双夜譚月姫   作:ナスの森

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ちょっと展開が早いかもしれませんね……。


第五夜 七夜を名乗る

 ――――終わりは、あっけなかった

 

「――――ふんっ」

 

 七夜は鼻で笑い、身体を一回転させ、その遠心力でナイフを死者めがけて投げつけた。

 弾丸すらも凌駕したスピードで飛ぶソレは、死者の“死の点”を貫き、紅魔館の外壁に刺さって停止した。

 

 ……それで、残り一人となった死者は、塵となりて消滅した。

 

 七夜の眼は赤みを帯びた蒼から漆黒に戻る。

最後の死者の塵が完全に空気となって消えていくまでに沈黙が続いたが、やがてレミリアが口を開いた。

 

「終わったわね……」

 

 レミリアは自分の皮膚の状態を確認しながら、そう告げる。

 ――――多少焦げているが、これぐらいなら、館に戻った後で回復する。

 永遠亭で作ってもらった吸血鬼用の日焼け止めを付けておけばよかったとレミリアは今更ながら、後悔する。

 だが、ソレも今は瑣末な事。

 目の前の厄介事を片づけた今――――レミリアの視線は、七夜に向いた。

 ……ソレに続いて、咲夜と美鈴もまた七夜へと視線を向ける。

 

 ……紅魔館に庭、緊張の風が吹いた。

 

「さて、目の前のゴミ掃除も終わった事だし――――貴方が何者か、話してくれるかしら、七夜とやら?」

 

「……気が付いたらここにいた……じゃ、納得してくれないか?」

 

「……なるほど、外来人ね」

 

「……簡単に納得してくれたな」

 

 もっと侵入者だとか、怪しい物だとか言われれば、少しは楽しくなっただろうな、七夜は残念そうにした。

 ……もちろん、そういう素振りはレミリアたちには見せない。

 レミリアはじーっと、手に顎を置きながら、七夜をじぃーっと見た。

 ――――自分の顔に何かついているのか、と一瞬七夜は思った。

 

 その間に――――入った来る者が一人。

 

 

「――――ねえ、貴方」

 

 十六夜咲夜は七夜に問うた。

 まるで何かを確かめるかのように――――しかし、彼女は何故か、質問を切り出せなかった。

 まるで聞く事を戸惑うかのように……誰が何かを確認したいかのように……。

 

「うん、メイドのお嬢さんか? 俺に何か聞きたい事でも?」

 

「ええ、あるわ。……答えてくるかしら?」

 

「答えられる範囲ならな……」

 

 そう聞いた咲夜は、ならば――――、と目を閉じ、己の聞きたい事を確認する。

 昔――――七夜の里であったあの蒼眼の少年。

 もし、ソレが目の前の人物であるのならば――――。

 

「七夜、と言ったわね。貴方のソレは本当の名前かしら?」

 

 ピク、と眉を潜ませる七夜。

 そのわずかな反応を咲夜は逃さず、咲夜の中でソレは確信に変わった。

 

「……何故そんな事を聞く?」

 

「七夜……この幻想郷においてそういう曰く付きみたいな名前は珍しくないけれど、あなたが外来人であるというのなら、普通、そんな名前は付かないわ」

 

「……」

 

「……ソレに、私は知っているもの……。

 退魔における“混血”殺しにおいて……禁忌という域とすら言われた退魔一――――」

 

「もういい。その先の言いたいことは分かる。

 ……確かにあんたの言う通りだ。“七夜”の名は退魔一族の名から取ったものだ」

 

 その事実に、レミリアは不思議そうな顔で、美鈴は少し驚いた様子で七夜を見た。

 ――――何故、わざわざ自分の名前を名乗らないのか……その疑問が二人には湧いてきた。

 しかし、一番疑問に思っているのは質問している咲夜本人に他ならない。

 

「何故――――そんな事を?」

 

「……答える必要性が――――」

 

「答えなさい」

 

 咲夜が若干威圧を出して七夜に答えるよう強いる。

 七夜は半分ほど殺気を向けて咲夜を脅してみたが、咲夜の意思が強いのか退いてくれる様子がない。

 ――――やれやれ、こんなろくでなしの事を知って何の意味があるのか……。

 そう、悪態を心の中で付き、やがて降参の意を示した。

 ……が、果たして記憶喪失と言って信じてくれるのだろうか?

 

「実を言うとね――――名前が思い出せないんだ。……冗談抜きでな」

 

「「「――――は?」」」

 

「とは言っても、完全な記憶喪失ではない。退魔の一族・七夜の生まれ。

 ――――それだけが何故か、記憶に残っていた。いや、記憶というよりは『情報』と言った方が正しいかな?」

 

「ちょ……ちょっと待ってくださいっ!!」

 

 そんな七夜の返答に美鈴が声をあげた。

 さっき七夜はその一族の名をさも当然かのように名乗っていたので、彼女にとっては違和感もありありなのだろう。

 

「貴方はさっき自分は“七夜”だってさも最初かその名前だろ言わんばかりな言い草だったじゃないですかっ!!?」

 

「ああ、確かにそうだ。

 だが――――名前が何か問題か? たとえ俺の名がなかろうと“七夜”である事に変わりはない。名前なんてそんな物――――瑣末な問題なんだよ。

 どの道――――俺のやることなんざ変わりはしないさ」

 

「……」

 

 七夜の返答に美鈴は言葉を失う。

 記憶がないというのであれば、普通は戸惑ったり、何をやればいいかとお先真っ暗になるものだが、七夜にはそういうものがなかった。

 ――――たとえ自分が何者か知らなかろうと、自分が自分である事には変わらない。

 そう言わんばかりの七夜の態度に、美鈴はもう言うことはなかったのだ。

 

「ふふふ……」

 

 七夜の、美鈴の質問への返答を、どう取ったのか、レミリアは笑い始めた。

 

 ――――おもしろい。

 

「お嬢様?」

 

 急に笑い出した己の主に対し、咲夜はどうかしたのかという顔でレミリアを見た。

 

「面白い……面白いわ。貴方……ここで執事として働きなさい」

 

「「――――は?」」

 

 そのいきなりの爆弾発言に、二人はまた間の抜けた声を出してしまう。

 無理もない。

 どこの誰ともはっきりしていない人物を、やすやすと紅魔館に――――しかも執事として働かせるなど正気の沙汰ではない。

しかし、何故か咲夜は、すぐ納得したのか、主の言うことに従うことにした。

いや――――咲夜にはレミリアとはまた違う思惑があってのことなのだが、それは咲夜のみぞ知る。

 

「い、いいのですかお嬢様っ!! いくら相手が人間だとはいえ、名前も身元もはっきりしていない男を館に住まわせるなんて、正気の沙汰じゃ――――」

 

「じゃあ、逆に聞くわよ、美鈴? そもそもウチに――――正気な輩なんているのかしら?」

 

 ……返しようのない質問だった。

 美鈴は言葉を失う。

 無論、正気でない、という事については紅魔館だけでなく、幻想郷全体に言える事なのだが……。

 

「分かってくれたのなら、結構よ」

 

「やれやれ、こんな人でなしを迎え入れようなんて……アンタも随分と酔狂だね」

 

 レミリアに対し、七夜は邪悪な笑みを浮かべながら、言う。

 しかし、そんな七夜に対して、レミリアは少し威圧をかけ、七夜に言った。

 

「異論でもあるのか? 人間」

 

「いや、無いな」

 

「ならいい。貴方にも少し聞きたいことがあるし――――ここに来て、働きなさい、七夜」

 

「はいはい。これからよろしく頼むよ――――“ご主人様”?」

 

 

 

 

 

 

 ――――で、今はここに至る訳である。

 私の後ろを歩くのは、私と同い年くらいの青年。

 名前は――――七夜という、幼い時に私が会った、少年の苗字と字が同じである。

 

 ――――コツ、コツと紅い廊下を歩く。

 

 すれ違う妖精メイド達が、私と一緒に歩いてくる七夜に注目してくるが、そんなモノは気にしない。

 まるで和服以外が考えられないくらいに和服が似合っていた彼だが、いざ着せてみた執事服も似合いすぎるくらいに似合っていて、ちょっと顔を反らしてしまったのは内緒だ。

 七夜は普段着慣れない執事服を、別段気にする風もなく着こなしており、懐からみれば立ち振る舞いも問題なさそうである。

 しかし、その研ぎ澄まされ刃物ような目つきはまるで、『今すぐにでもお前を殺したい』と嗤っているようで、見る者によっては戦禍すら走らせた。……私もその一人である。

 

「それにしても……館全体紅尽くしか。いい趣味しているね、まったく……」

 

「人の館にケチを付けるのかしら?」

 

「まさか。紅色は好きなんだ。まるで血しぶきのような鮮さがある」

 

「いい趣味しているのは、一体どちらかしら?」

 

 心の底で思ったことを冷静に突っ込んでみる。

 そんなことを真顔で平然と言うのは、よほど狂った人じゃないとまず言わない。

 まあ、幻想郷にまともな人物を期待する方がお間違いなのだけれど……。

 私の皮肉を込めた質問に対して、七夜は悪趣味げに笑い――――こう呟いた。

 

「まともじゃないよなぁ、お互いさ――――」

 

 ――――その笑いは、とてもあの少年からは想像も付かない、邪悪な笑みだった。

 

「……」

 

「――――ん? どうした。人の顔をジロジロ見て」

 

「い、いえ……何でもないわ」

 

 どうやらいつの間にか顔を凝視してしまったみたいだ。

 ――――本当に、あの少年なのか?

 先ほどの死者たちと戦っている時にわかったが、彼の眼は確かに蒼かった。

 だけど、あの時の少年の純粋な蒼とは違う。

 七夜の蒼眼はあの少年とは違い、若干の“赤み”を帯びていたのだ。

 七夜家の人間は、超能力を受け継いだ一族の証として、『あり得ざるものを視る程度の能力』――――俗に言う、“淨眼”というモノが現われるらしいが、七夜の蒼眼はその類には見えなかった。

 それでも――――

 

「もし、彼が、あの七夜志貴だったら、私は……」

 

 私は――――

 

 その先は、浮かばなかった。

 

 懐にしまってある「七ッ夜」を見ながら、私はお嬢様の居間へと急いだ。七夜も私の背中に続く。

 今日は新しい執事として七夜が紹介される。

 居間には、お嬢様の他にも、パチュリー様と小悪魔が待っている筈である。

 

 

 

 

 

 

「来たわね――――」

 

 ギギギ……という重々しい音を立てながら、ドアは開く。

 ……それにしてもギギギ、はおかしいわね。 

 今度、妖精メイドに修理させようかしら?

 

「お待たせいたしました、お嬢様」

 

 そう考えていたら、咲夜の声が聞こえたので、思考を現実に戻した。

 後ろには――――執事服を着た七夜もいた。

 

 うん、結構似合ってい――――いや、似合いすぎてるわね。

 

 もしこんな執事が、優しい声で「お嬢様、起床の時間で御座いますよ?」って言われたら、私どうしましょうか。

 

「お嬢様、顔が赤くなっていますよ?」

 

 おっと、いけない私とした事が、らしくもない妄想を――――。

 ……あれ、妄想? 私が?

 そ、そんな事はないわよね、私の名はレミリア・スカーレット、誰よりも高貴で、誰よりも威厳のある吸血鬼。

 そんな妄想に私は屈しない。

 

「よく来たわね。紅魔館の住人として――――歓迎するわよ、七夜?」

 

 とりあえず、さっきの事は忘れて、いつもどおりに振舞うことにする。

 

「初めまして、私めの名は七夜と言います。

 こんな出来損ないを迎え入れてくれたことを、心の底から感謝いたします――――ご主人様」

 

 ……声もエロ……じゃなくてかっこいいわね。

 立ち振る舞いも悪くはないし、あとはその壊滅的に悪い眼つきがなければ、花丸もあげるんだけどまあ……浮世はそううまくいかないものね。

 他人の“運命”を捻じ曲げるにしても所詮、ソレは“運命”に過ぎない。

 運命というものはそう決まっている事を指すのではなく、何千本にも分かれている道筋の事を言う。

 私の能力は所詮、その道筋に行きやすくしてやれるだけで、本人にソレを拒絶する強い意思があれば、私の能力など意味はなさない。

 ……そう私はその行きやすくされた“運命”を拒絶する強い意思を持った人間は好きだ。

 他人に勧めたれた事をこなす人形よりも……眼の前の彼のように記憶がなくなるという運命を辿りながらも、自分は自分であるという意思を持つ人間は美しい。

 だから、私は彼を執事として雇いたくなった。

 ……貴方は、私の執事でありながらも、己の道を貫けるかしら、七夜?

 

「さて、自己紹介がまだだったわね。もう知っていると思うけど、私の名はレミリア・スカーレット。ここの館の主にして、誇り高き貴族、ツェペシュの末裔にして――――吸血鬼よ」

 

「ツェペシュ――――死徒でも、真祖でもなく純粋な吸血鬼の始祖か。

 確かに、貴女からはアイツらのような類の気配は感じませんね。

 いや、まったく――――こんな上玉を主人として持つなんて――――光栄の至りですよ、ご主人様?」

 

 やばい……声が、エロい。

 惹きこまれそうだわ……。

 

「人間としては礼儀を弁えているようね。

 アイツ等と一緒にされては、貴方の首は今頃私の足元よ。……あんな吸血鬼の面汚しのような奴らと、私達を聖堂協会たちは同列にみなしている。

 それは……これ以上にない、耐え難い屈辱だ」

 

 いつの間にか、拳を握りしめていた。

 それほどに私はアイツ等に対して憤っているのだろう。

 ――――人から血を奪えないと……力を維持できず、人から血を貪りつつ付ける死徒。

 ――――己の欲求を抑えるために、人間たちを食料とした真祖。死徒たちの始まりも彼らが原因である。

 どちらも、我ら“純”吸血鬼の誇りの面汚し。

 そして、ソイツ等と我等を同列とみなす聖堂教会。

 外は、我等の屈辱で埋まっていた。

 

「さて、私の自己紹介は以上よ」

 

 とりあえず、心の底から湧き上がる憤りを抑えて、私は自己紹介を終える。ソレに続いて、隣にいたパチュリーが自己紹介した。

 

「パチュリー・ノーレッジ、魔法使いよ。普段は地下の図書館にいるけれど……私はちょっと持病だから、長い距離は動いていられないわ。

 用があったら……私の図書館に来てね。

 ……それにしても、七夜――――ねえ?」

 

「? どうかしたの、パチェ」

 

 パチェが薄ら笑いを浮かべながら、七夜をみる。

 そんなパチェが珍しくて、つい声をかてみたくなった私。

 

「まさか同じナイフ使いで、しかも名前の“夜”の部分が咲夜と同じなんて……何か運命という物を感じるわね。

 そう思わない、レミィ?」

 

 悪戯げに嗤うパチェ

 私が運命を操ってこの男を館に呼び寄せたとでもいいたげな顔ね……。

 私の能力は正確にはそういった事には向いていないというのに……。

 

「まあ、貴方がそう思うのならソレでいいんじゃないかしら、パチェ?」

 

 私は適当にソレを返した。

 彼女――――パチェは時々、今のように“いい性格”になる事があるが、ソレもまたおパチェの魅力的な一面だ。

 

「ああソレと、私の傍にいるこの子――――小悪魔っていうんだけど、私の使い魔ね。私に用があった時は、主にこの子に言ってくれると助かるわ」

 

 パチェが言い終わると、傍にいた小悪魔がペコ、と七夜に頭を下げる。

 

「承知しました、パチュリー様」

 

 こうして、パチェの自己紹介が終わる。

 後は――――。

 

「貴女だけよ――――咲夜?」

 

 私の呼びかけに、咲夜ははい、と言い、七夜に向き直った。

 

「十六夜咲夜。ここのメイド長をしているわ。

 だからまあ、これからは貴方の上司になるわけだけど、依存はないわよね?」

 

「無いさ。衣食住を許してくれる手前、コチラから言うことは何もないよ、先輩?」

 

「……別に呼ぶときは咲夜でもいいわよ、し――――七夜」

 

 ……?

 咲夜、今何か言いかけたわね。

 そう言えば、私が七夜を執事にすると行った時も、反論してきた美鈴とは違い、咲夜はあっさりと了承していた。

 ……いくら私に忠実なメイドとはいえ、咲夜はあの男に対して何か思い入れでもあるのかしら?

 よく見ると、咲夜の表情は色々と複雑そうである。

 滅多に見れない咲夜の表情を見れた事に関して、私は七夜に感謝しながら話を続けた。

 

「さて、自己紹介も終わった事だし、そろそろ本題に入りましょうか」

 

「お嬢様。ソレは、あの死者たちの事ですか?」

 

 咲夜が私の考えを代弁してくれた。

 

「そうよ。紅魔館の庭に幻想入りした貴方と、貴方と美鈴の前に突如、大量召喚された死者たち。

 ――――貴方は何か心当たりはあるかしら?」

 

 私の勘が告げる。

 七夜が幻想入りした直後に同じ場所に召喚された死者たち。

 死者たちを殺してくれた辺り、七夜が加害者という訳ではなさそうだが、とても無関係には思えなかった。

 

「心当たりはありませんね。

 だが、強いて言うならば、アレは召喚させているというよりは、何者かが外の世界から“転移”させているような印象を受けましたが?」

 

「何故、そう思うのかしら?」

 

「所詮は、素人の推測ですが……まずは死者たちが着ていた服です。僅かな記憶から引っ張りだせる事ですが、アレは明らかに外にいた世界の人たちが着る類のものです。

 ソレに、死者たちは出現した黒い瘴気からワラワラと湧いてきた。

 そしてあの黒い瘴気から魔力の痕跡が見られました。

 とすれば、あの黒い瘴気を操っている術師がどこかにいる筈――――だからこれは、何者かが故意に死者たちをこの館の庭に転移したと言ったところでしょうか……。

 最も、俺がここに来た直後に転移されてくるなんて……タイミングも都合も良すぎるような気がするがね……」

 

 七夜、貴方……まさか……いや、考えるのはやめよう。

 そんな事を考えたら……眼の前の彼がソレに見えてしまうから……。

 

「パチェ、貴方からも聞きたいわ」

 

「私は現場にはいなかったけれど……もし七夜の言う通りだったら、その転移させた術師は相当の壊れモノよ。

 美鈴や七夜に気づかれず、そんな大袈裟な事をやってのけるなんて、一体何処の術師かしら?」

 

 ……なるほど、敵もかなり強敵だから油断はするなという事か……。

 

「咲夜は?」

 

「私も大体の推測は七夜と同じですが……。

 あの死者たち……銀のナイフを使っても、脳みそを突き刺したくらいでは止まりませんでした。

 別段、死者なので、ナイフを頭に突き刺されたぐらいでは止まらないのが常識ですが、銀のナイフでやっても同じ結果なのはいくら何でもおかしいです。

 ……おそらく、なんらか術を施されて“強化”されているのだと思います」

 

 今のは結構重要な事ね。

 彼らは並の死者よりも高い戦闘力を持っているということになる。

 私にとっては取るに足らない存在と言っても……ソレは少し厄介だ。

 

「今の所、わかるのはソレくらい、か……」

 

 まあ、何も収穫がないよりはマシ、か……。

 

「じゃあ、この話はこれでおしまいね」

 

「咲夜、七夜を部屋に案内してあげなさい」

 

「かしこまりました。来なさい、七夜」

 

「了解だ、咲夜」

 

 そう言って二人は扉を開き、部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

残されたのは私とパチュリーと小悪魔のみ

 

「ねえ、レミィ」

 

 不意に、パチェが私に言ってきた。

 

「何かしら? パチェ」

 

「七夜って飛べるのかしら?」

 

 ――――あ。

 そういえば、思えばソレが一番肝心だったわね。

 私はしまったと思い、うしろ髪をかいた。

 そんな私に呆れたのか、パチェはハァ~、とため息を付く。

 ……というか、貴女も人のこと言えないじゃない。

 

「……飛べないんじゃないかしら。先ほどの死者たちの戦闘でも飛んでるというよりは、樹木の間を何か変態的な動きで跳び回りながら、死者たちと戦っていたし……」

 

「その”変態的な動き”というのが気になるのだけれど……。まあいいわ、後で聞いてみましょう。

 もし、飛べなかったら、アレを試してみましょうか……」

 

「アレって何?」

 

 ものすごく気になるわ……飛べない人間を飛べるようにするようなマジックアイテムをパチェは開発したのかしら?

 さすが私の親友ね。

 

「まあ、飛べるようになるわけじゃないんだけどね……」

 

 ……そんな私の考えを手折るかのように、言うパチェ。

 ズッコケそうになったじゃないのよ、まったく……。

 

「とある魔術研究をしていた時に、偶然できた副産物なのよ。

 私たちのように普通に飛べるような者には意味がないけれど、彼の身体能力なら出来そうね……後、問題は魔力か」

 

「ちょっと、一人で呟いてないで、私にも分かるように説明してよ」

 

「ああごめんごめん。

 その偶然の副産物……空中を歩けるようになるマジックアイテムなのよ」

 

 空中を歩けるように……ソレも面白そうね。

 空を飛ぶとはまた別の……空を散歩するような感じかしら?

 

「だけど少し問題があってね、ソレなりの魔力を持ってないと使いこなせないのが欠点よ。……七夜にソレ相応の魔力があるかどうか……」

 

「最悪、その魔力がなかったら諦めるしかないって事?」

 

「……そうね」

 

 七夜にソレ相応の魔力がある事を願うしかない、か……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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