朝の教室に謎の首輪付き美形ことエースは基本的に席からは動こうとしない為、話しかけるために一夏がそばに来て。
その一夏と話すために箒とセシリアが来て、その友達達が集まってとエースが座る席には常にIS学園の噂話が飛び交う。
「転入生?」
「中国からだって。しかも代表候補生」
「あら、私の存在を今更ながら危ぶんでの転入かしら?」
「見事な自信だオルコット。俺は純粋に感心するよ」
「どんなやつなんだろうな」
エースにとって中国とは爆発のイメージしかない。
何せ国と言う体制が存在している時期に主要都市である上海をコジマ爆発により大部分海の底に沈め都市機能停止どころか再建不能までに追い込んだという大事故を起こした国だからだ。
脳内で海に沈んだ旧チャイニーズ上海海域で戦ったAFギガベースと思えば初接触だった当時はオッツダルヴァと名乗っていたテルミドールを思い浮かべつエースは一ページ、また一ページと日本語辞典をめくる。
「気になるのか?」
「ん?まぁ、少しは」
「今のお前に他の女子を気にする余裕はないぞ。来月にはクラス代表戦がある」
「そうですわ!今日も二人っきりで特訓しなければなりませんね一夏さん!」
「おい待て!今の話でどうしてそうなるんだ!」
「布仏。あれを日本語でなんて言うんだ?」
「女の戦いー」
エースは言い争う箒とセシリアの姿に本音の言葉が妙に納得出来、そして関わらぬが得と瞬時に判断し日本語辞典をめくる。
「まぁでも今の所専用機があるクラス代表は一組と四組だけだから余裕だよ。学食のデザートフリーパスのためにも頑張ってね!」
教育機関として物で生徒のやる気を吊り上げたり、同じ土俵に立たせるために量産機を使わせるのはどうだろうかとエースは考えたが、言ってもデメリットしかないので言葉を喉から出さずに心にしまう。
そしてそれと同時に教室の入り口から声が響き渡る。
「その情報古いよ!」
クラス中の生徒達が皆声の方向へ首を向けたので、エースも日本語辞典から声の方向へ視線を向けた。
頭の側面にある二つの尻尾。所謂ツインテールを揺らす茶色の髪と、肩を露出している制服は陽気さと活発さを印象付けさせる。
そして幼さを感じさせる丸み帯びた顔立ちと起伏が少ない慎ましい体系がより、子供特有の明るさを強めていた。
エースは相手の顔を記憶し、耳だけは常に周囲の情報を集めるようにしながら再び日本語辞典をめくって文章を読む作業を再開させた。
「二組も専用気持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」
「鈴……?お前、鈴か?」
作業に没頭するつもりだったエースだが、転入生が一夏の知人らしくふと見た一夏の顔が喜びに溢れていた。
それに対して箒とセシリアはポカンと口をだらしなく開けて一夏の顔を見ていた。
「布仏。これを日本語でなんていうんだ?」
「オーマイゴット!」
「英語じゃないか」
「えへー」
「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」
「何恰好付けてるんだ?すげぇ似合わないぞ!」
「んな!何言ってるのよアンタは!」
一夏に指摘されさっきまでの態度は格好付けだと漏れた途端。
先ほどの勇ましさが消え去り見た目通りの幼さが感じる態度で怒り出す。
エースは脳内のレーダーで教室に接近してくる人物を教えるべきかと悩んだが、時間管理が出来ない人間が悪いと止めた。
「おい」
「何よ!?」
鈴の頭上に出席簿の鉄槌が下った。
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昼食時、生気が感じられないほど気力がないエースと健康状態が良い一夏と鈴が食堂のテーブル席に座っていた。
「大丈夫こいつ?ていうかなんで男がもう一人いるのよ?」
「事情だ。代表候補生様なら察してくれ」
「エースが元気がないって珍しいな」
「色々あってな」
その色々とは箒やセシリアといった女子達が敵情視察という名のパシリに男だから二人の関係が聞きやすいだろうという理不尽な理由で駆り出されたからだ。
どうでもいいとしか思ってないエースにとってはそんなものは苦行でしかない。
しかし、一応は学食を奢って貰えるという報酬が付いているのでやる気はないが同席した。
因みに逃げるという選択肢は座っている席の隣のテーブル席に依頼主達が監視しているため出来ない。
「あぁエーアスト・アレスだ。エースと呼んでもいい。よろしく頼む凰」
「ん。よろしく」
「ではエスっちさん。さっそくお便りをほれ」
「了解。Q1二人は付き合ってんの?」
「何を言ってるのよアンタ!!」
「付き合ってないだってよ」
エースはお便りに書かれている通りのことを言ったが、そのエースに対して怒声が飛んできた。
両の耳を手で防ぎながら赤面してまで怒っている鈴を見てエースは二人は付き合っていない事を冷静に判断し依頼主に報告した。
箒やセシリア達がホッ息を吐いている姿を無気力に眺めながら次のお便りを本音から受け取る。
「Q2二人の関係は何ぞや?」
「ただの幼馴染だよ。箒がファースト幼馴染で、鈴がセカンド幼馴染って所」
「そうか。幼馴染だってよ強敵出現だな篠ノ乃さん」
「名指しで呼ぶな!!」
「あれが箒……」
後ろから来た箒の声をエースはまた両耳を塞いで防ぐ。
エースとしては早く終わらせたいので後ろから来る視線を無視して次のお便りを本音から受け取り読み上げる。
そこにはクラス代表戦について一言と書かれていたがエースは無視してアドリブで質問を考えた。
勿論自分の都合の言いようにするためだ。
「Q3今一番戦いたい人はいますか。例えば代表候補生とかはどうですか凰さん?」
「いないよ。だって私が一番強いもん」
「だってよオルコットさん」
「よろしいですわ!このイギリスの貴族にして代表候補生の私セシリア・オルコットが相手になりますわ!」
上手くセシリアを焚き付けることに成功したエースはさりげなく席を立ち、依頼主達側のテーブルに座り。
続いて箒に耳打ちする。
「いいのか?オルコットが一歩リードだ」
「ハッ!!」
エースの言葉の意味を理解した箒も一夏のテーブル席へ歩き出す。
それがエースの策略とは知らずに。
「まったく気になるのなら最初から話せば良い物を」
「二人とも変なところで照れ屋だから。どちらにしろお疲れ様」
毎日髪を後ろで二つ長いお下げにしている褐色の髪を持つクラスメート。
谷本癒子からの労いの言葉がかかるがエースは返事の代わりにため息を出す。
「お疲れですね旦那。肩ぁ揉みやしょうか?」
下側にフレームの付いている丸い眼鏡をかけている髪形がショートヘアーで赤いカチューシャを付けいるクラスメート
岸原理子は指をわきわきと動かしながらエースに近づくがそれを制止する声が飛ぶ。
「とか言って実はエース君にボディタッチしたいだけなんじゃ……」
「そ、そんなことはないよ。ピュー」
「こっち見ろ」
明後日の方向へ向きながら下手くそな口笛を吹く理子に、癒子達からジトっとしているが貫くような視線が集中する。
放っても可愛そうなのでエースは軽く助言する。
「まぁそんな目で見てやるな。岸原も厚意が一切なかったわけではないだろう」
「そうだよ」
「嘘っぽいけど」
「見逃してやれ」
一夏が周りからアイドルのような扱いをされているのと同様にエースもほとんどアイドルと何ら変わらない扱いをされている。
そのため一定の距離を保って接してもらうのはエースとしては助かるのだが、精神年齢は二十代後半なので余りにも持てはやされ過ぎても困りものだ。
なので対応するべき所は対応する。
対応すべきでない所は対応しない。
その場の雰囲気や人の態度で判断し常に考えて行動する。
一線を引いているようで誰にでも平等に気をかけているエースの態度が誰にでも仲良く明るく接しようとする一夏とまた違った魅力があり、自然と人が集まりアイドルさながらに持てはやされる要因だ。
「さて、織斑と凰。クラス代表戦はどうなることやら」
「何か凰さんだっけ?織斑君にコーチしてあげるって言ってるけど」
「敵に塩を送るって奴か?」
「うーん合っているような違うような」
「あ、でも篠ノ乃さんとオルコットさんが怒ってる」
エースの座る席は全員お茶を啜りながらまったりやのほほんという字が似合うほどほんわかとした雰囲気に比べ。
隣のテーブル席は修羅場に突入したらしい、こっちが付き合いが早い、こっちはクラスメイトだ、こっちは付き合いが長いと怒声が飛び交う。
エースは一夏の性格が明るすぎた結果がその現状なのだろうかと数時間後にはあらゆる知識を完璧に覚えれるほどの脳が忘れるほどの興味のない考察をしながら昼を過ごした。
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鈴がIS学園に転入してから数週間経過した。
一夏のクラス対抗戦まであと数日なので特訓に明け暮れているのだが、エースはIS委員会より送られるミッションを遂行しながら、未だに解決していない機体整備に、PCの画面と睨めっこしながら頭を悩ませていた。
ついでにAMSにより脳の酷使による頭痛にも頭を悩ませながら。
パーツに関してはISの自動修復のおかげで交換する必要はない。
つまりハード面では時間さえあれば問題はないのだ。
パーツの予備が存在するわけがない現状においてISの自動修復という便利な機能に感謝したが、ソフト面では別だ。
ネクストを動かすシステムを構築しているプログラミング言語が使用しているPCには対応しない。
元々は別世界の代物なので仕方のないことではあるがこれではFRSのチューンなら未だしもネクストの一つ目の脳とも言うべきIRSや不調を起こせば命の危険性すらある二つ目の脳AMSの修正が出来ない。
なのでエースは使用しているPCに対応させようと一からプログラムを入力して覚えこませている、無論並大抵の作業ではない。
赤子にまったくの白紙状態から家を作れと言っているようなものなのだ。
「駄目か……」
ERROR。
PCの画面から出された文字にほどんど一睡もせずに授業、ミッション、作業を数週間黙々と行動し続けたエースは椅子に深くもたれかかり凝り固まった両肩をぐるぐると回しながら動かす。
(少し歩くか……)
デスクワークによって淀んだ気分から転換するために頭痛薬を飲んでから自室から出る。
本心は頭痛による疲労と寝不足による激しい眠気に襲われているがまだ作業を終えていないので理性で眠気を無理矢理押さえる。
もし作業を怠りこのままディターミネイションを使い続ければ、最悪戦闘中にAMSから光が逆流して脳がネクストから送られる膨大な情報の津波によって壊死してしまうだろう。
それほど今行っている作業が重要で早急に解決せねばならないことだからだ。
自室から出た後、宛てもなく歩き続けるエースにふと聞き覚えのある銃声と金属がぶつかり合う重い音が聞こえ、音の方向へ顔を向ける。
そこには先日一夏とセシリアがクラス代表の座を争い戦った第三アリーナがあった。
脳内のレーダーで三人の人間が生身ではあり得ない挙動で動いているところからISでの訓練中だと考え見学しようかとエースは思ったが、付近にもう一人、人がいることを確認したので今度はその人へと顔を向け、初日に多少会話をした二組のクラス代表の鈴だったことを確認した。
どこか憂いのある表情を浮かべながら第三アリーナを見つめる鈴にエースは一人で訓練を眺めるのも暇なので話しかける。
「凰。そんなところで突っ立ているくらいなら訓練を直接見たらどうだ?」
「ん?あんたたしか……エースだっけ?」
「合ってる。で、見るのか?」
「あーいやーちょっと遠慮する。色々あってねアハハ」
そう言い笑みを浮かべる鈴だが、それは面白いから笑っているのではなく誤魔化したいから浮かべるそら笑いだ。
エースは鈴に何かあったのだろうと考え、身近に起きる騒動の大体の原因である一夏の姿を思い浮かべた。
「喧嘩か?」
「……一夏から聞いたの?」
自身の考えが見事に一致したためつい吹き出しそうになったが、口を堅く閉じてそれを堪え。
鈴にとっては重要な話なのかもしれないので顔だけは真剣な物に保つ努力をした。
「残念ながら聞いていないが容易に予想出来ることだ」
「そっか……アンタちょっと付き合いなさい」
「……分かった」
鈴の誘いにエースは拒否しても、部屋に帰れば億劫なPCの作業が待っているだけなので大人しく鈴に付き合うことを決めて第三アリーナを後にした。
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「大体アイツは昔から鈍いのよ!まったく!」
(こいつも篠ノ乃やオルコットのように苦労しそうだな……いや、すでに苦労しているのか)
次から次へと鈴の口から飛び出る言葉の弾丸をエースは相槌をしつつ話を聞いていた。。
中国人だから、エースの知らない動物園のパンダという生き物の名前と同じだからという理由でリンリンと呼ばれていじめられていたこととそれを助けた一夏の話。
その後人気がありモテていた一夏の気を惹こうと色々と誘ってみた話。
つい先日、本人は告白したつもりの約束が一夏には別の意味で解釈されたらしくそれで絶賛喧嘩中の話。
鈴の話を一部同情しながらもエースは客観的に判断し、鈴に告げる。
「だが、ビンタとはいえ手を出したのは駄目だったな」
「うーそれはついカッとなってというか……なんというか」
「駄目だ。口だけならまだしも先に手を出した時点でお前の方に非がある」
「で、でもアイツだって人の気持ちも知らずに……」
「その点は同情はしよう。だが織斑は君を殴り返さなかったんだろう?織斑が君の気持ちを理解できない。つまり織斑にとっては君が何故怒って殴った理由が分からない。納得していないのに理不尽に殴られた事他ならない。殴り返さなかった織斑の優しさぐらいは汲んでやったらどうだ?」
「アイツが優しい事くらいは知ってるわよ……」
「なら後は君次第だ。俺は観賞する気はあるが必要以上に干渉する気ないのでな。まぁ相談ぐらいなら干渉してやる」
鈴はエースの言葉に悩み始める。
本人もビンタしたことは反省はしているし、和解したいと思っている。
だが、付き合いが長い事と、一年ほど別々だった期間があったこと。
IS学園と言う女子だらけしかも皆平均以上の顔立ちで男にとっては楽園といっても過言ではない環境下に一夏がいること。
色々な要素が絡み合って鈴なりに焦る気持ちがあるのだ。
相談に乗るといったエースの言葉は中国代表候補生としてではなく二組クラス代表としてではなく。
一個人の凰鈴音にとっては何よりもありがたい言葉だった。
「……じゃあなんて謝ればいいと思う?」
恐る恐るといった感じに尋ねる鈴にエースは堂々とした態度で答える。
「ごめんなさい。ほら簡単じゃないか」
何を迷っているんだと言いたげなエースの態度に鈴はハッとしたような顔をして強く頷く。
「…………うん。簡単ね!」
ニカっと子供の用に笑う鈴にエースも釣られて僅かに口角を上げる。
「アンタ最初は変な奴だな思ったけど良い奴ね。今度私が作った酢豚食べさせてあげるわよ」
「それは楽しみだ。対抗戦頑張るといい」
鈴との約束を結び別れた後、エースは信頼していた人物の最期の言葉を思い出す。
『当然か……私が見込んだのだからな……お前にやられるのも悪くない……』
今まさに弟子でもあり、相棒でもあり、家族でもある人物のMOONLIGHTの高出力エネルギーの刃によって命を絶たれようとする直前に放った言葉。
目的の為にはどれだけの人命を賭してでも達成させようと決心を決め、一億人もの人命を奪った後の彼を唯一無二殺す前に躊躇をさせた人物の最期の言葉を思い出す。
(ごめんなさい。ね……俺はもう聞いてくれる人いないからな)
驕りとは自覚しながらも、エースは痛む頭を押さえながら、既に花を散り終え緑の葉を揺らす桜の木を見ながら思い出に浸った。
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同日、エースの元に一つのミッションが送られエースはそれを受諾した。
依頼内容は試作兵器の実戦テスト。
依頼主はデュノア社のフランソワ・デュノア。
説明文に載せられている試作兵器の設計思想を呼んで、にやりと笑むエースはデュノア社の攻撃を一時中止させた。
Q:(AC4系での)上海爆発の件。
A:コジマのせい。きっとコジマ技術を高めようと功を急いだ結果だと思います。しかし、上海のあの惨状からして核より酷そうですね。