IS×AC<天敵と呼ばれた傭兵>   作:サボり王 ニート

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「首輪付きの戦いはこれからだ!」
的な感じの話です。


12 問への旅

「どうして俺が日本のIS学園とやらに行かねばならん。説明を要求する」

ドイツ陸軍のエースの個室。そこには来客がいた。

簡略すると、死んだら自己責任で遺体は今後の研究のために貰います。あと、ISコアの奪取はしないように、後は緊急時以外はISを使わない事。ではご自由にと書かれている誓約書にエーアスト・アレスと偽名を書き終え。

正式に国際IS委員会管理局直属、IS傭兵管理機構<BIND(縛る)>。

ほとんどエースのためだけに生まれた傭兵組織のたった一人しかいない所属傭兵にエースはなった。

同じく、BINDに転属されたマリー・エバンにさっそく変わったミッションを依頼され、頭を痛めていた。

(それにしても有澤自治区か…何の皮肉だろうか…)

エースは一か月前にはいたはずの世界の、かつて日本と呼ばれた国から生まれた会社有澤重工。

その43代目社長有澤隆文。エース自身の手で殺した人物とその人がいたエースが元いた世界をふと思い出した。

(この世界に来て、もう一か月は経つのか…それなのに世界の答えを得るどころか、一度も行ったことのない教育施設に行けとは笑わせる…セレン、そこに俺の求める答えがあると思うか?)

少し感傷に浸ったエースだが、すぐに頭を切り替え目の前にいるマリーの話に意識を集中させた。

「誓約書に書かれている通り、国際IS委員会からのミッションは最優先に実行すべき絶対の物です。我々の一員となった以上、拒否は認めることが出来ませんと予め言っておきます」

「理解している。それで、なぜ俺が学園に行くことになった」

「三年間という長期期間ミッションとして、貴方の対ISにおける実戦データを得たいのです。貴方には傭兵として自由にミッションを選ぶ権利はあります。ですが、そのミッションを熟す上で敵対勢力と戦うでしょう。しかし、相手が必ずISとは限りません。寧ろ稀でしょう。そこで、実戦が盛んなIS学園に入学させるという事です。年齢も、貴方の経歴が不明ですが、恐らく貴方は15歳と言われても疑われない容姿ですから問題ないでしょう」

「IS委員会は頭がないのか?俺が入学した後のそこの生徒はいったいどうなる?裏の世界で様々な罪を重ねながら生きる人間が、そんなことを微塵も知らない人々の中に混ざったら悪影響しか与えん事ぐらい想像出来ることだろう」

「もし一般生徒に危害を加えようとしても、あの学園には、経験豊富な教師部隊と世界最強ブリュンヒルデがいますので、彼女なら貴方を止めるのに問題はないでしょう」

「俺ではなく向こうから何かしら危害を加えたのならどうする?悪いが、相応の位を持ち、世界に影響を及ぼす人間の関係者ではない限り、反撃に容赦をする気は俺にはない」

「その時はその子に運がなかった。それだけですね」

「それだけだと?生死に関わることは極力しないが、そんな簡単に済む話ではないだろう」

「済む話です。それに、先日言った通りプライベートは我々は一切関与しません。傭兵という職業柄、復讐される可能性がありえますね。貴方の恨みに満ちた敵と出会った時貴方がどのように行動するか、個人的には楽しみですね」

マリーのにっこりとほほ笑むビジネススマイルとは違う紛れもない裏に生きる者が持つ、組織に関わらない人間なら生死や生活など、どうなっても良いと考えている冷たい無機物のような笑み。

エースが散々、企業の人間から見てきたその不愉快な笑みを見て、マリーに聞こえるよう舌打ちをした。

「申し訳ありません。IS傭兵というのは世界初なもので、我々も色々と至らぬ所があり、エーアストさんには不満を持たれる事はあるでしょう。お互い持ちつ持たれず行きましょう。さて、先ほど言いましたがこれはミッションです。勿論報酬は払います。向こうは日本ですので、日一千万円でどうでしょう?」

「報酬だけで済む問題ではないと言っているのだがな。…他にメリットは?」

エースは金だけなら先日の報酬500億円を得ている。これはAFランドクラブを襲撃するミッションと同じ額の報酬だ。

本来、傭兵活動で得た報酬金は、弾代、修理代、パーツ購入費、人件費、生活費と色々な所から引かれ、本来は手元にはあまり金が残らないのだが、全ての武装もフレームもあり、ISの自動修復機能でフレームの修復も弾代もいらずなディターミネイションに小さな損害では人の手を使った設備を行う必要はない。

故にエースは生きてきた環境が環境なので、貧乏性が抜けず、大量にある金の使い道に困っている。

エースが今金を使うのなら、デュノア社に嫌がらせするために使うくらいだ。

「戦場には行きと帰りに貴方のISの使用を国際IS委員会の名の下に許可します。これは、学園に通ってもらいますのでミッション遂行が主に深夜や休日になる可能性が高い事と、緊急時における作戦領域に速やかに到達してもらえるようにと考えた上での許可です。無闇に使用するのはまぁ、分かってもらえますね?」

「……」

「納得いかなくても、先ほど言った通り、貴方には拒否する権利はありません。そもそも、今回の件は異例中の異例です。全く素性が分からない貴重な男性でISが使える人間であり、どうやってその黒いISを手にいれたかも分からない貴方に、上は傭兵活動を容認したのです。本来は実験台にされてもおかしくはないですよ」

「安心しろ。異例なのは容易に想像出来る。所で、表向きの俺の存在はどうするつもりだ?」

傭兵というのは何かと、一般の人には悪い目で見られる。

それは、金だけでどこの組織にでも所属し力を振るい、安全に暮らす人々の生活を蹂躙し、治安を悪化させ、死人を出しても法に裁かれる事がない存在だからだ。

「自由国籍権を持つ少々変わった一般人ですね。因みに、IS学園に貴方の事情を知らせる人間はIS学園理事長とブリュンヒルデの二人だけです」

「ふん…了解した。そのIS学園とやらにはいつ行けばいい」

「明日の早朝、迎えに行きます。そして、明後日にはIS学園の実技試験…まぁ貴方なら問題はないでしょう。そして、今日から五日後には入学式ですので、色々と忙しくなりそうですが…それまでには準備をお願いします。では、これで。私は仲介人のような事をする予定ですので、企業や国から依頼が来たときはメールで、我々IS委員会からの緊急の依頼は電話で連絡しますのでよろしくお願いします」

丁寧に深々と頭を下げ、エースに向けにっこりと笑った後、マリーは個室から出て行った。

(何を考えているIS委員会…一般の生徒に紛れ込ませることで俺の動きを制限するつもりか?もしくは、学園に何かあるのか?)

見えないIS委員会の真意をエースは考え始めたが、それも次の来客達によって妨げられた。

「「「お兄ぃぃぃぃいいぃぃいぃぃいい様ぁぁあぁああああぁぁあぁぁあああ!!」」」

まさに黒に染まった雪で出来た雪崩の様に個室に押し寄せる黒ウサギ隊の隊員達にエースは両手を頭に当てた。

「…どうした」

「浮気ですか!!」

「何がだ…」

「入隊するんじゃないのですか!!」

「どうしてそうなる…」

「私達は遊びだったのね!!」

「ふざけているのかお前達は?」

隊員達のせいで、エースは考える気力が根こそぎ奪われ、頭を痛めつつも黒ウサギ隊達の相手をしていった。

 

「分かったか?俺はどこにも属さない傭兵になった以上、軍に所属する君達とは敵対する可能性がある。いつまでも仲良くするわけにはいかない。寧ろ、薄汚い敵を守るべき祖国から追い出したと考えてくれ。いや、軍属である以上君達はそう考えなければならない義務がある」

エースの黒ウサギ隊隊員達を思い、言った言葉だがその思いとは裏腹に黒ウサギ隊の誰もが悲しそうに沈んだ顔を見せた。

「…世話になり、本心で君達に感謝している。しかし、例え恩を仇で返す事になったとしても、どうしようもない状況というのものが世にはある。理解してくれ」

沈んだ顔をしている隊員達全員をしっかりと目に焼き付けるようにエースは見回し、数分待っても全く反応がなく、無理矢理退出させるしかないとエースは考え、ため息を吐いた。

「…嫌です」

しかし、一人、小さく、消え入りそうな声だが、たしかに拒絶という意志をエースに伝えた隊員がいた。

少しでも反応を返す者がいてエースは内心嬉しくも残念な気もする複雑な気持ちを抱き、数瞬間考えた後、敢えてその意志を潰すように威圧感を込めて言い放つ。

「何だと?」

エースの声に怯え、涙目になった、だが。

「嫌です!」

それでも、エースが黒ウサギ隊隊員達と初めて会ったときに撫でてあげた赤い髪のショートヘアーの隊員が今度は誰にでもはっきりと聞こえるくらいの声で伝えた。

「…私も嫌です!」

「私も!」

その声に影響されたのか次々とエースの言葉を拒絶する声がすぐに広まり。

沈んだ顔からしっかりと意志を持った真剣な顔に変わった隊員達をエースは評価したが同時に呆れた。

「…お前達。もし俺がこの場で君達と敵対し、銃を構え、照準を向けたらどうする?」

「ボッコボコにしてでも止めます!」

「止めて見せます」

「同じく!」

黒ウサギ隊達の答え。それに絶対に負けない自信を持つエースは思わず吹き出しそうになるのを堪え、頷いて見せた。

「分かった。だが、君達がそう考えていても俺は命を賭す戦場では一切の容赦はしない。それを理解してまだそんな甘い事を言うのなら好きにすればいい」

エースは冷たく突き放すように言った。

「「「はい!」」」

だが、それに対し明るく、眩いばかりの笑みを浮かべる少女達がいた。

(甘いな…まったく。まぁ…いいか。敵対するその時が来るまで彼女達に付き合おう)

エースはその笑顔をどこか穏やかな感情を抱きながら眺めていた。

 

早朝、エース、ラウラ、クラリッサの三名がいた。

「世話になったなハルフォーフ大尉」

「いえ、こちらこそお世話になりましたエーアストさん」

最初にエースは、暴れ狂う黒ウサギ達の抑え役として何かと世話になったクラリッサと握手を交わした。

「隊員達に、俺が借りていた個室に大量の菓子類を買ってある。それをプレゼントしてやってくれ。礼としてはまだ足りんだろうが、まぁ許してくれ。後、シュタイベルト大将にも世話になった礼に多少はドイツに贔屓してやると伝えてくれ」

「了解しました…今度会うときは…」

「あぁ、理解している」

クラリッサに少ない別れの言葉を言い、次にエースは黒ウサギ隊隊長で何度も会話を楽しみ、隊の中でも一番交流時間が多かったラウラと対面した。

「君にも世話になったボーデヴィッヒ少佐」

「世話をした覚えはないぞ」

「世辞だ。素直に受け取れ」

「断る」

「君はもう少し相手をだな…」

「私には関係がない」

エースはやれやれといった感じに肩を竦め、クラリッサは面白そうに微笑み、ラウラはエースから顔を背けた。

「まぁ、ハルフォーフ大尉と言葉は同じだ。次会うときは」

「そうだな。戦い、私が勝つ。何者にも負けない最強の存在となる事が遺伝子強化試験体として生まれてきた私の存在理由だからだ」

「隊長!」

焦るように大声を出したクラリッサにエースは深く聞くべきではないプライベートな事だろうと思ったが、敢えて口に出した。

「前にも言ってたな。遺伝子強化試験体。それが君の存在理由か?」

「あぁ、私は私より強いと思った。たった二人の内の一人である貴様に挑戦する。そして、私の力を証明してみせる!」

珍しく感情的になり意気込むラウラと、複雑そうな表情を浮かべるクラリッサにエースは不敵な笑みを浮かべ。

「勝手に熱くなるな。だが、俺は君の存在理由なんぞ知らん。しかし、戦う時が来たら全力で戦うことを約束しよう」

「…ふん。良い答えだ。私も楽しみにさせてもらおう…エ…エース!」

そして言う事は言って、僅かに頬を赤く染めながらラウラは一人速足で基地へ戻って行った。

(何がラウラを動かしているのか。遺伝子強化試験体というのが関係あるのだろうか)

ラウラの突き動かす物が何なのか。

それは、自身が介入すべき事なのか。

エースは複雑な感情を抱きながらラウラを見送り、ザックやアタッシュケースに詰め込んだ約60kgくらいの荷物を軽々と持った。

「名前を呼んで赤くなるとは、少しは可愛げがあったのだな」

「あったじゃないですよ。可愛いのです」

エースの言葉にクラリッサは少しだけ苦笑いを浮かべたが、すぐに顔を真剣な物へと変えた。

「…最後に独り言を言わせてください」

そう言うクラリッサだが、その目はしっかりとエースを捉えていた。

「シュヴァルツェ・ハーゼは様々な事情を持って生まれた部隊です。隊長の言っていた遺伝子強化試験体という言葉でなんとなく分かりますでしょう」

「……」

「隊長は私達の中でも特に特別です。私は戦うために生まれてきたと隊長がシュヴァルツェ・ハーゼに入隊したばかりの時に言ってました。当時の隊長は――」

「その先は君が語るべき言葉ではない。ボーデヴィッヒ少佐と勝負し、勝った時に本人の口から聞くとしよう」

「独り言だと言ったのに…」

その後数分、エースとクラリッサの間に沈黙が流れたが。

「エースさん」

どこか優しさを感じさせる落ちついた声で、エースを呼んだクラリッサが背筋を伸ばし、僅かに微笑みながら敬礼をした。

そして、それが何を意味をするのか理解したエースは同じく敬礼をした。

両者に言葉はなかったがそこには次に会う時が不幸な事にならないようにと祈る念があった。

「君…いや、君達の心意気深く感謝する」

エースは最後にそう告げ、歩き出した。

 

 

そして――

 

 

「下島賭子先生!止めてください!そのラファール・リヴァイヴはまだ未調整です!!」

「未調整とかって話だが、打鉄起動出来ないただの男に負けるわけねぇだろ、行くぞおおぁぁあ!!」

ドヒャァ!

【BREAK DOWN】

 

 

 

その日は春なのに、まるで焼けつくような暑い日だったという。

 

「これは…想像以上にキツイ…」

 

ある一人の少年と――

 

「お前がIS委員会が言っていたIS傭兵か」

 

ある一人の傭兵が――

 

出会った日である。

 

「ッ!……セ…レン?」




Q:日一千万円
A:一千万=1000コーム=ACFAハンドグレネードSAKUNAMI一発。こうやって書くと高いのか安いのか微妙だったりします。

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