一年一組クラス代表決定戦。
イギリス代表候補生、セシリア・オルコット対唯一男性でISが使える男、織斑一夏。
この二人の戦いは一週間も経たない内に学園中話題となり、戦う場である第三アリーナの観客席に一年から三年の生徒達が集まり席を埋めていた。
「うわぁ……」
六日間、ISを教えてくれと箒に頼んだ一夏だが、ISとは関係のない剣道ばかりしていて、一夏はISの操縦技術が上手くなるのだろうかと悩みながら竹刀を振るっていた。
実際、剣道とISはまったくの別物であり剣道をしているだけでは、ISの戦闘方法が分かる訳がなく。
一応は戦いの切っ掛け作った責任がある事と、それ以上に箒の謎の擬音を使った教え方に見かねたエースは、一日だけだが付きっきりでISの基礎を一夏に教え込んだ。
そのおかげで、多少はISに関する知識を付けることが出来た一夏だが、肝心の専用機はまだ一夏には届いていなかった。
「俺のISはいつ来るんだ?」
「山田先生が言うにはそろそろと言っていたが……」
一夏と一夏に付き添う形でピットまで足を運んだ箒の両者の顔は、今か今かとまだ見ぬ専用機に対する期待と、これから戦うセシリアという強敵に勝てるかどうか心配する気持ちが混ざり合った複雑な表情を浮かべながら、いずれ来る専用機を待っていた。
「織斑君!織斑君!織斑君!!」
時が来た。
真耶が一夏を呼ぶ声に、一夏と箒は声の方向へ顔を向ける。
そして、視線の先にある物に一夏は目を奪われた。
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(遅いな……到着が遅れているのだろうか)
ミッションが入っておらず、特にやるべき事がなかったエースは暇だからという理由で一夏とセシリアの戦いを観戦するべく第三アリーナのフィールドに一番遠い最後列の観客席に座っていた。
そしてその周辺は、エースのたった二つしかない隣を獲得すべくにらみ合いの言葉無き女の戦いが繰り広げられていた。
そんな事はどうでもいいと考えているエースは特に気にすることなく、一夏がピットから出るまでの間、アリーナに到着した時から気になっている事を考え始めた。
(……やはり、監視されているな)
見られるのではなく、監視。
何度も死の危険に晒され、時には全人類の敵意を受けながら生きてきたエースは敵意には敏感だ。
エースは戦場でしか感じることのない、斥候か狙撃兵のような、身を隠し、決して敵に姿をばらさないように行動する人間達のような、見えない場所から来る敵意を含んだ鋭い視線や戦場の雰囲気や気配というべき感覚を長年戦場を渡り歩いた経験により研ぎ澄まされた肌で感じ取っていた。
敵意を感じ取る能力とも言うべきそれは、時には何千年も積み重ねて生まれた科学の力を利用した機械である高精度センサにも匹敵する。
その力があったからこそ地獄と表すのが相応しい劣悪な世界をエースは生き残ることが出来たとも言っていい。
それはもはや勘という簡単な言葉では終わらせない。
ただ敵意に気が付いただけでは終わらせない。
エースは視覚や聴覚といった五感や直感すらフルに使い、何百といる生徒達の中に紛れ込んだ敵を探す。
体を不用意に動かしては、敵に探していることが分かってしまう。
自然体に、視線を上へ下へ、右へ左へ動かし徐々に探す範囲を狭める。
そして、エースは見つけ出す。
(あそこか……人を隠すなら人の中か)
エースから見て、ちょうど反対側の最前列に位置する場所の、最も人ごみの多い所に敵を発見した。
一瞬、敵と目が合いエースはほんの少しだけ口角を上げ、それに気が付いた敵は逃げるために出入り口へ向かったがもう遅い。
(ネクタイの色から二年生、性別は女、背は155~160、髪は水色、目は赤……)
エースは敵の特徴と、見つけた時の光景を瞬時に覚え、脳内のコンピューターに記録するように指示し、脳内コンピューターにエースが削除を命令しない限りはデータとしていつでも引き出せるようになった。
(さて、対処は後だ。観戦を楽しもう)
気持ちを改め、エースは再び視線をフィールドへ向ける。
それと同時に、一夏を乗せたISがピットから飛び出た。
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「あら、てっきり逃げたと思ってましたが来ましたのね」
腰に手を当て、一夏を挑発したセシリアだが、一夏はセシリアではなくセシリアの身に纏うIS、ブルー・ティアーズを興味深そうに見つめていた。
ブルー・ティアーズ。
鮮やかな青色は淑やかな高貴さを感じさせるイギリスの遠距離射撃型の第三世代型ISだ。
第三世代型とは操縦者のイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵器の搭載を目標とした世代のことを指す。
ブルー・ティアーズは長距離遠隔攻撃システムこちらもブルー・ティアーズの名を持つシステムを使用した通称BT兵器を搭載したISだ。
BT兵器は操縦者の脳波からイメージを抽出し、ISコアが持つ特殊な通信にのみ反応するビットに操縦者のイメージした動きを反映させる特殊兵器である。
BT兵器により本来は複雑な独立可動ユニットを操る事が可能なブルー・ティアーズは敵の死角からも攻撃できる所謂オールレンジ攻撃を実現させた。
簡単に言えば、後ろからいきなり撃たれる可能性があるという事だ。
「最後のチャンスをあげますわ」
セシリアは自身に満ち溢れた表情で一夏告げる。
「チャンスって?」
機体ではなくセシリアへ一夏は視線を向ける。
「私が一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、生き恥を晒したくなければ、今ここで謝るのなら許してさしあげないこともなくってよ」
絶対に負けないという勝利宣言と降伏勧告をし、射撃モードに移行したセシリアに一夏は。
「そういうのはチャンスとは言わないな」
「そう、残念ですわね。なら――」
セシリアは手に持つ2メートルを超す長大なレーザーライフル<スターライトmkⅢ>を構え。
「お逝きなさい!」
トリガーを引いた。
そしてその瞬間、スターライトmkⅢの銃口から青色のレーザーが、耳をつんざくような高音を奏でる独特の銃声と共に一夏へ襲いかかる。
一夏は撃たれると覚悟していた。
ハイパーセンサーの恩恵でレーザーを見ることは出来た。
だが、ISの戦闘経験の圧倒的なまでの不足により。
「うおっ!」
セシリアのスターライトmkⅢの攻撃を直撃してしまった。
レーザーが当たる寸前に体を斜めに反らし、体を装甲に纏っていない露出部の攻撃には避けることが出来た一夏だが、ダメージはある。
装甲が、レーザーの熱に溶かされ、焼き爛れたかのように変形した。
そして、操縦者を衝撃等にから骨を肉を守るためにシールドエネルギーが減る。
ISバトルはシールドエネルギーがヒットポイントのような役割を持つ。
これが0になったら、敗北だ。
「さぁ踊りなさい。私、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズが奏でるワルツで!」
「俺は盆踊りしか出来ないぞ!」
一夏のシールドエネルギー残量は521。
先ほどのセシリアの攻撃により46のダメージを受けた。
セシリアの言葉に律儀に返した一夏だが、内心焦っていた。
何故なら少なくとも12発喰らったら敗北、そしてまだISが初期化と最適化処理を行っていない。
つまり、真の意味で一夏の乗るIS、白式は一夏のISになっていないからだ。
「えーとPICで動きを止めたり、ウイングスラスターは……えーとえーと」
未だに装備一つ取り出せていない一夏は、慣れないISの動きを僅かに覚えた基礎を元に、半ば白式に振り回させるような形だが、セシリアのスターライトmkⅢから繰り出されるレーザーの雨を避けていた。
勿論避けているだけでは勝つことは出来ない。
一夏は白式に現在量子化されていつでも取り出せる武器を問うた。
それに対し白式はたった一つだけの武器を一夏に提示した。
「素手よりはいいけどこれだけか!」
武器は近接ブレードただ一つ。
あまりにも敵との相性が悪い悲惨としか言えないたった一つ武器を一夏は呼び出し、白く光輝く粒子と共に現れた武器を手に取り構えた。
「あらあら。何を取り出すと思いましたら刀。日本の魂というものですの?まぁ、どちらにしろ遠距離射撃型の私に近距離格闘武器で挑もうとは……笑止ですわ!行きなさいブルー・ティアーズ!!」
近接ブレードを脅威と一切感じなかったセシリアは、スターライトmkⅢの銃口を下ろし、右手を振るう。
それが合図のように機体の目玉とも言うべきBT兵器を四機展開。
四つのビットが空を縦横無尽に飛び回り。
そして、発射口から青色のレーザーが飛び交う。
一夏はそれを、PICとウィングスラスターを利用し、加速と緊急停止を繰り返す体に負担を掛ける無茶苦茶な動きをしながら、僅かに掠りはするものの直撃は避けるように躱し。
「行くぞ!!」
一夏は勝つためにセシリアに接近した。
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試合開始からすでに三十分近くは経過していた。
「ブルー・ティアーズを相手によく持った方ですわね。褒めて差し上げますわ」
「そりゃどうも……」
無傷のセシリア。
それに対し、一部装甲が剥がれ、シールドエネルギー残量が0に近い一夏。
どちらが優勢なのか、火を見るよりも明らかだった。
「ですが、もうここまでですわフィナーレと参りましょう」
セシリアはスターライトmkⅢを構え、その銃口を一夏の装甲が弾け飛び、露出された左足へ向け。
「左足、いただきますわ!」
トリガーを引く。
もしこのままレーザーの光が一夏の左足に当たったら、レーザーの熱から装甲を纏っていない体を露出している部分を守るべく、シールドエネルギーを大幅に消費する絶対防御が発動して負ける。
それを戦っている一夏が一番よく理解している。
だから一夏はウイングスラスターに、今注げる全てのエネルギーを送り込み。
「一か八か……」
僅かな勝機と敗北を避けるために一夏はセシリアに左肩を突き出しながら突進した。
「うらぁああああわぁぁああああああ!!」
ISが自動的に行う姿勢制御のために、突進しようと前へ進もうとする力と、左肩を突き出した姿勢を戻そうと左に回転する力が合わさり。
「くぅう!」
装甲が剥げていない一夏の右足が、セシリアの右肩に当たった。
一夏の思考では、突進でスターライトmkⅢの銃口を無理矢理逸らし、そのまま近接ブレードで攻撃しようと考えていたが。
回転蹴りという、一夏の全く考えもしなかった形でそれは果たされた。
「無茶苦茶しますわね。ですが悪足掻きですわ!行きなさいブルー・ティアーズ!」
右肩から来た衝撃を、優雅に踊るように回転しながら緩和し、すぐに一夏との距離を離しながら体勢を立て直したセシリアはスターライトmkⅢの銃口を下ろし、右手を振るい待機状態にしておいたビットに命令を送った。
その一連の動作を見て一夏はある疑問を持った。
「……行けるか?」
一夏は再び、ウイングスラスターにエネルギーを送る。
だが、先ほど消費したエネルギーがまだ回復しておらず、一夏が欲するだけの十分な推進力を得ていない。
あらゆる方向からくるレーザーの光を一夏は多少のダメージを強いられながらも無理矢理掻い潜り、近接ブレードを振り払った。
そして手に伝わった衝撃に一夏はにやりと笑った。
「何ですって!?」
セシリアの驚愕する声と共にビットが一つ、断面から青色の稲妻を出しながら爆散した。
一夏がビットを斬り裂いたのである。
「私の完璧な勝利を……よくも!」
代表候補生という、一握りしか選ばれないエリートである自分が、素人しかも嫌悪の念を抱く男性相手に自慢のBT兵器が壊された。
この事実はプライドが高く、男を見下しているセシリアを怒らせるには十分すぎた。
セシリアはスターライトmkⅢを構え、一夏に狙いを付け撃つ。
「うぉおおおおおおおおおお!!」
しかし、三十分前とは比べ物にならないほどISの動きに慣れた一夏はスターライトmkⅢから放たれるレーザーを次々と躱しながらセシリアに接近し、近接ブレードを上段で構え振り下ろす。
「くっ……!」
セシリアは一夏の攻撃を避けるべく後退し、右手を振るった。
そして、ビットがセシリアを追う一夏から守るように立ちふさがるが。
「やっぱり!」
一夏は一時停止して180度回転。
そして停止中にチャージしておいたエネルギーを使用し加速。
近接ブレードを振るいビットをまた一つ切り裂いた。
一夏の疑問は確信に変わる。
「分かったぜ!お前はこの兵器を動かすには意識を集中しないと動かせない。だけど集中したら他の攻撃が出来なくなる!」
BT兵器。操縦者の脳波からイメージを抽出するということはつまり、操縦者が移動や攻撃といったイメージをしないとただの置物になるということだ。
それに加え、どこに敵がいて、どこにビットがあり、どこにビットを配置し、いつビットを攻撃させるか。
ISのハイパーセンサーによりどこに敵がいるかはすぐに確認する事が出来るが。
ただでさえ人間は二本の腕を使うだけで精一杯の脳で、空に浮かぶ四つの腕とも言うべき武器を自在に操るのは相当の集中力と空間認識能力を要する。
制御の集中するのに自身の手が止まるのはもはや必然だろう。
だが、それが致命的な弱点となった。
セシリアが意識しなければ動かないその僅かな遅延時間が一夏のビットを攻撃するチャンスとなったのだ。
残った二つのビットを近接ブレードとセシリアに初めてダメージを与えた偶然の産物である回転蹴りで壊し。
「行ける!」
護衛がなくなったセシリアへ一夏は近接ブレードを構えながら接近。
「これで!」
そして手に持つ近接ブレードを振ろうとした一夏だが、セシリアは戦いの場でなければ思わず見とれてしまうほどの小悪魔のような妖艶な笑みを浮かべる。
何故目の前でブレードで今まさに斬りかかろうとする人物を目の前にいかにも余裕と言いたげな態度を取っているのか。
その意味を一夏はすぐに身を持って体験することとなる。
「残念でしたわね」
「ッ!!」
先ほど空を舞っていた四機をレーザー型と言うのなら、セシリアがスカート状のアーマーに隠しておいて二機のビットはミサイル型。
使用方法はレーザー型と同じだが、レーザーに比べ弾速はが速く一撃の攻撃力もレーザー型よりも勝る。
そのミサイル型ビット二機にセシリアは一夏へ攻撃命令を送る。
全速力でセシリアに接近していた一夏は避けることもままならずに、黒煙と炎に包まれた。
ミサイルの炸薬により発生した熱から操縦者を守るために白式は絶対防御発動。
そして白式はある報告を一夏に表示した。
『初期化、最適化完了致しました。私は貴方を歓迎します』
「これって……」
黒煙の中、白式が突如輝き始め、一夏は身を委ねるように目を閉じた。
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新たな専用機が生まれたその瞬間を第三アリーナにいた全ての人間が魅入っていた。
「あれは……」
「カッコイイー」
「驚きの白さ!」
十人十色の反応を見せる。
それはエースも例外ではない。
「初期化も最適化もしてない出撃させるとは、ここの教師は生徒を殺す気なのか。もし俺が織斑の立場だったら……」
出撃までに整備を終えなかった整備員と出撃を許可した人間を皆殺しにしていた。
という物騒な言葉をエースは口から出さずに飲み込んだ。
命を預ける兵器を万全の状態にして操縦者に託すのは整備する者と出撃を命令した者の義務だ。
傭兵として兵器に命を預けるエースが、あまりにも怠惰すぎる整備員達に怒るのは仕方のないことだ。
(それにしてもまるで……)
白式の開発所とIS学園の教師達にディターミネイションを触らせない事をエースは心に決め、全身白いISを改めて見つめる。
(まるで
伝説と謳われた傭兵。
ラストレイヴン。
リンクス戦争の英雄。
ラインアークの守護者。
白い閃光。
どれも圧倒的な力を保有する人間であると主張する二つ名を幾つも持つ、人類種の天敵とすら呼ばれた人間を殺した人物が駆る全身白いネクスト。
ホワイト・グリントにエースは一夏の白式を照らし合わせながら。
突如疼き始めた前の世界で致命傷となった、今は古傷となり完治しているはずの場所を右手で押さえた。
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「一次移行!貴方、今まで初期設定だけで戦っていたって言うの!?」
セシリアが驚きの声を上げる。
何故なら一次移行は専用機を持つ上で戦う前に必要最低限行なわければならない工程だ。
それなのに今まで戦っていた相手は性能を最高状態で発揮できない暴れ馬に乗りながらも自慢のBT兵器を四機も壊されたからだ。
「……雪片弐型」
しかし、セシリアの声は先ほどの近接ブレードが雪片弐型という名前を取り戻し、その名前の重みに身を震わしている一夏に届いていない。
雪片はブリュンヒルデ、織斑千冬が使っていた武器の名前だ。
世界最強である以前に十五年間自身を守り続けてくれた姉から、愛用していた武器を託されたと認識した一夏は興奮のあまりに武者震いしているのだ。
「俺は世界で最高の姉さんを持ったよ」
一夏はぽつりと呟き、雪片を姉に隠れて見た試合の知識を元に真の姿に展開させる。
雪片には変形機構がある。
それはとてもシンプルだ、刀の鎬に当たる部分に僅かな溝があり、操縦者が展開命令を送ると溝が開け、そこから青色のシールドエネルギーで出来たセシリアの扱うスターライトmkⅢとは比較にならないほどの高出力の刀身が生まれるのだ。
「俺も、俺の家族を守る」
一夏は自身の決意を強く言葉に込め、口から出す。
「……は?何を言って――」
「とりあえず、千冬姉の名前を守るさ!」
晴天をイメージさせるほどの爽やかな笑みを一夏は浮かべ、雪片を強く、心に決めた決意が自分から離すことがないように握りながら中段に構える。
「何をさっきから。面倒ですわ!」
一夏の言葉を無視し、セシリアはスターライトmkⅢを構え一夏に向かい発砲するが。
「見える!」
一次移行が終え動きが段違いに改善された一夏は難なく、最低限の動きでレーザーを回避し、スラスターウイングを最大出力で稼働させ、閃光の如き速さで飛んだ。
「速いですわね……ですがこれで!!」
スターライトmkⅢではトップスピードで迫りくる一夏に当てることが出来ないと判断したセシリアは再装填されたミサイルビットを二機一夏に放つ。
しかしそれも一夏の戦闘スタイルに合わせられたセンサー類によって容易に見切られ、雪片の横へ振られた青色の刀身の一閃により斬り落とされる。
「おおおおっ!!」
一夏は吠え突撃する。
「ッ!!」
鬼気迫る一夏にセシリアは気押され敗北を覚悟した。
下段から上段へ逆袈裟斬りを行う一夏も観念したかのように目を瞑るセシリアに勝利を確信した。
『試合終了。勝者。セシリア・オルコット』
だが、決着を知らせるブザーと共に、勝者と敗者を告げる教師の声は二人が想像していた真逆の結果を伝えた。
「「「「え?」」」」
戦っていた一夏とセシリアを含んだ大半の人間が口をだらしなく開け、疑問の表情を浮かべる中。
「やれやれ……」
雪片の特徴を理解している千冬と。
「なるほど。雪片はシールドエネルギーを攻撃に転換する武器って所か。そうでなければシールドエネルギーが無くなるわけがない」
雪片の特徴をISバトルにおいてHPのような役割を持つシールドエネルギーが尽きて一夏が負けたという事実から分析し、一人納得したエースは苦笑いを浮かべていた。
――――――――――――――――――――――――――――――
エースは試合終了後、一人でIS学園の草木が生い茂るエースもそれなりに気に入っている小さな生徒達の憩いの場となっている屋上へ足を運んだ。
「一人なったんだ。そろそろ出てきてくれないか?」
脳内レーダーで周囲に自分ともう一人しか人間がいないことを確認した後に。
第三アリーナから後を付けていた追跡者にエースは声を掛けた。
そしてエースの声に物陰から一人の少女がひっそりと現れる。
エースはその少女を全身を見回し、記録しておいた情報と一致していること確認した。
「あれ?何でバレちゃったの?追跡は完璧だったと思ったの――」
炭酸ジュースの缶を開けたかのような軽い銃声と共に、追跡者の声が途中で終わる。
エースがズボンのポケットに仕舞い込んでいた、銃身の先端にサウンド・サプレッサーを装着しておいたGA製のハンドガンを取り出し、名も知らない追跡者の眉間に容赦なく射撃したからだ。
眉間に撃ち込まれたケースレス弾の弾丸の衝撃により追跡者はどさりと後ろに倒れた。
Q:サプレッサーについて
A:装着してもポケットに入れるぐらいACの世界では小型になったと思ってください。(ご都合)
よくサプレッサー付けてもそこまで音が消せないと聞きますがないよりは間違いなく音が小さいんです。