まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第32話

なんと、あの距離を全速力で帰ってきた神通が金剛を庇って盾となり、敵魚雷の直撃を受けたのだった。

しかし魚雷を放った駆逐艦は猛然と砲撃と突撃をかけてくる。

 

降り注いだ砲弾は海面にいくつもの水柱を立ち上げる。

その内の何発かは神通の船体に直撃し爆発する。

 

「神通、大丈夫か」

叫ぶが当然ながら彼女まで声は届かない。

 

「損傷は受けてるけど、大丈夫ネー」

すぐさま金剛が状況を報告する。

 

「よし、金剛、神通の前へ。神通を下がらせろ。彼女を援護するぞ」

 

「リョウカイ! 」

 

その時、何故か悲鳴のようでもあり雄叫びが聞こえた。

その声は神通のものだった。しかし、いつもの自信無げな弱々しい彼女の声とは思えない程、力強く猛々しいものだった。

 

神通が黒煙を巻き上げながらも前進を開始したのだ。さらに敵駆逐艦に向けて使用可能な砲塔一斉射撃を開始する。

 

「神通に伝えるんだ。後退しろって」

 

「もう何度も言ってるネー。でも、あの子が言うこと聞かないヨー」

 

神通は突撃をかけてくる敵駆逐艦に対して回避運動をすることをしない。そして、敵駆逐艦も同様に一直線に向かって来ている。

砲撃が繰り返され、まさに双方ノーガードの打ち合いだ。

当然ながらどちらの艦もが被弾する。

神通にも着弾し、主砲が吹き飛ぶ。艦橋付近にも着弾し黒煙を巻き上げるが、彼女はまるで怯まない。それどころか更に速度を上げて敵艦へと突撃していく。敵弾を何発も浴びながらもその攻撃がまるで利いていないかのように速度を落とさないその姿は、狂気さえ感じさせるほどの鬼気迫るものだった。

 

ついには駆逐イ級が神通の迫力に圧倒されたのか、回避行動を取りはじめた。

 

勝敗は決した。

 

一気に攻勢を強めた神通の砲撃が敵駆逐艦をとらえ、放った魚雷が敵艦に命中し次々を火柱を上げる。

次の刹那、大爆発を起こし、艦尾を持ち上げて沈没していった。

 

「やったネー! 」

金剛が叫ぶ。

 

神通の攻撃はそれでは終わらなかった。援護のために接近してきた駆逐イ級eliteに向け神通は転進する。そして残った使用可能な砲塔から砲撃。

 

しかし状況は良くない。被弾損傷した神通を狙い、軽巡ヘ級がヒト型の上半身を大きく揺さぶり砲撃を行いながら接近して来る。2対1となると、被弾のため損傷が激しい神通では危ない。

敵は自らの被弾を恐れることなく、被弾した神通を沈めに来ているらしい。回避運動など全く取らない。死を(そういった概念があるかわからない。そもそもあれが何なのか分からない。人が乗ってるのかも不明)恐れることなく敵を倒そうとするのは機械だからなのか、それとも生物としての本能なのか。

 

しかし、神通をやらせるわけにはいかない。

 

「金剛、敵巡洋艦に火力を集中させろ。神通を守るんだ」

 

「了解ネー! 主砲、砲撃開始!! このぁぁ」

金剛が前方より神通へ接近する巡洋艦に向けて砲撃を加える。すさまじい音を立てて4基の35.6cm連装砲が火を噴く。

しかし、全く命中しない。それどころか、まるで命中する気配が無いほど見当違いの方向へと着弾する。

 

「も、もう、なんで当たらないんの-! このこのこの、当たれ当たれー」

距離は近づいているというのに、まるで当たらない。

これは金剛の射撃制御コンピュータの故障か何かかと疑いを持ってしまう。

 

「どうなってるんだ、金剛」

 

「私にも分からないヨぅー。こんなことありえない」

苛立ちを隠せないような口調で金剛が答える。

真剣に狙ってこの結果。どうやら普段とは違って何故か射撃系に問題が発生しているらしい。

 

「分かった。リスク覚悟で行くぞ、金剛。敵との距離をさらに詰めろ。こうなれば接近戦だ」

 

「了解」

金剛がエンジン出力を上げた。押されるような加速感とともに進撃を始める。

一気に巡洋艦との距離が縮まっていく。

 

その時、神通に接近中の駆逐艦が爆発し、火柱が上がる。

急接近を試みていた軽巡洋艦がそれに反応し、急に反転運動を開始した。同時にその巡洋艦の付近にも水柱が幾本も立ち上がる。

 

「OH! 扶桑たちが来たネー」

扶桑、高雄、祥鳳、そして大井の4隻が隊列を組んでこちらに向かってきているのが見えた。

彼女たちの後方に敵の巡洋艦と駆逐艦が見える。しかし敵駆逐艦からはもうもうと黒煙が上がっており、まともに進むことができないようだ。巡洋艦のほうも被弾しているようで、同様にこちらに来られる状況ではないようだ。

 

兵力差は歴然と判断したのか、軽巡ヘ級は信号弾を打ち上げた。それを合図に他の艦船も転進し撤退していく。

 

「ふう。なんとか助かったか」

冷泉は大きくため息をつくと、椅子にもたれ込んだ。

 

不意打ちを受けたとはいえ、敵の作戦の前に被害は甚大。撃退したものの決して勝利とは呼べない戦果だった。

 

「金剛、艦隊の被害状況を教えてくれ」

 

「了解」

金剛の報告によると以下のとおりだった。

 

○艦隊戦の結果

 

【戦術的勝利】

 

MVP 軽巡洋艦:神通

 

 

敵の被害

轟沈 駆逐艦 2隻 

中破 巡洋艦 1隻 

小破 駆逐艦 1隻 

 

舞鶴鎮守府 

中破 巡洋艦(神通)

小破 巡洋艦(大井) 戦艦(扶桑)

 

となった。

 

鎮守府艦隊の被害状況の詳細として、扶桑は主砲1基使用不可。祥鳳を庇いつつ、敵への攻撃より金剛の援護を優先したために攻撃され放題だったため被弾。

大井も主砲使用不可。甲標的ロスト。同じく大井も合流を急ぎ敵艦隊の砲火の中を突っ切ったために被弾している。甲標的を発進させ攻撃を加え敵に損傷を与えるも砲火を浴びて沈没。

神通についてはその損傷は激しく、機関部はかなり深刻な状況。火災と浸水は収まったものの出力が通常時より相当に低下している。主砲使用不可。魚雷発射管損傷により使用不可。ほとんどの武器は使用できない状況。

 

 

「なるほど。気象条件が変わらなければまともに戦えるのは金剛と高雄の2隻のみということになるな。仮にこの天気が回復しても空母が追加されるだけとなり、まともな戦線を構築することは不可能だな」

過去の攻略資料を確認すると、以後、この領域内での戦闘においては巡洋艦の比率が上がることや敵は6隻であることを加味すると、どう考えても厳しい戦いとなる。

 

「これ以上の戦闘継続は不可能だな。今回は撤退するしかない」

と、冷泉は判断せざるを得なかった。

「これより撤退する」

 


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