(追記)1/22
シールドエネルギーと推進系のエネルギーは別という指摘を受けたので今後はBT兵器もシールドネルギーと別のエネルギーとして扱います。
かなり雑ですがACで例えるとシールドエネルギー=回復しないPA。エネルギー=回復するENです
「到着しましたエーアスト様。ここから見える円形のドームが、デュノア社専用アリーナです」
ドイツ軍基地から車で数時間移動。窓から見えるビル群をただぼんやりと眺めていたエースは、運転手の男性の声に曖昧だった意識を集中させる。
五日前はディターミネイションを起動して、飛んで行こうと思っていたエースだが、ドイツ首相により止められた。
理由は、既存のISより圧倒的な速さを持つISが、ドイツ周辺で消息が途絶えた。これにより、数日間ドイツとそのISは関連性はあるのかと、様々な国家の重要人物からの質疑に応答せざる負えない状況となった。
インドも、生産工場が占拠されていたのは知っている。だが、自国の工場を謎のISに襲撃されたという認識を各国からされており、それを利用し、ドイツに襲撃したISの性能や搭乗者を差し出せといった色々と無茶な要求をしたが、そこに国際IS委員会が介入した事により騒動はある程度鎮圧された。
だが、納得のいかない国も多く。それらの国にはドイツは今も苦し紛れに関連性は一切ないと答え続けなければならない状況だ。
なぜISで直接に行かせたのかと、エースとロレフは、エースの存在を知る政府関連者に批判され、相応の見返りを寄越せと言われたエースだが、そんな政府関連者達にエースはロレフと出会った時と同じように脅した。
「俺の現状とISの性能を理解してそれでも追及するのなら、初めに言った通り、シュヴァルツェ・ハーゼの持つ三機のコアを奪い、逃亡してもいいのだがどうする?」
エースはあくまでドイツに居座ってやっているのであり。気が変われば、敵対することも構わないと改めて伝えた。
IS。この世界における最強の兵器の影響がどれだけ大きく、その存在により、エースの想像以上に世界が歪んでいるという事を本や新聞やテレビにインターネット、ロレフから提供してもらった資料といった。あらとあらゆる情報媒体からかき集めて得た情報からエースはよく理解した。
この世界で力を持つ者。それは女。男はISを使用することが出来ないから弱い。男女。AMSと同じく先天的にどうしようもないたった一つの原因でこの世界の男女は見えない戦線に隔てられてしまった。
その結果、男性の社会的立場低下を訴え、テロ紛いの事をするような集団。逆に、女性と男性の立場を絶対的な物にしようと訴える集団。
たった数年でそんな者達を生み出すほどの影響力と性能をISは持つ。
そんなISを動かすためには必ず必要となるコアを奪うという、国に対して宣戦布告をしている事と変わらない脅し。ただ、エースの脅しは子供の様な言葉だけの力の無い脅しとは違う。
規格外の性能を持つISに八機のISを相手にして勝った実績を持つ男、まるで首輪無き獣のようなエースの脅しは、事実という強大な力を持つ。
エースの態度に些細な事で暴れ狂う厄介な獣であることを初めは、エースを利用し尽くそうと考えていた者達はエースの危険性を理解し、何も言う事が出来なくなった。言ってしまったら何をされるか分からないからである。
しかし、また勝手な行動をされては堪らないドイツは、エースにISの使用を極力控える事を条件に今回は不問にするしか面子を保つことが出来なかった。
結果を言えば、エースのこの世界における初ミッションはエースに対するドイツの不信感を高めただけ。
得か損かと言われたら無論損だ。だが、エースにとってはどうでもいいで済む範囲内だ。
理由は目的遂行の為に現時点必要なのはドイツではなく国際IS委員会の信頼だからである。
エースはポケットにしまって置いた、ドイツから提供された携帯電話を取り出し大半は黒ウサギ隊の隊員達に制圧アドレス帳からロレフの名を選ぶ。
「ロレフ・シュタイベルトだ。エーアスト君だね?」
何回かコール音が鳴ったが、少しだけ聞き慣れ始めた男の声が聞こえ出す。
「そうだ、エーアスト・アレスだ。予定通り午後の二時に着いた」
「分かった。その運転手は君が呼べば、すぐに駆けつけれるよう、待機命令してある。私個人は言っても無駄だと思っているが、ドイツの為、極力ISを使わないようにな」
「協力してくれた貴方の立場の為にも使用しないと一応は言っておく」
「・・・脅した時の首相らの顔を見てないのか?」
「あぁ、その場にいないのに全員真っ青だったな・・・では行く。すまんな。連絡をくれと言ったのは貴方だが、大将の階級を持つ貴方に時間を取らせて申し訳ない」
「いや、気にしないでくれ、これも一応は仕事扱いなのでな。活躍を期待するエーアスト君」
「了解した。作戦行動を開始する」
通話を切り、ポケットに携帯電話を入れ、車からアタッシュケースを持ちエースは堂々とした足取りでアリーナへ向け歩き出す。
エースがアリーナへと歩き出した時と同時刻に、アリーナの入り口に前に佇む一人の少女がいた。
風が吹くと絡む事無くサラサラと流れ、髪にある艶が光を放つほどの美しい金色の髪を持つ少女。
フランス一の企業と言われる資格を持つ企業、デュノア社。そして、その社長の愛人の娘シャルロット・デュノアの顔は、何もかもに疲れ、酷く憔悴した様な顔をしていた。
(お母さん・・・)
自分を育ててくれた最愛の母親が死に、引き取った父の会社の元でISの訓練を続けた二年間。
自分を守る者は誰もいない。ならば自分で守るしかない。
ただ、ひたすら努力した。
親とは思っていないので褒められたいとは思わなかったが、せめてシャルロット・デュノアという個人を認めて貰いたかった。
父と会話し、たった一言、母を愛していたと言って貰いたかった。
その一心で、愛人の子として誰からも疎まれ、どこにも自分の居場所のない中で二年間ずっと耐え続けて来た。
そんなシャルロットに、先日、父から初めて頼まれ事をされた。
国際IS委員会から送られてきた相手と勝負し、必ず勝て。
どんな相手なのか、なぜそんな事になったのか。
一切情報を貰えなかったが、父の僅かに興奮が混じった声に、これはただ事ではないとシャルロットは理解した。
(力をください・・・)
もし負けたら。何をされるだろう。
責められるのだろうか、殴られるのだろうか、殺されてしまうのだろうか。
そんな事を考えるたびに積み重なっていく黒い絶望に立ち向かい、シャルロットは自分の足でアリーナへと向かった。
だが、シャルロットはアリーナの入口までのあと一歩を踏み出すことが出来ない。
一歩を踏み出す事を止め、そのまま逃げ出したいと考えている。
何度も何度も心の中で優しい母親の姿を思い浮かべ、逃げ出したい自分の気持ちを掻き消すが、足が地面に根を張ったかの様に動かないため、進むことが出来ない。
そんな事を繰り返す内に時間が流れ、シャルロットは体を小刻みに震えながらの目には涙を浮かべていた。
「助けて・・・お母さん・・・」
シャルロットの口から、この二年間。今まで一度も口に出したことのない母親に救いを求める声が不意に出る。
「迷子か?」
後ろから突然声を掛けられ、シャルロットは体をビクリと肩を跳ね上げる。
普段は人が溢れるデュノア社専用のアリーナだが、今日は模擬戦を行う為、一般人は勿論、何故かデュノア社の重役でさえ入ることを許されていない。
入ることを許されているのは招待状を持つたった数人だけだ。
今この場には人がいないと思って、最も晒したくのない本音をシャルロットは口から出してしまい、挙句聞かれてしまった。
「誰ですか!?」
恥ずかしさから感情が僅かに昂った事もあり、少々言葉を強く言ってしまったことを、根は心優しく真面目なシャルロットは後悔した。
だが、言ったからには引くわけにはいかない。相手の姿を見るべく、シャルロットは目に溜まったいた涙を袖で拭ってから慌てて振り返る。
そこにいた人物。顔に一切の感情を感じさせないが、中性的で非常に整った顔立ちをしている同年代くらいの少年で、手にはビジネスマンのようなアタッシュケースを持ち、首に金属らしき素材で作られた黒と金のラインが走った首輪を着けている。
(もしかして・・・危ない人?そういうプ・・・プレイ?)
無意識に、シャルロットは目の前の首輪を着けた少年に警戒を始める。
「質問で返すな。君は迷子なのか?」
(子供じゃないのに迷子になんかなるわけないじゃないか!)
少年の質問に僅かに怒りの感情が湧いたが、そんなシャルロットに対し、淡々と落ち着いた声で話す少年に気が削がれた。
「・・・違います」
「そうか、すまんな。では、さようならお嬢さん」
少年はそう言い歩き出し、シャルロットを抜き、アリーナの入口へ向かう。
(同年代だからお嬢さんは変なんじゃ・・・って、あれ?今日は招待状持つ人以外立ち入り禁止だから止めなきゃ駄目だよね)
「ちょっと待って」
少年のアタッシュケースを持っていない手の袖を握り引き留める。
デュノア社の関係者として、一応は止めないといけないと思ってのシャルロットの真面目な性格から来た行動だ。
「・・・何だ?」
「今日は、この招待状を持つ方以外は立ち入り禁止ですのでお引き取りください」
シャルロットは肌身離さず持って来た、招待された者のみが持つことを許されているデュノア社社長のサイン入りの招待状を少年に見せる。
「・・・・・・」
(えっと、どうしよう・・・)
招待状を見せたはいいものの、少年の顔がまったくの無表情なので、驚いているのか、焦っているのか何を考えているか分からないのでシャルロットは関わってしまった事を後悔し始める。
「あ、あの・・・」
「なるほど。君の言う招待状はこれでよろしいか?」
少年はポケットから丁寧に折り畳まれた紙を取り出しシャルロットに広げて見せた。
そこには確かにサインが有り、自分の持つ紹介状のサインと字がそっくりだった。
「ご、ごめんなさい!」
やってしまった。シャルロットはそう思い頭を下げる。
「気にしていない」
少年の言葉に良かったとほっと、口から息が出るほどの一息をシャルロットは出した。
普段周りにいる人間なら間違いなく責められているので、安心してしまい出したのだが、初対面の他人の前に出してしまったのでシャルロットは顔を赤くして俯く。
「顔色が悪い。どうやら疲労が堪っているらしいな。これを食べるといい。今後も疲れた時には甘い物を摂るといい」
少年がアタッシュケースを開き、その中から、金色のツヤツヤとした綺麗な包装紙で包まれたお菓子を取り出しそのままシャルロットの手に握らせた。
(何だろうこれ?)
「では、改めてさようなら。すぐにまた会う事になるだろうが」
「え?それってどういう事ですか?」
少年の思った以上にゴツゴツとした手と、さっきまでの感情を見せない無表情からは予想のつかなかった僅かな笑みに一瞬ドキンとしたシャルロットだが、少年の言葉の意味を理解出来ずに問い返した。
だが、その問いに少年は答える事無くアリーナ内へと入って行った。
「ま、待って!」
少年を追いかけようと、アリーナへと一歩進んで見せたシャルロットだが、さっきからアリーナへ入る事の出来ない理由を思い出し、その足を止める。
(どうしよう・・・)
最終的には行かなければならないのだが、心の準備がまだ出来ていない。
時間はまだ大丈夫。だからまだ行かなくてもいい。そう自分に言い聞かせてまた立ち止まる。
(返すつもりだったけど、もう行っちゃったし、せっかくだから食べちゃおう)
金色の包装紙を解くと、そこから広がる甘いココアの匂い。少年から貰ったお菓子は一口で食べることの出来るチョコレートだ。
それを口の中へ入れ、噛むと甘い味が口の中に広がった。
(甘いなぁ・・・)
チョコレートの中にはキャラメルが入ってあり、口の中にくどいほどの甘さが残る。
(美味しいなぁ・・・)
先ほどとは別の意味でシャルロットの目から涙が出始めた。
疲れた時には甘い物を摂るといい。さっき言った少年の言葉の意味を身に染めながらシャルロットはしばらくの間、チョコレートの味を噛みしめる様に味わった。
入り口で警備員に招待状を見せ、入場の許可を得たエースはアリーナへと足を踏み入れた。
(さて、どこへ行けばいいのやら。とりあえず、話し掛けてみるか)
広い入口ホールにたった一人でいかにも待ち人ですと言った感じに佇む、肩に届くか届かないくらいの長さの金色の髪に、スマートなメタルフレームの眼鏡を掛け、グレー色のスーツも合わさり、仕事と結婚しましたと言いそうな女性にエースは話し掛けることにした。
エースが女性に近づくと、その女性はエースに気が付いたのか、軽くお辞儀をし、ニコリと微笑んだ。
「初めまして」
その凛とした声にエースは聞き覚えがあった。
エースは処理能力と記憶能力が向上されている脳で前回も今回も依頼内容を伝達した女性マリー・エバンであろうと断定した。
「初めまして。マリー・エバン」
エースは手を差し出し、女性も手を差し出した。
正解そういう意味とエースは受け取り、両者は握手を交わした。
「はい。エーアスト・アレスさん。本日はドイツからわざわざご苦労様です」
「世辞は止せ。君達が依頼したからここまで来た。それだけだ」
「そうですか。本日はお車で?」
「そうだ。あぁ、お望みならば、今度からはISで飛び、その度に各国を混乱させてもいいのだが?個人的にはそっちの方が早く作戦行動を開始出来て助かる。どこかの阿呆な組織が、反社会的行動している連中にどういう意図かは知らんが、戦力を渡したりするかもしれないのでな」
「・・・それは止めて貰えると嬉しいですね、私達も抑えるのは大変なもので」
「なら、今度からは、移動手段に気を使って依頼することだな。ISの性能ぐらいは君達はよく理解出来ているはずだ」
「はい。それなら今度からは移動手段はどうするつもりですか?私には決定権がありませんが。報告はしておきます」
「そうだな。出来れば面倒だからISで飛んで行きたいと決定権を持つ連中に言っておいてくれ」
「なるほど。私達の苦労は知らぬと・・・言っておきますが、もしISを使うとしてもエーアストさんには高度とか速度制限様々な制約が付くと思われますが?」
「そうか、ISの方が追加で依頼された時にすぐに対応出来るからそちらにも利があるとついでに言って置いてくれ。まぁ、どちらにしろ君達の意見を待つとしよう」
(まぁ、守る気はないがな)
有ったとしても実力と成果で捻じ伏せるだけだ。
エースはそうやって、ずっと企業からの支援なく、独立傭兵としてどこの組織に信頼することなく活動していたのだから。
「さてマリー・エバン。案内を頼む」
「えぇ、分かりました。そのつもりでお待ちになっておりました。では、こちらへエーアストさん」
マリーが歩き出し、それに数秒置いてから付いていくようにエースも歩き出す。
十歩以上離れている二人の距離感を現しながら。
(ディターミネイション。システム通常モード起動)
エースの意思に呼応し、首輪から青緑色の粒子が溢れだし全身を包む。
アセンブル――
HEAD
HD-HOGIRE
CORE
CR-LANCEL
ARMS
A11-LATONA
LEGS
WHITE-GLINT/LEGS
粒子が装甲を形成し、ディターミネイションを具現させる。
(ACとは違い、すぐに戦闘開始出来る状態まで移行出来るのはISの良い所だな、まぁその分凶悪犯が使うとなると面倒な事になりそうだがな・・・)
手を開いたり閉じたり、その場で軽くステップをしたりして、エースは自分の動きを確かめる。
AMSによって機体とリンクしているエースの想像する動きとそれに反応する機体の誤差はほぼゼロだ。
(・・・不思議なまでに良好だ。ISの自動修復という機能だったか?時間が経てば勝手に修復してくれるのは設備が要らんから助かる。それでもメンテナンスは必要だな。ノーマルとネクストACのメンテナンス方法はある程度分かるが、こいつはISでもあるからな。まぁ、後で考えるとしよう)
一人、納得のいかない所を思考し機体の動作を確認するエースをジロジロと見ていたマリーは独り言のようにポツリと呟く。
「・・・男性がISを起動させる。目の前で見ると、中々不思議な気分ですね」
真顔で嘘偽りのない、純粋に興味津々の眼差しを持つマリーにエースはその言葉を素直に信じた。
「まぁ、常識が破られたという驚きの気持ちはなんとなく理解できなくはないが、その話は後日だ。マリー・エバン、仕事の話をしよう。相手の準備は?」
「すでに出来ております。ピット・ゲートが開きましたらカタパルトに乗り出撃。そして、スタートシグナルが鳴り次第、戦闘開始です」
「時間は?」
「今から五分後です。ゲート、開きます」
「了解した」
重々しい金属が擦れる音を鳴らしながらピット・ゲートが開き、ゲートが開き切った事を確認したエースはメインブースターに火を灯し、足に力を入れ跳躍。
そして、メインブースターの推進力を得てピットから飛び出す。
『カタパルトは使わないのですね』
マリーからプライベート・チャンネルで送られてきた通信。
その声に意識を傾けながらもエースはフィールドの中央まで移動し、敵を待つ。
『使えば金が掛かるんだ。いいじゃないか』
『意外と倹約家なのですね』
『君が俺に対しどういうイメージを持っているのかは知らんが、雑談は後だ。切るぞ』
それだけ告げるとエースは一方的に通信を切り、エースがフィールドに入場したゲートとは反対側のゲートからカタパルトに乗ってやってきたオレンジ色の機体、ラファール・リヴァイヴ・カスタムIIとシャルロット・デュノアを睨む。
(右にマシンガン。左に武装なし。だがシールド付きか)
『デュノアだ。その変わった黒いISが勝負の相手か?』
冷たいとも老いとも感じる落ち着いた男性の声がアリーナのフィールド内に響く。デュノアと名乗り、限られた者しか入れないこの場にいる人間なのだから社長だろうとエースは判断した。
『国際IS委員会、管理局特殊IS管理官のマリー・エバンです。その黒いISと勝負し、勝利すれば契約通り3億5千万ユーロを無償で渡しましょう。いいですね?』
『あぁ、かまわん』
『分かりました。では、あとは彼女らに任せましょう』
(勝負ね・・・ISの絶対防御があるからそう簡単には死なないとはいえ、よくもまぁ簡単に。それに、またか)
模擬戦と勝負。戦う事には変わりないが、命を賭すか賭さない、この二つの言葉が持つ重みは、戦場に身を置き命を奪って生きてきたエースはよく理解している。
『マリー・エバン。賭け事をする戦いは模擬戦とは言わん。作戦放棄を提案したいのだがそちらの言い分は?』
二人の会話が終わったことを確認したエースは、マリーに通信を繋ぎ、ミッションの内容が違っている事をシャルロットに聞こえないように小さな声で指摘する。
一度は報酬を倍にすることで許した。
だが、二度もやろうものならとエースは予め警告をしておいた。それなのにまた契約違反を国際IS委員会は起こした。
腐っても協力関係を結んでいるのだから正確な情報を寄越せとエースの代わりに言ってくれる人はエース自らの手で殺した。
死人に口無し。ならば自分が意見を出すしかない。
自分の身を守るのは自分しかいないからだ。
『貴方は傭兵として我々に戦力を売った。そして我々は貴方の戦力を買った。戦力をどう使おうが我々の勝手。それだけです。それに、私も昨日聞いた事なので悪しからず』
エースの指摘に対してマリーは予め言葉を決めていたかのように落ち着いて返答した。
傭兵。どの勢力にも就かず、金銭などの利益にしか就かない、合法非合法問わず、依頼主の任務を遂行する。戦闘を生業とする人物又は組織の事を言う。
己の身を戦力としてエースは売っているのだから買った国際IS委員会に、多少ミッション内容が変更されても従うのは当然で口答えは許さない。
そう国際IS委員会は考えているとエースは受け取った。
エースは国際IS委員会の自分の扱い方には同意しているが、だからと言って正しいミッション内容を伝えない事には当然呆れている。
戦力追加や、裏切り、ミッション内容の突然の変更。
どれもエースが傭兵として生きてきた世界で何度も体験したことがある事だ。
依頼内容が違う事。本来起きてはならないそれを慣れたというのはおかしいとエースは理解している。しかし。
「いい加減慣れてきただろう?」
かつてエースに対してセレンが言った言葉を思い出し、周りから見たら頭がHOGIREになっているので表情は分からないが、エースは僅かに頬を緩ました。
(慣れか・・・なんだか前回脅したのも馬鹿馬鹿しくなってきた)
『・・・なるほど。君達の言い分を理解した。ではマリー・エバン。君達の正式な依頼を頼む』
『はい、エーアスト・アレスさん。国際IS委員会は貴方に依頼します。ラファール・リヴァイヴ・カスタムIIと勝負をし、勝て。そうすれば報酬と国際IS委員会の正式な傭兵として我々は貴方を歓迎します。死ぬことはないでしょうが、気を付けてください』
『了解した』
(まぁ、どんな形であれ、いずれ報いは受けて貰うがな)
エースは改めて自身の敵、ラファール・リヴァイヴ・カスタムIIを見る。
それを駆る人物。一時間ほど前に見かけた、勝つという意思を感じさせる目をした少女シャルロットを見る。
エースとシャルロット。両者の間に言葉は無い。
ただ、静寂だけがその場を支配する。
そして、静かなフィールドにスタートシグナルのカウントダウンが始まる。
3――
(そういえば、使ってみるのは初めてだな。メインシステム、ISバトル用戦闘モード起動)
ISでもありACでもあるディターミネイション。
しかし、ISのHPの様な役割を持つシールドエネルギーがない。
だが、その代わりに用意されたAP<アーマーポイント>、その値は30000。
機体周辺に無害化コジマ粒子を安定還流させることにより形成された粒子装甲、PAの膜を濃くするためジェネレーターが無害化コジマ粒子を大量に生産。
ISのマシンガンは攻撃力、PA減衰力、貫通力全て、ネクストのマシンガンと比較したら低めだ。
しかし、APが30000あったとしても、PAを完全に剥がす事が可能であれば、例えマシンガン一丁でもそれなりに損傷を与える事は可能だ。
ネクストはコジマ技術に大きく依存している兵器なのだから当然である。
2――
アセンブル――
R―ARM WEAPON
L―ARM WEAPON
R―BACK WEAPON
L―BACK WEAPON
手元に青緑色の粒子が集い、武器が出現装着。
(・・・挨拶ぐらいはしておくか)
1――
「お嬢さんよろしく頼む」
音声変換を使い、合成音声でシャルロットに向けてエースはそう告げ。
「え?それってどういう――」
シャルロットの疑問の声がエースに届く前に。
0――
戦闘開始を意味するブザーがフィールドに鳴り響いた。
エースは開始早々前へQB両者に有った僅かな距離を詰める。
「イグニッション・ブースト<瞬時加速>!?」
「戦闘中にお喋りとは随分と余裕だな」
エースはコツンとMR-R101Rの銃口を、驚き口をポカンと開けているシャルロットの額に突き付ける。
「っ!!」
銃口を突き付けられたシャルロットは撃たれる前に反撃すべく、後退しながら右手に持っているマシンガンで攻撃を開始。
「何・・・これ?」
しかし、PAによりマシンガンの弾丸が次々と無効化された光景を見て再びシャルロットは驚愕した。
シャルロットの顔にはこれがなんだか説明してくださいと言いたげな顔を浮かべているが、態々説明する趣味はエースにはないので頭上から攻撃出来るように機体を上昇しながら、シャルロットにMR-R101Rで攻撃を始める。
「速い上に一撃が重い!」
シャルロットの想像以上の攻撃力を持つライフルを数発受けてしまい、シールドエネルギーが大きく削られる。
攻撃受け続ける訳にはいかないのでシャルロットは左手のシールドを前へ構えて銃弾を防ぎ、右手のマシンガンだけではPAを突破できないと理解したシャルロットは左手に五五口径アサルトライフル、ヴェントを呼び出す。
光の粒子によって形作られた黒い銃、ヴェントをシャルロットは握り、そして、頭上にいるエースに銃口向けシャルロットは反撃を始めた。
頭上にいるシャルロットの周りを円を描くように素早く動くエースをハイパーセンサーで捕捉し、ターゲットサイトで狙いを定め撃つ。
ドンと、重い射撃音を出しながら飛んでくる弾丸をエースは左右へPICとブーストを使い、時に大きく、時に小さく動きながら全て躱す。
その動きはまるで獣の様に荒々しいが、精密な機械の様な正確な動き。
エースの動きにシャルロットは翻弄され、予測も狙いがことごとく外れ撃つ球も当然当たらない。
それに対しエースはただ避けるだけではない。シャルロットの死角へ回り込む、フィールドを照らすライトを利用して目を潰す。
避けられたり、シールドに防がれないように偏差射撃やシールドで防ぎにくい足元などを狙い撃ったりと、ただ銃を構えて撃つだけではなく利用できる物や知識や経験を使い攻撃する。
撃つ弾の殆どを躱され、たとえ当たってもPAで無効化。それに対し、撃たれ弾はシールド防ぐのに精一杯で、当たってしまえばシールドエネルギーが撃つ弾の倍以上削られる。そんな現状にシャルロットは焦り始める。
「それならこれで!」
シャルロットは両手に持つ武器を量子化させ、六二口径連装ショットガン<レイン・オブ・サタディ>二丁呼び出し、両手に装備、そして上昇しながらエースに向け両手のショットガンで面制圧を行う。
(接近。分かりやすいな)
接近するシャルロットを見てエースはブースターを切り、PICを使い急降下。ショットガンの弾丸が壁の様に来る中エースはシャルロットとの距離を詰める。
そして、EB-R500。エースは盾にしか見えないレーザーブレードを起動させる。
盾の先端にからオレンジ色に光り輝くエネルギーの刃を形成し、刃が当たると確信した距離から、加速し振り下ろすように斬る。
それにシャルロットはシールドを構え、刃を防ぐ。
シールドに張られたシールドネルギーとEB-R500のエネルギーの刃がせめぎ合い白とオレンジの光と火花を散らす。
「シールドが!」
だが、せめぎ合えたのも数瞬だ。
EB-R500のISバトル用で出力は抑えているが、元の出力が桁違いな上に、レーザーブレードのレーザーは磁場発生装置から生み出されては消えていくまるでチェーンソーの刃のように動くブレードにシールドが耐え切れずに二つに割れた。
「でもこの距離なら!」
弾丸を防ぐ膜、PAの存在を知らないシャルロットは撃ち合っていては負けてしまう。
そう判断し、ならば、その膜の内側だったら効果的な攻撃を与える事が出来るのでは考えたシャルロットは、多少のダメージを覚悟の上接近したのだ。
両手に持つショットガン。レイン・オブ・サタディで倒すために。
「やぁあああ!」
ショットガンをエースに向けシャルロットは連射。
近距離なのでショットガンの弾はまったく散らばらずに全弾ディターミネイションに当たり、被弾した場所の装甲が剥げた。
全身を装甲に守られているエースの体には傷一つもないが、ショットガンの衝撃が全身に伝わり相応の痛みが発生する。
しかし、それをまったく気にもせずにエースはシャルロットとの距離を一時離し、ダメージを冷静に分析する。
(一発、全弾当たればAP約500減少か。なるほど、サイズは違えどPAがなければやはり厳しいな)
実験。エースがシャルロットの考えが分かっていたが敢えて接近し、躱さず攻撃を受けた理由はディターミネイションがPAの影響がなければ、どれだけダメージを受けてしまうか確かめるためだ。
その代わりAPが8000近くも奪われた事になったが、エースはPAの重要性を改めてその身に刻む事が出来たと満足した。
試してみたかった事が終わり、エースは左肩のSAPLAを起動させシャルロットではなく地面へ向け発砲。
アリーナのフィールドはSAPLAから放たれた炸薬により黒煙に包れた。
エース自身の持つ脳内のレーダーと、ACが持つFCSのレーダー、そしてISの持つハイパーセンサー。
この三つにより例え、目の前が何も見えない暗闇であろうともエースが敵を見逃すことは決してない。
ブースターの推進力を後ろに向けエースはシャルロットに接近。
EBーR500を再び起動、さらに前へQBをし加速。
時速0kmから時速2000kmへ一気にスピードを上げた。
エースの静止状態から最高速度へ、その圧倒的な加速力にシャルロットも何度目かになる驚きを感じながらも、接近戦でなくては攻撃が通らないと冷静に考える。
シャルロットはハイパーセンサーでエースを辛うじて捕捉し、両手のレイン・オブ・サタディをエースに向け射撃しながら接近。
そして、距離を詰めたところでシャルロットはラピッド・スイッチ<高速切替>、右手のショットガンを量子化させ、近接ブレード<ブレッド・スライサー>を呼び出し装着した。
グレネードキャノンによって生まれた黒煙が次第に晴れ、視界が明らかになり、両者は敵を目視で捉えた。
エースは速度をそのままに、横に薙ぎ払うかのようにEB―R500を振るう。
シャルロットはそれを真っ向から受け止めるという無茶をせずに一時緊急停止。
スピードを殺し、EB-R500を振り始めた方向へ動くことで避け、ブレード・スライサーをエースの右肩を狙い斬り上げた。
だが、エースはブレッド・スライサーが肩に届く前に横QBで回避。そのまま前へ横へとQBを繰り返す。
「横にイグニッション・ブースト!何で!?」
前にいたと思ったら後ろに、右にいたと思ったら左に。ハイパーセンサーで完璧に捕捉出来ないほどの動きを見せるエースにシャルロットは混乱する。
本来は発動したら途中で軌道変更が出来ない上に、使えばシールドエネルギーを消費してしまうので多用出来ないISの機能イグニッション・ブースト。
しかし、エースの使うACの機能であるQBは途中で軌道変更が可能な上、ブースターやQBを使用する時に使われるエネルギーはジェネレーターで消費仕切れない程無尽蔵に生産し続けているのでエネルギーは決して尽きることはない。
エースはシャルロットを軸に円を描くように回りながらMR-R101Rを撃つ。
一発、また一発と高速機動で動きながら射撃しシールドエネルギーを削っていくエースに、シャルロットは右手に予備のシールドを呼び出しライフルの弾丸を防ぐ。
少しでも身を守るのは、現時点一方的な戦局なので的確な判断とは言えるが、このままではいずれシールドの耐久値が切れ確実に負けてしまう。
そんな事を、武装を持つ本人が誰よりも理解しているシャルロットは焦りだす。
(シールドが厄介だな。壊せるかどうか)
左肩のSAPLAを構え、前へQB。シャルロットに空中でも相手に確実にSAPLAの一撃を与える事の出来るように敵に接近。
「ッ!これで!!」
シャルロットはイグニッション・ブーストを起動。
スラスターウィングにエネルギーを取り込み圧縮し、一気にスラスターから圧縮したエネルギーを放出する。
それによって得た慣性エネルギーの推進力を得てエースに急速接近。
そして、エースがどこかの解体屋や濃霧の男が喜びそうだと評価した、第二世代型IS最強の攻撃力を持つと言われる六九口径パイルバンカー通称盾殺し<シールド・ピアース>と呼ばれている武器グレー・スケール<灰色の鱗殻>を呼び出す。
「行くよリヴァイブ!!」
シャルロットが叫ぶ。これが決まれば勝てると確信している唯一無二の武器なのだから。
(イグニッション・ブーストとブレードか)
存在は知っていたが、目にして見るとそれなりの速さを持つイグニッション・ブーストの加速にエースは僅かに驚いた。
シャルロットは徐々に大きくなっていく目標を見て、勝てると確信しイグニッション・ブーストの勢いをそのまま、シールド・ピアスを装備している左手をエースに突き出した。
(狙いは単純すぎるがまぁ良い。しかし、残念だったな)
しかし、エースは突き出される杭を目の前にただ落ち着いていた。
理由は単純、避けれるからである。
前へ横へでは後ろへ。
シールド・ピアスの先端が装甲に当たりそうになる僅かな距離を見極めエースは後ろへQBした。
「後ろ!?」
望みが打ち砕かれ顔を青くしているシャルロットを後退しながら淡々と眺め、目視で射線を合わせ左肩のSAPLAを撃ち込む。
「うぅ!」
SAPLAの砲弾がエースの狙い通り、イグニッション・ブーストの勢いがなくなったシャルロットに命中。
炸薬の業火に煽られたシャルロットの呻く声と共にアリーナのフィールドに再び黒煙が生まれる。
痛みと黒煙の中でシャルロットは諦めず反撃を試みるが。額に当たった物体と、目の前に立つ機体を見て動きを止める。
(終わりだ)
コツンと、黒煙の中に突入したエースの、最初と同じくシャルロットに額に突き付けたMR-R101Rの銃口。
そこから放たれた弾丸がシャルロットの額に直撃。
そして、決着を告げるブザーの音が鳴り響いた。
Q:AP30000について
A:最大50000くらい最小20000くらいなので30000がちょうどいいかなと思って設定しました。タンクも軽量二脚も戦闘システムを起動させたら30000です