まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第18話

作戦会議は、前回のおさらいから始まった。

 

本来なら省いてもいい事なんだろうけど、何にも知らない冷泉への説明のために、わざわざ扶桑がおさらいしてくれたようだ。

 

ありがとうな、扶桑、助かるよ

 

その思いを込めて目配せしたら、どういう訳かプイと横を向かれてしまった。

 

うむ。照れているのか、怒っているのか。

しかし、なかなか難しいのは、女心である。

 

さて……。

まずは海域解放作戦であるが、前回の作戦は失敗に終わったらしい。場所は鎮守府より北東の海域、佐渡島北50キロの海域での作戦だった。……佐渡島は、一時、深海棲艦の支配下にあったそうで、数ヶ月前の作戦で領域の解放に成功している。

 

「敵の軽巡洋ヘ級、駆逐ロ級、ニ級の混成艦隊でしたが、装備練度共に高く、海域BOSSに到着前にこちらの2艦が中破状態だったため、提督の命により撤退となりました。未確認ではありますが、通常型とは異なる艦船が存在した可能性が考えられています。それはともかく、勝利し海域を解放するためには、艦隊の編成を見直す必要があると考えられますが……」

扶桑がこちらを見る。どうやら何か発言をしろ、ということらしい。

 

平和な日本で暮らして来た「凡人」冷泉にとって、艦隊戦などというものは、映画やゲームでしか見たことはなく、当然ながら知識も経験も無いド素人であることは既に伝えてある。故に彼女の問いかけは、正解を求めているわけでは無いことは分かった。差し障りの無い返事を期待しているわけで、その後、彼向けの説明をさりげなく織り交ぜながら話を続けるということみたいだ。

 

「敵の編成に合わせて、組み直すと言うことだな。……扶桑はどう考える?」

 

彼女はうなづき、話を続ける。

「途中で撤退したので、敵の主体であるBOSS艦隊の構成は不明のままです。けれど、これまでの海域での戦闘記録から、同一海域内においては基本的な艦隊の構成は極端に、つまり、駆逐艦主体の艦隊編成だったものがいきなり戦艦及び空母中心といったような極端にレベルが上がる編成となるようなことはありませんでした。今回も同じように推論して問題ないと考えます。今回の海域での道中の敵の艦隊編成は軽巡洋艦を旗艦とした駆逐艦主体の艦隊であり、仮に最終BOSSの強さを強めに想定したとしても、わが第一艦隊との戦力比較から、決して勝てない相手ではないと判断します」

 

駆逐艦主体ならば、こちらのレベルがそれなりにまで上がっていたなら、苦戦することはないだろう。無いはずだ。単縦陣でゴリ押し勝利だ。

ただし、ゲームなら、という条件付きだけれど。

 

さて、こちらは、どんな艦隊編成だったんだろう?

 

提督の思いをすぐに感じ取ったのか、扶桑が答える。

「金剛と私の戦艦2、祥鳳の軽空母1、高雄、羽黒の重巡2、駆逐艦村雨のの編成だったので、敵の軽巡洋艦3、駆逐艦3の編成に負けるとは思っていなかったんですが」

 

「あの、ごめんなさい! 私が被弾してしまったから」

突然、椅子をガタリとさせて一人の少女が立ち上がる。

少し猫背気味で身を守るように両手で自身を抱きしめ、気弱そうな瞳でこちらを見ている。何故か体を縮こませているので、怯えた子猫? のようにさえ見える。

「私が中破状態にならなければ進軍できたのに、す、すみません! 」

なにもそこまで謝らなくとも、と思うほどペコペコ頭を下げる。

 

「ノーノー。あれは、アンラッキーだっただけデース。羽黒が気にすることナイネ」

膝の上で金剛がパタパタと両足を動かす。

 

その動きはちょっと下腹部にとってもよくないです。

ちょ、刺激するのやめて下サーイ。

何故か金剛の口調のまねで思考する。けれど声には出せない。

落ち着け落ち着け、冷泉は自身を落ち着かせるに神経を集中せざるをえない。

 

「提督、どーかしたんですかー?」

冷泉の異変に島風が反応する。グイと振り向くので、顔と顔が触れるくらいの距離に島風のロリフェイスだ。

彼はロリコンでないと自認しているが、それでも島風の顔にドキッとしたのは止むを得ないと思う。

 

「俺は、大丈夫だ」

とにかく、彼は意味不明な言葉を返すのが精一杯。

「コホン、そ、それよりも、……。羽黒、お前が気に病むことはない。今は休むことに専念し、次の機会に挽回すればいい。休養し体調を整えることも大事な任務だからね」

理解ある提督らしい台詞を言っているつもりなのだが、二人の少女を抱きかかえて彼女たちの陰から話しているので、真面目に言っているのかどうか疑問を感じられてるようにも感じる。

 

「はい。……ありがとうございます」

少し頬を赤らめながら、羽黒が答える。

中破したということは、しばらくは、入渠ということだろう。

それがどのくらいの時間なのかは、今の冷泉には分からないし、推測もできない。

 

当然、ゲームとは異なるのだろうけれど。

 

「そうそう。羽黒さん、ドンマイだよ」

座ってたツインテールの可愛げな雰囲気の少女が言う。

この子は?

 

「えーと、村雨さん、貴方も被弾してたんだけれども」

 

「あっはー、そうだった」

扶桑のツッコミに舌を少し出して照れ笑いする。

この子が村雨か。中学生くらいに見えるな。ちなみに羽黒は高校生くらいに見えるし。艦娘の平均年齢はどういうわけか低いな。これについては知ってたけど。

この鎮守府のまとめ役っぽい扶桑だって、冷泉よりだいぶ年下みたいだし。

 

「提督の仰るとおり、羽黒さん、村雨さんは、まずは怪我を治すことに専念すること。そして、次の戦いで挽回してくださいね。……さて、提督、私たちは、今回の艦隊編成をしなければなりません。前回から羽黒さん村雨さんが欠けていますので、どうしましょうか」

 

唐突に話をこちらに振られてしまった。

 

一瞬慌てたが、表情には出さないように必死になる。

艦隊編成ならゲームでやり尽くしている。データは、ほとんどないが、なんとかなるだろう、と冷泉は思考する。

 

「提督ぅー、どうするんデス? 」

 

「提督、島風を入れてください! 」

 

冷泉の腕に抱きかかえられたままの二人の艦娘が振り返る。

 

見つめられるのに慣れていないため、平静を装うのは結構大変だったが、それ以上に艦隊編成を考えるのに真剣になっていたため、なんとか感情を制御することができた。

扶桑の話から、戦闘の行われる海域の敵は、軽巡洋艦主体らしい。基本、前回の編成で問題無いはずだが、重巡の羽黒を欠くこととなっている。その穴を埋めなければ。

 

冷泉は、着席した艦娘達を見回す。

 


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