よぉ相棒。一億殺った気分はどうだぁ?
興奮し過ぎて何も言えないってか?
下らん罪悪感でグロッキーってか?
それともオペレータに振られて失恋か?
まぁいい。
行くぞ相棒。
残ったORCAをしゃぶり尽くすぞ。
「アッ……ウッ……」
エースの左手に持つ
死体となった男から流れ出た赤い血が黒いMARVEの銃身を赤に染めながら伝い、その下にある血だまりに滴り落ちる。
エースは男に突き刺したMARVEを捻ってから引き抜き、脳内のレーダーで男と周囲に生体反応が完全に無くなった事を確認した。
「ミッション完了……俺の糧となれ」
血と脂が辺りに飛び散り、恐怖、怒り、憎しみの表情を浮かべていたはずの元人間だった肉が転がり。
異臭と抵抗のために生まれた火薬の臭いが混ざり合い、最悪としか表現出来ない香りが漂うMARVEにより穴だらけになった部屋の中。
ぽつりと呟いたエースの言葉は誰にも届くことなく虚しく消えた。
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ロシアでのミッション完了後、軽い睡眠をとった後にトレーニングのために学園のグラウンドを十週ランニングした後、朝食を摂るために食堂へ向かったエースは。
「「いただきます」」
「何だそれは?」
IS学園の食堂のカウンター席に座る一夏と箒の、料理の前に手を合わせるという動作にエースは困惑していた。
「日本じゃ食べる前に手を合わせていたただきますって言うんだ。料理になった命と料理を作ってくれた人たちに感謝って意味でな」
「なるほど。イタダキマス」
勢いよく、周りが何事かと注目を集めるほど大きな音を立てながら強く両手を合わせたエースに一夏は笑い。
そんな二人のやり取りを気にせず箒は黙々とお米、鮭の切り身、味噌汁、納豆、浅漬けの絵に描いたかのような和食のセットを食べた。
エースと一夏も箸を持ち、炊き立ての証である僅かに湯気が出ている白いご飯がのった茶碗を手に取り、一口サイズに取った米を口に含んだ。
白米のもちっとした柔らかい触感と炊き立ての温もりが、ミッションとトレーニングで疲れたエースの舌を楽しませる。
「……美味いな。米を食べる習慣がないからあまり食べたことないが柔らかいな」
「あぁ、この美味さは電気ジャーじゃ出せないな。きっとかまどを使っているに違いない」
「電気ジャーとかまどの違いはよく知らんがまた和食セットを食べてみるか」
エースは改めて今いる世界の食文化に感謝しながら和食セットを食べた。
噛めば噛むほど甘い米と塩味がよく効いた鮭の切り身がエースの食を進ませる。
だが、味噌汁と納豆と浅漬けの味には馴染めず僅かに顔を歪ませた。
「うーん。やっぱ日本人じゃないと和食は舌に合わないのかな?」
「食べれない事はないが少々塩辛いな、納豆とやらの臭いも慣れが必要だな」
そう言いながらも数日は何も食べれない時もあった劣悪な環境と残したら勿体無いという貧乏性な性格のため。
苦手な味だとしてもエースは涼しい顔で和食セットを食べきった。
「食べるの早いなエース。あぁ、日本では食べ終わった後にごちそうさまって言ってまた手を合わせるんだ」
「OK。ゴチソウサマ」
先ほどは大きく叩きすぎたと周囲からの反応で察したエースは、今度は音を立てないようにゆっくりと手を合わせた。
「ところで篠ノ乃、織斑と同部屋と聞いたが本当か?」
昨日今日の今も一言も会話をしなかったエースに突然話しかけれ、箒は僅かに驚いたが。
僅かな愛想笑いを浮かべながら口を開いた。
「あぁ。確かに一夏と同室だ。もう一人男がいるのに不思議だな」
「そうだな。不思議な事もあるものだ」
「でも、箒で本当に助かったよ。他の女子だったらたぶん緊張して眠れなかっただろうし」
一夏本人は何も特別な感情なく言った言葉だが、それを聞いた箒は誰から見ても分かりやすいほど満足そうな笑みを浮かべ何度も何度もうなずいた。
「そうか私だと助かるのか……そうかそうか」
「……良かったな。仲が良いなら苦労はしないだろう。さて、先に行く。教室で会おう」
箒の気持ちを察したエースは食器を乗せたトレーを返却口に返し、食堂を出て行った。
(俺の肉体年齢と同じ15から18歳の人間は多感だから気を付けろとクラリッサが言っていたな。注意だけはしておこう)
日本のIS学園に向かうと知った途端に目の色が変わり、普段の落ち着いた声から想像できないほど興奮した声で長々と講義したクラリッサを思い出しながらエースは教室へと向かった。
――――――――――――――――――――――――――
朝食後、毎時間最低一回は熱暴走を起こしている一夏と、真面目にノートに授業内容を書き込む箒、ニコニコと笑顔を浮かべたり、寝ているかどうか分かりにくい表情を浮かべたりする本音やその他大勢のクラスメート達をエースはぼんやりと眺めながら、数時間前の戦場とは真逆の平和な授業を楽しんでいた。
「ところで織斑、お前のISだが準備まで時間がかかる。予備機がない代わりに学園から専用機を用意するそうだ」
「へ?」
「「「ええええええぇぇぇ!!?」」」
授業中にさらりと重要な事を言う千冬に甲高い声が上がる。
「一年のこの時期に?」
「バカな……早すぎる……」
「いいなー私も専用機欲しいなー」
千冬の言った事と周囲が何故羨望の眼差しで見つめてくるのかが何一つ理解できなかった一夏が振り向き、後ろの席に座るエースに視線を送ったが。
エースは前へ指を差し、僅かに苦笑いを浮かべた。
一夏はその意味も理解できずに、エースの指差す方へ顔を向ける。
そして一夏は、目の前にいる人物の手に持つ物によってエースが指を差した意味を身を持って理解することとなった。
バアンッ!
クラスに乾いた音が鳴ると共に、一夏の脳細胞が五千個死んだ。
「織斑。話は姿勢を正して聞け」
「はい……」
「織斑の専用機はあくまでデータ収集を目的としたものだ。ISを動かすにはISのコア必要だが篠ノ乃博士が一定数以上作る気がない。データ収集のためという理由があるとはいえ467個しかないコアの一つが自分専用となることの意味を、欲しいと言っている者達もしっかりと理解しろ」
(専用機か。俺のディターミネイションも扱い上はそうなるのだろうか。あまり期待はしないがIS委員会が上手く動かないと、いずれ面倒なことになるかもしれんな)
エースは性別が男で一夏のような男性なのにISが使える特別な体質でもないため、ISコアを使用したISを使うことは出来ない。
故にISコアを使用していない、基礎部分がアーマードコア・ネクストの技術で動いているディターミネイションをエースの専用機と呼ぶのは467個しかないISコアが468個あるということになってしまうので、どこかの国のどこかの組織がISコアを隠し持っているという誤解を招く可能性がある。
たった一つの差だが、既存兵器を全て鉄くずにするほどのISの性能からして勝利した時のIS戦力増強というメリットを考えると、たった一つのコアを巡る戦争が起きる可能性がある。
ISの個数がそのまま国の戦力として考えられている世界においては、たった一つのコアを喉から手がでるほど欲する国や組織は山のように存在するからだ。
だが、一か月の期間過ごした世界ではエースは国家間でISコアを巡る戦争が起きる確率が、元いた企業に比べて極めて低いとエースは考えている。
しかし、それは普通のISでの話だ。
アーマードコアの技術を使用したディターミネイションは他のISとは生体制御システムであるAMSや統合制御システムIRS、超高密度水素吸蔵合金を燃料としたコジマ粒子発生機構を兼ね備えるジェネレータ、電気エネルギーを推進力に変換する非化学ロケットのブースターといった、ディターミネイションを構成するための基盤となるものが全て、別世界の最先端技術が結集して作られた兵器で、それら全ての技術がISコアに依存するISの技術とは違い、他兵器にも流用可能。
さらにISコアという篠ノ乃束という天才しか作れない事、女性でしか使えない事の二つの欠陥がない存在しない、ISではないまったくの別物の兵器でISと真正面から戦い勝つことが可能と分かったのなら、更なる力を得ようと多額の金と、多くの人命を犠牲にしてでも、力から生まれる安定を求めるために、戦争を起こしてでもディターミネイションを追うだろう。
例えそれが、違う世界では国家を解体するほどのIS以上に個人に強力な力と、操縦者に生まれた事を後悔したと思わせるほど苦痛を与える技術だとしてもだ。
だからエースは面倒と判断した。
今いる世界にアーマードコア・ネクストという兵器の技術は一切不要であるからだ。
「あれ?ち……織斑先生。それじゃあなんでエースに専用機はないんですか?」
自分に専用機が送られて、自分と似たような状況の男に専用機が送られないのは一夏じゃなくても誰でも疑問に持つだろう。
クラス中の視線がエースに向かれる。
当のエースは、展開が面白いように読めた事もあり内心舌打ちをした。
「アレスはすでに専用機持ちだ。それに学園の試験時教員を倒した確かな実力を持つ」
「マジで!?」
「「「ええええええぇぇぇ!!?」」」
クラスに再び甲高い声が響くと共に、怒声が上がる。
「かかし!貴方、専用機を持つとはどういう事ですの!?それに、教員を倒したって!!」
エースの予想通りの人物の声にエースは冷静に事実だけを答える。
「勘違いしてもらっては困る。未調整でまっすぐに飛んできたラファール・リヴァイブを避けただけだ」
「そんな冗談のような嘘が私に通じるとお思いですの?貴方に専用機を持つ者として決闘を申し込みます!」
「……この学園に在住する以上、どう足掻いても君と戦うことになるだろうからその誘いを拒否する気はない」
「言いましたわね!イギリス代表候補生の実力を証明してあげますわ覚悟なさい!」
セシリアの一方的な宣戦布告をエースは淡々と落ち着いて返し、両者は口を閉じる。
極力ディターミネイションの技術流失を避けたいと考えているエースだが、IS学園に通う上でのミッションがあるので嫌でも実戦データをIS委員会に対し提供しなければならない立場だ。
クラス代表決定する一夏とセシリアとの戦いとは違い、勝敗がついても何も起きないセシリアの挑戦をエースはミッションを遂行する好機だと一応考えた。
しかし、現時点エースが避けたいと考えるアーマードコアの技術が混ざったISであるディターミネイションの実戦データが流出してしまうので気分はやはり良くはなかった。
「あの、織斑先生。質問ですが、篠ノ乃博士と篠ノ乃さんは…」
一通り騒ぎ終えた所で、ある女子生徒が千冬に対し、恐る恐るといった感じに手を挙げ質問した。
千冬が言った篠ノ乃博士という単語から、ふと疑問に思ったのだろう。
それに対し千冬は当然のように、呆気なく答えた。
「そうだ。苗字から予想出来ると思うが篠ノ乃は篠ノ乃博士の妹だ」
「「「ええええええぇぇぇ!!?」」」
今日、IS学園一年一組に三度目の甲高い声が響く。
世界中が探している天才と呼ばれる人物がクラスメイトの肉親という事実は、普段は冷静なエースも女子生徒達と同様に純粋に驚いた。
そして、一夏とエース同様に注目の的となった箒は不愉快そうな表情を浮かべたが、ただ静かに黙る。
(なるほど。いざとなったら……)
「だが、博士は博士。篠ノ乃は篠ノ乃だ。妹だからって変な事をするなよ」
誘拐して束を誘い出そうと考えているエースを見透かしているかのような千冬の発言にエースは自然と千冬に対する眼つきが見るだけで相手を射抜きそうな鋭く冷たい物に変わる。
そしてエースの普通の生活を送った人間には出せない独特の冷たさを持つ視線に気が付いた千冬も同様に睨み返したが、ここは戦場ではなく学園。
生徒とその教師がする目ではないと理解している両者は目が合った瞬間すぐに小さな笑みを浮かべ。
「授業を再開する。アレス教科書六ページを音読しろ」
「分かりました」
生徒と教師の関係へと戻った。
Q:ネクストの技術
A:ニューオーダーオブネクストを読みましょうお勧めです。
すごく簡単に説明しますとすごいシステム(ただしすごく危ない)とすごい(環境汚染付き)
ジェネレータとすごいブースター(めちゃ早い)やら色々集まったらネクストです。
詳しくはニューオーダーオブネクストをすごくお勧めします。