を振り終えて隙だらけの一夏を飛ばし地面に叩きつける。

 

「ガハッ!」

 

シールドエネルギーが衝撃を緩和してくれなかったら間違いなく肋骨や背骨が折れていただろう。

金属の塊に殴られた衝撃と地面にぶつかった衝撃に緩和されたおかげで一夏は咳込むだけで済んだ。

一夏は咳込む己に叱咤して再び敵を目にすると、そこにはビームの射出口を向ける黒いISがいた。

まずい。

シールドエネルギー残量が残り少ない一夏は間違いなくこの後起きてしまうであろう未来に覚悟を決めた。

 

『お待たせいたしましたわ』

 

だが、一夏の耳に頼もしい声と共に蒼雫が落ちた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

簪を保健室に運び、簪と同じように二次災害によって怪我をした生徒達を養護教諭と共に治療活動に当たり、一通り治療した所で改めて第二アリーナの指令室へ向かった。

入った途端に千冬からの色々含みがある厳しい視線にエースも同じく睨み返し。

そして、明らかにエースと千冬の目がおかしいと真耶は瞬時に感じ取り、両者から発せられる刃物のように鋭い雰囲気に萎縮した。

 

「更識からの連絡では、あのISの襲来が分かっていたかのような口振りだと聞いたが?」

「疑うのは勝手だが、残念ながら私はあれと一切の関係がない。信じろ」

「それで、はい。と言えれば世の中楽なのだがな。困ったもんだ」

「そうだな。はい。と言ったのならば、私は貴女を見限っていただろうな」

「……それは、前に私にお前が言ったセレンという女のようにか?見た目は十五歳なのに偉く経験豊富な上に偏食だな」

「偏食ね……まぁ一つ言っておくが見限られたのは私の方さ」

「振られたか?」

「あぁ、バッサリと……嬉しいくらいにな」

「だからと言って私に来るなよ。出来の悪い弟の面倒を見ないといけないのでな」

「安心しろ。似ているという理由で縋るほど私は腐ってない。それに、貴方は貴方だ。私が唯一無二信頼を寄せた人とは、違う」

 

違う。

その一言だけはただひたすらに気丈に強くエースは言い放つ。

千冬はそれに対し当然だ、と返すと同時に口を閉ざす。

会話の相手がいなくなったエースはリアルタイムモニターへと目を移す。

エースの目に入った映像は、セシリアが放つスターライトmkⅢの射撃によって黒いISは火花を立てながら脆くも崩れ去り動きを止める。

今まさに一機目の決着が着いた所だった。

 

「織斑君達やりましたね……生徒さん達に任せた私が言うのもなんですが……」

 

生徒と教師が出していけない殺気だった雰囲気を溢れ出んばかり噴出させるに二人に対し、恐る恐ると言った感じに言葉を述べると同時に複雑な表情を浮かべる真耶。

先生として生徒を戦場に立たせるのはどうかと考えているのだろう。

千冬も真耶の言葉に同意したのか複雑な表情を浮かべている。

その二人をエースは心優しき教員としては評価を上げ、それと同時に生徒にISという紛れもない兵器を教える教官としては評価を大幅に下げた。

 

(それにしても一機目だが、前にドイツで見たのと姿形がほとんど同じだな……製作者は同じか……たしかあの時、やったと思ったら――)

 

最後の抵抗とばかりに攻撃してきたな。

そんなエースの思考が反映されたかのように、無人機が再び動き出す。

モニターに映し出される映像がエースには嫌なほど遅く見えた。

ビームの射出口を向ける無人機と一夏。

一人と一体の距離はほとんど離れていない。

ビームを射出する無人機、それを躱さずに真正面から突撃する一夏。

そして、空から落ちたもう一つも無人機。

第二アリーナに二つの爆発が起きる。

 

「一夏!!」

「織斑君!!」

 

ビームに真正面から立ち向かった一夏を心配する千冬と真耶を他所に。

 

「どっちが本命だろうか」

 

呑気な声を出すエースがいた。

 

 




Q:零落白夜について
A:簡単に言えば絶対防御の剣って所でしょうか?
絶対に防御出来る=絶対に攻撃出来るみたいな感じです。
穴があると思いますがここで書いたとおりに今後も扱います。

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